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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第六章 その王子と竜に愛されたら大変です(下)
第二話 彼の悩み
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二の月に行われる建国の儀では、“竜の牙”を率いるクラン長ダンカンが戴冠する。
その場でダンカンは後継者として、息子のシルヴェスターを指名する。その息子シルヴェスターは、伴侶としてユーリス=バンクールを迎える。
一般的に、王族達の一部は自身の血の繋がる後継者を作る為、伴侶に女性を迎えることが多かった。
例えばラウデシア王国の第一王子と第二王子は、最初の妃には政略的に女性を迎えていた。
(第二王子アンリは、最初の妻と離縁して、新たな妃として護衛騎士ハヴリエルを迎えたが、これには相当、現国王夫妻の反対があった)
クラン長ダンカンが、後継者としてシルヴェスター王子を迎えることは、王権の安定のためにふさわしいことだと言える。だが、そのシルヴェスター王子が伴侶に男性を迎えた場合、その先の安定は失われる。正妃としてユーリスを迎える他、子を為すためにさらに女性の妃を迎えるべきではないかという声が上がることも当然だった。
しかし、シルヴェスター王子がユーリスにべた惚れであることを良く知る“竜の牙”の面々は、そんなことを口に出すのも恐ろしいと思っていた。
そしてシルヴェスター自身もそうした話を耳にした時、「別に私が養子を迎えれば済む話だ」と一蹴していた。シルヴェスターは、自分の伴侶はユーリスだけで、それとは別に妃を迎えることなど全く考えられなかった。
そしてシルヴェスターの中の、黄金竜の雛ウェイズリーもその話を耳にした時、「まったく問題ないのに、うるさい虫達だ。私が処分してやろう」と低く唸り声を上げていた。
「まったく問題ない」とキッパリ言い切るウェイズリーのことを不思議に感じたが、シルヴェスターもそのことには同意している。伴侶はユーリス一人で十分だった。だが、ただ思うだけで相手を抹殺できる狂暴な黄金竜(雛)が、うるさい相手をすぐさま殺そうとすることは止めなければならなかった。
しかし、その話を耳にしたユーリスは違っていて、彼はひどく悩んでいる様子があった。
そんな話を耳にしなければいいのに、わざわざユーリスにご注進した者がいたようで、以来、彼の表情が冴えない。
男同士の婚姻は、この世界ではよくあることで、後継者が必要な場合には養子を迎えることが当然だった。シルヴェスターとユーリスが結婚した場合、シルヴェスターは養子を迎える。そう、彼もユーリスの問いかけにあっさりと答えていた。
しかし、そうは言ってもユーリスは、王宮に出入りを許された商会長の息子として、ラウデシア王国の王家のありようを近くで見てきた。世継ぎの一番上の王子と、その下の二番目の王子は、伴侶に高貴な女性を迎えている。シルヴェスター王子も、そうすることが普通なのだ。
ゴルティニア王国の王家の存続のため、シルヴェスターは一人といわず、多くの子孫を作る義務がある。彼は養子を迎えると言っているが、王家の将来を思うならば、妃には女性を迎えるべきなのだ。
だが、シルヴェスターが自分とは別に妃を迎え、その者を抱くことを想像するだけでもユーリスは嫌だった。暗く表情を翳らせるユーリスに、シルヴェスターは何度も言った。
「私の伴侶はお前だけで、お前以外の誰も迎えようとは思わぬ」
そう言って、ユーリスの身をきつく抱きしめる。
シルヴェスターの言葉は真剣で、嘘偽りの一つもない。だが、本人がそう口で言っていたとしても、周りがそれを放ってはおかないことを、ユーリスはよく理解していた。
(悩んでいるユーリスも綺麗で可愛い)
そんなことを、シルヴェスター王子の中の黄金竜ウェイズリーは呟いている。
実際、毎夜、シルヴェスター王子から愛でられているユーリスは、匂うように美しい。元から美しい青年であるのだが、相愛のシルヴェスターに愛を囁かれているのだ。彼が輝くように美しいことは当然だった。その色香に惑う者が出ないように、ウェイズリーは常にユーリスのそばに“金色の芽”を張り巡らせなければならなかった。
クラン“竜の牙”の面々は、いかにシルヴェスター王子がこのユーリスに首ったけであるかをよく知っていたから、決してユーリスに手を出そうとは思っていなかった。しかし、新王国建国のため、新たに雇い入れられた文官や騎士達で、城の人口はにわかに膨れ上がっている。シルヴェスター王子とユーリスの関係をよく知らない者達も当然そこにはいて、ユーリスにちょっかいを出そうとする者達もちらほらと見られたものだから、黄金竜ウェイズリーは、ユーリスに近づこうとする者達を常に“すっ転ばして”いた。
自分に近づこうとする者が、時々派手に、城の中で転倒している様子を見て、ユーリスはすぐにそれが黄金竜ウェイズリーによるものだと分かった。
そして「怪我をさせては駄目だよ」と優しく小さな黄金竜の雛に言って、黄金竜の雛ウェイズリーは「キュルルルキュー(分かってるよ、ユーリス)」と、愛しい青年の胸に身をすり寄せるのだった。
