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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第二章 黄金竜の雛の番
第十七話 下宿に戻る
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ユーリスが世話になっている下宿は、大学から歩いてすぐの距離にあった。
五年前、アレドリア王国に来たばかりの頃は、ユーリスをアレドリア王国へ呼んでくれたナウマン教授の屋敷で世話になっていた。今は教授が紹介した小さな下宿を定宿としている。
そこは、母親と娘が切り回すアットホームな宿で、ユーリスは食事から掃除、洗濯まで下宿の女主人たちにすっかり世話になっていた。
下宿の女主人は、四十代後半のメイラという、大柄な、声の大きな女性だった。そしてその娘キーラは二十代後半のメイラによく似たやはり大柄な女性で、そして彼女には一人息子のロンがいた。ロンは十歳になる。メイラとキーラの二人をよく助ける少年だった。
ユーリスが荷物を片手で持ち、もう片手でウェイズリーの手を引きながら下宿の扉を開けると、メイラとキーラ、ロンは全員嬉しそうに声を上げた。
「「「お帰り、ユーリス」」」
ユーリスが遺跡調査の為に、外国へ三週間以上渡る話は聞いていた。その間、ちゃんとユーリスの部屋は綺麗に保たれ、彼の帰りを待つ状態になっていた。ユーリスも笑顔でメイラとキーラ、ロン達のそばに近づく。
「ただいま帰りました」
ユーリスは少し照れたようにそう言った。美貌の青年がそう照れながら言う姿に、メイラ達もなんとなしに少し赤面している。
「疲れたでしょう。食事を先にする? それとも入浴?」
キーラがユーリスの荷物を持つ。そしてロンがメイラから部屋の鍵を受け取り、それをユーリスに手渡していた。長期で下宿を離れる際は、下宿の主人に鍵を渡すことがならいだった。そしてそれを今、戻って来たユーリスに返そうとする。
「そうだね、食事をもらおうかな。それと」
彼は部屋へ入るよりも先に、話しておかなければならないと、自分の腰にぴたりとくっついて離れない金髪の子供、年齢は五歳くらいの姿をとっているウェイズリーを、下宿の女主人達に紹介した。
「私の知り合いの子で、ウェイズリーといいます。今日から私と一緒に暮らすことになります」
ユーリスがウェイズリーに促すと、ウェイズリーは「よろしくお願いします」と軽く頭を下げた。
キーラもロンも、メイラも驚いて、目を丸くしていた。
「あ、あんた、知り合いの子って突然子供を連れて来てどうしたんだい」
先に手紙で知らせておくべきだったかと、少しばかりユーリスは後悔していた。
今まで一人暮らしをしていた若者が、小さな子供を連れてきたら当然驚くだろう。
「子供も一緒にお世話になるのはマズイでしょうか」
「いやいや、いいんだよ!! ただ、びっくりしたんだ。このことはナウマン先生はご存知なのかい?」
下宿を紹介してくれたナウマン教授のことを話しているのだ。
「これから話す予定です」
「こんな小さな子供を連れながら、大学で勉強なんて続けられるのかい」
「大丈夫です」
日中は、ウェイズリーに小さな竜の雛に変身してもらって、また布袋に入れて、ユーリスの胸元に入ってもらう予定だった。ウェイズリーに「日中は下宿にいて、私と一緒でなくてもいいんだよ」と言っても、ウェイズリーは「一緒がいい」と言って聞かなかった。そして彼は人の姿ではなく、小さな竜の雛の姿で、ユーリスの懐の中にいたいと言うのだ。
布袋の中は、狭くてろくに身動きが取れずに嫌ではないかと言っても、ウェイズリーは頭を振って「そんなことはない」「ユーリスの胸元は温かくて気持ちがいい」「一緒がいいのだ」と言う。そしてどこかウットリとした様子を見せていた。
人の子供の姿を取って自由に行動してもらう方がいいのではないかと思っていたが、それは予想外の反応だった。ただ、それでも買い物に行く時や、何かする場合には子供の姿の方が自由が利いていいだろうと、下宿の者達にはウェイズリーのことを紹介したのだ。
「そうなのかい。じゃあ何か困ったことがあれば、あたしらに言うんだよ」
「はい。有難うございます」
