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第十六章 心地良い場所
第三話 勇者の剣の試し
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アルバート王子と紫竜ルーシェ、エイベル副騎兵団長が率いる竜騎兵団の騎竜と騎兵達は、ラウデシア王国に帰国した。
エイベル副騎兵団長は、サトー王国のサトー国王討伐の報告のために王宮へ向かった。そしてエイベル副騎兵団長は、アルバート王子とルーシェ、一部の騎兵達には、王宮へ向かわず、直接竜騎兵団の拠点へ向かうように命じていた。
アルバート王子が王宮で無用に留め置かれることを避けるためである。王宮へ向かう際には、ウラノス騎兵団長やバルトロメオ辺境伯で王子の身の周りをしっかりと固めた方が良かった。戦勝会は改めて別の機会に開催される予定であったし、そこで報告をすれば事足りるだろう。
王宮側から、“勇者”たるアルバート王子から直接討伐の報告を受けたい旨、連絡があったが、ウラノス騎兵団長はのらりくらりとそれを断っていた。
ウラノス騎兵団長からアルバート王子とルーシェは、討伐での働きを労わられた。それと同時に、彼は二人にこう約束した。
「私とバルトロメオ辺境伯閣下が、殿下方を必ずお守りします」
例え王宮から無体な要求がされようと、騎兵団長と辺境伯が守り通すと言っているのだ。
無体な要求、それはシアンの身を第一王子が要求することを示しているのだろう。
「はい」
わざわざ騎兵団長がそのことを口にしたのは、ハルヴェラ王国のリン王太子妃を筆頭に、“勇者”たるアルバート王子を強く引き留めた話が報告されたからだろう。
第一王子リチャードが無体な要求をする → アルバート王子激怒 → 紫竜と他国へ亡命
この図式が騎兵団長と辺境伯の頭の中にハッキリと浮かんでいたに違いない。
そうなっては困るから、まるで保証のようにウラノス騎兵団長は約束の言葉を口にしている。
そうした竜騎兵団長の苦労を思うと、自然とアルバート王子も頭が下がる思いだった。
「私は、ルーシェと共にこの竜騎兵団で骨を埋めたい気持ちです」
アルバート王子が静かに告げると、ウラノス騎兵団長は嬉しそうに笑った。
「私もそうだ。殿下と共にこれから先もこの竜騎兵団で働いていきたい」
そのためにはあの、恋に盲目となっているリチャード王子の目が醒めることを願うばかりだと、ウラノス騎兵団長は心中で、呟くのだった。
竜騎兵団へ戻った後、アルバート王子は同僚の騎兵達にせがまれて、“勇者の剣”の威力をみせることになった。
アルバート王子が“勇者”に選ばれ、“勇者の剣”を手にして、それでサトー王国のサトー国王を倒した話は、すでに国内で広く知られていた。王子は自分が“勇者”であることを隠すことを止め、むしろその事実を世間に知らしめて欲しいとウラノス竜騎兵団長に依頼していたからだ。
自分が力を持つものだと知られれば、王家から侮られることはない。むしろ、自分の存在はこの王国に、必要不可欠なものであると分かれば、やたらとルーシェ(もといシアン)に手を出そうとすることもなくなる。
そしてこの場所から、ルーシェと共に逃げる必要もなくなる。
この竜騎兵団は、アルバート王子にとっても故郷のようなものだった。
少年の頃、竜騎兵になることを望み、紫竜と出会った場所。仲間達と一緒に厳しい訓練に励んだ場所。
そして紫竜と共にこれから先も暮らしていく大切な場所。
誰にも奪われるつもりはなかった。
護衛騎士バンナムとレネ魔術師も、他の竜騎兵達の竜に乗せてもらい、帰国していた。
今、野外訓練場にある円形の試合場でアルバート王子の前に立つのは、そのバンナムだった。
彼は剣を手にして王子の前に対峙していた。
ルーシェは小さな竜の姿になって、レネ魔術師に抱っこされている。
そして小さな手を振り上げて「ピルピルピルルルゥ!!!!(王子、頑張れ!!!!)」と応援の声を上げていた。
アルバート王子がスラリと鞘から抜いたのは、“勇者の剣”である。
白く輝くその刀身に、周囲で試合を見守る竜騎兵達も見習い達も、息を飲んでいた。