それとともに、どこか浮かない顔をしているユーリスの面を見上げながら、ウェイズリーは思う。
(後継ぎの話など些末な話であるのに)
ユーリスが卵を孕むことが出来る体だと告げてしまえば、彼のその悩みも一瞬で解消する。悩み続ける彼にそう口走ってしまいたい気持ちもある。
でも、まだ話すことはできない。
来年の春になれば、すべてが変わる。
ウェイズリーはその時が来るのを、ただひたすらに待ち続けていた。
その場でダンカンは後継者として、息子のシルヴェスターを指名する。その息子シルヴェスターは、伴侶としてユーリス=バンクールを迎える。
一般的に、王族達の一部は自身の血の繋がる後継者を作る為、伴侶に女性を迎えることが多かった。
例えばラウデシア王国の第一王子と第二王子は、最初の妃には政略的に女性を迎えていた。
(第二王子アンリは、最初の妻と離縁して、新たな妃として護衛騎士ハヴリエルを迎えたが、これには相当、現国王夫妻の反対があった)
クラン長ダンカンが、後継者としてシルヴェスター王子を迎えることは、王権の安定のためにふさわしいことだと言える。だが、そのシルヴェスター王子が伴侶に男性を迎えた場合、その先の安定は失われる。正妃としてユーリスを迎える他、子を為すためにさらに女性の妃を迎えるべきではないかという声が上がることも当然だった。
しかし、シルヴェスター王子がユーリスにべた惚れであることを良く知る“竜の牙”の面々は、そんなことを口に出すのも恐ろしいと思っていた。
そしてシルヴェスター自身もそうした話を耳にした時、「別に私が養子を迎えれば済む話だ」と一蹴していた。シルヴェスターは、自分の伴侶はユーリスだけで、それとは別に妃を迎えることなど全く考えられなかった。
そしてシルヴェスターの中の、黄金竜の雛ウェイズリーもその話を耳にした時、「まったく問題ないのに、うるさい虫達だ。私が処分してやろう」と低く唸り声を上げていた。
「まったく問題ない」とキッパリ言い切るウェイズリーのことを不思議に感じたが、シルヴェスターもそのことには同意している。伴侶はユーリス一人で十分だった。だが、ただ思うだけで相手を抹殺できる狂暴な黄金竜(雛)が、うるさい相手をすぐさま殺そうとすることは止めなければならなかった。
しかし、その話を耳にしたユーリスは違っていて、彼はひどく悩んでいる様子があった。
そんな話を耳にしなければいいのに、わざわざユーリスにご注進した者がいたようで、以来、彼の表情が冴えない。
男同士の婚姻は、この世界ではよくあることで、後継者が必要な場合には養子を迎えることが当然だった。シルヴェスターとユーリスが結婚した場合、シルヴェスターは養子を迎える。そう、彼もユーリスの問いかけにあっさりと答えていた。
しかし、そうは言ってもユーリスは、王宮に出入りを許された商会長の息子として、ラウデシア王国の王家のありようを近くで見てきた。世継ぎの一番上の王子と、その下の二番目の王子は、伴侶に高貴な女性を迎えている。シルヴェスター王子も、そうすることが普通なのだ。
ゴルティニア王国の王家の存続のため、シルヴェスターは一人といわず、多くの子孫を作る義務がある。彼は養子を迎えると言っているが、王家の将来を思うならば、妃には女性を迎えるべきなのだ。
だが、シルヴェスターが自分とは別に妃を迎え、その者を抱くことを想像するだけでもユーリスは嫌だった。暗く表情を翳らせるユーリスに、シルヴェスターは何度も言った。
「私の伴侶はお前だけで、お前以外の誰も迎えようとは思わぬ」
そう言って、ユーリスの身をきつく抱きしめる。
シルヴェスターの言葉は真剣で、嘘偽りの一つもない。だが、本人がそう口で言っていたとしても、周りがそれを放ってはおかないことを、ユーリスはよく理解していた。
(悩んでいるユーリスも綺麗で可愛い)
そんなことを、シルヴェスター王子の中の黄金竜ウェイズリーは呟いている。
実際、毎夜、シルヴェスター王子から愛でられているユーリスは、匂うように美しい。元から美しい青年であるのだが、相愛のシルヴェスターに愛を囁かれているのだ。彼が輝くように美しいことは当然だった。その色香に惑う者が出ないように、ウェイズリーは常にユーリスのそばに“金色の芽”を張り巡らせなければならなかった。
クラン“竜の牙”の面々は、いかにシルヴェスター王子がこのユーリスに首ったけであるかをよく知っていたから、決してユーリスに手を出そうとは思っていなかった。しかし、新王国建国のため、新たに雇い入れられた文官や騎士達で、城の人口はにわかに膨れ上がっている。シルヴェスター王子とユーリスの関係をよく知らない者達も当然そこにはいて、ユーリスにちょっかいを出そうとする者達もちらほらと見られたものだから、黄金竜ウェイズリーは、ユーリスに近づこうとする者達を常に“すっ転ばして”いた。
自分に近づこうとする者が、時々派手に、城の中で転倒している様子を見て、ユーリスはすぐにそれが黄金竜ウェイズリーによるものだと分かった。
そして「怪我をさせては駄目だよ」と優しく小さな黄金竜の雛に言って、黄金竜の雛ウェイズリーは「キュルルルキュー(分かってるよ、ユーリス)」と、愛しい青年の胸に身をすり寄せるのだった。
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