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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)
第十話 傷心(下)
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それからの一週間、ユーリスのそばにいるのはパタパタと空を飛ぶ黄金竜の雛ウェイズリーの姿であって、シルヴェスターの姿は見えなかった。シルヴェスターの意識はずっと心の奥深くに沈み込んでいた。ウェイズリーはユーリスに言われ、何度もその沈み込んでいるシルヴェスターの意識に話しかけていた。
どんなにユーリスが心配しているのか。
どれほどユーリスがシルヴェスターを愛しているのか。
彼がシルヴェスターの為に、一生懸命にダンカン達に働きかけていたことも。
もはや同一体となり、魂も溶け合っているシルヴェスターに話しかけることは、自分に対して懸命に話しかけることと一緒のことだった。だから、なんとなしにおかしな気分である。ユーリス曰く、人間の精神は複雑なものなのだという話だった。同じ身体の中に、複数の精神が存在するケースもあるという話だ。
さしずめ、ウェイズリーとシルヴェスターは一つの体に二つの精神が混じり合っている状態だ。元から違う人生を歩んでいた魂が、一つになったのだ。単純なものではないだろう。
ダンカンが城へ帰還するまでの二週間、そしてそれからの一週間。合計三週間の間、シルヴェスターの心は沈み込んだままだったが、ようやく、彼の心は懸命なウェイズリーとユーリスの働きかけで、ゆっくりと浮上し始めた。
ある朝、目を覚ますと、寝台の上に横になっていたのは黄金竜の雛ではなくシルヴェスターであった。
若く逞しい黄金の髪を持つ男が自分の横にいることに、ユーリスは一瞬驚いた後、シルヴェスターの唇に優しく口づけた。
「おはよう、ヴィー」
「おはよう」
目が醒めたシルヴェスターの身に、ユーリスは身をすり寄せる。そしてその碧い目をしっかりと見つめ、その手を掴み、握り締めながら言った。
「私の元に戻って来てくれてありがとう、ヴィー」
それでシルヴェスターもユーリスの身体を抱きしめる。
「ユーリス、お前とウェイズリーの、呼ぶ声がずっと聞こえていた」
深い深い、暗がりの底にうずくまるようにしていたシルヴェスターの心に根気よく話しかけ続けたのは黄金竜ウェイズリーとユーリスだった。多くの屍に囲まれ、心もまた疲れて朽ちていきそうな闇底に聞こえた声だった。
「そうです。ウェイズリーも私も貴方がいないことが寂しくて仕方なかったのです。ヴィー。貴方がたくさんのものを背負っていることを私は知っています」
「……殺し過ぎた」
「そうですね」
そのことをユーリスは否定しなかった。
事実として、黄金竜ウェイズリーの持つ力で、シルヴェスターは望むままに何千という人の屍を積み上げた。数えきれないほどの人間を殺した。
戦場に出ている者には殺すことも、殺されることにも覚悟があるだろう。しかし、一人の人間が背負うには、あまりにも殺害の桁が違うのである。サトー王国のサトーもまた途轍もない数の人間を殺害してきたが、彼は現実としてそれをとらえていないことで、心の均衡を保っている。
国を、仲間達を守るためにしたことだと、正当化する言葉はいくらでも言える。
だけど、それだけじゃ足りないのだ。そんなことはとうに彼も理解しているはずだから。
ユーリスはシルヴェスターの手を掴み、その手の甲に口づけを落とした。柔らかな唇の感触を手に覚えながら、シルヴェスターはユーリスを見つめる。
「貴方が私の元へ戻ってくるためにしたことは、全部、私も一緒に背負います」
「ユーリス」
「何度でも言いましょう。ヴィー、私の元へ戻ってきてくれてありがとう。これは私のエゴです。たとえ何千、何万という人が死んでも、私は貴方に無事に戻ってきてもらいたい。他の人間の命よりもずっと、ずっと貴方の命の方が大事なのです」
どんな綺麗事を口にしようと、それだけが結局最後に望む真実だった。
どれほどの血が流されようとも、彼だけが無事に戻ってくるなら。
