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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第二章 黄金竜の雛の番
第十八話 護衛の男
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翌日の朝、下宿で食事をとった後、ユーリスは早速大学のナウマン教授の元へ挨拶へ行こうと考えていた。身支度しているところに、来客があった。
下宿の女主人メイラが下からユーリスを呼ぶ。階段を下りていくと、かつてユーリスの護衛を務めていたゲランという男が椅子に座り、ユーリスを見て片手を挙げて挨拶した。
「お帰りなさい、ユーリス様」
ゲランは三十代前半の冒険者である。
五年前、アレドリア王国へ行くことになったユーリスのために、父ジャクセンが雇った護衛で、国許からこのアレドリア王国へ来るまでの間も、そしてユーリスがアレドリアの大学で研究をしている間も、ゲランはユーリスを警護してくれた。それからゲランはアレドリア王国で何年も過ごす内に、この地で恋人を作り、その後結婚。そのままアレドリア王国に居ついてしまっている。だから、ユーリスが母国に一時的に戻った今回の旅では、ゲランがユーリスについて国まで送ることはなかった。
「どうしたんだ、ゲラン」
そのゲランがユーリスの下宿の一階でお茶を飲んでいる。
一体何だろうとユーリスが尋ねると、ゲランはお茶を飲みながら、説明した。
「ジャクセン様からユーリス様の護衛の依頼を受けた。だからこれからも俺が、ユーリス様の護衛を務めることになる。よろしくな」
「そうなのか……」
ユーリスは父の仕事を継がないと告げたのに、父ジャクセンはユーリスの身の安全を考え、ゲランを雇い続けるというのだ。アレドリアでは、ユーリスがバンクール商会の商会長の息子であることは、それほど知られていない。だから、もはや護衛を付けなくても良いのではないかと思っていたが、ジャクセンは息子の身が心配なのだろう。
「これからも、俺がユーリス様のお側についている方がいいと思う。俺がユーリス様の父親でもユーリス様に護衛はつけるな」
「そうなのでしょうかね。私は大学と下宿の往復しかしていないですから、それほど危険な目に遭うことはないと思いますが」
そのユーリスの言葉に、ゲランは頭を振った。
「ユーリス様に目を付けている奴は結構いるぞ」
ゲランは眉を寄せてそう言う。
実際、ユーリスは財産狙いでその身を攫われることよりも、その顔立ちの秀麗さから狙われるとゲランは考えていた。艶やかな黒髪に切れ長の青い瞳のひどく美しい青年だ。すれ違う人々もつい目で追ってしまうようなその容貌に、悪人が目を付けないはずがない。
ゲランの言葉に、ユーリスも困ったような顔をしていたが、恐らくジャクセンはすでに護衛の契約を締結してしまっているだろう。今更その契約を破棄することも出来ないだろう。
「ではまた、よろしくお願いします」
「任せてくれ」
そうゲランは言って、胸を叩いた。
ユーリスは、ゲランには黄金竜の雛ウェイズリーのことを話さざるを得ないだろうと考えた。
ゲランは、ユーリスが朝、大学の研究室へ向かう時から、下宿に戻る時までずっとユーリスのそばに居る。ウェイズリーの存在に気付かないわけがないだろう。そもそもゲランは腕利きの冒険者であり、彼はウェイズリーの存在のおかしさにも早晩気が付いてしまうはずだ(下宿に夜いる子供姿のウェイズリーが、昼間にはその姿を消してしまうことをおかしいと思わないはずがなかった)。
ユーリスは、下宿の自分の部屋までゲランに来てくれるように頼んだ。ゲランは同意して、狭い階段を上がって、ユーリスの寝泊まりする三階の部屋までやって来る。その扉を閉めたところで、ユーリスが寝台に座り、やにわ胸元を開いていることに彼は慌てていた。
「ユーリス様、俺には妻がいて!!」
「…………ゲラン、何を誤解しているんだ」
