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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第四章 黄金竜の雛は愛しい番のためならば、全てを捧げる
第八話 恋人の帰還
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それっきり、ウェイズリーは姿を消してしまった。
その日から、ユーリスの住む部屋の窓辺に小さな花束が供えられることはなくなった。
自分が、あの黄金竜の雛を深く傷つけてしまったことを、今更ながらユーリスは知った。
ウェイズリーはユーリスと出会った時から、彼に恋焦がれ、ユーリスを番だと言い張り、大好きだと真っ直ぐに告げていた。
けれど、自分は人の男で、すでに想う人がいる。
だから、最初からウェイズリーに応えることは出来なかった。
「私は君の番ではないんだ」
そう。
ユーリスはウェイズリーが望むように、番い、卵を産むことは出来ない。
それは、雌の竜とすることだ。
世にも稀なる黄金竜の雛であるなら、やはり長じては竜の雌と結ばれ、卵を作るべきだろう。
人間の、男の自分を番だと言い張るウェイズリーは、最初から間違えてしまっているのだと思う。
しかし、黄金を溶かしたような美しい両眼に大粒の涙を湛え、ポタポタとそれを落として泣くウェイズリーの姿は、ユーリスの心の奥をぎゅっと痛くした。
傷つけるつもりはなかった。
でも、結局、自分はウェイズリーを傷つけてしまったのだと思う。
それから何日経っても、ウェイズリーは姿を見せることはなく、窓辺に花束が置かれることもなかった。
もうウェイズリーは、どこか遠くへ行ってしまったのだろうか。
そう思い始め、暗く気分が落ち込んでいるところに、シルヴェスター王子が帰還した。
「ユーリス」
シルヴェスター王子はクランの建物に戻って来るなり、ユーリスのいる部屋へすぐさま行き、彼を抱きしめた。
「ご無事で何よりです」
ユーリスも笑みを浮かべ、シルヴェスター王子の逞しい体を抱き返す。
シルヴェスターは破顔して、ユーリスの顔に口づけの雨を降らせた。
「お前と会えなくて本当に辛かった」
「殿下」
「やはりもう離したくない」
結局シルヴェスターが、旧カリン王国の戦闘に加わっていたのは四週間以上にも及んでいた。
まだ長期化するかと思っていたところ、サトー軍の戦力が崩れ始めた。
一部では、サトー軍についていた三公の一人が、どうも戦死したのではないかという話が流れていた。実際、シルヴェスターやクラン長の率いる傭兵部隊は、それから随分とサトー軍を押し上げ、旧カリン王国の二分の一の領土を確保することになった。
強くシルヴェスターに抱きしめられる。
「後でダンカンからも話があると思うが、今後、“竜の牙”は旧カリン王国の西部の城に拠点を移す」
驚いてユーリスはシルヴェスターの顔を見上げた。
「皇国より、旧カリン王国の西方地域の一帯は、我がクランの領土と正式に認められ、同盟三か国の承認も受けられることになっている。ユーリス」
シルヴェスターは碧い瞳を煌めかせ、ユーリスに口づけしながら熱っぽく語った。
「私達の王国を建てるのだ」
旧カリン王国の支配者層はサトー王国の制圧に際して、全てごっそりと処刑された。
旧カリン王国に限らず、サトー王国の支配地は、基本サトー王国が撤退すれば、権力の空白地域となる。
皇国は、可能な限り自国軍を温存する方針であり、取り戻した旧カリン王国の土地を活躍を見せた傭兵部隊など外部の兵士達に褒賞として与えていた。幾つかのクランが国を興そうとする動きを見せ、シルヴェスターの属する“竜の牙”もその一つであった。功績を挙げた兵士達が、褒賞として与えられた小さな領土を、国を興そうとするクランに売り渡す流れも起こっており、次第に時間を掛けて小さな土地も集約化されていく。副クラン長フィアは土地を入手するための金策で忙しくしていた。そのあたりについてはユーリスも、クランの会計業務についていたため理解していた。
シルヴェスターはユーリスの顔に口づけを落としつつ、彼の細身をゆっくりと寝台に押し倒した。