鞘に入っている状態を一瞥したならば、無骨なただの剣であるのに、“勇者”たる王子が鞘から抜いたのなら、無骨ながらも不思議と美しく見える剣だった。
バンナムが自身の剣を構え、そこにアルバート王子が“勇者の剣”を振り上げて向かっていく。
力の強弱で、王子の“勇者の剣”はその威力を調整できる。
バンナムを傷つけないように、王子は力を抜いて“勇者の剣”を振るっていた。
当然、そのようなことではバンナムの方が優勢になり、この護衛の任に就く騎士は王子を激しく追い立てていた。
「殿下、そのようなことでは“勇者”であらせられるのに、わたくしめに膝を屈することになりますよ」
ガッと剣の鍔と鍔が音を立ててぶつかり合い、バンナムは厳しい声で言う。
自分を傷つけまいとして、アルバート王子が手加減していることが分かっていたからだ。
「バンナム、お前は無茶を言っている。この“勇者の剣”で本気を出せば、お前は真っ二つになる」
山をも崩すことの出来る魔法の剣なのである。
力を入れれば、バンナムの剣ごとバンナムが真っ二つである。自分にこれまで誰よりも忠実に仕えてくれたバンナムに対して、そんなことが出来るはずもなかった。
そもそも、竜騎兵達に“勇者の剣”の威力を見せるには、バンナムとこうして決闘めいた行為をする必要はない。大森林地帯で“勇者の剣”を振るい、木々を倒してその威力を見せつければいいだけなのだ。それなのに、バンナムがアルバート王子をこの試合場に連れ出した。
「そうですね」
バンナムは一旦、剣を手にしたまま、王子から距離を取った。
そして充分な距離を取ったところで、バンナムは言った。
「殿下、思い切り振ってください。私は避けます」
それでアルバート王子は、バンナムの後ろに立つ観覧する竜騎兵達に向かって声を張り上げた。
「卿の後ろに誰も立たないでくれ!!!!」
観客達が遠く離れたところを見て、アルバート王子はバンナムに言う。
「バンナム、気が狂っているぞ。その身で“勇者の剣”の威力を試したいとは」
「一撃目は真っ直ぐに。二撃目は“追いかけて”みて下さい」
「…………必ず避けるのだぞ」
アルバート王子は思い切り、離れた場所に立つバンナムに向けて、“勇者の剣”を振り下ろしたのだった。
「ピ、ピルゥ!!」
見るのが怖くて、レネ魔術師の腕の中のルーシェは、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
バンナムは“勇者の剣”の前から姿を消した。その剣の斬撃が白く飛び、真っすぐに空を飛んでいって、大森林地帯の森の木をなぎ倒していく。砂塵が上がり、何本かの木が斬られ、それらの木が倒れる音が響き渡る。
「す、すごい」
「あんな距離の木を」
観客の竜騎兵達や見習い達が、驚きの声を上げていた。
それで、バンナムが無事であることに、ルーシェを抱っこしていたレネ魔術師はホッとしており、ルーシェもまた(俺の王子は凄いんだぞ)とばかりに小さな胸を張っていた。
「二撃目だ。バンナム、必ず避けてくれ」
そう言って、アルバート王子は“勇者の剣”を振る。
再びバンナムはその剣から放たれた白い斬撃を避けたのだが、今度はその斬撃がバンナムのいた場所を通り過ぎたかと思うと、クルリと弧を描いて戻ってくる。
それを見た観客の竜騎兵達は唖然としていた。
そして斬撃は離れた場所に立つバンナムに向かっていく。
バンナムは事前に用意していた、伴侶のレネ魔術師特製の、防御魔法陣の護符を展開させた。
それも次々と展開させる。いわゆるアレドリア王国がサトー王国の“星弾”から国を守るために展開した多重防御魔法と同じものである。規模は小さいが、レネ魔術師は元王宮魔術師である。その威力は十分なものであるはずだった。
だがバンナムは、アルバート王子の“勇者の剣”が魔法の結界の類も、破ってしまうことは知っていた。実際サトー王国のサトーの結界もアルバート王子は“勇者の剣”で破っている。ルーシェの金剛石強度の土魔法の壁も破っている。
バンナムは驚くほど多重の防御魔法陣を展開させる。
十を越える桁数の濃密度の防御魔法陣を目の前に展開させた時、“勇者の剣”の斬撃が魔法陣に到達し、まるで薄皮のように魔法陣を次々と破っていく。
(これはなかなか凄い威力だな)
防御の魔法陣の効力は全く無いも同然だった。
