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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第二章 黄金竜の雛の番
第十六話 人の姿をとる(下)
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アレドリア王国には巨大な学術都市がある。
大陸最大の大図書館を構え、数多の学校が建つ。街には当然のように下宿や寮が並び、若い学生達の姿が溢れていた。
大陸南部の中央に位置するアレドリアは、交通の要所であり、そのこともあり、古くから人々の往来が盛んで文化的にも成熟していた。そこに二百年前の賢王と呼ばれる人が、巨大な図書館を建て、文化人を積極的に招聘したことから、この学園都市が始まり華やかな文化も花開いたと言われている。
ユーリスは、子供の頃からアレドリアのことを知っていた。
故郷の王立学園の学生であった時から、アレドリアにそびえ建つ学問の塔といえる大図書館へ一度は行ってみたいと望んでいた。二人の王子に襲われるという最悪な事件が起きた結果、アレドリア王国へ逃げ込むような形になってしまったが、あの時、このアレドリア王国へ来られたことはユーリスにとっては僥倖だった。
ここは、ユーリスを夢中にさせるもので溢れていた。
大図書館は、毎日読んでも一年ではとうてい読み終わらぬ大量の蔵書を抱え、その中には学者なら目もくらむような貴重な古書が積み上げられていた。ユーリスは夢中になって古書を読み耽り、学んだ。貪欲に学んだ。
そして、彼のことを忘れようと自ら努めた。
(シルヴェスター)
あの頃は、彼の事を思い出すだけで、胸が苦しくてたまらなかった。
悲しみと苦しみと寂しさが、絶望的に心を支配しようとしていて、それからなんとか逃れようとするユーリスの心の闇の中、投げ込まれたか細い一本の糸が、学問であった。
それに夢中になってしがみついて登っていくしかなかったのだ。
五年経って、だいぶ彼への想いも落ち着いてきていた。
五年前、このアレドリアに来たばかりの時は、精神的に不安定になっていて、ちょっとしたことで涙が出ることもあって、ユーリスを指導するナウマン教授を心配させたこともあった。
(でも、今もまだ私は、彼のことを想っている)
金の髪に碧い瞳の少年だったシルヴェスター王子と、学園で学んだ日々は、ユーリスにとって幸せな記憶だった。そして告白してからの、あの愛し合った甘い蜜のような日々。彼が去るまでの、ほんの短い期間だったけれど、彼に強く愛された記憶が、今もなおユーリスの中に克明に刻まれている。
きっと、シルヴェスター王子のことはこれから先も忘れられないだろう。
彼と過ごした日々が、今のユーリスの存在を形作ったところもあるのだ。
あれほど誰かを愛し、そして愛された出来事は、もう自分の身に起こることはないだろうと思う。
シルヴェスターの行方をその後も探すことがあったが、彼の行方は相変わらず分からなかった。
アレドリアに到着したところで、ユーリスを護衛してくれた者達とは別れることになった。
それから、ユーリスは街の人気のない路地に入ると、胸元の布袋を取り出し、小さな金色の竜の雛に言った。
「今なら大丈夫だよ。ウェイズリー」
呼びかけるとウェイズリーは「キュウ」と声を上げ、次の瞬間、布の袋から飛び出しながら、一瞬で人の姿を取った。五歳ほどの子供の姿だった。
飛び出してくると同時に、ユーリスの胴体にしがみついてきて、その金色の頭を押し付けて来た。
「ユーリス」
ちゃんと今度は、ウェイズリーは服を着ていた。膝丈の青いズボンに白いシャツというラフな姿である。
顔を上げたウェイズリーの黄金色に輝く瞳を見ながら、ユーリスは言った。
「瞳の色も変えなければね」
黄金色の瞳など、人は持っていない。
それで、ウェイズリーが自分の瞳の色を魔法で青色に変えようとしているのを見て、ユーリスは一瞬顔を強張らせた。
「違う瞳の色がいい。ウェイズリー」
そう言うユーリスの言葉に、素直に従ったウェイズリーの瞳の色は緑色に変わった。
それを見てなんとなしにユーリスは安堵した。
金の髪に綺麗な顔立ちのウェイズリー。青い瞳を持つとなると、その姿はシルヴェスターのことを彷彿とさせてしまう。シルヴェスターの碧い瞳は深い海の色のように美しかった。ウェイズリーが変えようとしていた青い瞳の色合いとは微妙に違うことはわかっている。
それでも、いつもそばにいるウェイズリーを見て、シルヴェスターのことを考えたくない。
胸が、苦しくなってしまうから。
