転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第二章 黄金竜の雛の番

第一話 過去の夢と、帰国を促す手紙

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「…………私は別れたくない」

 ユーリスの婚約者アンジェラは、目に涙をいっぱい浮かべてそう言った。

 国を離れる前、彼女へ最後の別れを告げるため、会うことにした。
 彼女との婚約を解消することは決定事項だった。両親達はすでに話し合い、手続きは粛々と進められていた。
 彼女の家は、残念だが婚約解消を受け入れると述べた。
 王家の王子達の関わる話で、このまま王都にユーリスが残り続けるとマズいことになると理解していたからだ。ほとぼりが冷めるまで、ユーリスは王都から離れ、国を離れる。どれくらい時間が経てば戻って来られるか分からない。彼女の為にも、一度婚約を解消しようという話になった。

 でも、彼女は言った。

「それに、シルヴェスター殿下はいなくなってしまったのでしょう? ユーリス、それなら私と婚約を解消する必要はないじゃない」

 アンジェラはそう言って、しがみついてくる。

「私は待ちたい。ユーリス、貴方が好きなの」

 情熱をぶつけられる。
 それに応えられたらどんなに楽なのだろうと思う。
 彼女の手を取ることができたのなら。

 

 あの後、ユーリスは冒険者ギルドに依頼して、シルヴェスターと冒険者ダンカンの行方を探らせた。
 しかし、彼らの行方を知ることは出来なかった。
 父ジャクセンの話した通り、彼らはこの国を離れ、どこか遠くへ旅立ってしまった。
 ダンカンは彼の率いるクランを引き連れて旅立っていた。

 本当は、ユーリスは、今もシルヴェスターの後を追いかけていきたい気持ちがある。
 でも、追いかけようにもシルヴェスターの行方が分からない。

 自分も一緒に連れて行って欲しかった。何故、自分を置いていったのかと、恨みがましい感情も渦巻いていた。
 あれほど、自分のことを彼は愛してくれていたのに。
 結局、シルヴェスターが全てのしがらみから完全に自由になるためには、自分も置いていかざるを得なかったのではないかという結論に至り、心は暗く沈んでしまう。シルヴェスターはこれで自由になれた。どこへでも行けるし、何にでもなれる。そのためには、全てを捨てる必要があったのだ。


 ユーリスはアンジェラの身体を強く抱きしめ、それから彼女の額に口づけた。

「もう私は行かなければならない。アンジェラ、私を待たなくていいから」

 アンジェラは目を閉じた。
 その言葉で、もはやユーリスの心に自分への想いはないことを悟ったのだ。

 シルヴェスター王子とユーリスが惹かれ合っていたことを、アンジェラは感じ取っていた。
 それでも、アンジェラはユーリスが好きだった。
 なのに、彼はシルヴェスター王子を失い、今や、アンジェラの手も離そうとしている。

「…………ユーリス」

「さよならだ」











 カーテンの隙間から日差しが差し込んでくる。
 寝台の上でユーリスは身を起こした。
 
 かつて、彼の婚約者だった赤い髪の少女の夢を見た。
 五年前、目に一杯の涙を浮かべて、すがりついてきた少女。
 その手を離したのはユーリスだった。そのことに後悔はない。

 今になって彼女の夢を見たのは、彼女が子供を産んだという話を耳にしたからだ。
 王国を離れたユーリスは、アンジェラとの婚約を解消した。そしてアンジェラは、三年前、ユーリスの従兄と結婚した。アンジェラは実家のフェルプス商会のため、ユーリスの従兄でやはりバンクール商会に勤める若者と、商会長の父親ジャクセンの仲立ちの元、結婚したのだ。
 
 あの後、ユーリスはアレドリア王国へ渡り、彼を呼び寄せてくれたナウマン教授の元で研究に励んだ。アレドリア王国へ向かうまでの道中、そしてアレドリア王国へ渡ってからも、ユーリスのそばには複数の護衛が張りついていた。
 富豪で有名なバンクール商会の一人息子の身が、誘拐などの事件に巻き込まれることを父親が案じて手配したのだろうと周囲は見ていた。だが、それだけではないことをユーリスは知っていた。

