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外伝 ある護衛騎士の災難 第一章
第八話 見直したと思ったら
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それから南方地域の、広大な畑をお偉方に見せて貰ったり、街を視察したり、観光名所らしき風光明媚な場所を見せてもらった後に食事会をしたりと、アンリ王子のスケジュールはミッチリと入っていた。
懸案の、西方諸国の戦いを避けて流れ込んでいる難民達の住みついている街の一角も見せてもらった。許可を受けずに掘っ立て小屋を建てて住んでいるということで、その中にはどうも盗みをするような者達もいるようで最近は街の治安も少し悪化しているという。困っていることも多かったが、基本的に街の人々は、着の身着のまま逃げ込んでくる避難民達に同情的な様子だった。
食事も事欠いている状況もあるのではないかという話で、王子は現状を国王陛下に報告の上、何らかの手当をして頂くよう進言すると確約していた。なんとなしに率先して物事を解決しようとするそんなお姿が凛々しく思えた。
腐っても、王国の二番目の王子なのだなと感心した。
今は頭の中身も少し腐っているようだが。
その日、視察を終えて部屋へ戻った。最近のアンリ王子はいつもニコニコと笑っている御方なのだが、その日はまた格別に機嫌が良さそうに見えた。
「ハヴリエル」
「なんでございましょう」
殿下の脱いだ上着を、付いてきている侍従に畳んで渡しながらそう答える。
「そなた、今日は嬉しそうだったな。何がそう嬉しかったのだ」
「殿下がとてもご立派に見えたからです」
いつもきれいな男の子を侍らせて、絵を描いているだけの男ではなかったのだなと感心したのだ。
一応、優秀な王子だった。
自分の仕える主が、優秀なことはそれは騎士として嬉しい事だった。
「つまり、私に惚れ直したということか!!!!」
すごく嬉しそうに、殿下がニッコリとしている。
いや、まともな王子だったのだと見直したわけで、惚れ直したわけではない。
そもそも最初から惚れていない。
でも、とても喜んでいる王子の気分に水を差すのも可哀想に思えて、その時の私は否定しなかった。
ただ微笑みながら、「殿下がご立派になられて嬉しいのです」とだけ伝えると、ツツツツツッと王子は私の側に近寄って来て、私の手を握って言った。
その碧い目が少しギラついて見えたのは気のせいだろうか。
「そうか、それでは、今宵はどうだ」
「………………」
アンリ王子殿下が私に好意を抱いている。
私も機嫌よく好感度が高まっているように見える。
よし、今宵は頑張るぞ!!
なんとなしに王子のその頭の中の、思考の流れが読めた。
私は王子に握られていた手をすっと引き抜いた。
「殿下、明日も視察でお忙しいでしょう。さぁ、ご就寝なさって下さい」
「…………ハヴリエル」
王子の碧い目がとても悲しそうに潤んでいる。
アンリ王子の良いところは、絶対に相手の嫌がることを強引にしようとしないところだった。
彼の弟のハウル王子は、相手の感情お構いなしに強引に連れ攫ってきて抱くという屑王子で有名であったが、アンリ王子には全くそうした乱暴なところはない。ただ、しつこいところがある。こうと決めた相手には執拗に追いすがる。
今も、寝台で横になっているアンリ王子の碧い目が、じっと私を見つめている。
それは、犬が寝台に潜りたくても主人に「めっ」と叱られて、潜ることを許されずにクゥンクゥンとそばで鳴き続けているかの様子に似ていた。
アンリ王子もそんな感じで、いつまでもジットリとした眼差しで私のことを凝視していた。
背を向けて眠ると、「こちらを向いてくれ、ハヴリエル」と延々と言ってうるさいし、王子の方を向いて眠ると、このねちっこい視線である。
最悪だった……。
翌日、護衛騎士の一人にこう言われた。
「ハヴリエル卿、殿下の求めに応えて、慰めて差し上げたらどうだ」
私は首を振る。
王宮に仕える護衛騎士や侍従、女官達が、王族達の無聊を慰めるため、寝台に侍ることはままあることだった。自分は何度も綺麗な侍従達が、アンリ王子殿下の求めに応じて寝台に横になる姿を見ていた。
「呪いが解けたら、黒歴史になる」
そう。アンリ王子にとって、私との一夜など黒歴史になること間違いない。
きっと呪いが解けた後、私に「何故そのようなことをしたのだ!!」と目を吊り上げて責めるのだ。
「私がお前の立場なら、今の状況を利用するがな。勿体ない」
騎士の一人はそう言って、笑った。
