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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第六章 その王子と竜に愛されたら大変です(下)
第二十話 黄金竜の反省と誤算
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次の瞬間、目の前のシルヴェスター王子が、小さな黄金竜ウェイズリーに姿を変えた。
キラキラと輝く黄金色の鱗を持つ大層美しい黄金竜である。
その竜は、現れた時から寝台横の椅子の上に項垂れて小さく小さくなっていた。
何故かこの竜は、気落ちするとその姿をさらに小さくしてしまうようだった。
今、黄金竜ウェイズリーは、赤ん坊の拳ほどの大きさにまで縮んでいて、尻尾も下げ、頭も深々と下げた状態だった。
「キ…………キュウゥゥゥゥゥゥ(ユ…………ユーリス、すまない)」
黄金竜ウェイズリーは、ユーリスが意識なく眠っている間、シルヴェスター王子からしこたま叱られていたのだった。
勝手に、ユーリスの許しなくユーリスの身体を変えてしまったこと。
そのことをユーリスに話すことなく、彼を抱いて身籠らせて、あまつさえ、産みの苦しみの中、一人にさせたこと。
今回は無事にユーリスが卵を産み落とせたから良かったが、これがどこかへユーリスが外出している時に起きたのならどうするのだ。卵もユーリスの身も大変なことになっていたはずだ。
そうしたことを一つ一つ、シルヴェスターに突きつけられ、叱られた黄金竜ウェイズリーは「……キュウゥゥゥゥゥゥ」と情けない声を上げ、深く反省していた。
実際、言われた通りだった。
もしユーリスが誰かと会っている時にそれが起きたのなら?
そして我慢強い彼がギリギリまでそれに我慢していたのなら?
振り返ってみても、恐ろしい事態になっていたのではないかと思う。
黄金竜ウェイズリーは「キュウキュウキュウウゥゥゥゥ(お前をひどく苦しめてしまった)」
何よりも愛しい番を混乱させ、苦しませるつもりは、黄金竜ウェイズリーには毛頭なかったのだ。だが、結果的にそうしてしまっている。
ユーリスの前に現れたウェイズリーは、消え失せそうなほど、これ以上ないくらいに身を縮こませている。
そしてひっきりなしにカタカタと震えていた。
こんなことをしては、愛しいユーリスから嫌われてしまう。
そう思いつめている黄金竜の雛は身体の震えを止めることが出来なかった。
この小さな竜が、番のユーリスだけを一途に想って、「嫌われたら生きていけない」と口走るほどにユーリスのことを愛していることを、ユーリスもシルヴェスターも知っていた。
何もかも全て叶えることができる、神の如し全能に等しい力を持つ黄金竜。ユーリスは、彼のこの世の唯一の弱点であり、生きる目的でもあった。
誰よりも愛おしく、そしてこの世の誰よりも彼から嫌われることを恐れている。
ずっと震えながら、黄金色の瞳でユーリスの様子を窺うように見つめる黄金竜ウェイズリー。ユーリスはため息をついた。
「ウェイズリー、おいで」
そう言われると、ウェイズリーは少しばかりためらうような仕草を見せた後、すぐさまユーリスの広げた腕の中に、彼の胸元に飛び込んでいった。
小さな竜の滑らかなその鱗を優しく撫でながら、ユーリスは言った。
「もう、私に内緒でこんなことをしてはならない」
「キュウゥゥ(勿論だ)」
「そう。分かったのならいい」
あまりにもあっさりとユーリスが、黄金竜ウェイズリーのしでかしたことを許したので、黄金竜ウェイズリーのみならず、同化しているシルヴェスター王子も驚いていた。
(そんなことで許してしまうのか!?)
もっとこっぴどく叱りつけてやらなければならないと、シルヴェスター王子がウェイズリーの中で憤っている。だが、ユーリスは、未だ弱ったような笑みを浮かべてそれ以上何かを言うことはなかった。
卵を産まされたことには驚いたし、それについては勿論頭にもきた。
でも、考えてみれば、シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーとの間の子が欲しいと望む感情が、確かにユーリスの中にはあった。
男の身であるならば、シルヴェスター王子の子を孕むことは出来ないと、はなから諦めていた。
王国の後継者たるシルヴェスター王子の、その次の世代を継ぐために、シルヴェスター王子に別の妃を宛がおうとする動きもあった。そのことにユーリスはずっと不安を抱えていた。ユーリスではない誰か別の妃を王子に宛がわれることについて、耐えなければならないとも深刻に考えていた(シルヴェスターは養子を迎えればいいと、新たな妃を迎え入れることには強く否定していた)。
でも、自分が卵を産むことが出来るなら、問題ないのではないか。
勿論、後継者が人間の子ではないという大きな問題がある。しかし、そもそもシルヴェスター王子は黄金竜と同一体なのだ。
「それで、私の産んだ卵を見せてくれないか」
そう言われて、ウェイズリーはコクコクと頷き、ユーリスの目の前に真っ白い卵を差し出した。
鶏卵の卵よりもやや大きな卵は温かかった。
ユーリスの手に優しく包まれた瞬間、その卵は嬉しそうに震えた気がした。
だが、こうして番に許してもらった黄金竜ウェイズリーには一つの大きな誤算があった。
ユーリスの産んだ真っ白い卵から生まれた、新たな黄金竜の雛と、ユーリスの胸元の温かくて気持ちの良い場所を巡り、血で血を洗うような熾烈な争いを繰り広げることを。
今はまだ、ウェイズリーは知らなかったのである。
キラキラと輝く黄金色の鱗を持つ大層美しい黄金竜である。
その竜は、現れた時から寝台横の椅子の上に項垂れて小さく小さくなっていた。
何故かこの竜は、気落ちするとその姿をさらに小さくしてしまうようだった。
今、黄金竜ウェイズリーは、赤ん坊の拳ほどの大きさにまで縮んでいて、尻尾も下げ、頭も深々と下げた状態だった。
「キ…………キュウゥゥゥゥゥゥ(ユ…………ユーリス、すまない)」
黄金竜ウェイズリーは、ユーリスが意識なく眠っている間、シルヴェスター王子からしこたま叱られていたのだった。
勝手に、ユーリスの許しなくユーリスの身体を変えてしまったこと。
そのことをユーリスに話すことなく、彼を抱いて身籠らせて、あまつさえ、産みの苦しみの中、一人にさせたこと。
今回は無事にユーリスが卵を産み落とせたから良かったが、これがどこかへユーリスが外出している時に起きたのならどうするのだ。卵もユーリスの身も大変なことになっていたはずだ。
そうしたことを一つ一つ、シルヴェスターに突きつけられ、叱られた黄金竜ウェイズリーは「……キュウゥゥゥゥゥゥ」と情けない声を上げ、深く反省していた。
実際、言われた通りだった。
もしユーリスが誰かと会っている時にそれが起きたのなら?
