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外伝 はじまりの物語 第一章 召喚された少年達と勇者の試練
第十九話 黒の魔人
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勇者の鈴木と抱き合う雪也の二人を、王女コリーヌは見つめ、やがて二人のそばに近寄ってくる異世界人の三橋友親や委員長の石野凛を眺めていた。
勇者鈴木は、女神様から与えられた試練を乗り越えた。
これから城へ戻り、城に残っている仲間達と合流して、それから女神様に、元の世界へ戻らせてもらうと話していた。
それが、勇者鈴木の願いであり、おそらく彼の仲間達全員の願いでもあるだろう。
試練を乗り越えた後は、彼らは元の世界へ帰還するだけだ。
コリーヌ王女は、無事に鈴木達が試練を果たしたことに内心ホッとしていた一方、先刻、鈴木が倒した“黒の魔人”の最期の姿に、なんとも言えぬものを感じていた。
木の一本も生えぬ、大きな岩ばかりゴロゴロと転がる荒涼とした大地に、その“黒の魔人”は棲んでいた。
獣のように漆黒の剛毛に覆われた人型のその魔人は、勇者達の姿を見た時、キェェェェェと絶叫するような声を上げて、地面を蹴って駆けてきた。
その魔人は時々、この地から離れた村に降りていっては、家畜を襲う。そして鍬や鋤を手に、魔人を倒しにやってくる村人達を傷つけている。その魔人は遠い昔から、この僻地に棲み続け、人々に害を与えているという。
勇者が村に立ち寄った時も、「どうぞあの黒いケダモノを退治して下さい」と村長をはじめ村人達は懇願していた。
元からそのつもりの勇者の鈴木は頷いていた。
そして対峙した“黒の魔人”
驚いたことに、王女コリーヌや騎士達の剣は、まったくその漆黒の剛毛にはじかれて、通る様子もなく、その身に傷一つつけることが出来なかった。魔術師達は呪文を唱え、“黒の魔人”に攻撃魔法をぶつけるが、それもまたパッと四散してしまう。
誰もその“黒の魔人”を傷つけることは出来ないのではないかと思った。だが、勇者の振り上げた“勇者の剣”の刃が“黒の魔人”に触れた時、スッと一本の傷が走り、そこから血がポタポタと流れ落ちた。
そのことに、“黒の魔人”は驚いて一瞬動きを止める。
それから、勇者鈴木を見て、抵抗を止めた。
抵抗を止めたのだ。
今思い返しても、王女コリーヌは“黒の魔人”のそれからの行動が理解できなかった。
それまで走り回り、飛び回っていた“黒の魔人”ははたと動きを止めて立ち止まり、鈴木の振り上げた剣をその身に受け止める。ザックリと肩から体に埋まったその剣で、大量の血が地面に流れ落ちて、真っ赤に染める。
次の瞬間、“黒の魔人”の身体を覆っていた真っ黒い毛がバッサリと落ちて、肌を露わにし、そして砂のようにその体は崩れ去った。
あとは吹いてくる風に、砂が流されていくだけだった。
騎士達は歓声を上げる。
勇者の名を呼び、魔人を倒した偉業を称える。
鈴木は少しばかり考え込むような様子で、魔人の身体が砂のように消えた場所を見つめていたが、やがて気を取り直すように顔を上げていた。
コリーヌ王女は、勇者鈴木のそばに近寄る。
「やりましたね」
「ええ、ありがとうございます」
コリーヌ王女も、勇者鈴木もそのことに気が付いていたが、何も言わなかった。
そしてこれから先も、そのことを口にすることは決してないだろうと思っていた。
“黒の魔人”が砂と化す数秒前に、漆黒の体毛が抜け落ち、その身が露わになった時、彼の顔は目鼻立ちのハッキリとしない、鈴木達と同じ“異世界人”の容貌をしていた。
その姿が見えたのは一瞬だった。
コリーヌ王女は思う。
もしかして“黒の魔人”は、異世界からやってきた人間で、彼は異世界へ戻ろうと“転移魔法”を使って失敗して、何かと合体してあのような姿になってしまったのではないかと。
人里離れた場所で、人間とはかけ離れた姿で長い歳月、生き続けていたのではないかと。
剣の刃の全く通らない体、魔法の通じない体では、幾ら村人達が討伐しようとしても倒せず、冒険者達に依頼したとしても、無理だったろう。あの恐ろしい姿も彼が“黒の魔人”と呼ばれる原因になったことだろう。
女神様がどうして勇者の鈴木にその試練を与えたのか。
それはきっと、勇者の持つ“勇者の剣”でしか、あの魔人を倒せないことが分かっていたからだ。
“黒の魔人”の討伐は、長年に渡る村人達の痛切な願いであっただろう。
それを女神様は叶えた。
でも、コリーヌ王女はその女神様の慈悲深い行いに、初めて疑問を抱いたのだ。
抵抗をみせなかった“黒の魔人”
彼が、もし、勇者の鈴木達と同じ異世界人であったのなら。
同郷の者に、理由も告げず、ただ殺させただけなのではないかと。
けれど、コリーヌ王女はそのことを一切口にすることなく、また鈴木も言葉にすることはなかった。
今更それを口にして何になるだろう。
これから勇者は元の世界に戻り、コリーヌ王女はそれを見送る立場である。
