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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第一章 五番目の王子との学園時代
第四話 王子は病気になる
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シルヴェスターは大人しい、手のかからない王子だった。
彼は、見目も麗しい王子で、頭も良く、王家の者として魔力も豊富であり(この王国の王族達には、黄金竜の血が流れているという伝承もあり、魔力を多く持つ者が多かった)、優れたる資質を持つ王子であったが、彼は殊更それを隠そうとしていた。
成績も実技も、決して他人に見せつけるようにはしない。力を抜いて、実力も発揮せず、むしろ抑えて、大人しく凡庸であるように見せていた。
ユーリスは、シルヴェスターと親しくなっていく中で、彼の王家の中での立ち位置を、従者のクラリオネを経由して父親から聞いていた。
王宮の中で“放置されている王子”
それがシルヴェスターであった。
シルヴェスターは五番目の王子であり、上に四人、下に二人の王子がいる。
はなから、王位継承争いをするつもりはない。
だが、出来過ぎるシルヴェスターが、目立ちすぎることは、誰かにとって非常に目障りなのだ。
(その誰かとは、やはり)
それは、クラリオネから聞いた話などから簡単に導き出される。
(メロウサ王妃殿下)
王宮で絶大な権力を持ち、世継ぎの王子を産んだ王妃。
シルヴェスターの母妃は、王の歓心を買い、手が付けられたが、子を産むと同時に早々に王宮から追い出された。メロウサ王妃からしてみれば、美しい母妃に似ているシルヴェスターも王宮からさっさと追い出したいところだろう。
(父上やクラリオネの言う通り、関わらないことが一番いいのだろう)
でも、シルヴェスターと過ごす時間は楽しいのだ。
やはり同年の少年同士。彼もまたユーリスの集めている古書にも興味を持ってくれて、頭の良い彼とは専門的な会話も交わせるようになっていた。そんな者は、シルヴェスター以外、ユーリスのそばには存在しない。
(学園にいる間、友人として、彼と過ごすことは悪いことではない)
父やクラリオネは、ユーリスに対して、王子とは“適切な距離”を保つように言っている。
“適切な距離”を保った友人関係なら、悪いことはない。
そのようにユーリスは自分の行動を正当化していた。
だから、毎年のように学年が上がっていく中でも、ユーリスとシルヴェスターは寮で同室であったし(学園側はシルヴェスターのことを面倒事として、彼をユーリスに押し付けているところがあった)、クラリオネが用意してくれる服や靴も、二人は兄弟のように共に使うことも多かった。
他人には素っ気ないシルヴェスターも、ユーリスには胸襟を開いていた。
二人は傍から見ても良い友人関係を構築していた。
ある時、シルヴェスターが病気になった。
あれはシルヴェスターもユーリスも、十歳くらいの年齢だったろう。
夕方シルヴェスターが少し咳をしていたのを見ていたら、あっという間に熱が出て、彼は苦しそうになおも咳き込むようになってしまった。
ユーリスはすぐさま従者のクラリオネを走らせ、医師を呼んだ。
クラリオネが呼んだ医師は、バンクール家に出入りする医師で、腕は確かだった。
往診してくれた医師は、ただの風邪だが、こじらせると大変になるので、薬を飲ませてよく休ませるようにと言って、部屋から出ていった。
そうひどい病気ではないことに、ユーリスはほっとした。
寝台で横になっているシルヴェスターが咳き込むと、ユーリスは甲斐甲斐しく世話をする。
額に冷たい水で浸した布を置くと、少し楽そうな様子をシルヴェスターは見せていた。
従者のクラリオネと交代で、彼の面倒を看た。
ただ、熱に浮かされていた彼は、このようなうわ言を言っていた。
「…………私に触るな。触れたらまた殺してやるぞ」
その時は、熱に浮かされて苦しさの余り、悪夢でも見ているのだろうと思っていた。
だが、シルヴェスターのその声の、怖いような声の響きが、ひどくユーリスの心に残った。
(また殺してやるぞ、とはどういうことなのだろう)
快復したシルヴェスターは熱に浮かされている間のことは、何一つ覚えておらず、ユーリスには「世話になった」と頭を下げて礼を言った。いつも通りのシルヴェスターだった。