どこまで多重の防御魔法陣の効力があるのか知りたかったのだが(一重は簡単に破れることは聞いていた)、多重にしても無いも同然といわざるを得ないだろう。
そしてあと数枚でバンナムの身体に到達してしまうのではないかと思われた次の瞬間、アルバート王子がその斬撃の前に、“勇者の剣”をぶつけ、その斬撃は消失したのだった。
「なるほど。“勇者の剣”には“勇者の剣”をぶつければ良いということなのですね」
そうすると斬撃は消失する。新たな発見だった。
顎に手をやり感心したような表情で呟くバンナムに、アルバート王子は珍しく声を張り上げた。
「卿は無茶をするな!!!!」
そう怒鳴られて、初めてバンナムは目を丸くして自身の仕える王子の顔をマジマジと見つめた。
アルバート王子から怒鳴られることなど初めての経験だったのだ。
「………………私が間に合わなければ、卿は真っ二つだったのだぞ」
アルバート王子は顔を強張らせている。
そしてバンナムの肩をがしりと両手で掴む。
「そんなことを私に絶対にさせるでないぞ。私は、そんなことをさせたら、絶対に卿のことを許さないからな」
実は、バンナムの手元にはレネ魔術師の風魔法の護符もあり、バンナムはそれを展開させてその場から急ぎ退却することが可能だった。
だが、そのことをこの場で口にすることは、なんとなしに良くないことのような気がして、バンナムは黙り込み、その後ぽつりと言った。
「分かりました」
気が付けば、自分の仕えていた王子も大きくなったものだと思う。
長身のバンナムと、肩を掴むアルバート王子の背はほぼ近くなっている。
護衛騎士バンナムが、アルバート王子と出会った時、彼はほんの小さな子供であった。それが今や自分と同じような体躯になっている。時の流れを感じるものだった。
自分の肩を掴み、怒鳴るようになるとは。
そうされながらも、そのことを嬉しくも思う。
だが、それと同時に、護衛騎士バンナムは、伴侶のレネ魔術師に用意させた大量の風魔法の護符が無駄になったことを残念にも思っていた。この風魔法の護符を複数展開させて、どこまでアルバート王子の“勇者の剣”の斬撃から逃げ切れるか試してみたかったのだが。
それはまた、別の機会にしようと、バンナムは心密かに思うのだった。
エイベル副騎兵団長は、サトー王国のサトー国王討伐の報告のために王宮へ向かった。そしてエイベル副騎兵団長は、アルバート王子とルーシェ、一部の騎兵達には、王宮へ向かわず、直接竜騎兵団の拠点へ向かうように命じていた。
アルバート王子が王宮で無用に留め置かれることを避けるためである。王宮へ向かう際には、ウラノス騎兵団長やバルトロメオ辺境伯で王子の身の周りをしっかりと固めた方が良かった。戦勝会は改めて別の機会に開催される予定であったし、そこで報告をすれば事足りるだろう。
王宮側から、“勇者”たるアルバート王子から直接討伐の報告を受けたい旨、連絡があったが、ウラノス騎兵団長はのらりくらりとそれを断っていた。
ウラノス騎兵団長からアルバート王子とルーシェは、討伐での働きを労わられた。それと同時に、彼は二人にこう約束した。
「私とバルトロメオ辺境伯閣下が、殿下方を必ずお守りします」
例え王宮から無体な要求がされようと、騎兵団長と辺境伯が守り通すと言っているのだ。
無体な要求、それはシアンの身を第一王子が要求することを示しているのだろう。
「はい」
わざわざ騎兵団長がそのことを口にしたのは、ハルヴェラ王国のリン王太子妃を筆頭に、“勇者”たるアルバート王子を強く引き留めた話が報告されたからだろう。
第一王子リチャードが無体な要求をする → アルバート王子激怒 → 紫竜と他国へ亡命
この図式が騎兵団長と辺境伯の頭の中にハッキリと浮かんでいたに違いない。
そうなっては困るから、まるで保証のようにウラノス騎兵団長は約束の言葉を口にしている。
そうした竜騎兵団長の苦労を思うと、自然とアルバート王子も頭が下がる思いだった。
「私は、ルーシェと共にこの竜騎兵団で骨を埋めたい気持ちです」
アルバート王子が静かに告げると、ウラノス騎兵団長は嬉しそうに笑った。
「私もそうだ。殿下と共にこれから先もこの竜騎兵団で働いていきたい」
そのためにはあの、恋に盲目となっているリチャード王子の目が醒めることを願うばかりだと、ウラノス騎兵団長は心中で、呟くのだった。
竜騎兵団へ戻った後、アルバート王子は同僚の騎兵達にせがまれて、“勇者の剣”の威力をみせることになった。
アルバート王子が“勇者”に選ばれ、“勇者の剣”を手にして、それでサトー王国のサトー国王を倒した話は、すでに国内で広く知られていた。王子は自分が“勇者”であることを隠すことを止め、むしろその事実を世間に知らしめて欲しいとウラノス竜騎兵団長に依頼していたからだ。
自分が力を持つものだと知られれば、王家から侮られることはない。むしろ、自分の存在はこの王国に、必要不可欠なものであると分かれば、やたらとルーシェ(もといシアン)に手を出そうとすることもなくなる。
そしてこの場所から、ルーシェと共に逃げる必要もなくなる。
この竜騎兵団は、アルバート王子にとっても故郷のようなものだった。
少年の頃、竜騎兵になることを望み、紫竜と出会った場所。仲間達と一緒に厳しい訓練に励んだ場所。
そして紫竜と共にこれから先も暮らしていく大切な場所。
誰にも奪われるつもりはなかった。
護衛騎士バンナムとレネ魔術師も、他の竜騎兵達の竜に乗せてもらい、帰国していた。
今、野外訓練場にある円形の試合場でアルバート王子の前に立つのは、そのバンナムだった。
彼は剣を手にして王子の前に対峙していた。
ルーシェは小さな竜の姿になって、レネ魔術師に抱っこされている。
そして小さな手を振り上げて「ピルピルピルルルゥ!!!!(王子、頑張れ!!!!)」と応援の声を上げていた。
アルバート王子がスラリと鞘から抜いたのは、“勇者の剣”である。
白く輝くその刀身に、周囲で試合を見守る竜騎兵達も見習い達も、息を飲んでいた。
鞘に入っている状態を一瞥したならば、無骨なただの剣であるのに、“勇者”たる王子が鞘から抜いたのなら、無骨ながらも不思議と美しく見える剣だった。
バンナムが自身の剣を構え、そこにアルバート王子が“勇者の剣”を振り上げて向かっていく。
力の強弱で、王子の“勇者の剣”はその威力を調整できる。
バンナムを傷つけないように、王子は力を抜いて“勇者の剣”を振るっていた。
当然、そのようなことではバンナムの方が優勢になり、この護衛の任に就く騎士は王子を激しく追い立てていた。
「殿下、そのようなことでは“勇者”であらせられるのに、わたくしめに膝を屈することになりますよ」
ガッと剣の鍔と鍔が音を立ててぶつかり合い、バンナムは厳しい声で言う。
自分を傷つけまいとして、アルバート王子が手加減していることが分かっていたからだ。
「バンナム、お前は無茶を言っている。この“勇者の剣”で本気を出せば、お前は真っ二つになる」
山をも崩すことの出来る魔法の剣なのである。
力を入れれば、バンナムの剣ごとバンナムが真っ二つである。自分にこれまで誰よりも忠実に仕えてくれたバンナムに対して、そんなことが出来るはずもなかった。
そもそも、竜騎兵達に“勇者の剣”の威力を見せるには、バンナムとこうして決闘めいた行為をする必要はない。大森林地帯で“勇者の剣”を振るい、木々を倒してその威力を見せつければいいだけなのだ。それなのに、バンナムがアルバート王子をこの試合場に連れ出した。
「そうですね」
バンナムは一旦、剣を手にしたまま、王子から距離を取った。
そして充分な距離を取ったところで、バンナムは言った。
「殿下、思い切り振ってください。私は避けます」
それでアルバート王子は、バンナムの後ろに立つ観覧する竜騎兵達に向かって声を張り上げた。
「卿の後ろに誰も立たないでくれ!!!!」
観客達が遠く離れたところを見て、アルバート王子はバンナムに言う。
「バンナム、気が狂っているぞ。その身で“勇者の剣”の威力を試したいとは」
「一撃目は真っ直ぐに。二撃目は“追いかけて”みて下さい」
「…………必ず避けるのだぞ」
アルバート王子は思い切り、離れた場所に立つバンナムに向けて、“勇者の剣”を振り下ろしたのだった。
「ピ、ピルゥ!!」
見るのが怖くて、レネ魔術師の腕の中のルーシェは、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