ユーリスはその誤解に呆れた顔を見せる。
朝食を取った後、ユーリスは胸元に黄金竜の雛ウェイズリーを布袋に入れて下げていた。それを取り出して、そっと寝台の上に置く。
「……それは?」
ゲランは驚いて、その小さな小さな竜の雛を見つめた。
金色に輝く竜の小さな雛は頭を上げ、それから目にも留まらぬ速さでユーリスの体にひしとしがみついて、「キュイキュイイイィ!!」とゲランを威嚇するように鳴いていた。
「ウェイズリー、ゲランにそんな風に怒ってはダメだ。彼は私達の味方なのだから」
「キュルキュルキュルキュルルルル」
そうたしなめられていても、ウェイズリーはゲランを金色の目で睨み続けていた。
「黄金色の竜の雛? ユーリス様……これは一体」
「ゲラン、このことは他の誰にも話さないでおくれ。お前を信頼して話すことにしたのだ。私はこの黄金竜の雛を育てている」
「キュルルルキュルキュル!! キューキュールルキュルルルル!!(育てているんじゃない!! ユーリスは私の番なんだ!!)」
言い張るウェイズリーの頭をペチンと手で軽く叩き、ユーリスは続けた。
「事情があって、国許からこの黄金竜の雛を連れてきている。ゲラン、このことは父上にも話さないで欲しい」
「…………黄金竜? 俺、初めて見たよ、ユーリス様!!」
感激しているゲランは、じっとキラキラと輝く金色の小さな竜を見つめていた。
「話さないでいてくれるか?」
「どうしてジャクセン様には話してはならないんだ?」
その問いかけに、ユーリスはため息をついた。
「父を巻き込みたくないからだ」
父ジャクセンが、黄金竜の雛ウェイズリーの存在を知ったらどうするだろうかと考えたことがあった。
まず、父が王家にその存在を届け出るだろうと考えた。そうすれば、バンクール商会は王家に忠実だと言えるだろう。届け出をせずに隠していた場合は、「何故知らせずに隠していたのだ」と王家から問い詰められ、責任問題にも発展する。
だから、ユーリスはあえて、父に黄金竜の雛のことは知らせたくなかった。万が一発覚しても、父が知らなかったのなら、ユーリスだけの責任に、問題を矮小化できるだろう。それに、国許から連れ出しているのだ。そのことも問題になるだろう。
「巻き込みたくないって?」
ゲランは再度問いかける。
「黄金色の竜は滅多に生まれない。王家にも関係のある竜だ。その竜を私が育てていると知られると、私は狙われ、その上、争いの原因になるだろう。それを避けるためにも、存在を知っている人間は少なくしたい。だから父にも話していない。私はゲラン、お前が信じられると思ったから話した。どうか誰にも話さないと誓っておくれ」
ゲランは小さな金色の竜(相変わらずちっぽけなこの金色の竜は「キュルルルルル」と威嚇するようにゲランに対して鳴いていた)を見た後、真剣な表情をしているユーリスを見つめ、頷いた。
「分かった。ユーリス様がそこまで俺のことを買ってくれているのなら、俺もその期待に応えたい。俺、誰にも話さないよ」
「ありがとう、ゲラン」
そしてユーリスがゲランの言葉に嬉しそうに微笑み、彼の手を取り、礼を言いながら握る姿を見て、なおもウェイズリーは「キュルルルル!!」と怒ったように鳴いた後、歯をカチカチと合わせて鳴らし始めていた。それを見てユーリスは「ウェイズリー!!」と叱り、ウェイズリーの頭をペチンと軽く叩いたのだ。
ウェイズリーは叩かれた自分の頭を両手で押さえた後、彼はこう鳴いていた。
「キュルルルキュルキュルキュルルルルル!!(そんな男が護衛に付かなくても、私がユーリスを守るのに!!)」
「ウェイズリー、お前はまだ小さい。私の護衛など無理だ」
「キュルキュルルル!! キュルキュルルルルルルルル!!(私は黄金竜なんだぞ!! 出来ないことはこの世にはないのに!!)」
なんと大層なことを言っているのだというようにユーリスはウェイズリーを呆れて見た後、「分かった。とにかく君はここにいなさい」と言って、布袋の中にウェイズリーを入れ、自分の懐の中に仕舞いこんでいた。その布袋の中で、ウェイズリーは「キュルキュルルルルル!! キュルルル!!(私がユーリスを守るのに!! ユーリス!!)」とずっと鳴いていたので、ユーリスは「静かにしなさい」とウェイズリーを叱りつけたのだった。
