407 / 711
外伝 ある護衛騎士の災難 第一章
第十話 領域侵犯
しおりを挟む
そうして、その日の夜、私はアンリ王子の寝台で休むことになった。
私は周囲の護衛騎士達に何度も言ったのだ。
左足首を骨折している
↓
部屋の長椅子で眠るのは大変
↓
アンリ王子の寝台で眠らせる
ではなく、せめて別室に寝台を用意してそこで眠らせて欲しいと。
だが、護衛騎士達は「アンリ王子は呪いのせいで、卿が視界の中にいなければ騒ぐのだ。別室はあり得ない」と全員が首を振った。
彼ら全員、アンリ王子から何か握らせられているんじゃないかと私は疑ったくらいであった。
そしてアンリ王子は、私が同じ寝台の上で横になっていることに、過去最高に嬉しそうな顔をしつつも、その左足首を骨折している状況に顔をしかめていた。
「ハヴリエルは足がひどく痛むであろう。済まない、私のせいで」
アンリ王子が私を労わり、そして謝罪まですることに驚いた。
護衛の騎士としてもう少し気を配れば、私はこの足首の骨折という怪我もしなかったのではないかと反省する思いもあったから、私は彼の謝罪に首を振る。
それに、これは私がきちんと仕事を果たしたことによる結果だった。
「殿下、先ほども申し上げましたが、私は殿下をお守りすることが仕事なのです。謝罪は必要ございません。むしろ、よくやったと褒めて下さい」
「…………ハヴリエル」
アンリ王子の碧い目は、それでもどこか悲しそうな切ない光を浮かべて私を見つめていた。
「卿が私の前で傷つく姿を見ることが辛い」
「殿下、それに明日、治癒魔法を使える術者を呼んで頂けることになっております」
治癒魔法を使える魔術師は貴重なのだ。
それをわざわざ呼んでもらえるだけでも有難い。
「それで、今の痛みも腫れもだいぶなくなると思います。ご心配は無用です」
自然治癒に任せるには時間がかかってしまう。
そうなれば王子の警護を務められない。だから、さっさと治癒魔法を使って動ける状態に持っていきたかった。
ところがそこに、同室で警護を務める護衛騎士が話の途中に割り込んできた。
「ハヴリエル卿、治癒魔法の術者を呼ぶことは断ったぞ」
「………………何故ですか」
「足の骨折を治癒魔法で強引に治そうとすると、変な付き方をして足首に癖が付く場合がある。卿のその骨折は、ずれてもいない綺麗なものであるから、自然治癒に任せた方が良い」
「…………そうなると、私は殿下の警護につくことができません」
「そもそも卿は、殿下の護衛任務から外されているはずだ。特別任務中であろう」
近衛騎士団長からもそう言われていた。
実際、交渉の末、報酬も三倍に引き上げられている。
そしてアンリ王子も重ねるようにこう言った。
「騎士たるもの、足に癖がついてしまうのはマズイであろう。自然治癒に任せた方が良い。お前は優秀な護衛騎士だ。是非、回復には万全を期して欲しい」
「…………殿下」
殿下のその優しさに、一瞬私は絆されそうになったが、彼がポンポンと寝台を叩いたことで、ハッと気が付いたのだ。
「完治するまでは、私と同じ寝台だな!! ハヴリエル」
殿下と周囲の護衛騎士がグルになっている。
そんな疑心暗鬼の思いに捕らわれそうになった。
だから、私は殿下にこう申し上げた。
「…………分かりました。それでは寝台の中央部から上下縦に線を引いたここを境界線と致します。ここから殿下は一歩も入ってはなりませぬ」
「ハヴリエル……」
「お分かりですね、殿下」
私が寝台の中心を指さすと、アンリ王子はひどく苦渋の表情で頷いた。
「分かった。ハヴリエルの言葉に従おう」
「ご承諾頂けて幸いです」
その夜も私は殿下の方を向いて眠った。殿下は「足は痛まぬか」「辛かったらすぐに言うのだぞ」「足首を冷やす氷は足りているか」と非常に甲斐甲斐しかった。
そして翌朝目を覚ました時、何故かアンリ王子は私に抱きついて眠っていた。
寝台の境界線を越えてきている。
だが、スヤスヤと幸せそうな表情で眠っている彼を見ていると、「侵犯しましたね!!」と目くじら立てて怒る気になれず、ため息をついてもうひと眠りするために、目を伏せたのだった。
そんな私とアンリ王子の二人を、周囲の護衛騎士達は何故か温かく見守っていた。
私は周囲の護衛騎士達に何度も言ったのだ。
左足首を骨折している
↓
部屋の長椅子で眠るのは大変
↓
アンリ王子の寝台で眠らせる
ではなく、せめて別室に寝台を用意してそこで眠らせて欲しいと。
だが、護衛騎士達は「アンリ王子は呪いのせいで、卿が視界の中にいなければ騒ぐのだ。別室はあり得ない」と全員が首を振った。
彼ら全員、アンリ王子から何か握らせられているんじゃないかと私は疑ったくらいであった。
そしてアンリ王子は、私が同じ寝台の上で横になっていることに、過去最高に嬉しそうな顔をしつつも、その左足首を骨折している状況に顔をしかめていた。
「ハヴリエルは足がひどく痛むであろう。済まない、私のせいで」
アンリ王子が私を労わり、そして謝罪まですることに驚いた。
護衛の騎士としてもう少し気を配れば、私はこの足首の骨折という怪我もしなかったのではないかと反省する思いもあったから、私は彼の謝罪に首を振る。
それに、これは私がきちんと仕事を果たしたことによる結果だった。
「殿下、先ほども申し上げましたが、私は殿下をお守りすることが仕事なのです。謝罪は必要ございません。むしろ、よくやったと褒めて下さい」
「…………ハヴリエル」
アンリ王子の碧い目は、それでもどこか悲しそうな切ない光を浮かべて私を見つめていた。
「卿が私の前で傷つく姿を見ることが辛い」
「殿下、それに明日、治癒魔法を使える術者を呼んで頂けることになっております」
治癒魔法を使える魔術師は貴重なのだ。
それをわざわざ呼んでもらえるだけでも有難い。