それでいいのだ。
それはまさしく自分のエゴだった。それを認めるしかない。
シルヴェスターはなんとも言えぬ表情をして、口元に弱々しい笑みを浮かべ、ユーリスを抱きしめたのだった。
彼も理解しているはずだ。
どんなことをしてでも、ユーリスの元へ帰ってきたかったことを。
どんなにユーリスが心配しているのか。
どれほどユーリスがシルヴェスターを愛しているのか。
彼がシルヴェスターの為に、一生懸命にダンカン達に働きかけていたことも。
もはや同一体となり、魂も溶け合っているシルヴェスターに話しかけることは、自分に対して懸命に話しかけることと一緒のことだった。だから、なんとなしにおかしな気分である。ユーリス曰く、人間の精神は複雑なものなのだという話だった。同じ身体の中に、複数の精神が存在するケースもあるという話だ。
さしずめ、ウェイズリーとシルヴェスターは一つの体に二つの精神が混じり合っている状態だ。元から違う人生を歩んでいた魂が、一つになったのだ。単純なものではないだろう。
ダンカンが城へ帰還するまでの二週間、そしてそれからの一週間。合計三週間の間、シルヴェスターの心は沈み込んだままだったが、ようやく、彼の心は懸命なウェイズリーとユーリスの働きかけで、ゆっくりと浮上し始めた。
ある朝、目を覚ますと、寝台の上に横になっていたのは黄金竜の雛ではなくシルヴェスターであった。
若く逞しい黄金の髪を持つ男が自分の横にいることに、ユーリスは一瞬驚いた後、シルヴェスターの唇に優しく口づけた。
「おはよう、ヴィー」
「おはよう」
目が醒めたシルヴェスターの身に、ユーリスは身をすり寄せる。そしてその碧い目をしっかりと見つめ、その手を掴み、握り締めながら言った。
「私の元に戻って来てくれてありがとう、ヴィー」
それでシルヴェスターもユーリスの身体を抱きしめる。
「ユーリス、お前とウェイズリーの、呼ぶ声がずっと聞こえていた」
深い深い、暗がりの底にうずくまるようにしていたシルヴェスターの心に根気よく話しかけ続けたのは黄金竜ウェイズリーとユーリスだった。多くの屍に囲まれ、心もまた疲れて朽ちていきそうな闇底に聞こえた声だった。
「そうです。ウェイズリーも私も貴方がいないことが寂しくて仕方なかったのです。ヴィー。貴方がたくさんのものを背負っていることを私は知っています」
「……殺し過ぎた」
「そうですね」
そのことをユーリスは否定しなかった。
事実として、黄金竜ウェイズリーの持つ力で、シルヴェスターは望むままに何千という人の屍を積み上げた。数えきれないほどの人間を殺した。
戦場に出ている者には殺すことも、殺されることにも覚悟があるだろう。しかし、一人の人間が背負うには、あまりにも殺害の桁が違うのである。サトー王国のサトーもまた途轍もない数の人間を殺害してきたが、彼は現実としてそれをとらえていないことで、心の均衡を保っている。
国を、仲間達を守るためにしたことだと、正当化する言葉はいくらでも言える。
だけど、それだけじゃ足りないのだ。そんなことはとうに彼も理解しているはずだから。
ユーリスはシルヴェスターの手を掴み、その手の甲に口づけを落とした。柔らかな唇の感触を手に覚えながら、シルヴェスターはユーリスを見つめる。
「貴方が私の元へ戻ってくるためにしたことは、全部、私も一緒に背負います」
「ユーリス」
「何度でも言いましょう。ヴィー、私の元へ戻ってきてくれてありがとう。これは私のエゴです。たとえ何千、何万という人が死んでも、私は貴方に無事に戻ってきてもらいたい。他の人間の命よりもずっと、ずっと貴方の命の方が大事なのです」
どんな綺麗事を口にしようと、それだけが結局最後に望む真実だった。
どれほどの血が流されようとも、彼だけが無事に戻ってくるなら。
それでいいのだ。
それはまさしく自分のエゴだった。それを認めるしかない。
シルヴェスターはなんとも言えぬ表情をして、口元に弱々しい笑みを浮かべ、ユーリスを抱きしめたのだった。
彼も理解しているはずだ。
どんなことをしてでも、ユーリスの元へ帰ってきたかったことを。
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