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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)
第十八話 魔法王国の滅亡(上)
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ユーリスと黄金竜ウェイズリーは、キッカリ三日間の休暇を過ごした後、地上のカノッサ城へ戻った。
行きは黄金竜ウェイズリーの背に乗って、空中城へ向かったが、帰りは転移魔法を使って一瞬で自分達の部屋へ戻って来た。
ウェイズリーは、「三日といわず、このまま私と城に居よう!!」と言っていたが、そういうわけにはいかない。ウェイズリーと共に過ごすことは、ユーリスも嬉しく思っていたが、やはり、ユーリスもシルヴェスターも、任されている仕事がある。三日間の休暇も、黄金竜ウェイズリーが脅すように奪い取ったものである。きっと今頃、仕事が溜まって同僚達も四苦八苦しているはずだ。
ウェイズリーはふくれっ面であったが(その尻尾も不機嫌にピシピシと床を叩いていた)、ユーリスが甘やかすように「また一緒に、空中城へ連れていってくれ」と抱き上げて、額に口づけをすると、単純な黄金竜はそれだけでデレッとして番のカノッサ城への帰還を許してしまう。
口にする言葉の一つ一つに一喜一憂し、甘く鳴くウェイズリーが、ユーリスは可愛くて仕方なかった。一瞬で“転移”出来るのだから、また仕事を終えた夜にでも空中城に向かってもいいかも知れない。
そう思っているユーリスの前で、黄金竜ウェイズリーが、シルヴェスター王子の姿に変わった。
休暇の三日間、シルヴェスターは一度としてユーリスの目の前に現れることはなかった。
今回の休暇は、懸命に空中城を作った黄金竜ウェイズリーへのご褒美のようなものだった。
小さな黄金竜の雛を甘やかし、可愛がるユーリスの姿を、シルヴェスターはウェイズリーの中から見守っていた。自分がいない場所で、ユーリスが小さな黄金竜を可愛がっている姿をただ眺めていることは、なんとなしに胸の奥がモヤモヤとする。
(黄金竜ウェイズリーは、私自身でもあるのに。そんな感情を覚えることの方がおかしいと分かっている)
以前にも同じような感情を覚えたことがあった。
目の前に現れたシルヴェスターは、ユーリスの腕を掴み、自分の胸元に引き寄せると強く抱きしめた。
「ヴィー」
ユーリスがシルヴェスターの名を呼び、見つめてくる。その唇に口づける。
触れるような口づけが次第に熱を帯びたものに変わる。
このまま寝台の上に雪崩れ込み、彼を抱いてしまいたかった。
実際、ユーリスの青い瞳にも欲望の輝きがあった。
黄金竜ウェイズリーが、わざわざ天高き場所に、城を築いた気持ちがシルヴェスターにも理解できた。
この黒髪の麗しい若者を、決して人の手の届かない場所にやり、誰にも邪魔されずにずっと愛し合いたかった。
そんな衝動が、ユーリスを見ていると沸々と湧き上がって来る。
彼をずっと抱いて、そして。
このまま孕ましてしまいたい。
そんな考えが頭の中を横切るが、それがおかしな考えだと分かっている。
人間の男であるユーリスを、自分が孕ませることなど出来やしない。
でも、ユーリスを見ていると、時折、狂暴ともいえるそうした欲望が胸の中に湧き上がる。
同化している黄金竜が、しょっちゅうユーリスに愛を囁き、卵を産ませたいと考えるせいだろうか。
それに毒されているのだろうか。
シルヴェスターがユーリスの細身を抱きしめ、熱心に口付けをしている時、シルヴェスターの部屋の扉がノックされた。
邪魔をされて不機嫌になるシルヴェスター。ユーリスはシルヴェスターのそばから離れて、扉に向かう。
「戻ってきているのか、シルヴェスター」
仲間の一人の声だった。
ユーリスが扉を開けると、その仲間の男は、安堵したような表情をして、シルヴェスターに告げた。
