転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第八章 永遠の王の統べる王国

第九話 親善旅行へ(3)

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 ユーリスとルドガーの二人が、ハルヴェラ王国に向けて出発した。
 ゴルティニア王国の次期国王、シルヴェスター王子の伴侶たる王族の公務である。煌びやかな軍衣をまとった多く騎士達、そして多くの侍従、侍女達、また交流のための官僚達を引きつれた馬車の旅となり、ゴルティニア王国の特産品の贈り物までギッシリと載せた馬車も連なり、それは長い車列が続いた。
 当然、ハルヴェラ王国へ到着するまで通常よりも時間を要することになる。
 
 ルドガーは内心(竜になってユーリスだけ背中に乗せて飛んでいけば、ひとっ飛びのことなのに。こんな不合理な旅をするなんて)と、相変わらず不満たらたらである。
 事前にそのことはユーリスに言っていたのだが、ユーリスはルドガーが黄金竜の力を使うことを許さなかった。ルドガーが「なら、ずっと僕が竜であることを、皆には発表しないの?」と尋ねると、ユーリスは静かに告げた。

「いつか、私達が黄金竜に連なる者だという話を国民に報せなければならないだろう。でもそれは、今ではない」

 先のサトー王国との戦いで、勝利に大いに貢献した黄金竜。それとシルヴェスター王子が同化していることを国民に知らしめても、抵抗はないのではないかという思いもある。しかし、同時に、あまりにも尋常ならざる神の如しその力が、人々から畏れられる可能性は高い。そしてまた、自分達が年をとらない理由を、いつか国民に話さなければならないだろう。その時までに、人々に受け入れられる土壌を作らなければならなかった。

「それに、我慢を覚えることも大切なことだ」

 そう諭されたルドガーは、眉を寄せ、馬車の窓から見える景色の変化をじっと眺めている。
 ルドガーは我慢していた。
 今日だって、もう昼の時刻を過ぎたのに、ルドガーはラウデシア王国のジャクセンのところには飛んでいっていない。
 ルドガーの祖父ジャクセンは、ルドガーがハルヴェラ王国へ公務で行くことについて、褒めてくれた。滅多に褒めない彼が、ルドガーのことを褒めてくれたものだから、嬉しくて「僕は我慢して行って来ようと思います」と言ってしまった。現実に、これから公務の間、ジャクセンとずっと会えなくなると思うと、早まった言葉を言ってしまったと後悔する気持ちもある。大好きなジャクセンに会えない。寂しくて悲しくて辛い。

 ルドガーが、ぐすんと鼻を鳴らして、青い目を潤ませて外を眺めていると、ユーリスがルドガーに声をかける。

「おいでルドガー。お膝にのせてあげよう」

 その言葉にルドガーは頷いて、ユーリスの膝に座って、ユーリスにしがみついた。
 ルドガーがすすり泣いている様子に、ユーリスは彼の頭を撫でる。

「ルドガー、そんなに辛いのかい」

「うん」



 おじいさまに会えないことが辛い。
 すごく辛い。

 でもそんなことを言ったら、ユーリスに叱られる。

 だってユーリスは、僕がおじいさまを好きな事を嫌がるから。

 だからユーリスには、僕がどうして辛いのか、話せない。

 そしてユーリスは、そのことを知っている。

 優しいユーリスは困ったものだと僕の事を思っている。




 ユーリスは黙って、膝の上に座っているルドガーの背中をさすり続けた。
 やがてルドガーが、触れるユーリスの肌の温かさと馬車の揺れにうとうととして眠りに落ちてしまうまで、彼はずっと優しく撫でてくれていたのだ。

 馬車の旅はまだ始まったばかりだった。




 夜になり、馬車の車列は予定していた街の領主の館に停まった。
 ゴルティニア王国内を移動する間は、ゴルティニア領内の領主の館に泊まり、ゴルティニア王国から出た後は、外国の高位貴族や有力者の館に宿泊することになっており、その宿泊についても事前にすべて手配されていた。当然、それは王族としての外交の一つであり、ユーリスはルドガーを連れて笑顔でそつなくそれらの公務をこなしていた。ルドガーも、既にそうしたことはきちんと理解し、日々、教育を受けていたため、我儘言わずにユーリスの傍らにいる。

 ただ、ルドガーが思わず我儘を言いたくなったのは、夜になった時、あることが起きたせいだった。与えられた客室に入ってしばらく経つと、ユーリスの寝床に、小さな黄金竜の姿をしたウェイズリーが、「キュルキュルキュイキュイ!!(ユーリス 寂しかった!!)」と鳴いて現れ、ユーリスの胸元にひしとしがみついたのだ。

(僕は、おじいさまに会うのを我慢しているのに!!!!)

