転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第五章 その王子と竜に愛されたら大変です(上)

第二十話 強引な救いの手(上)

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 アレドリア王国が、サトー王国から大量の魔族の襲撃を受け、“星弾”を落とされた三日目の晩。
 多くの者達が、魔の領域へ連れ攫われていた。
 子供も大人も、男女の別なく、有無を言わさず連れ攫われる。

 連れ攫われた後は、食用にされるという話もあれば、奴隷のように働かされるという話も、何かしらの実験に使われるという話も流れてくる。いずれにせよ、とても承服できない恐ろしい目に遭うしかなかった。抵抗した者達もいたが、多くが殺された。なにせ攻め込んできた敵の数が違う。
 王宮の魔術師達の多くが真っ先に殺され、次に魔術師ギルドであった。いずれも無残に殺され、無数の屍が王宮の壁に吊るされているという話だった。
 大学の一角で、懸命にも抵抗している勢力があるという話も流れてきているが、本当かどうか定かではない。

 今も崩れた瓦礫の間を、悲鳴を上げながら走って逃げる若い女性の姿がある。
 隠れている者達は目を閉じ、耳を手で塞いでいた。
 助けに行きたいが、助けに行けば見つかって自分達も連れて行かれることになる。
 
 きっとどこかの国が救援にやって来るだろうと、希望を持っている者達もいたが、こんな魔の者達がうようよといるアレドリア王国に、どこの誰が足を踏み入れるだろうか。

 長く尾を引くような女の悲鳴が途切れる。
 捕まってしまったのだろうか。

 地下へ続く階段から様子を伺おうと顔を覗かせた子供が、その頭を待ち構えていた魔族の手が掴んだ。
 またしても甲高い悲鳴の声が響き渡る。

 そこに、割って入る声がした。

「やめなさい」

 若い男の声だった。
 一斉に魔族達が振り返る。
 目の前に、灰色のローブを目深に羽織った二人の人の姿があった。
 
 まだ魔術師が生き残っていたのかと、魔族達が襲い掛かろうとした次の瞬間、彼らの足元に小さな“金色の芽”がニョキニョキと生え、魔族達に触れると同時に、魔族達は“転移”した。
 ローブを羽織った細身の若者は、傍らの若い男に頼んでいる。

「ウェイズリー、目についた魔族をどんどん飛ばしてくれ」

「………………イチイチ“転移”させていくのか。それよりも殺ってしまった方が遥かに楽だと思うが」

 灰色のローブを羽織った細身の男はユーリスであり、傍らにぴったりと寄り添うようにいるのは黄金竜ウェイズリーの人化した姿だった。
 ユーリスは、ウェイズリーに、目についた魔族達を片っ端から“金色の芽”で触れ、“転移”させるように頼んだ。
 だから今も、視界に入る魔物達は次々に消え去っている。
 彼らが“転移”する先は、アレドリア王国の都の先にある湖だった。
 その中に“転移”しているものだから、“転移”して現れた瞬間、きっと魔族達は湖の水に驚いて溺れていることだろう。

「殺し過ぎることは、ヴィーの心の負担になると話しただろう」

 ジロリと青い目でユーリスがウェイズリーを睨んだものだから、ウェイズリーは慌てた。

「わ、分かっている。シルヴェスターに殺人をさせなければいいのだろう!!!!」

 番にこうも庇われて守られるとは、とんだ姫君だなと、シルヴェスター王子のことを考えていると、ウェイズリーの中のシルヴェスター王子が怒りの感情をぶつけてくる。
 シルヴェスターとしても今の状態には不満があるらしい。大丈夫だと言っても、ユーリスは許さなかった。現に今も、ユーリスの傍らに立つのは人化しているウェイズリーだった。この場にシルヴェスターが現れることをユーリスは許していない。
 ウェイズリーは、ユーリスに自分の能力が認められ、頼りにされていることが嬉しくて仕方ないように、ニコニコとしていた。敵地にいるのに、緊張感のない、締まりない顔をしている。