「早く、ダンカンの部屋へ来てくれ。大変なことが起きている」
それでシルヴェスターは、急ぎ、ユーリスを連れて城の最上階にある城主の部屋へと向かったのだった。
ダンカンの待つ部屋へ入ったシルヴェスターとユーリスの二人。
ダンカンのそばには副クラン長フィアも立っている。
フィアは開口一番こう告げた。
「アレドリア王国が落ちたという報告が届いた。サトー王国から星弾と魔族の攻撃を受けたようだ」
その言葉に、ユーリスは顔色を変える。
アレドリア王国は、ユーリスが学者として経験を積んだ国で、彼を導いてくれた大学の教授達や、友人達が多くいる場所だった。
それに、アレドリア王国が落ちるなど信じられない。
腕の良い多くの魔術師や優れた学者、学生達の集う一大学術都市である。過去、何度か向けられた“星弾”も、魔術師達が多重防御魔法を展開させて、国を守りきっていたではないか。
ダンカンも険しい顔でいる。
「多くの魔族がアレドリア王国内に現れて、真っ先に魔術師達を狙ったそうだ。その数に圧倒されて王宮の魔術師はやられてしまったという話だ」
「いつ攻撃を受けたのですか」
青ざめた顔のユーリスが尋ねる。
そのユーリスの肩を、隣に立つシルヴェスターが支えるように手を回した。
十六歳のユーリスが、母国から逃げるように渡ったアレドリア王国。五年間世話になり続けた下宿の女主人メイラ、そして彼女の娘キーラとキーラの息子のロンの顔が次々と脳裏に浮かぶ。彼女達は無事だろうか。そして指導教授のナウマンと教授に仕える助手のミア。ユーリスをイスフェラ皇国まで送り、いつも護衛として守ってくれた冒険者のゲラン。彼と、彼の妻子もまたアレドリア王国にいる。
その問いかけに、ダンカンは答える。
「一昨日だ。すでに都の城は落ちて、サトー王国の支配下にある。大量の魔族達が国内に流入して、多くの国民が魔の領域に連れ攫われている」
ユーリスの青い目が見開かれ、彼の唇が震え出した。
「ユーリス、もうあの国は落ちてしまっているのだ。酷な事を言うが、イスフェラ皇国のイーサン=クレイラ殿から、アレドリア王国には手出し無用との話が来ている。勝手に戦いを始めてはならない」
「!!」
驚くユーリスの代わりのように、シルヴェスターがダンカンに尋ねた。
「アレドリア王国は同盟国の一つです。同盟国が攻撃を受けたのなら、奪還するために同盟全体で動くべきでしょう。そうした約束だったのではないですか」
対サトー同盟国間で、物資や派兵する軍隊の融通は勿論のこと、今回のような大規模な攻撃を受けた時、救援の軍を差し向けることも当然含まれていた。だから、アレドリア王国が攻撃を受けたのなら、同盟国としてサトー王国を攻撃し、アレドリア王国を奪還すべきである。
しかし、ダンカンは頭を振った。
「あそこはもう王城も落ちた。分かるか。反転攻勢をかけるにはすでに遅すぎる。王族の生き残りはいない。国の大部分が落ちている。それにユーリス、君はあの国を取り戻すために、シルヴェスターに黄金竜の力を使わせるのか?」
そのダンカンの台詞に、ユーリスは言葉を失ってしまった。
つい先日、ユーリスはこのダンカンとフィアに自分から告げたばかりだった。
『私はシルヴェスターの心が壊れてまでも、勝利することを望みません』
アレドリア王国に黄金竜ウェイズリーを遣わせれば、きっとウェイズリーは大量の魔族達、サトー王国の軍隊の人間達を瞬殺して、あの国を解放しようとするだろう。
それは、ウェイズリーと同一体であるシルヴェスターにさせることでもあった。
以前のシルヴェスターの消耗しきった様子を思い出して、ユーリスは苦し気に眉を寄せた。
(そんなこと、出来ない)
だが、アレドリア王国にいた友人達のことを思うと、何かをせずにはいられない。
仲間達を助けるために、何かすべきだ。
けれど、シルヴェスターとウェイズリーにそれを頼むことは間違えている。
