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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第二章 黄金竜の雛の番
第十五話 人の姿をとる(上)
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アレドリア王国までの道中、父ジャクセンはユーリスに二人の護衛をつけてくれた。
西方諸国では戦争が起きた影響で、難民が近隣の国々に押し寄せている。
アレドリアは南方の国で、まだ戦争の影響は少ないとはいえ、全くないとは言えない状況だった。
宿に入ると、ユーリスの泊まる部屋とは別の部屋を護衛達は押さえ、ユーリスは一人部屋に泊まることが出来た。随分と贅沢をさせてもらっていると思っていたが、プライバシーが確保されていることは素直に嬉しい。
そもそも胸元に小さな竜の雛を入れての旅である。
人には、ユーリスが竜の雛を、それも黄金竜の雛を連れていることは知られたくなかった。
ウェイズリーは、ユーリスの言葉をよく聞いてくれた。
「他の人間に見つかってはいけない」というユーリスの言葉に、ウェイズリーは「キューキュルキュルキュルキュー(移動中はじっとしているよ)」と言って、ユーリスの胸元の布袋の中で大人しくしていてくれる。夜になって宿に到着して、ユーリスが袋の中から取り出すまでは時々小声で鳴くくらいで、彼自身も他の人間に見つからないように努めていた。
それに、ウェイズリーは番であるユーリスの胸元の袋の中で、ぴったりとユーリスの身体と密着出来ることが嬉しいようで、丸くなってユーリスの肌の温かさにウットリとした顔をしていた。そして朝晩と、彼はユーリスの胸に飛び込み、背伸びするようにして口を突き出して、ユーリスの唇にチュッと口づけをするのだ。
それにはユーリスは戸惑った顔をして、ウェイズリーに言っていた。
「君はそういうことを一体どこで知ったのかな」
まだ生まれて一月ほどの竜の雛である。
それなのに、ウェイズリーは言葉も流暢で(竜の鳴き声だが)、ユーリスの言いたいこともすぐに理解してくれる賢さがあった。その上、こうした恋人にするような言い方も知っているのだ。
「キュルルルキュイキュイキュルルルルル(愛しいユーリスの前なら、自然と言葉は口から出るんだ)」
そう言って、金色の竜の雛はなおも甘く甘く金色の瞳でユーリスを見つめて、ぴたりと胸に張りついてくるのだ。
ユーリスは何と言っていいものなのか分からず言葉を失っていた。
だが、どんなに甘い言葉を囁かれてもウェイズリーはあくまで小さな竜の雛であり、可愛いとは思うが、それ以上の感情をユーリスが持つことはない。朝晩に口づけをしてくる小さな竜に対しては戸惑いしかなかった。
(いつか他のかわいい竜の雌がウェイズリーの前に現れれば、ウェイズリーはそちらに行くだろう)
どうせ一時の気の迷いだろうとユーリスは考えている。
ユーリスは、父親ジャクセンにそっくりな細身の美青年である。艶やかな黒髪に切れ長の青い瞳の美しい容姿の彼に、昔から惹かれる男女は多く、頻繁に愛の告白を受けていた。
竜の美的感覚はよく分からないが、ウェイズリーもユーリスをただ軽く「好み」だと感じているだけではないかと考えている。それでも小さな竜に慕われることに悪い気持ちはしなくて、ユーリスはウェイズリーを可愛がっている。ウェイズリーが求めれば、その頭を優しく撫でてやることも多かった。
何事もなくアレドリア王国までの旅は終わろうとしていた。
ユーリスは到着の前日、小さな黄金竜の雛を寝台の上に載せ、彼に尋ねるようにこう言った。
「アレドリア王国は竜がいない国なんだ、ウェイズリー」
そう、大陸南方のアレドリアには竜はいない。
竜と言う生き物は、基本北方の国にいる魔法生物で、大森林地帯に生息している。
「だから、君は魔法が出来るなら、それで人の姿が取れないだろうか。それも」
ユーリスは少し考え込むようにしてこう言う。
「子供の姿がいいな。大人の男だと、面倒なことを言い出すものもいるだろう。五、六歳の子供の姿がいい」