「それで、今の痛みも腫れもだいぶなくなると思います。ご心配は無用です」
自然治癒に任せるには時間がかかってしまう。
そうなれば王子の警護を務められない。だから、さっさと治癒魔法を使って動ける状態に持っていきたかった。
ところがそこに、同室で警護を務める護衛騎士が話の途中に割り込んできた。
「ハヴリエル卿、治癒魔法の術者を呼ぶことは断ったぞ」
「………………何故ですか」
「足の骨折を治癒魔法で強引に治そうとすると、変な付き方をして足首に癖が付く場合がある。卿のその骨折は、ずれてもいない綺麗なものであるから、自然治癒に任せた方が良い」
「…………そうなると、私は殿下の警護につくことができません」
「そもそも卿は、殿下の護衛任務から外されているはずだ。特別任務中であろう」
近衛騎士団長からもそう言われていた。
実際、交渉の末、報酬も三倍に引き上げられている。
そしてアンリ王子も重ねるようにこう言った。
「騎士たるもの、足に癖がついてしまうのはマズイであろう。自然治癒に任せた方が良い。お前は優秀な護衛騎士だ。是非、回復には万全を期して欲しい」
「…………殿下」
殿下のその優しさに、一瞬私は絆されそうになったが、彼がポンポンと寝台を叩いたことで、ハッと気が付いたのだ。
「完治するまでは、私と同じ寝台だな!! ハヴリエル」
殿下と周囲の護衛騎士がグルになっている。
そんな疑心暗鬼の思いに捕らわれそうになった。
だから、私は殿下にこう申し上げた。
「…………分かりました。それでは寝台の中央部から上下縦に線を引いたここを境界線と致します。ここから殿下は一歩も入ってはなりませぬ」
「ハヴリエル……」
「お分かりですね、殿下」
私が寝台の中心を指さすと、アンリ王子はひどく苦渋の表情で頷いた。
「分かった。ハヴリエルの言葉に従おう」
「ご承諾頂けて幸いです」
その夜も私は殿下の方を向いて眠った。殿下は「足は痛まぬか」「辛かったらすぐに言うのだぞ」「足首を冷やす氷は足りているか」と非常に甲斐甲斐しかった。
そして翌朝目を覚ました時、何故かアンリ王子は私に抱きついて眠っていた。
寝台の境界線を越えてきている。
だが、スヤスヤと幸せそうな表情で眠っている彼を見ていると、「侵犯しましたね!!」と目くじら立てて怒る気になれず、ため息をついてもうひと眠りするために、目を伏せたのだった。
そんな私とアンリ王子の二人を、周囲の護衛騎士達は何故か温かく見守っていた。
11
あなたにおすすめの小説
腐男子♥異世界転生
よしの と こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、カクヨムさん、Caitaさんでも掲載しています。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました
湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。
蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。
だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。
しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。
「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」
――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈
__________
追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ
一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる
(主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです)
※R成分薄めです
__________
小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です
o,+:。☆.*・+。
お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/
ありがとうございます!!
BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m
死に戻りした僕を待っていたのは兄たちによる溺愛モードでした
液体猫(299)
BL
*諸々の事情により第四章の十魔編以降は一旦非公開にします。十魔編の内容を諸々と変更いたします。
【主人公(クリス)に冷たかった兄たち。だけど巻き戻した世界では、なぜかクリスを取り合う溺愛モードに豹変してしまいました】
アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、十三年前へと戻っていた。
前世でクリスに罪を着せた者への復讐は『ついで。』二度目の人生の目的はただ一つ。前の世界で愛し合った四男、シュナイディルと幸せに暮らすこと。
けれど予想外なことに、待っていたのは過保護すぎる兄たちからの重たい溺愛で……
やり直し皇子、クリスが愛を掴みとって生きていくコミカル&ハッピーエンド確定物語。
第三章より成長後の🔞展開があります。
※濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭、ちょっとだけ重い展開あり。
※若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる