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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)
第十九話 魔法王国の滅亡(下)
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アレドリア王国に魔族達が侵攻し、“星弾”が落ち、多くの人々が連れ攫われたのは一昨日である。
王城は破壊尽くされ、王族達は死に絶えている。名だたる大学も、大陸一と謳われた大図書館も瓦礫の山と化している。そして路傍には屍が累々と転がっているという話が、遠話魔道具によって報告されていた。
アレドリア王国に足を踏み入れる人間達は、魔族達に連れ攫われてしまうためになかなか救援にも向かえないという報告がある。
ユーリスは地図を前に、腕を組んで考え込んでいる。
クラン長ダンカンから言われた言葉もまた、彼の頭の中にあった。
『勝手に戦いを始めてはならない』
それは明らかに、ユーリスに向けての言葉だった。
もしユーリスがそれを望めば、黄金竜ウェイズリーは番の言葉に嬉々として従い、単身アレドリア王国に向かって、殺戮を始める。一瞬で、多くの敵を屠るウェイズリーは、この地上で最も強く、誰も敵うことのない、神の如き存在だった。
でも、その力を使わせたくない。
何万という敵の命の重さなど、まるっきり爪の先ほどにも感じていない黄金竜ウェイズリーと違って、同化しているシルヴェスターは人間の心を持つ。その殺戮の積み重ねのツケは、シルヴェスターが払うことになる。
ユーリスは、地図上にあるアレドリア王国の都から少し離れた場所にある湖に気が付いた。
そこそこ広さのある湖である。その表示を指でなぞったあと、イスフェラ王国にある広大な砂漠の絵もなぞる。
大きなテーブルの上に、地図を広げて熱心に眺めているユーリスの後ろから、シルヴェスターが現れ、ユーリスの背中にのしかかるようにする。ユーリスのその耳元で囁く。
「何をしているんだ」
「アレドリア王国が攻め込まれてまだ三日です。隠れている人達もいるはずです。彼らをどうにか助けられないかと思っています」
「……………………そうだな」
ユーリスは、シルヴェスターがアレドリア王国へ行くことを止めた。
以前の旧カリン王国内での、大量の兵士や魔族を殺害した時のシルヴェスターの精神的なダメージのことを慮って、ユーリスはそう言ってくれるのだろう。
だが、シルヴェスターは兵士である。強靭な肉体だけではなく、数多くの死に耐えられる精神も持たなければならない。たとえその死の数が、桁の違う何万というものであろうと、自分のもたらす大量の死に慣れていかなければならない。
味方が死ぬよりも、ずっと、自分がああしたことに慣れていく方が良い。
たとえ魂のどこかが深く傷つき、大事な何かをゆっくりと失うことになっても。
それは仕方がない。今は戦時なのである。
だから、再度シルヴェスターが「私がアレドリア王国に行こう」とユーリスに伝えようとしたところで、ユーリスはクルリと後ろを振り向き、突然、シルヴェスターの唇に、噛みつくように口づけた。シルヴェスターの手を掴み、シルヴェスターの碧い目を凝視する。
「私は、貴方がもう二度と傷つくことも」
ユーリスの青い目は少しばかり潤んでいる。
「死に瀕することも、許しませんからね」
それでシルヴェスターは黙り込んで、ユーリスの整った白い面をじっと見つめていた。
ユーリスは、レイヴン城に運ばれてきた瀕死のシルヴェスターの姿を見ていた。
そしてあの時、はじめてユーリスは黄金竜ウェイズリーに必死になって、心の底から望んだのだ。
『シルヴェスターを助けてくれ』
シルヴェスターは、過去のウェイズリーの記憶から、涙ながらに必死に声を上げたユーリスの姿を見ていた。慟哭のような声。あのように取り乱したユーリスの姿を今まで見たことがなかった。
そして今もまた、目の前のユーリスは静かに怒りを漲らせている。
「アレドリア王国の友人達も、私にとっては大切な人達です。でも…………」
その言葉は、友人達への裏切りかも知れない。
でもそれは本心だった。
「でも、私にとっては貴方の方が大切です。貴方が傷つくことに私は耐えられない。ヴィー。今度また、貴方が私の前で、自ら進んで傷つこうとするのなら」
ユーリスはシルヴェスターの碧い目の向こうの、黄金竜ウェイズリーに向けても言っていた。
「私は貴方を許しません」
そのユーリスの強い言葉に、シルヴェスターの中の黄金竜の雛が悲鳴を上げた。
バタバタバタと飛び回って、混乱したように叫んでいる。
「キュイキュイキュイキュイイイィィィィィィ」
どうもこの黄金竜の雛ウェイズリーは、ユーリスに嫌われたり怒られたりすることを病的なほど恐れているようなのだ。今も、グルグルと飛び回った後は、地面に小さく丸まってカタカタカタカタと震えだしている。
この世の誰よりも強い力を持っているはずの黄金竜ウェイズリー。
だが、彼は決して、番のユーリスの言葉には逆らえないのだった。