もしウェイズリーが人の姿をとれるなら、その姿のまま自分と一緒に暮らすことになる。
大人の男の姿のウェイズリーとユーリスが暮らし始めたら、すぐに噂になるだろう。そしてウェイズリーの素性も詮索され煩わしくなるに違いない。それよりは、多少の失敗も許してもらえるであろう子供の姿が良い。
「キュルルル(分かった)」
ウェイズリーは短くそう返事をすると、彼は一瞬で子供の姿になった。
竜の時の肌の色と同じ黄金色の髪の毛を持つ、黄金色の瞳の子供だった。
彼はその姿のまま、ユーリスに飛びついて、頭をぐりぐりとユーリスの胸に押し付けた。
「ユーリス、変わったよ!!」
ちゃんと言葉も、今までのように「キュルキュル」と鳴く竜の言葉ではなく、人のそれである。可愛らしい子供の高い声だった。
ユーリスはウェイズリーの顔を見て、破顔した。
「すごいな、ちゃんと人の姿になれるんだね」
「当たり前だよ!! 私は黄金竜なのだからな」
どこか誇らしげにそう言う。
だが、ユーリスはウェイズリーが裸であることに気が付いた。
「服を用意しなければならないな」
「服も、魔法で作れると思う」
「ふむ」
ユーリスはそれから「また竜の姿に戻ってくれ。突然私が人の姿の君を連れて歩いたら、護衛が驚く」と言ったので、ウェイズリーは頷いて、またまた黄金竜の雛の姿に戻る。それが一瞬の変化であったので、ユーリスは(黄金竜とは凄いものなのだな)と内心感心していた。自由自在に人の姿をとることができるようだ。それも、こんな小さな雛なのに、もう魔法が使える。
以前、ユーリスの叔父で竜の生態学者であるリヨンネは「竜の一族の中で頂点に立つのは黄金竜だ」と教えてくれたし、出会った黒竜や青竜という野生の竜達も、恭しい態度でウェイズリーに接していた。黄金竜であるウェイズリーは特別な竜なのだろう。
そのウェイズリーは、小さな竜の雛の姿に戻った後は、ユーリスの胸にしがみつくようにしていて、ぐりぐりとその小さな頭を押し付けて、ぴったりと張り付いている。
(こういうところは、まだまだ可愛い赤ちゃん竜という感じがする)
そう思って、ユーリスは笑みを浮かべながらウェイズリーの頭を撫でていたのだった。
西方諸国では戦争が起きた影響で、難民が近隣の国々に押し寄せている。
アレドリアは南方の国で、まだ戦争の影響は少ないとはいえ、全くないとは言えない状況だった。
宿に入ると、ユーリスの泊まる部屋とは別の部屋を護衛達は押さえ、ユーリスは一人部屋に泊まることが出来た。随分と贅沢をさせてもらっていると思っていたが、プライバシーが確保されていることは素直に嬉しい。
そもそも胸元に小さな竜の雛を入れての旅である。
人には、ユーリスが竜の雛を、それも黄金竜の雛を連れていることは知られたくなかった。
ウェイズリーは、ユーリスの言葉をよく聞いてくれた。
「他の人間に見つかってはいけない」というユーリスの言葉に、ウェイズリーは「キューキュルキュルキュルキュー(移動中はじっとしているよ)」と言って、ユーリスの胸元の布袋の中で大人しくしていてくれる。夜になって宿に到着して、ユーリスが袋の中から取り出すまでは時々小声で鳴くくらいで、彼自身も他の人間に見つからないように努めていた。
それに、ウェイズリーは番であるユーリスの胸元の袋の中で、ぴったりとユーリスの身体と密着出来ることが嬉しいようで、丸くなってユーリスの肌の温かさにウットリとした顔をしていた。そして朝晩と、彼はユーリスの胸に飛び込み、背伸びするようにして口を突き出して、ユーリスの唇にチュッと口づけをするのだ。
それにはユーリスは戸惑った顔をして、ウェイズリーに言っていた。
「君はそういうことを一体どこで知ったのかな」
まだ生まれて一月ほどの竜の雛である。
それなのに、ウェイズリーは言葉も流暢で(竜の鳴き声だが)、ユーリスの言いたいこともすぐに理解してくれる賢さがあった。その上、こうした恋人にするような言い方も知っているのだ。
「キュルルルキュイキュイキュルルルルル(愛しいユーリスの前なら、自然と言葉は口から出るんだ)」