「ユーリス。今の戦いが終わったら、私の正式な伴侶になって欲しい」
“竜の牙”のクラン長ダンカンが、クランが建てる王国の初代の王となるだろう。そしてその息子とされるシルヴェスターは王国の後継者となる。
自分にのしかかる若々しいシルヴェスターの顔を見上げ、その頬にユーリスは手を添えた。
「……ヴィー」
ラウデシア王国の五番目の王子として生まれ、何も持っていない“放置されていた王子”であったシルヴェスター。遠いこの西方の国までやって来て、ようやく彼は何かを掴もうとしていた。
「だめか」
不安を一瞬その瞳に横切らせるシルヴェスターの唇に、ユーリスは唇を押し付けた。
「そんなはずがないです。驚いただけです」
「ユーリス」
二人は熱心に口づけを交わしていく。服を脱がされ、身を重ねながらも、ユーリスの感情は揺れていた。
事が終わった後、横たわるユーリスの身を抱き締めながら、シルヴェスターはユーリスに尋ねた。
「元気がないようだな」
「……はい」
「どうしたのだ?」
そう尋ねられても、黄金竜の雛ウェイズリーのことをどうシルヴェスターに説明すればいいのか分からなかった。今まで一度も、ウェイズリーはシルヴェスターの前で姿を現わしたことがなかった。
「大事にしていたものを壊してしまいました。……可哀想なことをしました」
どこか抽象的なユーリスの答えに、不思議そうな顔をするシルヴェスター。
「それは直せないのか?」
「そうですね。私の手では直せないと思います」
それでも、何かもう少しやりようがあったのではないかと思う。
だが、何をどうすれば良かったのか分からない。
「私が直すのを手伝ってやろうか」
そのシルヴェスターの親切な申し出に、ユーリスは一瞬咳き込みそうになった。
ある意味、ウェイズリーの恋敵であるシルヴェスターが手を差し出そうとしても、ウェイズリーははねのけて怒るだろう。
「……ありがとうございます」
だからその言葉だけ受け取り、ユーリスはシルヴェスターの背に手を回し、また口づけを求めた。
結局、どうしようもないのだ。
ユーリスはシルヴェスター王子を心の底から愛している。
彼以外の伴侶は、もはや考えられない。
あの小さな黄金竜の雛が、どんなにか自分を恋い焦がれて鳴いたとしても。
その手を取ることはないのだ。
だけど
胸の奥がツキンと痛かった。
その日から、ユーリスの住む部屋の窓辺に小さな花束が供えられることはなくなった。
自分が、あの黄金竜の雛を深く傷つけてしまったことを、今更ながらユーリスは知った。
ウェイズリーはユーリスと出会った時から、彼に恋焦がれ、ユーリスを番だと言い張り、大好きだと真っ直ぐに告げていた。
けれど、自分は人の男で、すでに想う人がいる。
だから、最初からウェイズリーに応えることは出来なかった。
「私は君の番ではないんだ」
そう。
ユーリスはウェイズリーが望むように、番い、卵を産むことは出来ない。
それは、雌の竜とすることだ。
世にも稀なる黄金竜の雛であるなら、やはり長じては竜の雌と結ばれ、卵を作るべきだろう。
人間の、男の自分を番だと言い張るウェイズリーは、最初から間違えてしまっているのだと思う。
しかし、黄金を溶かしたような美しい両眼に大粒の涙を湛え、ポタポタとそれを落として泣くウェイズリーの姿は、ユーリスの心の奥をぎゅっと痛くした。
傷つけるつもりはなかった。
でも、結局、自分はウェイズリーを傷つけてしまったのだと思う。
それから何日経っても、ウェイズリーは姿を見せることはなく、窓辺に花束が置かれることもなかった。
もうウェイズリーは、どこか遠くへ行ってしまったのだろうか。
そう思い始め、暗く気分が落ち込んでいるところに、シルヴェスター王子が帰還した。
「ユーリス」
シルヴェスター王子はクランの建物に戻って来るなり、ユーリスのいる部屋へすぐさま行き、彼を抱きしめた。
「ご無事で何よりです」
ユーリスも笑みを浮かべ、シルヴェスター王子の逞しい体を抱き返す。
シルヴェスターは破顔して、ユーリスの顔に口づけの雨を降らせた。
「お前と会えなくて本当に辛かった」
「殿下」
「やはりもう離したくない」
結局シルヴェスターが、旧カリン王国の戦闘に加わっていたのは四週間以上にも及んでいた。