それからユーリスは怒りを引っ込め、今度は優しくシルヴェスターの唇を啄み、シルヴェスターの逞しい背に両手を回した。
囁くようにこうも言っている。
「ウェイズリー、貴方もそうなのですよ。私は貴方が傷つくことも、危険な目に遭うことも絶対に許しませんからね」
王城は破壊尽くされ、王族達は死に絶えている。名だたる大学も、大陸一と謳われた大図書館も瓦礫の山と化している。そして路傍には屍が累々と転がっているという話が、遠話魔道具によって報告されていた。
アレドリア王国に足を踏み入れる人間達は、魔族達に連れ攫われてしまうためになかなか救援にも向かえないという報告がある。
ユーリスは地図を前に、腕を組んで考え込んでいる。
クラン長ダンカンから言われた言葉もまた、彼の頭の中にあった。
『勝手に戦いを始めてはならない』
それは明らかに、ユーリスに向けての言葉だった。
もしユーリスがそれを望めば、黄金竜ウェイズリーは番の言葉に嬉々として従い、単身アレドリア王国に向かって、殺戮を始める。一瞬で、多くの敵を屠るウェイズリーは、この地上で最も強く、誰も敵うことのない、神の如き存在だった。
でも、その力を使わせたくない。
何万という敵の命の重さなど、まるっきり爪の先ほどにも感じていない黄金竜ウェイズリーと違って、同化しているシルヴェスターは人間の心を持つ。その殺戮の積み重ねのツケは、シルヴェスターが払うことになる。
ユーリスは、地図上にあるアレドリア王国の都から少し離れた場所にある湖に気が付いた。
そこそこ広さのある湖である。その表示を指でなぞったあと、イスフェラ王国にある広大な砂漠の絵もなぞる。
大きなテーブルの上に、地図を広げて熱心に眺めているユーリスの後ろから、シルヴェスターが現れ、ユーリスの背中にのしかかるようにする。ユーリスのその耳元で囁く。
「何をしているんだ」
「アレドリア王国が攻め込まれてまだ三日です。隠れている人達もいるはずです。彼らをどうにか助けられないかと思っています」
「……………………そうだな」
ユーリスは、シルヴェスターがアレドリア王国へ行くことを止めた。
以前の旧カリン王国内での、大量の兵士や魔族を殺害した時のシルヴェスターの精神的なダメージのことを慮って、ユーリスはそう言ってくれるのだろう。
だが、シルヴェスターは兵士である。強靭な肉体だけではなく、数多くの死に耐えられる精神も持たなければならない。たとえその死の数が、桁の違う何万というものであろうと、自分のもたらす大量の死に慣れていかなければならない。
味方が死ぬよりも、ずっと、自分がああしたことに慣れていく方が良い。
たとえ魂のどこかが深く傷つき、大事な何かをゆっくりと失うことになっても。
それは仕方がない。今は戦時なのである。
だから、再度シルヴェスターが「私がアレドリア王国に行こう」とユーリスに伝えようとしたところで、ユーリスはクルリと後ろを振り向き、突然、シルヴェスターの唇に、噛みつくように口づけた。シルヴェスターの手を掴み、シルヴェスターの碧い目を凝視する。
「私は、貴方がもう二度と傷つくことも」
ユーリスの青い目は少しばかり潤んでいる。
「死に瀕することも、許しませんからね」
それでシルヴェスターは黙り込んで、ユーリスの整った白い面をじっと見つめていた。
ユーリスは、レイヴン城に運ばれてきた瀕死のシルヴェスターの姿を見ていた。
そしてあの時、はじめてユーリスは黄金竜ウェイズリーに必死になって、心の底から望んだのだ。
『シルヴェスターを助けてくれ』
シルヴェスターは、過去のウェイズリーの記憶から、涙ながらに必死に声を上げたユーリスの姿を見ていた。慟哭のような声。あのように取り乱したユーリスの姿を今まで見たことがなかった。
そして今もまた、目の前のユーリスは静かに怒りを漲らせている。
「アレドリア王国の友人達も、私にとっては大切な人達です。でも…………」
その言葉は、友人達への裏切りかも知れない。
でもそれは本心だった。
「でも、私にとっては貴方の方が大切です。貴方が傷つくことに私は耐えられない。ヴィー。今度また、貴方が私の前で、自ら進んで傷つこうとするのなら」
ユーリスはシルヴェスターの碧い目の向こうの、黄金竜ウェイズリーに向けても言っていた。
「私は貴方を許しません」
そのユーリスの強い言葉に、シルヴェスターの中の黄金竜の雛が悲鳴を上げた。
バタバタバタと飛び回って、混乱したように叫んでいる。
「キュイキュイキュイキュイイイィィィィィィ」
どうもこの黄金竜の雛ウェイズリーは、ユーリスに嫌われたり怒られたりすることを病的なほど恐れているようなのだ。今も、グルグルと飛び回った後は、地面に小さく丸まってカタカタカタカタと震えだしている。
この世の誰よりも強い力を持っているはずの黄金竜ウェイズリー。
だが、彼は決して、番のユーリスの言葉には逆らえないのだった。
それからユーリスは怒りを引っ込め、今度は優しくシルヴェスターの唇を啄み、シルヴェスターの逞しい背に両手を回した。
囁くようにこうも言っている。
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