そう言って、金色の竜の雛はなおも甘く甘く金色の瞳でユーリスを見つめて、ぴたりと胸に張りついてくるのだ。
ユーリスは何と言っていいものなのか分からず言葉を失っていた。
だが、どんなに甘い言葉を囁かれてもウェイズリーはあくまで小さな竜の雛であり、可愛いとは思うが、それ以上の感情をユーリスが持つことはない。朝晩に口づけをしてくる小さな竜に対しては戸惑いしかなかった。
(いつか他のかわいい竜の雌がウェイズリーの前に現れれば、ウェイズリーはそちらに行くだろう)
どうせ一時の気の迷いだろうとユーリスは考えている。
ユーリスは、父親ジャクセンにそっくりな細身の美青年である。艶やかな黒髪に切れ長の青い瞳の美しい容姿の彼に、昔から惹かれる男女は多く、頻繁に愛の告白を受けていた。
竜の美的感覚はよく分からないが、ウェイズリーもユーリスをただ軽く「好み」だと感じているだけではないかと考えている。それでも小さな竜に慕われることに悪い気持ちはしなくて、ユーリスはウェイズリーを可愛がっている。ウェイズリーが求めれば、その頭を優しく撫でてやることも多かった。
何事もなくアレドリア王国までの旅は終わろうとしていた。
ユーリスは到着の前日、小さな黄金竜の雛を寝台の上に載せ、彼に尋ねるようにこう言った。
「アレドリア王国は竜がいない国なんだ、ウェイズリー」
そう、大陸南方のアレドリアには竜はいない。
竜と言う生き物は、基本北方の国にいる魔法生物で、大森林地帯に生息している。
「だから、君は魔法が出来るなら、それで人の姿が取れないだろうか。それも」
ユーリスは少し考え込むようにしてこう言う。
「子供の姿がいいな。大人の男だと、面倒なことを言い出すものもいるだろう。五、六歳の子供の姿がいい」
もしウェイズリーが人の姿をとれるなら、その姿のまま自分と一緒に暮らすことになる。
大人の男の姿のウェイズリーとユーリスが暮らし始めたら、すぐに噂になるだろう。そしてウェイズリーの素性も詮索され煩わしくなるに違いない。それよりは、多少の失敗も許してもらえるであろう子供の姿が良い。
「キュルルル(分かった)」
ウェイズリーは短くそう返事をすると、彼は一瞬で子供の姿になった。
竜の時の肌の色と同じ黄金色の髪の毛を持つ、黄金色の瞳の子供だった。
彼はその姿のまま、ユーリスに飛びついて、頭をぐりぐりとユーリスの胸に押し付けた。
「ユーリス、変わったよ!!」
ちゃんと言葉も、今までのように「キュルキュル」と鳴く竜の言葉ではなく、人のそれである。可愛らしい子供の高い声だった。
ユーリスはウェイズリーの顔を見て、破顔した。
「すごいな、ちゃんと人の姿になれるんだね」
「当たり前だよ!! 私は黄金竜なのだからな」
どこか誇らしげにそう言う。
だが、ユーリスはウェイズリーが裸であることに気が付いた。
「服を用意しなければならないな」
「服も、魔法で作れると思う」
「ふむ」
ユーリスはそれから「また竜の姿に戻ってくれ。突然私が人の姿の君を連れて歩いたら、護衛が驚く」と言ったので、ウェイズリーは頷いて、またまた黄金竜の雛の姿に戻る。それが一瞬の変化であったので、ユーリスは(黄金竜とは凄いものなのだな)と内心感心していた。自由自在に人の姿をとることができるようだ。それも、こんな小さな雛なのに、もう魔法が使える。
以前、ユーリスの叔父で竜の生態学者であるリヨンネは「竜の一族の中で頂点に立つのは黄金竜だ」と教えてくれたし、出会った黒竜や青竜という野生の竜達も、恭しい態度でウェイズリーに接していた。黄金竜であるウェイズリーは特別な竜なのだろう。
そのウェイズリーは、小さな竜の雛の姿に戻った後は、ユーリスの胸にしがみつくようにしていて、ぐりぐりとその小さな頭を押し付けて、ぴったりと張り付いている。
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そう思って、ユーリスは笑みを浮かべながらウェイズリーの頭を撫でていたのだった。
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