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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第二章 黄金竜の雛の番
第二十八話 手紙
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故郷から帰国し、大学へ研究のために行き来を繰り返し、ユーリスが小さな黄金竜の雛と暮らすことにもだいぶ慣れ始めた頃、父ジャクセンから一通の手紙が届いた。
下宿の部屋の椅子に座り、なんだろうと思いながら封を開ける。
膝の上には小さな竜から子供に姿を変えたウェイズリーが、ユーリスの細い腰を両手で抱いて、ぐりぐりと金色の頭を押し付けていた。
「それはなんだ、ユーリス」
「父からの手紙だ」
ユーリスは手紙を読み進めて、息を飲んだ。
その手紙は、父からシルヴェスター王子の消息を伝えるものだったからだ。
王子が行方不明となり、五年も経った今頃になって何故だと思った。だが、先日父の元へ帰国した時のやりとりの中で、父にも思うところがあったのだろう。父ジャクセンは自分の知り得ている情報を息子であるユーリスに全て伝えようとしているのだ。今までユーリスが、喉から手が出るほど、知りたくてたまらなかった情報だった。
淡々と、父は事実を書き連ねていた。
五年前、王国の五番目の王子シルヴェスターは、冒険者ダンカンと彼のクランのメンバー達と共に、西方諸国へ向けて旅立った。西方の国々の中の、大国イスフェラ皇国へ渡っている。
当時、戦争状態にある西方諸国への後押しのため、イスフェラ皇国は能力の高い冒険者や兵士達を高給で雇い、外国人部隊を創設していた。その部隊に組み入れられた王子シルヴェスターは、膨大な魔力と、魔法が効かないという稀有な加護の力から、みるみる頭角を現した。彼らの手によって一部地域が取り戻され、イスフェラ皇国はそれを併合。クラン長ダンカンと副クラン長フィア、シルヴェスター王子は、功績から勲爵と領土を下賜されている。
なお、シルヴェスター王子、クラン長ダンカン、副クラン長フィアは、五年前、イスフェラ皇国に現れた時から偽名を使用している。
「…………」
ユーリスは必死になって手紙の文章を読み進めていった。
(西方に、そんな遠いところまでシルヴェスター殿下は行っていたのか)
(それも戦地ではないか。どうしてダンカンはそんなところへ殿下を連れて行ったのだ)
命の危険がある場所に、父親代わりのダンカンが、シルヴェスター王子を連れて行ったことが信じられない。優秀な冒険者で、信頼できるクランの仲間達と共にいたとしても、危険すぎる。
そしてそんな遠く離れた場所で、王子は偽名を使って生活していた。戦いの中、戦功を挙げながらも生き抜いてくれたことにはホッと安堵した。
(生きていてくれたことが嬉しい)
シルヴェスター王子が怪我もなく、無事に生きているという情報を、父ジャクセンは教えてくれた。
そのことに感謝した。
だが、最後に書かれている情報に目を通す前に、ジャクセンからの短い前置きがあった。
「このことをユーリスへ報せるべきか迷ったが、ユーリスが後日、渡した情報を元に再度調査をすれば、遅かれ早かれ耳にする情報だろう。だから、報せることにする」とあった。
その情報とは次のものだった。
シルヴェスター王子は、この春、イスフェラ皇国の皇女とのご婚約が相成った、と。
「…………ユーリス、どうしたのだ」
手紙を読んでいる姿のまま、動きを止めてしまったユーリスに、膝の上のウェイズリーが心配そうに声をかける。
その声に、ハッとしたようで、ユーリスは父親からの手紙を元通り封筒に入れた。そして立ち上がると、その手紙を棚の奥の方に仕舞う。
「大丈夫だよ」
そう言って微笑むユーリスの青い瞳を、ウェイズリーはじっと見つめ、何か感じ取ったかのように、ぎゅっと強くユーリスの身体にしがみついていた。
五年
もう五年も経っているのだ。
シルヴェスター殿下が、自分のことを忘れて生きていても、それは当然のことだ。