ユーリスはそう言って、キーラに荷物を持ってもらいながら、宿の一番上の部屋へと足を運んだ。ユーリスの部屋は狭い階段を上って三階にある。実は三階の宿の住人は、ユーリスだけしかいないのだ。その隣の部屋は倉庫のように使われている。ユーリスはある意味他人のことを気にせず気軽に過ごせるこの三階の部屋を気に入っていて、教授に紹介されてからずっとこの下宿に厄介になっていた。
そして部屋も少しばかり広い。
キーラはユーリスの部屋に荷物を運び込みながら言った。
「その子の寝台は入れられないけど、大丈夫かい」
言われてみれば、狭い寝台が一つしかない部屋である。
「私はユーリスと一緒に寝るから大丈夫だ!!」
ウェイズリーが当然のようにそう叫ぶ。
ウェイズリーはユーリスと絶対に一緒に寝るつもりであった。番と別の寝床を作られるなんてとんでもない。
目をキラキラと輝かせながらそう言うウェイズリーを見て、キーラは少しばかりびっくりしながらも「ま、あんた達が大丈夫だと言うのならいいけど」と言って、荷物を置いて部屋から出て行った。
「君と一緒だと狭くはないか」
「狭い方がいいと思う。ぴったりとくっついて寝れば全く問題ない」
(いや、狭いと落ち着かないだろう……。寝苦しいし)
そう思うユーリスであったが、「絶対に一緒に寝るのだぞ」と言ってまたしても腰に抱き着いているウェイズリーに、内心どうしたものかと思っていた。
食事の支度が出来たと呼ばれ、ユーリスはウェイズリーを伴って下の階に降りていく。食事は一階の小さな食堂で食べることになっているのだ。下宿に泊まる者達も、ユーリスが子供を連れていることに驚きの表情を見せていた。
ユーリスはウェイズリーと一緒に食事をとった。ウェイズリーがフォークの使い方が下手であったために、それを教えながら食べていく。
小さな竜の雛であったウェイズリーは、フォークやナイフ、スプーンといった道具を使うことに慣れていない様子で、使いこなせるまではしばらく時間がかかりそうだ。
「ユーリスが口に入れてくれてもいいのだぞ」
そう真顔でウェイズリーは言い、その言葉に周囲にいた下宿の他の学生達がギョッとして振り向いている。
「…………自分の手で食べる練習をしましょう」
「あーんと言ってくれれば、口を開けるぞ」
小さな竜の姿を取っていた時は、ユーリスはウェイズリーに「あーん」をさせていた。そうするとウェイズリーはパカッと口を開けて、食べ物を口にしていた。
ユーリスは真っ赤な顔をして、「……ここではあーんは無しなんだ。ウェイズリー、みんな自分の手で食べるんだよ」と言う。その言葉にウェイズリーは心底残念そうにしていた。
五年前、アレドリア王国に来たばかりの頃は、ユーリスをアレドリア王国へ呼んでくれたナウマン教授の屋敷で世話になっていた。今は教授が紹介した小さな下宿を定宿としている。
そこは、母親と娘が切り回すアットホームな宿で、ユーリスは食事から掃除、洗濯まで下宿の女主人たちにすっかり世話になっていた。
下宿の女主人は、四十代後半のメイラという、大柄な、声の大きな女性だった。そしてその娘キーラは二十代後半のメイラによく似たやはり大柄な女性で、そして彼女には一人息子のロンがいた。ロンは十歳になる。メイラとキーラの二人をよく助ける少年だった。
ユーリスが荷物を片手で持ち、もう片手でウェイズリーの手を引きながら下宿の扉を開けると、メイラとキーラ、ロンは全員嬉しそうに声を上げた。
「「「お帰り、ユーリス」」」
ユーリスが遺跡調査の為に、外国へ三週間以上渡る話は聞いていた。その間、ちゃんとユーリスの部屋は綺麗に保たれ、彼の帰りを待つ状態になっていた。ユーリスも笑顔でメイラとキーラ、ロン達のそばに近づく。
「ただいま帰りました」
ユーリスは少し照れたようにそう言った。美貌の青年がそう照れながら言う姿に、メイラ達もなんとなしに少し赤面している。
「疲れたでしょう。食事を先にする? それとも入浴?」
キーラがユーリスの荷物を持つ。そしてロンがメイラから部屋の鍵を受け取り、それをユーリスに手渡していた。長期で下宿を離れる際は、下宿の主人に鍵を渡すことがならいだった。そしてそれを今、戻って来たユーリスに返そうとする。
「そうだね、食事をもらおうかな。それと」
彼は部屋へ入るよりも先に、話しておかなければならないと、自分の腰にぴたりとくっついて離れない金髪の子供、年齢は五歳くらいの姿をとっているウェイズリーを、下宿の女主人達に紹介した。
「私の知り合いの子で、ウェイズリーといいます。今日から私と一緒に暮らすことになります」
ユーリスがウェイズリーに促すと、ウェイズリーは「よろしくお願いします」と軽く頭を下げた。