だが、病に浮かされている時の普段の彼とは違うあの声が、ユーリスには少し気にかかっていた。しかし、毎日の忙しさの中で、それはぽつんと心の奥底にはあったが、次第に忘れ去られていったのだった。
彼は、見目も麗しい王子で、頭も良く、王家の者として魔力も豊富であり(この王国の王族達には、黄金竜の血が流れているという伝承もあり、魔力を多く持つ者が多かった)、優れたる資質を持つ王子であったが、彼は殊更それを隠そうとしていた。
成績も実技も、決して他人に見せつけるようにはしない。力を抜いて、実力も発揮せず、むしろ抑えて、大人しく凡庸であるように見せていた。
ユーリスは、シルヴェスターと親しくなっていく中で、彼の王家の中での立ち位置を、従者のクラリオネを経由して父親から聞いていた。
王宮の中で“放置されている王子”
それがシルヴェスターであった。
シルヴェスターは五番目の王子であり、上に四人、下に二人の王子がいる。
はなから、王位継承争いをするつもりはない。
だが、出来過ぎるシルヴェスターが、目立ちすぎることは、誰かにとって非常に目障りなのだ。
(その誰かとは、やはり)
それは、クラリオネから聞いた話などから簡単に導き出される。
(メロウサ王妃殿下)
王宮で絶大な権力を持ち、世継ぎの王子を産んだ王妃。
シルヴェスターの母妃は、王の歓心を買い、手が付けられたが、子を産むと同時に早々に王宮から追い出された。メロウサ王妃からしてみれば、美しい母妃に似ているシルヴェスターも王宮からさっさと追い出したいところだろう。
(父上やクラリオネの言う通り、関わらないことが一番いいのだろう)
でも、シルヴェスターと過ごす時間は楽しいのだ。
やはり同年の少年同士。彼もまたユーリスの集めている古書にも興味を持ってくれて、頭の良い彼とは専門的な会話も交わせるようになっていた。そんな者は、シルヴェスター以外、ユーリスのそばには存在しない。
(学園にいる間、友人として、彼と過ごすことは悪いことではない)
父やクラリオネは、ユーリスに対して、王子とは“適切な距離”を保つように言っている。
“適切な距離”を保った友人関係なら、悪いことはない。
そのようにユーリスは自分の行動を正当化していた。
だから、毎年のように学年が上がっていく中でも、ユーリスとシルヴェスターは寮で同室であったし(学園側はシルヴェスターのことを面倒事として、彼をユーリスに押し付けているところがあった)、クラリオネが用意してくれる服や靴も、二人は兄弟のように共に使うことも多かった。
他人には素っ気ないシルヴェスターも、ユーリスには胸襟を開いていた。
二人は傍から見ても良い友人関係を構築していた。
ある時、シルヴェスターが病気になった。
あれはシルヴェスターもユーリスも、十歳くらいの年齢だったろう。
夕方シルヴェスターが少し咳をしていたのを見ていたら、あっという間に熱が出て、彼は苦しそうになおも咳き込むようになってしまった。
ユーリスはすぐさま従者のクラリオネを走らせ、医師を呼んだ。
クラリオネが呼んだ医師は、バンクール家に出入りする医師で、腕は確かだった。
往診してくれた医師は、ただの風邪だが、こじらせると大変になるので、薬を飲ませてよく休ませるようにと言って、部屋から出ていった。
そうひどい病気ではないことに、ユーリスはほっとした。
寝台で横になっているシルヴェスターが咳き込むと、ユーリスは甲斐甲斐しく世話をする。
額に冷たい水で浸した布を置くと、少し楽そうな様子をシルヴェスターは見せていた。
従者のクラリオネと交代で、彼の面倒を看た。
ただ、熱に浮かされていた彼は、このようなうわ言を言っていた。
「…………私に触るな。触れたらまた殺してやるぞ」
その時は、熱に浮かされて苦しさの余り、悪夢でも見ているのだろうと思っていた。
だが、シルヴェスターのその声の、怖いような声の響きが、ひどくユーリスの心に残った。
(また殺してやるぞ、とはどういうことなのだろう)
快復したシルヴェスターは熱に浮かされている間のことは、何一つ覚えておらず、ユーリスには「世話になった」と頭を下げて礼を言った。いつも通りのシルヴェスターだった。
だが、病に浮かされている時の普段の彼とは違うあの声が、ユーリスには少し気にかかっていた。しかし、毎日の忙しさの中で、それはぽつんと心の奥底にはあったが、次第に忘れ去られていったのだった。
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