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第十六章 心地良い場所
第四話 王宮魔術師長のスライム(上)
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スライムと呼ばれる別次元からやってきたその異生物は、魔術師や学者達から注意深く魔力を注がれ、時に切り刻まれ、薬品を掛けられたりと、その身への実験を繰り返された。
その結果、幾つかのことが分かっていた。
一つ目は、スライムは物理的な刺激で分裂し、増殖することだった。
今では川の中にいるスライムを、銛で突っつくことは禁止されている。スライムが川から溢れ大変な事態になるからだ。教訓になる事件が幾つも起きた末に、導かれた制約だった。
二つ目は、スライムは汚れた水を浄化し、死骸を好んで食べることだった。
スライム壺なるものが売り出され、居酒屋などで陶器製の壺に入ったスライムに、残飯などを与えてゴミ処理をすることが都市では広がっていった。また糞尿の処理にも、スライムは利用され、穴の開いた板の下にスライムが飼われるようになり、都市の衛生状態が著しく改善したという報告が上げられている。
三つ目は、スライムは魔力に惹かれる性質があることだった。
竜騎兵団の竜達に向けて、スライムがその体を伸ばして捕まえようとしたこともそのせいだった。どうもスライムは強い魔力に惹かれるということが分かっていた。
そして四つ目は、長期間与え続けたモノに反応して、スライムの表面の色が変化することだった。残飯処理で、赤いリンゴの皮ばかり与えていた店では、飼っていた緑色のスライムが赤くなったという報告があった。またスライムには個体差があり、与えられるモノをひどく好むものもいれば、そうでないものもいるらしい。例えば、先のリンゴの皮も、それを好んで他のスライム達を押しのけて突進するように欲しがるスライムもいれば、そうではないスライムもいるらしい。
四つ目の性質を面白がり、魔術師や学者達は、おのおのオリジナルのスライムを作り出そうとしていた。鮮やかな色合いになったスライムは、好事家に高値で売れたという話も出てくる。そしてその中でも、王宮魔術師長ウールが、特に興味深く改良を繰り返していたスライムは、銀色の光沢を出す稀なスライムに成長していた。彼は、魔力を好むというスライムに、あえて毎日魔力を与え続けた。そのスライムは貪欲に際限なく、魔力を“吸収”した。
最初はジャム瓶一つくらいの大きさの小さなスライムであったのに、毎日魔力を与え続けた結果、今では膝の上に乗る猫ほどの大きさにまで成長している。禿頭の小柄な魔術師は、このスライムを“銀色”と呼び、毎日欠かさず魔力を与え続けた。貪欲に人間の魔力を吸い続けたスライムは、ますます照り返すような輝きを増して、王宮魔術師長ウールを喜ばせていた。毎日可愛がり、魔力を与えているウールのことを、“銀色”という名のスライムは、主と認めたのか、ウールの言葉に従ってその姿をぐにぐにと蠢いて変えることもあった。
魔力を与え続けたスライムは、僅かながらも他者と交流できる程度の知性を得たようだった。
ある時、ウールは好奇心から、大罪を犯し、処刑する予定の人間の魔術師に“銀色”スライムをけしかけた。これは実験だった。
“銀色”スライムは魔術師の身体にへばりつくと、みるみるその魔術師から魔力を吸い上げていく。一方の魔術師は恐怖にかられた表情で、悲鳴を上げ、縄で縛られた身でありながらも逃れようと暴れていた。魔力を吸い上げている“銀色”スライムはなおも輝きを増して、吸い上げた“魔力”で大きくなる。
猫ほどの大きさであった“銀色”スライムは、今や犬ほどの大きさにまで成長していた。
意識を失い、ドンと床の上に昏倒した魔術師は、ピクとも動かない状態になる。
ウールが近づいて様子を見ると、魔術師は弱り切って辛うじて生きている状態だった。体内の魔力を一滴残らず吸い尽くされ、枯渇している状態だった。極限の魔力切れになるとこうした姿になる。