そんな想いをユーリスは表に出すことなく、そっと伸ばされたウェイズリーの小さくて柔らかな手を握った。
「さぁ、行こうか」
もちろん、ウェイズリーは嬉しそうに頷いたのだった。
大陸最大の大図書館を構え、数多の学校が建つ。街には当然のように下宿や寮が並び、若い学生達の姿が溢れていた。
大陸南部の中央に位置するアレドリアは、交通の要所であり、そのこともあり、古くから人々の往来が盛んで文化的にも成熟していた。そこに二百年前の賢王と呼ばれる人が、巨大な図書館を建て、文化人を積極的に招聘したことから、この学園都市が始まり華やかな文化も花開いたと言われている。
ユーリスは、子供の頃からアレドリアのことを知っていた。
故郷の王立学園の学生であった時から、アレドリアにそびえ建つ学問の塔といえる大図書館へ一度は行ってみたいと望んでいた。二人の王子に襲われるという最悪な事件が起きた結果、アレドリア王国へ逃げ込むような形になってしまったが、あの時、このアレドリア王国へ来られたことはユーリスにとっては僥倖だった。
ここは、ユーリスを夢中にさせるもので溢れていた。
大図書館は、毎日読んでも一年ではとうてい読み終わらぬ大量の蔵書を抱え、その中には学者なら目もくらむような貴重な古書が積み上げられていた。ユーリスは夢中になって古書を読み耽り、学んだ。貪欲に学んだ。
そして、彼のことを忘れようと自ら努めた。
(シルヴェスター)
あの頃は、彼の事を思い出すだけで、胸が苦しくてたまらなかった。
悲しみと苦しみと寂しさが、絶望的に心を支配しようとしていて、それからなんとか逃れようとするユーリスの心の闇の中、投げ込まれたか細い一本の糸が、学問であった。
それに夢中になってしがみついて登っていくしかなかったのだ。
五年経って、だいぶ彼への想いも落ち着いてきていた。
五年前、このアレドリアに来たばかりの時は、精神的に不安定になっていて、ちょっとしたことで涙が出ることもあって、ユーリスを指導するナウマン教授を心配させたこともあった。
(でも、今もまだ私は、彼のことを想っている)
金の髪に碧い瞳の少年だったシルヴェスター王子と、学園で学んだ日々は、ユーリスにとって幸せな記憶だった。そして告白してからの、あの愛し合った甘い蜜のような日々。彼が去るまでの、ほんの短い期間だったけれど、彼に強く愛された記憶が、今もなおユーリスの中に克明に刻まれている。
きっと、シルヴェスター王子のことはこれから先も忘れられないだろう。
彼と過ごした日々が、今のユーリスの存在を形作ったところもあるのだ。
あれほど誰かを愛し、そして愛された出来事は、もう自分の身に起こることはないだろうと思う。
シルヴェスターの行方をその後も探すことがあったが、彼の行方は相変わらず分からなかった。
アレドリアに到着したところで、ユーリスを護衛してくれた者達とは別れることになった。
それから、ユーリスは街の人気のない路地に入ると、胸元の布袋を取り出し、小さな金色の竜の雛に言った。
「今なら大丈夫だよ。ウェイズリー」
呼びかけるとウェイズリーは「キュウ」と声を上げ、次の瞬間、布の袋から飛び出しながら、一瞬で人の姿を取った。五歳ほどの子供の姿だった。
飛び出してくると同時に、ユーリスの胴体にしがみついてきて、その金色の頭を押し付けて来た。
「ユーリス」
ちゃんと今度は、ウェイズリーは服を着ていた。膝丈の青いズボンに白いシャツというラフな姿である。
顔を上げたウェイズリーの黄金色に輝く瞳を見ながら、ユーリスは言った。
「瞳の色も変えなければね」
黄金色の瞳など、人は持っていない。
それで、ウェイズリーが自分の瞳の色を魔法で青色に変えようとしているのを見て、ユーリスは一瞬顔を強張らせた。
「違う瞳の色がいい。ウェイズリー」
そう言うユーリスの言葉に、素直に従ったウェイズリーの瞳の色は緑色に変わった。
それを見てなんとなしにユーリスは安堵した。
金の髪に綺麗な顔立ちのウェイズリー。青い瞳を持つとなると、その姿はシルヴェスターのことを彷彿とさせてしまう。シルヴェスターの碧い瞳は深い海の色のように美しかった。ウェイズリーが変えようとしていた青い瞳の色合いとは微妙に違うことはわかっている。
それでも、いつもそばにいるウェイズリーを見て、シルヴェスターのことを考えたくない。
胸が、苦しくなってしまうから。
そんな想いをユーリスは表に出すことなく、そっと伸ばされたウェイズリーの小さくて柔らかな手を握った。
「さぁ、行こうか」
もちろん、ウェイズリーは嬉しそうに頷いたのだった。
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