転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

文字の大きさ
495 / 711
外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第三章 再びの出会い

第二十三話 領分を越える(上)

しおりを挟む
 宦官ハッサは、シルヴェスター王子の恋人に向けて送った刺客が、戻って来なかったことに驚いていた。
 今回、本職プロを送ったのである。
 それなのに、それっきり本職の男は戻って来なかった。
 前金を受け取ってそのまま逃亡するような男ではない。
 つまりは失敗したということだ。

 ユーリスのいる“竜の牙”はこの皇国でも三本の指に入る実力あるクランである。今、クラン長とシルヴェスター王子は戦場に向かっており、留守を預かっているのは副クラン長だけである。魔術が専門の副クラン長が、あの刺客の男を阻むのは実力不足である。
 だから、確実にやれるだろうと考えていた。

 なのに刺客の男は戻って来なかった。


 調べさせたが、ユーリス=バンクールは、なんら武術を修めていない。剣を持たせても自衛のために戦うことはおそらく出来ないだろう。線の細い美青年である。彼はアレドリア王国で学者をしていた。
 “竜の牙”に属する冒険者達は皆、優秀で、実際、昼間の襲撃はことごとく防がれてしまった。だから本職に夜、襲撃させたのだ。
 だが、これも失敗してしまった。

 想定外の事態であった。


 三人の皇女達にせっつかれたこともあり、宦官ハッサは今までのことを全て報告した。
 皇女シンシア、サラン、ヘルミは顔を見合わせ、不機嫌そうな様子であった。
 
「“竜の牙”は腕の良い冒険者を揃えていると聞くわ。返り討ちにあったことで間違いないでしょう」
「不甲斐ないわね」
「もっと腕の良い者はいないの?」

 三人の皇女達は口々にそう言う。
 だが、ハッサとしても腕の良い、今まで一度として失敗をしたことのない刺客を送り込んだのである。それが失敗するとは考えてもいなかった。何か不測の事態が起きたとしか考えられない。
 しかし、皇女達に口答えなど許されるはずもなく、ハッサは顔を強張らせて黙り込んでいた。

 それで、皇女ヘルミは言った。

「分かったわ。イーサン=クレイラに頼みましょう」

 イーサン=クレイラとは、このイスフェラ皇国の誇る筆頭魔術師である。その魔術師の手を借りると言うことに、ハッサは驚いて顔を上げた。

「イーサン様が引き受けて下さるでしょうか」

 この国の防衛を一手に担う魔術師である。このようなことで手を煩わせることなど、普通なら許されないであろう。ましてや本来、裏方が引き受けるべき汚れ仕事である。

 皇女ヘルミは、皇女サランに話す。

「貴女の持っていた腕輪を、イーサン魔術師が欲しがっていたわ。アレをお渡しなさい」

「そうでしたわね」

 サランの持っていた細い蛇の絡まる形の腕輪を、イーサン魔術師は気に入り、よろしければ譲ってほしいと願い出たことがあった。銀製の細身の腕輪で、その蛇の目は紅い小さな宝石が嵌められている。細工が非常に見事な腕輪で、蛇の鱗の一枚一枚が丁寧に彫刻されているのだ。

「分かりました」

「ハッサ、お前はもう良い。お下がりなさい」

 ハッサは預かっていた報酬の金の指輪を皇女ヘルミに返して、頭を低く下げたまま退室した。
 イーサン=クレイラがもし、皇女方の依頼を引き受けるとなれば、シルヴェスター王子の恋人ユーリス=バンクールの命は風前の灯火と言える。イーサンほどの魔術師は、これまでもこの皇国になく、そしてこれからの皇国にも現れないであろうと言われていた。それほどの魔術師に命を狙われるのだ。
 皇女達は、当初は命をとらずとも良いと言っていたのだが、今や、ユーリスの命を狙う話に移り変わっている。魔術師イーサンに依頼して、ただの脅しや怪我だけで留まる話で済むはずがなかった。


 皇国の筆頭魔術師イーサン=クレイラは一度、皇女サランからの腕輪を受け取った。
 そしてユーリス=バンクールのいるであろうクランの建物を、馬車の中から一瞥し、彼はぽつりと言った。

「ああ、これはマズイですね」

 そして彼は皇宮へ戻ると、預かっていた腕輪をそのまま皇女サランに戻した。
 呆気に取られるサランに、イーサンは笑顔でこう言った。

「私には荷が重いようです。皇女殿下方も身辺にはどうぞお気をつけください。人には領分というものがございます。それを越えたものに手を出そうとすると、必ず手酷いしっぺ返しを受けます」

 そう言って頭を下げ、彼は皇女達の依頼をキャンセルしたのだった。
 
 意味が分からなかった。
 ただ理解できるのは、筆頭魔術師イーサン=クレイラも引き受けたがらない依頼であること。
 ただそれだけである。

 頭に来た三人の皇女達は、いまやムキとなり、後先も考えずに、また別の腕の良い刺客を今度は皇女達が直接雇った。
 自分達が、イーサンの話す領分を越えた行動を始めていることに気付くこともなく、坂道の上で小さな石が傾いた坂を転がり始めるように、事態は動き始めたのだった。
しおりを挟む
感想 276

あなたにおすすめの小説

腐男子♥異世界転生

よしの と こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、カクヨムさん、Caitaさんでも掲載しています。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。 蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。 だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。 しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。 「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」 ――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈ __________ 追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ 一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる (主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです) ※R成分薄めです __________ 小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です o,+:。☆.*・+。 お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/ ありがとうございます!! BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m

死に戻りした僕を待っていたのは兄たちによる溺愛モードでした

液体猫(299)
BL
*諸々の事情により第四章の十魔編以降は一旦非公開にします。十魔編の内容を諸々と変更いたします。 【主人公(クリス)に冷たかった兄たち。だけど巻き戻した世界では、なぜかクリスを取り合う溺愛モードに豹変してしまいました】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、十三年前へと戻っていた。  前世でクリスに罪を着せた者への復讐は『ついで。』二度目の人生の目的はただ一つ。前の世界で愛し合った四男、シュナイディルと幸せに暮らすこと。  けれど予想外なことに、待っていたのは過保護すぎる兄たちからの重たい溺愛で……  やり直し皇子、クリスが愛を掴みとって生きていくコミカル&ハッピーエンド確定物語。  第三章より成長後の🔞展開があります。 ※濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭、ちょっとだけ重い展開あり。 ※若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...