「ふむ」
ウールは顎に手をやり、犬ほどの大きさに成長した“銀色”スライムに手を伸ばした。そのスライムはウールの手に身をすり寄せるような様子を見せた。
表情も何も見せない、ぐにぐにと蠢く不気味なスライムであったが、そんな仕草を見せられるとウールといえども愛着が湧いてくる。
竜騎兵達に竜という相棒がいるように、魔術師にはこうした奇妙な相棒がいても良いのかも知れない。
そんなことをウールは思う。
そして同時に、かつて竜騎兵団のアルバート王子の元にいた小さな紫竜のことを思い出した。土魔法を巧みに操り、アルバート王子に忠実に仕えるあの小さな竜を、王宮魔術師達はどうにか王宮魔術師団に連れてこようと考えたことがあったが、それは失敗に終わった。それどころか、紫竜に対して王宮魔術師達は「今後手出しは無用」という約束まで結ばされたのだ。魔力が飛び抜けて豊富な、多くの属性を持つ、五百年ぶりに誕生した紫竜という存在は、魔術師達にとって黄金の塊にも等しい貴重な、喉から手が出るほど欲しいと思う存在だった。
しかし、腹立たしいことに、紫竜ルーシェは七番目の王子アルバートの騎竜であり、アルバート王子はウラノス騎兵団長とバルトロメオ辺境伯の庇護を受けている。簡単には手出しは出来ない。その事実に、ウールは苛立ちを覚える。
王宮魔術師長ウールの目の前で、“銀色”スライムは、突然、プルプルプルと全身を震わせたかと思うと、プリという音を立て、濃紫色の塊を排泄した。それと同時に、犬ほどの大きさに成長していた身が少し縮んでいく。
ウールは少しばかり目を見開いて、そしてその“銀色”スライムが排泄した濃紫色の塊を手に取る。つるりとした親指大の石だった。匂いを嗅いでみるが、何の異臭もしない。
「石を排泄するのか」
しかし、今までスライムが何かを排泄したという話を聞いたことがなかった。
スライムが体内から排泄したものは、ひどく固い石であり、宝石のような輝きを放っている。
触れていても汚いという感じがしない。
ウールはその石を調べ、そして驚いた。
“銀色”スライムが排泄した石は、濃密な魔力を帯びていたからだった。
いわゆる極上の“魔石”だったのだ。
その結果、幾つかのことが分かっていた。
一つ目は、スライムは物理的な刺激で分裂し、増殖することだった。
今では川の中にいるスライムを、銛で突っつくことは禁止されている。スライムが川から溢れ大変な事態になるからだ。教訓になる事件が幾つも起きた末に、導かれた制約だった。
二つ目は、スライムは汚れた水を浄化し、死骸を好んで食べることだった。
スライム壺なるものが売り出され、居酒屋などで陶器製の壺に入ったスライムに、残飯などを与えてゴミ処理をすることが都市では広がっていった。また糞尿の処理にも、スライムは利用され、穴の開いた板の下にスライムが飼われるようになり、都市の衛生状態が著しく改善したという報告が上げられている。
三つ目は、スライムは魔力に惹かれる性質があることだった。
竜騎兵団の竜達に向けて、スライムがその体を伸ばして捕まえようとしたこともそのせいだった。どうもスライムは強い魔力に惹かれるということが分かっていた。
そして四つ目は、長期間与え続けたモノに反応して、スライムの表面の色が変化することだった。残飯処理で、赤いリンゴの皮ばかり与えていた店では、飼っていた緑色のスライムが赤くなったという報告があった。またスライムには個体差があり、与えられるモノをひどく好むものもいれば、そうでないものもいるらしい。例えば、先のリンゴの皮も、それを好んで他のスライム達を押しのけて突進するように欲しがるスライムもいれば、そうではないスライムもいるらしい。
四つ目の性質を面白がり、魔術師や学者達は、おのおのオリジナルのスライムを作り出そうとしていた。鮮やかな色合いになったスライムは、好事家に高値で売れたという話も出てくる。そしてその中でも、王宮魔術師長ウールが、特に興味深く改良を繰り返していたスライムは、銀色の光沢を出す稀なスライムに成長していた。彼は、魔力を好むというスライムに、あえて毎日魔力を与え続けた。そのスライムは貪欲に際限なく、魔力を“吸収”した。