キーラもロンも、メイラも驚いて、目を丸くしていた。
「あ、あんた、知り合いの子って突然子供を連れて来てどうしたんだい」
先に手紙で知らせておくべきだったかと、少しばかりユーリスは後悔していた。
今まで一人暮らしをしていた若者が、小さな子供を連れてきたら当然驚くだろう。
「子供も一緒にお世話になるのはマズイでしょうか」
「いやいや、いいんだよ!! ただ、びっくりしたんだ。このことはナウマン先生はご存知なのかい?」
下宿を紹介してくれたナウマン教授のことを話しているのだ。
「これから話す予定です」
「こんな小さな子供を連れながら、大学で勉強なんて続けられるのかい」
「大丈夫です」
日中は、ウェイズリーに小さな竜の雛に変身してもらって、また布袋に入れて、ユーリスの胸元に入ってもらう予定だった。ウェイズリーに「日中は下宿にいて、私と一緒でなくてもいいんだよ」と言っても、ウェイズリーは「一緒がいい」と言って聞かなかった。そして彼は人の姿ではなく、小さな竜の雛の姿で、ユーリスの懐の中にいたいと言うのだ。
布袋の中は、狭くてろくに身動きが取れずに嫌ではないかと言っても、ウェイズリーは頭を振って「そんなことはない」「ユーリスの胸元は温かくて気持ちがいい」「一緒がいいのだ」と言う。そしてどこかウットリとした様子を見せていた。
人の子供の姿を取って自由に行動してもらう方がいいのではないかと思っていたが、それは予想外の反応だった。ただ、それでも買い物に行く時や、何かする場合には子供の姿の方が自由が利いていいだろうと、下宿の者達にはウェイズリーのことを紹介したのだ。
「そうなのかい。じゃあ何か困ったことがあれば、あたしらに言うんだよ」
「はい。有難うございます」
ユーリスはそう言って、キーラに荷物を持ってもらいながら、宿の一番上の部屋へと足を運んだ。ユーリスの部屋は狭い階段を上って三階にある。実は三階の宿の住人は、ユーリスだけしかいないのだ。その隣の部屋は倉庫のように使われている。ユーリスはある意味他人のことを気にせず気軽に過ごせるこの三階の部屋を気に入っていて、教授に紹介されてからずっとこの下宿に厄介になっていた。
そして部屋も少しばかり広い。
キーラはユーリスの部屋に荷物を運び込みながら言った。
「その子の寝台は入れられないけど、大丈夫かい」
言われてみれば、狭い寝台が一つしかない部屋である。
「私はユーリスと一緒に寝るから大丈夫だ!!」
ウェイズリーが当然のようにそう叫ぶ。
ウェイズリーはユーリスと絶対に一緒に寝るつもりであった。番と別の寝床を作られるなんてとんでもない。
目をキラキラと輝かせながらそう言うウェイズリーを見て、キーラは少しばかりびっくりしながらも「ま、あんた達が大丈夫だと言うのならいいけど」と言って、荷物を置いて部屋から出て行った。
「君と一緒だと狭くはないか」
「狭い方がいいと思う。ぴったりとくっついて寝れば全く問題ない」
(いや、狭いと落ち着かないだろう……。寝苦しいし)
そう思うユーリスであったが、「絶対に一緒に寝るのだぞ」と言ってまたしても腰に抱き着いているウェイズリーに、内心どうしたものかと思っていた。
食事の支度が出来たと呼ばれ、ユーリスはウェイズリーを伴って下の階に降りていく。食事は一階の小さな食堂で食べることになっているのだ。下宿に泊まる者達も、ユーリスが子供を連れていることに驚きの表情を見せていた。
ユーリスはウェイズリーと一緒に食事をとった。ウェイズリーがフォークの使い方が下手であったために、それを教えながら食べていく。
小さな竜の雛であったウェイズリーは、フォークやナイフ、スプーンといった道具を使うことに慣れていない様子で、使いこなせるまではしばらく時間がかかりそうだ。
「ユーリスが口に入れてくれてもいいのだぞ」
そう真顔でウェイズリーは言い、その言葉に周囲にいた下宿の他の学生達がギョッとして振り向いている。
「…………自分の手で食べる練習をしましょう」
「あーんと言ってくれれば、口を開けるぞ」
小さな竜の姿を取っていた時は、ユーリスはウェイズリーに「あーん」をさせていた。そうするとウェイズリーはパカッと口を開けて、食べ物を口にしていた。
ユーリスは真っ赤な顔をして、「……ここではあーんは無しなんだ。ウェイズリー、みんな自分の手で食べるんだよ」と言う。その言葉にウェイズリーは心底残念そうにしていた。
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