下宿の女主人メイラが下からユーリスを呼ぶ。階段を下りていくと、かつてユーリスの護衛を務めていたゲランという男が椅子に座り、ユーリスを見て片手を挙げて挨拶した。
「お帰りなさい、ユーリス様」
ゲランは三十代前半の冒険者である。
五年前、アレドリア王国へ行くことになったユーリスのために、父ジャクセンが雇った護衛で、国許からこのアレドリア王国へ来るまでの間も、そしてユーリスがアレドリアの大学で研究をしている間も、ゲランはユーリスを警護してくれた。それからゲランはアレドリア王国で何年も過ごす内に、この地で恋人を作り、その後結婚。そのままアレドリア王国に居ついてしまっている。だから、ユーリスが母国に一時的に戻った今回の旅では、ゲランがユーリスについて国まで送ることはなかった。
「どうしたんだ、ゲラン」
そのゲランがユーリスの下宿の一階でお茶を飲んでいる。
一体何だろうとユーリスが尋ねると、ゲランはお茶を飲みながら、説明した。
「ジャクセン様からユーリス様の護衛の依頼を受けた。だからこれからも俺が、ユーリス様の護衛を務めることになる。よろしくな」
「そうなのか……」
ユーリスは父の仕事を継がないと告げたのに、父ジャクセンはユーリスの身の安全を考え、ゲランを雇い続けるというのだ。アレドリアでは、ユーリスがバンクール商会の商会長の息子であることは、それほど知られていない。だから、もはや護衛を付けなくても良いのではないかと思っていたが、ジャクセンは息子の身が心配なのだろう。
「これからも、俺がユーリス様のお側についている方がいいと思う。俺がユーリス様の父親でもユーリス様に護衛はつけるな」
「そうなのでしょうかね。私は大学と下宿の往復しかしていないですから、それほど危険な目に遭うことはないと思いますが」
そのユーリスの言葉に、ゲランは頭を振った。
「ユーリス様に目を付けている奴は結構いるぞ」
ゲランは眉を寄せてそう言う。
実際、ユーリスは財産狙いでその身を攫われることよりも、その顔立ちの秀麗さから狙われるとゲランは考えていた。艶やかな黒髪に切れ長の青い瞳のひどく美しい青年だ。すれ違う人々もつい目で追ってしまうようなその容貌に、悪人が目を付けないはずがない。
ゲランの言葉に、ユーリスも困ったような顔をしていたが、恐らくジャクセンはすでに護衛の契約を締結してしまっているだろう。今更その契約を破棄することも出来ないだろう。
「ではまた、よろしくお願いします」
「任せてくれ」
そうゲランは言って、胸を叩いた。
ユーリスは、ゲランには黄金竜の雛ウェイズリーのことを話さざるを得ないだろうと考えた。
ゲランは、ユーリスが朝、大学の研究室へ向かう時から、下宿に戻る時までずっとユーリスのそばに居る。ウェイズリーの存在に気付かないわけがないだろう。そもそもゲランは腕利きの冒険者であり、彼はウェイズリーの存在のおかしさにも早晩気が付いてしまうはずだ(下宿に夜いる子供姿のウェイズリーが、昼間にはその姿を消してしまうことをおかしいと思わないはずがなかった)。
ユーリスは、下宿の自分の部屋までゲランに来てくれるように頼んだ。ゲランは同意して、狭い階段を上がって、ユーリスの寝泊まりする三階の部屋までやって来る。その扉を閉めたところで、ユーリスが寝台に座り、やにわ胸元を開いていることに彼は慌てていた。
「ユーリス様、俺には妻がいて!!」
「…………ゲラン、何を誤解しているんだ」
ユーリスはその誤解に呆れた顔を見せる。
朝食を取った後、ユーリスは胸元に黄金竜の雛ウェイズリーを布袋に入れて下げていた。それを取り出して、そっと寝台の上に置く。
「……それは?」
ゲランは驚いて、その小さな小さな竜の雛を見つめた。