彼らを絶対に危険にさらしたくない。
ユーリスの心は散り散りに乱れ、表情も苦しげである。それを見て、シルヴェスターが言った。
「私がアレドリアに行って来よう」
そうして、あの国を解放する。
しかし、ユーリスは頭を振った。
「だめです、ヴィー……」
シルヴェスターの腕を掴んで、ユーリスは彼を引き留めた。
「何か、方法を考えます」
そう言って、ユーリスは懸命に考えをまとめ始めるのだった。
行きは黄金竜ウェイズリーの背に乗って、空中城へ向かったが、帰りは転移魔法を使って一瞬で自分達の部屋へ戻って来た。
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ウェイズリーはふくれっ面であったが(その尻尾も不機嫌にピシピシと床を叩いていた)、ユーリスが甘やかすように「また一緒に、空中城へ連れていってくれ」と抱き上げて、額に口づけをすると、単純な黄金竜はそれだけでデレッとして番のカノッサ城への帰還を許してしまう。
口にする言葉の一つ一つに一喜一憂し、甘く鳴くウェイズリーが、ユーリスは可愛くて仕方なかった。一瞬で“転移”出来るのだから、また仕事を終えた夜にでも空中城に向かってもいいかも知れない。
そう思っているユーリスの前で、黄金竜ウェイズリーが、シルヴェスター王子の姿に変わった。
休暇の三日間、シルヴェスターは一度としてユーリスの目の前に現れることはなかった。
今回の休暇は、懸命に空中城を作った黄金竜ウェイズリーへのご褒美のようなものだった。
小さな黄金竜の雛を甘やかし、可愛がるユーリスの姿を、シルヴェスターはウェイズリーの中から見守っていた。自分がいない場所で、ユーリスが小さな黄金竜を可愛がっている姿をただ眺めていることは、なんとなしに胸の奥がモヤモヤとする。
(黄金竜ウェイズリーは、私自身でもあるのに。そんな感情を覚えることの方がおかしいと分かっている)
以前にも同じような感情を覚えたことがあった。
目の前に現れたシルヴェスターは、ユーリスの腕を掴み、自分の胸元に引き寄せると強く抱きしめた。
「ヴィー」
ユーリスがシルヴェスターの名を呼び、見つめてくる。その唇に口づける。
触れるような口づけが次第に熱を帯びたものに変わる。
このまま寝台の上に雪崩れ込み、彼を抱いてしまいたかった。
実際、ユーリスの青い瞳にも欲望の輝きがあった。
黄金竜ウェイズリーが、わざわざ天高き場所に、城を築いた気持ちがシルヴェスターにも理解できた。
この黒髪の麗しい若者を、決して人の手の届かない場所にやり、誰にも邪魔されずにずっと愛し合いたかった。
そんな衝動が、ユーリスを見ていると沸々と湧き上がって来る。
彼をずっと抱いて、そして。
このまま孕ましてしまいたい。
そんな考えが頭の中を横切るが、それがおかしな考えだと分かっている。
人間の男であるユーリスを、自分が孕ませることなど出来やしない。
でも、ユーリスを見ていると、時折、狂暴ともいえるそうした欲望が胸の中に湧き上がる。
同化している黄金竜が、しょっちゅうユーリスに愛を囁き、卵を産ませたいと考えるせいだろうか。
それに毒されているのだろうか。
シルヴェスターがユーリスの細身を抱きしめ、熱心に口付けをしている時、シルヴェスターの部屋の扉がノックされた。
邪魔をされて不機嫌になるシルヴェスター。ユーリスはシルヴェスターのそばから離れて、扉に向かう。
「戻ってきているのか、シルヴェスター」
仲間の一人の声だった。
ユーリスが扉を開けると、その仲間の男は、安堵したような表情をして、シルヴェスターに告げた。
「早く、ダンカンの部屋へ来てくれ。大変なことが起きている」
それでシルヴェスターは、急ぎ、ユーリスを連れて城の最上階にある城主の部屋へと向かったのだった。
ダンカンの待つ部屋へ入ったシルヴェスターとユーリスの二人。
ダンカンのそばには副クラン長フィアも立っている。
フィアは開口一番こう告げた。