 ルドガーは青い目をキリキリと釣り上げて、自分の父親であるウェイズリーを睨みつける。
 そんな息子の様子など、全く気にも留めていないウェイズリーは、ユーリスの胸元にしがみついて「キュイキュルルルゥキュルルルルゥ(今日もユーリスは素敵だな。会えて嬉しい。疲れていないか)」と愛する番に会えたことが嬉しくて、金色の瞳をキラキラと輝かせ、尻尾をぶんぶんと振っている。
 ユーリスも自分とウェイズリーは会っているのに、息子ルドガーには我慢させていることにバツが悪いと思うのか、「ウェイズリー、勝手に来てはだめじゃないか」と困り顔でウェイズリーを注意しているが、ウェイズリーは全く気にしていなかった。黄金竜ウェイズリーには息子ルドガーの心情を気遣う気持ちなど欠片もなかったのだ。

 転移魔法は、一度でも行ったことのある場所にしかいけない。ウェイズリーがこの領主の屋敷に間違いなく転移して来ているということは、恐らく宿泊地が決定した時、事前にその宿泊予定地に飛んでいって場所の記憶をしていたということなのだろう。ウェイズリーのことだ。これから先の宿泊予定地すべてをすでに記憶しているはずだ。親善旅行の番についていく気満々なのである。番愛が強すぎて怖いくらいである。

 ルドガーは、ユーリスの胸元にしがみついている小さな黄金竜の尻尾を掴むと、グイと引っ張ってユーリスの胸元から引きはがした。ポイとウェイズリーの身体を寝台の上に投げ捨てる。

「キュー!!!!!!」

 黄金色の瞳を大きく開いて、驚くウェイズリーに、今度はルドガーがユーリスの胸元にしがみついて言った。

「僕達は公務で来ているんだ。ウェイズリー、邪魔せずにサッサと城へ帰れ!!」

「キュイィ!!(この!!)」

 怒ったウェイズリーが、ルドガーに飛び掛かる。五歳の子供姿のルドガーと、小さな黄金竜のつかみ合いの喧嘩が始まる。ユーリスは頭が痛そうな顔をして、ルドガーと黄金竜ウェイズリーの身体を引きはがす。

「キュイキュイキュルルル!!(こいつが悪いんだ!!)」

 ウェイズリーは、不満顔で、ピシピシと尻尾で寝台のシーツを叩きながら言った。

「キュウキュルルルルゥキュウキュウウゥゥキュイ!!(父親である私を投げるなんて、とんでもない子供だ。ユーリス、こいつを叱ってくれ!!)」

「……ウェイズリー」

 ユーリスはため息をついて言った。

「私達は公務でここに来ているんだ。黄金竜である君の姿を、万が一、他の者に見られてはマズイ」

「キュ?」

 黄金竜ウェイズリーは、可愛らしく小首を傾げて疑問の表情を浮かべる。

「だから、城に戻ってくれ」

「キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 まさか自分が、愛する番に追い返されるとは思っても見なかったウェイズリーは、驚愕の表情で、口をパックリと開けて、震えている。それをザマァミロと言う表情で、ルドガーが見つめている。
 そんな父親と息子の仲の悪い様子に、ユーリスはドッと疲れを覚えていた。

「悪いがウェイズリー。私の言うことを聞いてくれ」

 ウェイズリーは、みるみる黄金色の瞳に玉のような涙を浮かべ、悲しそうな声で「キュウウゥゥゥ」と弱々しく鳴くと、そのまま窓をバリンと破って外へと飛び出して行ってしまった。
 破れた窓から外の冷たい風が部屋の中に入ってきて、カーテンがハタハタと大きく揺れる。
 そしてその窓を破る大きな音に、別室に控えていた護衛の騎士達が何事かと血相を変えて飛び込んできて、「大丈夫ですか、ユーリス様!!」と言ったので、ユーリスは「……ええ、大丈夫です」と答えた。ユーリスは、窓の向こう、夜の闇の中に消えた自分の夫たる小さな黄金竜のことを、ため息と共に思うのだった。
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