最初はジャム瓶一つくらいの大きさの小さなスライムであったのに、毎日魔力を与え続けた結果、今では膝の上に乗る猫ほどの大きさにまで成長している。禿頭の小柄な魔術師は、このスライムを“銀色”と呼び、毎日欠かさず魔力を与え続けた。貪欲に人間の魔力を吸い続けたスライムは、ますます照り返すような輝きを増して、王宮魔術師長ウールを喜ばせていた。毎日可愛がり、魔力を与えているウールのことを、“銀色”という名のスライムは、主と認めたのか、ウールの言葉に従ってその姿をぐにぐにと蠢いて変えることもあった。
魔力を与え続けたスライムは、僅かながらも他者と交流できる程度の知性を得たようだった。
ある時、ウールは好奇心から、大罪を犯し、処刑する予定の人間の魔術師に“銀色”スライムをけしかけた。これは実験だった。
“銀色”スライムは魔術師の身体にへばりつくと、みるみるその魔術師から魔力を吸い上げていく。一方の魔術師は恐怖にかられた表情で、悲鳴を上げ、縄で縛られた身でありながらも逃れようと暴れていた。魔力を吸い上げている“銀色”スライムはなおも輝きを増して、吸い上げた“魔力”で大きくなる。
猫ほどの大きさであった“銀色”スライムは、今や犬ほどの大きさにまで成長していた。
意識を失い、ドンと床の上に昏倒した魔術師は、ピクとも動かない状態になる。
ウールが近づいて様子を見ると、魔術師は弱り切って辛うじて生きている状態だった。体内の魔力を一滴残らず吸い尽くされ、枯渇している状態だった。極限の魔力切れになるとこうした姿になる。
「ふむ」
ウールは顎に手をやり、犬ほどの大きさに成長した“銀色”スライムに手を伸ばした。そのスライムはウールの手に身をすり寄せるような様子を見せた。
表情も何も見せない、ぐにぐにと蠢く不気味なスライムであったが、そんな仕草を見せられるとウールといえども愛着が湧いてくる。
竜騎兵達に竜という相棒がいるように、魔術師にはこうした奇妙な相棒がいても良いのかも知れない。
そんなことをウールは思う。
そして同時に、かつて竜騎兵団のアルバート王子の元にいた小さな紫竜のことを思い出した。土魔法を巧みに操り、アルバート王子に忠実に仕えるあの小さな竜を、王宮魔術師達はどうにか王宮魔術師団に連れてこようと考えたことがあったが、それは失敗に終わった。それどころか、紫竜に対して王宮魔術師達は「今後手出しは無用」という約束まで結ばされたのだ。魔力が飛び抜けて豊富な、多くの属性を持つ、五百年ぶりに誕生した紫竜という存在は、魔術師達にとって黄金の塊にも等しい貴重な、喉から手が出るほど欲しいと思う存在だった。
しかし、腹立たしいことに、紫竜ルーシェは七番目の王子アルバートの騎竜であり、アルバート王子はウラノス騎兵団長とバルトロメオ辺境伯の庇護を受けている。簡単には手出しは出来ない。その事実に、ウールは苛立ちを覚える。
王宮魔術師長ウールの目の前で、“銀色”スライムは、突然、プルプルプルと全身を震わせたかと思うと、プリという音を立て、濃紫色の塊を排泄した。それと同時に、犬ほどの大きさに成長していた身が少し縮んでいく。
ウールは少しばかり目を見開いて、そしてその“銀色”スライムが排泄した濃紫色の塊を手に取る。つるりとした親指大の石だった。匂いを嗅いでみるが、何の異臭もしない。
「石を排泄するのか」
しかし、今までスライムが何かを排泄したという話を聞いたことがなかった。
スライムが体内から排泄したものは、ひどく固い石であり、宝石のような輝きを放っている。
触れていても汚いという感じがしない。
ウールはその石を調べ、そして驚いた。
“銀色”スライムが排泄した石は、濃密な魔力を帯びていたからだった。
いわゆる極上の“魔石”だったのだ。
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