それ以上知ることは不要だった。仮に調べようとしても、調べる手段はなく“黒の魔人”の真相を知ることは出来ない。
真相は、闇の中なのである。
勇者鈴木は、女神様から与えられた試練を乗り越えた。
これから城へ戻り、城に残っている仲間達と合流して、それから女神様に、元の世界へ戻らせてもらうと話していた。
それが、勇者鈴木の願いであり、おそらく彼の仲間達全員の願いでもあるだろう。
試練を乗り越えた後は、彼らは元の世界へ帰還するだけだ。
コリーヌ王女は、無事に鈴木達が試練を果たしたことに内心ホッとしていた一方、先刻、鈴木が倒した“黒の魔人”の最期の姿に、なんとも言えぬものを感じていた。
木の一本も生えぬ、大きな岩ばかりゴロゴロと転がる荒涼とした大地に、その“黒の魔人”は棲んでいた。
獣のように漆黒の剛毛に覆われた人型のその魔人は、勇者達の姿を見た時、キェェェェェと絶叫するような声を上げて、地面を蹴って駆けてきた。
その魔人は時々、この地から離れた村に降りていっては、家畜を襲う。そして鍬や鋤を手に、魔人を倒しにやってくる村人達を傷つけている。その魔人は遠い昔から、この僻地に棲み続け、人々に害を与えているという。
勇者が村に立ち寄った時も、「どうぞあの黒いケダモノを退治して下さい」と村長をはじめ村人達は懇願していた。
元からそのつもりの勇者の鈴木は頷いていた。
そして対峙した“黒の魔人”
驚いたことに、王女コリーヌや騎士達の剣は、まったくその漆黒の剛毛にはじかれて、通る様子もなく、その身に傷一つつけることが出来なかった。魔術師達は呪文を唱え、“黒の魔人”に攻撃魔法をぶつけるが、それもまたパッと四散してしまう。
誰もその“黒の魔人”を傷つけることは出来ないのではないかと思った。だが、勇者の振り上げた“勇者の剣”の刃が“黒の魔人”に触れた時、スッと一本の傷が走り、そこから血がポタポタと流れ落ちた。
そのことに、“黒の魔人”は驚いて一瞬動きを止める。
それから、勇者鈴木を見て、抵抗を止めた。
抵抗を止めたのだ。
今思い返しても、王女コリーヌは“黒の魔人”のそれからの行動が理解できなかった。
それまで走り回り、飛び回っていた“黒の魔人”ははたと動きを止めて立ち止まり、鈴木の振り上げた剣をその身に受け止める。ザックリと肩から体に埋まったその剣で、大量の血が地面に流れ落ちて、真っ赤に染める。
次の瞬間、“黒の魔人”の身体を覆っていた真っ黒い毛がバッサリと落ちて、肌を露わにし、そして砂のようにその体は崩れ去った。
あとは吹いてくる風に、砂が流されていくだけだった。
騎士達は歓声を上げる。
勇者の名を呼び、魔人を倒した偉業を称える。
鈴木は少しばかり考え込むような様子で、魔人の身体が砂のように消えた場所を見つめていたが、やがて気を取り直すように顔を上げていた。
コリーヌ王女は、勇者鈴木のそばに近寄る。
「やりましたね」
「ええ、ありがとうございます」
コリーヌ王女も、勇者鈴木もそのことに気が付いていたが、何も言わなかった。
そしてこれから先も、そのことを口にすることは決してないだろうと思っていた。
“黒の魔人”が砂と化す数秒前に、漆黒の体毛が抜け落ち、その身が露わになった時、彼の顔は目鼻立ちのハッキリとしない、鈴木達と同じ“異世界人”の容貌をしていた。
その姿が見えたのは一瞬だった。
コリーヌ王女は思う。
もしかして“黒の魔人”は、異世界からやってきた人間で、彼は異世界へ戻ろうと“転移魔法”を使って失敗して、何かと合体してあのような姿になってしまったのではないかと。
人里離れた場所で、人間とはかけ離れた姿で長い歳月、生き続けていたのではないかと。
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女神様がどうして勇者の鈴木にその試練を与えたのか。
それはきっと、勇者の持つ“勇者の剣”でしか、あの魔人を倒せないことが分かっていたからだ。
“黒の魔人”の討伐は、長年に渡る村人達の痛切な願いであっただろう。
それを女神様は叶えた。
でも、コリーヌ王女はその女神様の慈悲深い行いに、初めて疑問を抱いたのだ。
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彼が、もし、勇者の鈴木達と同じ異世界人であったのなら。
同郷の者に、理由も告げず、ただ殺させただけなのではないかと。
けれど、コリーヌ王女はそのことを一切口にすることなく、また鈴木も言葉にすることはなかった。
今更それを口にして何になるだろう。
これから勇者は元の世界に戻り、コリーヌ王女はそれを見送る立場である。
それ以上知ることは不要だった。仮に調べようとしても、調べる手段はなく“黒の魔人”の真相を知ることは出来ない。
真相は、闇の中なのである。
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