その五年の間に、別の人間と恋に落ちて、愛し合うようになっていても、それは全くおかしなことではない。
むしろ、未だ会うことも出来ない相手を、ずっと想い続けている自分の方が、おかしいのかも知れない。
下宿の部屋の椅子に座り、なんだろうと思いながら封を開ける。
膝の上には小さな竜から子供に姿を変えたウェイズリーが、ユーリスの細い腰を両手で抱いて、ぐりぐりと金色の頭を押し付けていた。
「それはなんだ、ユーリス」
「父からの手紙だ」
ユーリスは手紙を読み進めて、息を飲んだ。
その手紙は、父からシルヴェスター王子の消息を伝えるものだったからだ。
王子が行方不明となり、五年も経った今頃になって何故だと思った。だが、先日父の元へ帰国した時のやりとりの中で、父にも思うところがあったのだろう。父ジャクセンは自分の知り得ている情報を息子であるユーリスに全て伝えようとしているのだ。今までユーリスが、喉から手が出るほど、知りたくてたまらなかった情報だった。
淡々と、父は事実を書き連ねていた。
五年前、王国の五番目の王子シルヴェスターは、冒険者ダンカンと彼のクランのメンバー達と共に、西方諸国へ向けて旅立った。西方の国々の中の、大国イスフェラ皇国へ渡っている。
当時、戦争状態にある西方諸国への後押しのため、イスフェラ皇国は能力の高い冒険者や兵士達を高給で雇い、外国人部隊を創設していた。その部隊に組み入れられた王子シルヴェスターは、膨大な魔力と、魔法が効かないという稀有な加護の力から、みるみる頭角を現した。彼らの手によって一部地域が取り戻され、イスフェラ皇国はそれを併合。クラン長ダンカンと副クラン長フィア、シルヴェスター王子は、功績から勲爵と領土を下賜されている。
なお、シルヴェスター王子、クラン長ダンカン、副クラン長フィアは、五年前、イスフェラ皇国に現れた時から偽名を使用している。
「…………」
ユーリスは必死になって手紙の文章を読み進めていった。
(西方に、そんな遠いところまでシルヴェスター殿下は行っていたのか)
(それも戦地ではないか。どうしてダンカンはそんなところへ殿下を連れて行ったのだ)
命の危険がある場所に、父親代わりのダンカンが、シルヴェスター王子を連れて行ったことが信じられない。優秀な冒険者で、信頼できるクランの仲間達と共にいたとしても、危険すぎる。
そしてそんな遠く離れた場所で、王子は偽名を使って生活していた。戦いの中、戦功を挙げながらも生き抜いてくれたことにはホッと安堵した。
(生きていてくれたことが嬉しい)
シルヴェスター王子が怪我もなく、無事に生きているという情報を、父ジャクセンは教えてくれた。
そのことに感謝した。
だが、最後に書かれている情報に目を通す前に、ジャクセンからの短い前置きがあった。
「このことをユーリスへ報せるべきか迷ったが、ユーリスが後日、渡した情報を元に再度調査をすれば、遅かれ早かれ耳にする情報だろう。だから、報せることにする」とあった。
その情報とは次のものだった。
シルヴェスター王子は、この春、イスフェラ皇国の皇女とのご婚約が相成った、と。
「…………ユーリス、どうしたのだ」
手紙を読んでいる姿のまま、動きを止めてしまったユーリスに、膝の上のウェイズリーが心配そうに声をかける。
その声に、ハッとしたようで、ユーリスは父親からの手紙を元通り封筒に入れた。そして立ち上がると、その手紙を棚の奥の方に仕舞う。
「大丈夫だよ」
そう言って微笑むユーリスの青い瞳を、ウェイズリーはじっと見つめ、何か感じ取ったかのように、ぎゅっと強くユーリスの身体にしがみついていた。
五年
もう五年も経っているのだ。
シルヴェスター殿下が、自分のことを忘れて生きていても、それは当然のことだ。
その五年の間に、別の人間と恋に落ちて、愛し合うようになっていても、それは全くおかしなことではない。
むしろ、未だ会うことも出来ない相手を、ずっと想い続けている自分の方が、おかしいのかも知れない。
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