 父は、ユーリスがシルヴェスター王子の跡を追って出奔しないように見張りをつけていたのだ。

(殿下の行方を私は知らない。だから追うこともできない。父上の心配は無用だ)
 
 もしかしたら、ユーリスが冒険者ギルドにシルヴェスター王子の行方を調べさせている時にも、父は王子の行方を知られないように、依頼結果に介入していたかも知れない。疑えばキリがなかった。そして父親ジャクセンはそうしたことをやりかねない性格をしていた。
 
 でも結局、ユーリスがアレドリア王国へ渡った後も、いくら調べさせてもシルヴェスターの行方を知ることは出来なかった。その苛立ちと焦燥をぶつけるように研究に邁進したユーリスは、業績を上げ、ナウマン教授の下で研究者として独り立ちが出来るまでになっていた。

 国を離れてから、早、五年が経っていた。
 国を離れた時、十六歳の少年であったユーリスは、今や二十一歳の若者になっていた。

 そして最近になって、父ジャクセンから国へ帰って来るよう催促する手紙が届いていた。
 正直、今となっては、ユーリスの中には国へ帰る気持ちはなかった。
 ジャクセンは、一人息子のユーリスを、商会の跡取りにするつもりであったし、ユーリスも少年の頃は父親が敷いたレールの上を歩むことに対して全く迷いは無かった。尊敬する父親の跡を継ぐのは当然だという気持ちもあった。

 でも、今となっては、もはや、その気持ちはない。
 むしろ、遺跡の研究や古書の解読をすることは楽しい。研究をしている時は、何もかも忘れて没頭することができる。だから、父には国へ帰るつもりはないと返事を出した。

 父ジャクセンは当然、激怒した。

 今まで送っていた仕送りを打ち切ると言われたが、別に打ち切られてもユーリスは困らなかった。
 すでにアレドリアで研究者として相応の働きを見せていたユーリスは、給金を得ていた。贅沢さえしなければ自分一人の身を養っていくことは出来る。
 むしろ、自分のような仕事への情熱を持たぬ人間が父の跡を継ぐのはふさわしくない。
 父の兄弟にでも継がせれば良いと思っている。

 何度も国へ帰ってくるよう催促する手紙に、ユーリスが辟易し始めた頃、ある時、ジャクセンは手紙の中でこう述べた。

『王宮下の一号遺跡と二号遺跡の調査が始まる。お前が興味あるのなら、調査員に加えてもらっても良い』

 正直、その遺跡には強い興味があった。
 なにせ一号遺跡と二号遺跡は、王家の禁所と呼ばれる場所で、鉄のぶ厚い扉に固く閉ざされ、二千年以上開かれたことがないという場所だった。その遺跡が初めて開かれるのである。学者として興味を持たないはずがなかった。

(それに……)

 ユーリスは、自分がまだ少年だった頃、寮で同室だったシルヴェスター王子にその遺跡のことを尋ねたことがあった。彼は確かにそうした場所が王宮下に存在していることを教えてくれた。遺跡に興味を持ち始めていたユーリスが、なんとかその遺跡に忍び込みたいと言うと、彼は笑ったのだ。

 過去の楽しい思い出を振り切るように、ユーリスは軽く頭を振る。
 父ジャクセンは、ユーリスが王国へ戻れば、遺跡調査の一員に加えられるように働きかけるという。

 もう王国の土は踏まないつもりだったが、五年前、国を離れる時、母や妹達に対して、ろくに挨拶もせずに離れたことを思い出した。今回のこの機会に、母や妹達に別れの挨拶をするのもいいだろうと思った。そして今回、国へ戻り、それからまた離れるなら、もう二度と戻ることはないと思っていた。
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