転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第三章 再びの出会い

第十九話 仕事の合間に

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 ユーリスは寝台からゆっくりと身を起こした。
 クラン“竜の牙”のシルヴェスターの部屋は広い。副クラン長フィアが、ユーリスの分の寝台を入れようと言ったが、もう一台寝台を入れても余りあるくらい広いのだ。
 そしてシルヴェスターの寝台はそれ自体、大の大人二人が横になっても問題ないくらいの大きさがあるため、寝台を追加で入れる必要はなかった。更にシルヴェスターは「私とユーリスの寝台は一つでいいだろう」と絶対反対の言葉を口にしていた。
 クラン長ダンカンの息子とされ、クランでも有数の実力者であるシルヴェスターは、クラン内でも優遇され、こうした広々とした個室を与えられていた。そこでシルヴェスターの恋人であるユーリスは、今暮らしている。

 そしてシルヴェスターは、ユーリスと離れ、旧カリン王国へ戦いに行っている。
 まだ彼は帰って来ていないのだ。

 ユーリスは額を押さえた。
 夢を見ていた気がするが、その夢の内容を思い出せない。

 最近はいつもそうである。
 何か夢を見ても、夢の内容を思い出すことが出来ない。
 夢というものは、そういうものなのだろうと思う一方で、何か大事なことを忘れてしまっている気がする。

 だが、忘れてしまっているのなら仕方がない。

 ユーリスは立ち上がると、また窓辺に近寄った。
 そこにはいつものように、小さな花束がちょこんと置かれていた。
 今日の花束は、白いスズランのような形の小さな花をたくさん集めた可愛らしいものだった。
 窓は開いておらず、しっかりと施錠されているのに花束だけがいつも置かれている。
 不思議なことだった。

 でも、あの黄金色の小さな竜のウェイズリーなら、不思議な力でそれを成し遂げようとするだろう。

 ユーリスは小さな花束を手に取り、礼を口にした。

「ありがとう、ウェイズリー」

 どこかで小さな竜が「キュルルル」と可愛らしく鳴いたような気がした。



 
 経理担当兼冒険者イルムは、このクランに新しく迎えたユーリスという名の若者が、まさしくこのクランの会計作業において、“救世主”と呼んでも良い存在だと感じていた。
 ユーリスの計算と適正な判断、それによる書類の処理速度は、信じられないものであった。あれほどぐちゃぐちゃにあった書類の山は、少しずつ減っていった。正しい処理がされた書類の束が、棚の中に整然と積み上げられ、並べられていく。

「ユーリス様は、神です」

 もはやイルムはユーリスのことを崇めんばかりの有様であった。今も、キラキラとイルムは目を輝かせて、両手を組み合わせてユーリスを見つめている。
 そしてユーリスは、経理担当者の部屋で、そこの椅子に座り、少しだけ感心したような口調で言った。

「過去、これだけ適当にやっていた経理だけど、今まで不正を働かれたことがないようで良かった」

 抜こうと思えば、いくらでも資金を抜いて自分のものに出来たのではないかとユーリスは思っている。
 そんなことを言う、目の前の非常に美しい黒髪の青年に向けて、イルムはコクコクと頷きながら説明した。

「副クラン長のフィアが、不正したら地の果てまでも追いかけて、殺すと言っていましたから」

「……………」

 そんなことを言っているから、ちゃんとした経理担当者がこのクランには居つかないのではないかと、ユーリスは思った。
 ともあれ、シルヴェスターが戻って来るまでには滞っていた経理の仕事も軌道に乗って、まともに動くようになりそうだ。最近になって余裕が出てきたユーリスは、ゆっくりと本を読んだり、クランに置かれていた、ダンジョンから出土したという古書を勝手に解読したりする時間的余裕も出来ていた。

 そしてイルムは、ユーリスにこう申し出た。

「ユーリス様、ずっと経理の仕事でクランに籠りきりでしたでしょう? 街へ行きませんか。私や仲間達が案内しますし、もちろん、護衛します。クラン長のダンカンやフィアの許可を得て行けば大丈夫でしょう?」

 実際、ユーリスは、シルヴェスターが旧カリン王国へ出立してから一度もクランの建物の外へ出ていなかった。シルヴェスターから「不便をかけるが、できるだけクランの建物の中にいてくれ」と願われていたためであるし、どうも外が治安が悪く危険なことはユーリスも承知していたからだ。それに経理の仕事が山のようにあったため、今までは外出する時間もなかった。
 結果的に、経理の仕事のせいで建物の中にユーリスが籠りきりになってしまったことに、イルムは申し訳ないという気持ちを持っていた。

「美味しいお店もご紹介します。是非、行きましょう」

「そうですね」

 ユーリスは少し考え込む。
 口元に手を当て、足を組んで椅子に座るどこか優雅なその姿は、一枚の絵のように美しく、イルムは見惚れていた。

(こんなに美人で、その上うんと頭も良くて何でもできる人というのは、この世にいるもんなんだな)

 聞けば、ユーリスはアルセウス王国で優秀な学者として働いているという。こんなに経理実務が出来るのに!!
 驚きである。
 そして頭が良くてこんな美人なユーリスに対して、シルヴェスターはべた惚れしている。
 シルヴェスターが仕事で旧カリン王国へ渡った後も、この恋人のことが心配で、外出時には護衛を付けるようクラン長に願うほどである。
 
(ユーリス様は絶対にお守りしなければならない)

 そしてまた経理担当兼冒険者のイルムも心に誓うのであった。
 綺麗な宝石のようなユーリスを街へ連れて行けば、絶対に悪い虫を引き寄せてしまうだろう。
 そこに立っているだけでも、衆目を集めるような人なのだ。シルヴェスターが心配する気持ちが理解できた。だからといって、このクランの建物の中に籠りきりなのは可哀想だと思う。

 それでイルムは、仲の良い冒険者達に声を掛け、その仲間達と共にユーリスを建物の外へ、都の美味しいと評判の店へ連れ出すことにしたのだった。
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