バンナムは“勇者の剣”の前から姿を消した。その剣の斬撃が白く飛び、真っすぐに空を飛んでいって、大森林地帯の森の木をなぎ倒していく。砂塵が上がり、何本かの木が斬られ、それらの木が倒れる音が響き渡る。
「す、すごい」
「あんな距離の木を」
観客の竜騎兵達や見習い達が、驚きの声を上げていた。
それで、バンナムが無事であることに、ルーシェを抱っこしていたレネ魔術師はホッとしており、ルーシェもまた(俺の王子は凄いんだぞ)とばかりに小さな胸を張っていた。
「二撃目だ。バンナム、必ず避けてくれ」
そう言って、アルバート王子は“勇者の剣”を振る。
再びバンナムはその剣から放たれた白い斬撃を避けたのだが、今度はその斬撃がバンナムのいた場所を通り過ぎたかと思うと、クルリと弧を描いて戻ってくる。
それを見た観客の竜騎兵達は唖然としていた。
そして斬撃は離れた場所に立つバンナムに向かっていく。
バンナムは事前に用意していた、伴侶のレネ魔術師特製の、防御魔法陣の護符を展開させた。
それも次々と展開させる。いわゆるアレドリア王国がサトー王国の“星弾”から国を守るために展開した多重防御魔法と同じものである。規模は小さいが、レネ魔術師は元王宮魔術師である。その威力は十分なものであるはずだった。
だがバンナムは、アルバート王子の“勇者の剣”が魔法の結界の類も、破ってしまうことは知っていた。実際サトー王国のサトーの結界もアルバート王子は“勇者の剣”で破っている。ルーシェの金剛石強度の土魔法の壁も破っている。
バンナムは驚くほど多重の防御魔法陣を展開させる。
十を越える桁数の濃密度の防御魔法陣を目の前に展開させた時、“勇者の剣”の斬撃が魔法陣に到達し、まるで薄皮のように魔法陣を次々と破っていく。
(これはなかなか凄い威力だな)
防御の魔法陣の効力は全く無いも同然だった。
どこまで多重の防御魔法陣の効力があるのか知りたかったのだが(一重は簡単に破れることは聞いていた)、多重にしても無いも同然といわざるを得ないだろう。
そしてあと数枚でバンナムの身体に到達してしまうのではないかと思われた次の瞬間、アルバート王子がその斬撃の前に、“勇者の剣”をぶつけ、その斬撃は消失したのだった。
「なるほど。“勇者の剣”には“勇者の剣”をぶつければ良いということなのですね」
そうすると斬撃は消失する。新たな発見だった。
顎に手をやり感心したような表情で呟くバンナムに、アルバート王子は珍しく声を張り上げた。
「卿は無茶をするな!!!!」
そう怒鳴られて、初めてバンナムは目を丸くして自身の仕える王子の顔をマジマジと見つめた。
アルバート王子から怒鳴られることなど初めての経験だったのだ。
「………………私が間に合わなければ、卿は真っ二つだったのだぞ」
アルバート王子は顔を強張らせている。
そしてバンナムの肩をがしりと両手で掴む。
「そんなことを私に絶対にさせるでないぞ。私は、そんなことをさせたら、絶対に卿のことを許さないからな」
実は、バンナムの手元にはレネ魔術師の風魔法の護符もあり、バンナムはそれを展開させてその場から急ぎ退却することが可能だった。
だが、そのことをこの場で口にすることは、なんとなしに良くないことのような気がして、バンナムは黙り込み、その後ぽつりと言った。
「分かりました」
気が付けば、自分の仕えていた王子も大きくなったものだと思う。
長身のバンナムと、肩を掴むアルバート王子の背はほぼ近くなっている。
護衛騎士バンナムが、アルバート王子と出会った時、彼はほんの小さな子供であった。それが今や自分と同じような体躯になっている。時の流れを感じるものだった。
自分の肩を掴み、怒鳴るようになるとは。
そうされながらも、そのことを嬉しくも思う。
だが、それと同時に、護衛騎士バンナムは、伴侶のレネ魔術師に用意させた大量の風魔法の護符が無駄になったことを残念にも思っていた。この風魔法の護符を複数展開させて、どこまでアルバート王子の“勇者の剣”の斬撃から逃げ切れるか試してみたかったのだが。
それはまた、別の機会にしようと、バンナムは心密かに思うのだった。
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