金色に輝く竜の小さな雛は頭を上げ、それから目にも留まらぬ速さでユーリスの体にひしとしがみついて、「キュイキュイイイィ!!」とゲランを威嚇するように鳴いていた。
「ウェイズリー、ゲランにそんな風に怒ってはダメだ。彼は私達の味方なのだから」
「キュルキュルキュルキュルルルル」
そうたしなめられていても、ウェイズリーはゲランを金色の目で睨み続けていた。
「黄金色の竜の雛? ユーリス様……これは一体」
「ゲラン、このことは他の誰にも話さないでおくれ。お前を信頼して話すことにしたのだ。私はこの黄金竜の雛を育てている」
「キュルルルキュルキュル!! キューキュールルキュルルルル!!(育てているんじゃない!! ユーリスは私の番なんだ!!)」
言い張るウェイズリーの頭をペチンと手で軽く叩き、ユーリスは続けた。
「事情があって、国許からこの黄金竜の雛を連れてきている。ゲラン、このことは父上にも話さないで欲しい」
「…………黄金竜? 俺、初めて見たよ、ユーリス様!!」
感激しているゲランは、じっとキラキラと輝く金色の小さな竜を見つめていた。
「話さないでいてくれるか?」
「どうしてジャクセン様には話してはならないんだ?」
その問いかけに、ユーリスはため息をついた。
「父を巻き込みたくないからだ」
父ジャクセンが、黄金竜の雛ウェイズリーの存在を知ったらどうするだろうかと考えたことがあった。
まず、父が王家にその存在を届け出るだろうと考えた。そうすれば、バンクール商会は王家に忠実だと言えるだろう。届け出をせずに隠していた場合は、「何故知らせずに隠していたのだ」と王家から問い詰められ、責任問題にも発展する。
だから、ユーリスはあえて、父に黄金竜の雛のことは知らせたくなかった。万が一発覚しても、父が知らなかったのなら、ユーリスだけの責任に、問題を矮小化できるだろう。それに、国許から連れ出しているのだ。そのことも問題になるだろう。
「巻き込みたくないって?」
ゲランは再度問いかける。
「黄金色の竜は滅多に生まれない。王家にも関係のある竜だ。その竜を私が育てていると知られると、私は狙われ、その上、争いの原因になるだろう。それを避けるためにも、存在を知っている人間は少なくしたい。だから父にも話していない。私はゲラン、お前が信じられると思ったから話した。どうか誰にも話さないと誓っておくれ」
ゲランは小さな金色の竜(相変わらずちっぽけなこの金色の竜は「キュルルルルル」と威嚇するようにゲランに対して鳴いていた)を見た後、真剣な表情をしているユーリスを見つめ、頷いた。
「分かった。ユーリス様がそこまで俺のことを買ってくれているのなら、俺もその期待に応えたい。俺、誰にも話さないよ」
「ありがとう、ゲラン」
そしてユーリスがゲランの言葉に嬉しそうに微笑み、彼の手を取り、礼を言いながら握る姿を見て、なおもウェイズリーは「キュルルルル!!」と怒ったように鳴いた後、歯をカチカチと合わせて鳴らし始めていた。それを見てユーリスは「ウェイズリー!!」と叱り、ウェイズリーの頭をペチンと軽く叩いたのだ。
ウェイズリーは叩かれた自分の頭を両手で押さえた後、彼はこう鳴いていた。
「キュルルルキュルキュルキュルルルルル!!(そんな男が護衛に付かなくても、私がユーリスを守るのに!!)」
「ウェイズリー、お前はまだ小さい。私の護衛など無理だ」
「キュルキュルルル!! キュルキュルルルルルルルル!!(私は黄金竜なんだぞ!! 出来ないことはこの世にはないのに!!)」
なんと大層なことを言っているのだというようにユーリスはウェイズリーを呆れて見た後、「分かった。とにかく君はここにいなさい」と言って、布袋の中にウェイズリーを入れ、自分の懐の中に仕舞いこんでいた。その布袋の中で、ウェイズリーは「キュルキュルルルルル!! キュルルル!!(私がユーリスを守るのに!! ユーリス!!)」とずっと鳴いていたので、ユーリスは「静かにしなさい」とウェイズリーを叱りつけたのだった。
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