まだ長期化するかと思っていたところ、サトー軍の戦力が崩れ始めた。
一部では、サトー軍についていた三公の一人が、どうも戦死したのではないかという話が流れていた。実際、シルヴェスターやクラン長の率いる傭兵部隊は、それから随分とサトー軍を押し上げ、旧カリン王国の二分の一の領土を確保することになった。
強くシルヴェスターに抱きしめられる。
「後でダンカンからも話があると思うが、今後、“竜の牙”は旧カリン王国の西部の城に拠点を移す」
驚いてユーリスはシルヴェスターの顔を見上げた。
「皇国より、旧カリン王国の西方地域の一帯は、我がクランの領土と正式に認められ、同盟三か国の承認も受けられることになっている。ユーリス」
シルヴェスターは碧い瞳を煌めかせ、ユーリスに口づけしながら熱っぽく語った。
「私達の王国を建てるのだ」
旧カリン王国の支配者層はサトー王国の制圧に際して、全てごっそりと処刑された。
旧カリン王国に限らず、サトー王国の支配地は、基本サトー王国が撤退すれば、権力の空白地域となる。
皇国は、可能な限り自国軍を温存する方針であり、取り戻した旧カリン王国の土地を活躍を見せた傭兵部隊など外部の兵士達に褒賞として与えていた。幾つかのクランが国を興そうとする動きを見せ、シルヴェスターの属する“竜の牙”もその一つであった。功績を挙げた兵士達が、褒賞として与えられた小さな領土を、国を興そうとするクランに売り渡す流れも起こっており、次第に時間を掛けて小さな土地も集約化されていく。副クラン長フィアは土地を入手するための金策で忙しくしていた。そのあたりについてはユーリスも、クランの会計業務についていたため理解していた。
シルヴェスターはユーリスの顔に口づけを落としつつ、彼の細身をゆっくりと寝台に押し倒した。
「ユーリス。今の戦いが終わったら、私の正式な伴侶になって欲しい」
“竜の牙”のクラン長ダンカンが、クランが建てる王国の初代の王となるだろう。そしてその息子とされるシルヴェスターは王国の後継者となる。
自分にのしかかる若々しいシルヴェスターの顔を見上げ、その頬にユーリスは手を添えた。
「……ヴィー」
ラウデシア王国の五番目の王子として生まれ、何も持っていない“放置されていた王子”であったシルヴェスター。遠いこの西方の国までやって来て、ようやく彼は何かを掴もうとしていた。
「だめか」
不安を一瞬その瞳に横切らせるシルヴェスターの唇に、ユーリスは唇を押し付けた。
「そんなはずがないです。驚いただけです」
「ユーリス」
二人は熱心に口づけを交わしていく。服を脱がされ、身を重ねながらも、ユーリスの感情は揺れていた。
事が終わった後、横たわるユーリスの身を抱き締めながら、シルヴェスターはユーリスに尋ねた。
「元気がないようだな」
「……はい」
「どうしたのだ?」
そう尋ねられても、黄金竜の雛ウェイズリーのことをどうシルヴェスターに説明すればいいのか分からなかった。今まで一度も、ウェイズリーはシルヴェスターの前で姿を現わしたことがなかった。
「大事にしていたものを壊してしまいました。……可哀想なことをしました」
どこか抽象的なユーリスの答えに、不思議そうな顔をするシルヴェスター。
「それは直せないのか?」
「そうですね。私の手では直せないと思います」
それでも、何かもう少しやりようがあったのではないかと思う。
だが、何をどうすれば良かったのか分からない。
「私が直すのを手伝ってやろうか」
そのシルヴェスターの親切な申し出に、ユーリスは一瞬咳き込みそうになった。
ある意味、ウェイズリーの恋敵であるシルヴェスターが手を差し出そうとしても、ウェイズリーははねのけて怒るだろう。
「……ありがとうございます」
だからその言葉だけ受け取り、ユーリスはシルヴェスターの背に手を回し、また口づけを求めた。
結局、どうしようもないのだ。
ユーリスはシルヴェスター王子を心の底から愛している。
彼以外の伴侶は、もはや考えられない。
あの小さな黄金竜の雛が、どんなにか自分を恋い焦がれて鳴いたとしても。
その手を取ることはないのだ。
だけど
胸の奥がツキンと痛かった。
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