「アレドリア王国が落ちたという報告が届いた。サトー王国から星弾と魔族の攻撃を受けたようだ」
その言葉に、ユーリスは顔色を変える。
アレドリア王国は、ユーリスが学者として経験を積んだ国で、彼を導いてくれた大学の教授達や、友人達が多くいる場所だった。
それに、アレドリア王国が落ちるなど信じられない。
腕の良い多くの魔術師や優れた学者、学生達の集う一大学術都市である。過去、何度か向けられた“星弾”も、魔術師達が多重防御魔法を展開させて、国を守りきっていたではないか。
ダンカンも険しい顔でいる。
「多くの魔族がアレドリア王国内に現れて、真っ先に魔術師達を狙ったそうだ。その数に圧倒されて王宮の魔術師はやられてしまったという話だ」
「いつ攻撃を受けたのですか」
青ざめた顔のユーリスが尋ねる。
そのユーリスの肩を、隣に立つシルヴェスターが支えるように手を回した。
十六歳のユーリスが、母国から逃げるように渡ったアレドリア王国。五年間世話になり続けた下宿の女主人メイラ、そして彼女の娘キーラとキーラの息子のロンの顔が次々と脳裏に浮かぶ。彼女達は無事だろうか。そして指導教授のナウマンと教授に仕える助手のミア。ユーリスをイスフェラ皇国まで送り、いつも護衛として守ってくれた冒険者のゲラン。彼と、彼の妻子もまたアレドリア王国にいる。
その問いかけに、ダンカンは答える。
「一昨日だ。すでに都の城は落ちて、サトー王国の支配下にある。大量の魔族達が国内に流入して、多くの国民が魔の領域に連れ攫われている」
ユーリスの青い目が見開かれ、彼の唇が震え出した。
「ユーリス、もうあの国は落ちてしまっているのだ。酷な事を言うが、イスフェラ皇国のイーサン=クレイラ殿から、アレドリア王国には手出し無用との話が来ている。勝手に戦いを始めてはならない」
「!!」
驚くユーリスの代わりのように、シルヴェスターがダンカンに尋ねた。
「アレドリア王国は同盟国の一つです。同盟国が攻撃を受けたのなら、奪還するために同盟全体で動くべきでしょう。そうした約束だったのではないですか」
対サトー同盟国間で、物資や派兵する軍隊の融通は勿論のこと、今回のような大規模な攻撃を受けた時、救援の軍を差し向けることも当然含まれていた。だから、アレドリア王国が攻撃を受けたのなら、同盟国としてサトー王国を攻撃し、アレドリア王国を奪還すべきである。
しかし、ダンカンは頭を振った。
「あそこはもう王城も落ちた。分かるか。反転攻勢をかけるにはすでに遅すぎる。王族の生き残りはいない。国の大部分が落ちている。それにユーリス、君はあの国を取り戻すために、シルヴェスターに黄金竜の力を使わせるのか?」
そのダンカンの台詞に、ユーリスは言葉を失ってしまった。
つい先日、ユーリスはこのダンカンとフィアに自分から告げたばかりだった。
『私はシルヴェスターの心が壊れてまでも、勝利することを望みません』
アレドリア王国に黄金竜ウェイズリーを遣わせれば、きっとウェイズリーは大量の魔族達、サトー王国の軍隊の人間達を瞬殺して、あの国を解放しようとするだろう。
それは、ウェイズリーと同一体であるシルヴェスターにさせることでもあった。
以前のシルヴェスターの消耗しきった様子を思い出して、ユーリスは苦し気に眉を寄せた。
(そんなこと、出来ない)
だが、アレドリア王国にいた友人達のことを思うと、何かをせずにはいられない。
仲間達を助けるために、何かすべきだ。
けれど、シルヴェスターとウェイズリーにそれを頼むことは間違えている。
彼らを絶対に危険にさらしたくない。
ユーリスの心は散り散りに乱れ、表情も苦しげである。それを見て、シルヴェスターが言った。
「私がアレドリアに行って来よう」
そうして、あの国を解放する。
しかし、ユーリスは頭を振った。
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