アンリ王子の寵愛を受けている今なら、贅沢し放題である。権力を握ることだって出来ただろう。呪いが解けた後は、その事を盾に我儘も言えるだろうとも言われた。今の、呪いを掛けられているアンリ王子の境遇を利用して、利を得ようとすることなど、考えるのも私は嫌だった。そう思えることに、それなりに、私には騎士としての矜持があったのだなと思った。
懸案の、西方諸国の戦いを避けて流れ込んでいる難民達の住みついている街の一角も見せてもらった。許可を受けずに掘っ立て小屋を建てて住んでいるということで、その中にはどうも盗みをするような者達もいるようで最近は街の治安も少し悪化しているという。困っていることも多かったが、基本的に街の人々は、着の身着のまま逃げ込んでくる避難民達に同情的な様子だった。
食事も事欠いている状況もあるのではないかという話で、王子は現状を国王陛下に報告の上、何らかの手当をして頂くよう進言すると確約していた。なんとなしに率先して物事を解決しようとするそんなお姿が凛々しく思えた。
腐っても、王国の二番目の王子なのだなと感心した。
今は頭の中身も少し腐っているようだが。
その日、視察を終えて部屋へ戻った。最近のアンリ王子はいつもニコニコと笑っている御方なのだが、その日はまた格別に機嫌が良さそうに見えた。
「ハヴリエル」
「なんでございましょう」
殿下の脱いだ上着を、付いてきている侍従に畳んで渡しながらそう答える。
「そなた、今日は嬉しそうだったな。何がそう嬉しかったのだ」
「殿下がとてもご立派に見えたからです」
いつもきれいな男の子を侍らせて、絵を描いているだけの男ではなかったのだなと感心したのだ。
一応、優秀な王子だった。
自分の仕える主が、優秀なことはそれは騎士として嬉しい事だった。
「つまり、私に惚れ直したということか!!!!」
すごく嬉しそうに、殿下がニッコリとしている。
いや、まともな王子だったのだと見直したわけで、惚れ直したわけではない。
そもそも最初から惚れていない。
でも、とても喜んでいる王子の気分に水を差すのも可哀想に思えて、その時の私は否定しなかった。
ただ微笑みながら、「殿下がご立派になられて嬉しいのです」とだけ伝えると、ツツツツツッと王子は私の側に近寄って来て、私の手を握って言った。
その碧い目が少しギラついて見えたのは気のせいだろうか。
「そうか、それでは、今宵はどうだ」
「………………」
アンリ王子殿下が私に好意を抱いている。
私も機嫌よく好感度が高まっているように見える。
よし、今宵は頑張るぞ!!
なんとなしに王子のその頭の中の、思考の流れが読めた。
私は王子に握られていた手をすっと引き抜いた。
「殿下、明日も視察でお忙しいでしょう。さぁ、ご就寝なさって下さい」
「…………ハヴリエル」
王子の碧い目がとても悲しそうに潤んでいる。
アンリ王子の良いところは、絶対に相手の嫌がることを強引にしようとしないところだった。
彼の弟のハウル王子は、相手の感情お構いなしに強引に連れ攫ってきて抱くという屑王子で有名であったが、アンリ王子には全くそうした乱暴なところはない。ただ、しつこいところがある。こうと決めた相手には執拗に追いすがる。
今も、寝台で横になっているアンリ王子の碧い目が、じっと私を見つめている。
それは、犬が寝台に潜りたくても主人に「めっ」と叱られて、潜ることを許されずにクゥンクゥンとそばで鳴き続けているかの様子に似ていた。
アンリ王子もそんな感じで、いつまでもジットリとした眼差しで私のことを凝視していた。
背を向けて眠ると、「こちらを向いてくれ、ハヴリエル」と延々と言ってうるさいし、王子の方を向いて眠ると、このねちっこい視線である。
最悪だった……。
翌日、護衛騎士の一人にこう言われた。
「ハヴリエル卿、殿下の求めに応えて、慰めて差し上げたらどうだ」
私は首を振る。
王宮に仕える護衛騎士や侍従、女官達が、王族達の無聊を慰めるため、寝台に侍ることはままあることだった。自分は何度も綺麗な侍従達が、アンリ王子殿下の求めに応じて寝台に横になる姿を見ていた。
「呪いが解けたら、黒歴史になる」
そう。アンリ王子にとって、私との一夜など黒歴史になること間違いない。
きっと呪いが解けた後、私に「何故そのようなことをしたのだ!!」と目を吊り上げて責めるのだ。
「私がお前の立場なら、今の状況を利用するがな。勿体ない」
騎士の一人はそう言って、笑った。
アンリ王子の寵愛を受けている今なら、贅沢し放題である。権力を握ることだって出来ただろう。呪いが解けた後は、その事を盾に我儘も言えるだろうとも言われた。今の、呪いを掛けられているアンリ王子の境遇を利用して、利を得ようとすることなど、考えるのも私は嫌だった。そう思えることに、それなりに、私には騎士としての矜持があったのだなと思った。
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