「ユーリス、私のそばを決して離れてはならないぞ」

「ああ」

 今も視界に入る魔族達が次々に“転移”させられて消えていっている。
 ウェイズリーは、ユーリスの腰を抱くようにして歩いて行く。

 先刻、魔族に頭を掴まれた子供は、ぽかんと口を大きく開けていた。
 それから、彼は、地下の階段から飛び出していく。

「お、お兄ちゃんが魔法でやっているの!!!!」

 煤に汚れ、髪も汗と土ぼこりでぐしゃぐしゃになっているその子供は、おそらく八歳くらいの年齢だった。彼は懸命に話しかけていた。

「そうだよ」

 ユーリスはしゃがみこみ、子供の頭を軽く撫でる。

「汚い子供だ。ユーリス、お前の手が汚れるぞ」

 ウェイズリーのその言葉に、ユーリスはウェイズリーを睨みつける。

「ウェイズリー、君は黙っていてくれ」

「…………………くっ」

 何故だろう。ユーリスのために頑張って働いているのに、怒られてばかりのような気がするウェイズリーだった。

「君以外にも隠れている人達はいるの?」

「うん、いるよ」

 子供は、ユーリスが自分を助けてくれる味方だと考えたようで、ユーリスの手を握ろうと伸ばしてくる。それで、ユーリスもその小さな手を握った。

「そこに連れていってくれるかな?」
 
 大人達からは、隠れ家に、絶対に外の他の人間を連れて来ては駄目だと言われていたけれど、自分を助けてくれたこの人は信用できそうに思えた。

 なにせ。

 子供は下から見上げたものだから、灰色のローブの下にあったユーリスの美貌を目にしたのだった。

(こんなにも優しくて、綺麗な人なのだもの)

 ユーリスの綺麗な顔立ちを、その子供は食い入るように見つめていたのだった。



 ウェイズリーは視界に入る魔族達の全てを強制的に湖に“転移”させた。その結果、この辺りには魔族達が一人もいない状態になっていた。
 子供は地下へと続く階段へ、ユーリスを案内していく。
 細い階段は、なんとかユーリスやウェイズリーが通ることが出来るといった狭さだった。そして途中で崩れている箇所もあり、そんなこともあって魔族達も入ることに躊躇したのだろう。結果的にこの地下へ逃げ込んだ人間達の命は助かっていた。

 ポタンポタンと、暗い道を、天井から滴る、水滴の落ちる音がひっきり無しに響いていく。
 やがて扉が現れる。その前に見張りをする男達が立っていた。
 子供を先頭に現れた、ローブを目深に被るユーリス達を見て、当然のように鋭い声で誰何してくる。

「何者だ!!」

 ウェイズリーが、自分達に向かって声を上げた無礼な男達を、一瞬で金色の芽で、殺ってしまおうと気配を漂わせたので、慌ててユーリスがウェイズリーの手を掴んで「やめてくれ」と頼んでいた。
 気を付けないと、ウェイズリーは一瞬の判断で相手を殺してしまう。
 敵に遭遇するよりも先に、ウェイズリーが下すその凶悪な攻撃に神経を使わなければならなかった。

 ユーリスはウェイズリーの耳元で「いいかい、ウェイズリー。ここは私に任せて欲しい。君は決して攻撃をしてはならない」と、念を押さなければならなかった。

 子供は見張りの男達に向かって、一生懸命、彼らが自分を助けてくれた、魔族をやっつけてくれたと報告している。

(正確には、やっつけたわけではなく、のだが)

 ただ子供にとってはその区別はあまり意味がない。
 危険な魔族達が目の前から消えたことが重要であるからだ。

 魔族をやっつけたと聞いて、見張りの男達は驚いてユーリス達に視線を向ける。

「あなた方は一体」

 それにユーリスは答えた。

「同盟国ゴルティニアから救援に来ました。私はユーリス、こちらはウェイズリーです」

 その言葉に、男達は顔を見合わせ、慌てていた。

「同盟軍が来ているのか!!」

 喜びの感情が混じるその声に、内心ユーリスは呟く。

(私とウェイズリーだけですが…………)
 
 だが、ユーリスと常に共にいる一頭が、軽く一国の軍事力を凌駕する力を持つのだった。
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