そして我慢強い彼がギリギリまでそれに我慢していたのなら?
振り返ってみても、恐ろしい事態になっていたのではないかと思う。
黄金竜ウェイズリーは「キュウキュウキュウウゥゥゥゥ(お前をひどく苦しめてしまった)」
何よりも愛しい番を混乱させ、苦しませるつもりは、黄金竜ウェイズリーには毛頭なかったのだ。だが、結果的にそうしてしまっている。
ユーリスの前に現れたウェイズリーは、消え失せそうなほど、これ以上ないくらいに身を縮こませている。
そしてひっきりなしにカタカタと震えていた。
こんなことをしては、愛しいユーリスから嫌われてしまう。
そう思いつめている黄金竜の雛は身体の震えを止めることが出来なかった。
この小さな竜が、番のユーリスだけを一途に想って、「嫌われたら生きていけない」と口走るほどにユーリスのことを愛していることを、ユーリスもシルヴェスターも知っていた。
何もかも全て叶えることができる、神の如し全能に等しい力を持つ黄金竜。ユーリスは、彼のこの世の唯一の弱点であり、生きる目的でもあった。
誰よりも愛おしく、そしてこの世の誰よりも彼から嫌われることを恐れている。
ずっと震えながら、黄金色の瞳でユーリスの様子を窺うように見つめる黄金竜ウェイズリー。ユーリスはため息をついた。
「ウェイズリー、おいで」
そう言われると、ウェイズリーは少しばかりためらうような仕草を見せた後、すぐさまユーリスの広げた腕の中に、彼の胸元に飛び込んでいった。
小さな竜の滑らかなその鱗を優しく撫でながら、ユーリスは言った。
「もう、私に内緒でこんなことをしてはならない」
「キュウゥゥ(勿論だ)」
「そう。分かったのならいい」
あまりにもあっさりとユーリスが、黄金竜ウェイズリーのしでかしたことを許したので、黄金竜ウェイズリーのみならず、同化しているシルヴェスター王子も驚いていた。
(そんなことで許してしまうのか!?)
もっとこっぴどく叱りつけてやらなければならないと、シルヴェスター王子がウェイズリーの中で憤っている。だが、ユーリスは、未だ弱ったような笑みを浮かべてそれ以上何かを言うことはなかった。
卵を産まされたことには驚いたし、それについては勿論頭にもきた。
でも、考えてみれば、シルヴェスター王子と黄金竜ウェイズリーとの間の子が欲しいと望む感情が、確かにユーリスの中にはあった。
男の身であるならば、シルヴェスター王子の子を孕むことは出来ないと、はなから諦めていた。
王国の後継者たるシルヴェスター王子の、その次の世代を継ぐために、シルヴェスター王子に別の妃を宛がおうとする動きもあった。そのことにユーリスはずっと不安を抱えていた。ユーリスではない誰か別の妃を王子に宛がわれることについて、耐えなければならないとも深刻に考えていた(シルヴェスターは養子を迎えればいいと、新たな妃を迎え入れることには強く否定していた)。
でも、自分が卵を産むことが出来るなら、問題ないのではないか。
勿論、後継者が人間の子ではないという大きな問題がある。しかし、そもそもシルヴェスター王子は黄金竜と同一体なのだ。
「それで、私の産んだ卵を見せてくれないか」
そう言われて、ウェイズリーはコクコクと頷き、ユーリスの目の前に真っ白い卵を差し出した。
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ユーリスの手に優しく包まれた瞬間、その卵は嬉しそうに震えた気がした。
だが、こうして番に許してもらった黄金竜ウェイズリーには一つの大きな誤算があった。
ユーリスの産んだ真っ白い卵から生まれた、新たな黄金竜の雛と、ユーリスの胸元の温かくて気持ちの良い場所を巡り、血で血を洗うような熾烈な争いを繰り広げることを。
今はまだ、ウェイズリーは知らなかったのである。
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