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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第八章 永遠の王の統べる王国
第二十話 妹達の結婚
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コレットとベアトリスの結婚式は、バンクールの邸宅敷地内に設けられている小さな神殿で挙げられた。その後、屋敷の庭とその庭に面した幾つかの部屋を解放した場所で盛大な宴が開かれた。
コレットの夫となる男は、バンクール家の商売をゆくゆくは引き継ぐとされ、すでに本店で勤務している、背の高いハンサムな男だった。そしてベアトリスの夫は、バンクール家と取引のある東部の生糸取り扱い商人だった。生糸の生産から販売まで取り行っているというその若い男もまた柔和で整った顔立ちをしている。二人とも優秀で仕事の出来る、悪い噂の一つもない男達だった。そして何よりもコレットとベアトリスに優しく、彼女らを愛している様子だった。母親に似ている亜麻色の髪をした美しい姉妹には求婚者が絶えなかったが、ジャクセンの目に適ったのがこの二人の若者だった。
ジャクセンとそっくりの顔立ちをしているユーリスが、庭の披露宴会場に現れると、多くの人々のざわめきと好奇の視線が向けられる。バンクール家の嫡男で、将来はバンクールの家と商売を継ぐとされていた美貌の若者は、ゴルティニア王国の王子と恋に落ち、その伴侶としてゴルティニア王国で生活している。ゴルティニア国王にも目を掛けられ、大臣フィアの片腕として働くユーリスとお近づきになりたいと望む者達は老若男女問わず多かったが、彼のそばには常にシルヴェスター王子がおり、ユーリスには容易に近づけない。またこのような場所では、シルヴェスター王子とユーリスは、ゴルティニア王国から複数の護衛と侍従を伴ってきており、彼らもまた二人の盾のような役割を果たしていた。
そしてユーリスのすぐそばには、シルヴェスター王子によく似た青い瞳の子供がいた。ルドガー王子である。彼は白を基調とした小さなブーケの花束を三つ手に持っていた。
「ユーリス、この花束を渡してきていい?」
披露の宴で、主賓席に着く二組のカップルの元には、ひっきりなしにお祝いを渡す出席者達が訪れていた。
「いいよ、いっておいで」
ユーリスが言うと、ルドガーは花束を持って走り出す。彼と一緒に、今日付けられている護衛の騎士も移動していた。ルドガーは幼くても黄金竜であるから、彼を傷つける存在などいないのだが、このような場所では、ルドガーは煩わしいと言うが、護衛をつけている。
ユーリスは、ルドガーが、純白の衣装を身に付けた美しい妹達に花束を渡す様子を眺めていた。
お返しに、小さな陶器の箱に入った砂糖菓子を受け取っている。
それから、ルドガーは何故か花嫁の父であるジャクセンの元へ走り寄り、何故か小さな花束を、妹達に渡した時と同じように渡していた。ジャクセンの戸惑っている様子を見て、ユーリスは吹き出しそうになる。
「どうしたんだ」
そばにいるシルヴェスター王子から尋ねられると、ユーリスは笑いながら答えた。
「ルドガーが、結婚式に花束を三つも持っていくと話していたのですが、それがどうしてなのか分からなかったのです。ですが、今、分かりました。ルドガーは花束の一つを父上にも渡したかったようです」
それでシルヴェスター王子も視線をルドガーのいる方へ向けて、笑った。
「花嫁の父にも渡すのか」
「ルドガー本人はまったくおかしいと思っていないのでしょうね」
むしろ、ルドガーはジャクセンが戸惑いながらも小さな花束を受け取ってくれたことに、嬉しそうだった。だが、ジャクセンがその花束を妻のルイーズに渡した時には、少し眉を曇らせている。しかし、ジャクセンが膝の上にルドガーを乗せたことで、単純にも機嫌よくしている。
思い返してみれば、かつて黄金竜ウェイズリーも、ユーリスの部屋に毎日のように小さな花束を届けていた。赤や黄色、青や白の小さくて可愛らしい花束。野に咲く花を束にしていた時もあれば、遠い異国の見たこともない花の束の時もあった。いったい誰が、窓辺に届けてくれたのだろうとユーリスは思っていた。そして黄金竜ウェイズリーがそれを届けていたと知った時、彼のいじらしさをユーリスは知った。脇目もふらず、ただ番だけを追い求める黄金竜。
ルドガーも、ウェイズリーの息子だ。
彼らはよく似ている。
でも、それでは駄目なのだ。
ユーリスは、ジャクセンの膝の上であどけなく笑っているルドガーを見て思う。
ジャクセンはルドガーの祖父で、ユーリスの父親だ。それに彼には妻のルイーズもいる。
どんなに恋い焦がれようとも、ルドガーの手には届かない。
「シルヴェスター、ハルヴェラ王国から王女方が親善に参りたいという話が来ています」
「受け入れる方向で進めるのだろう?」
ユーリスの言葉にシルヴェスターは、ワインの入ったグラスを揺らす。そしてそのワインを口にしていた。
「内々に、王女の一人をルドガーの婚約者に、という話も来ています」
シルヴェスターは、そう言ったユーリスの目をじっと見つめて言った。
「それは無理だろう。私は、ルドガーが道ならぬ恋をしているからといって、他の者をあてがうことはしたくない。ルドガーもその者も不幸になる。それはユーリス、お前もよく分かっているはずだ」
その指摘に、ユーリスはやがてうなずいた。
「…………そう、ですね」
ユーリスもまた、シルヴェスター王子と恋に落ちた後、自身の婚約者であった少女と婚約を解消した。
「別れたくない」と、目に涙を浮かべてすがった婚約者の少女の姿を思い出す。それはひどく苦い記憶だった。
「婚約の話はなしだ。ルドガーのことは、ルドガーが諦めるべきことを自分で分かるまで、放っておくしかない」
そう言ってシルヴェスターはユーリスの前に置かれたグラスの一つにワインを注ぎ、「飲め」と促した。ユーリスはワインを一気にあおいで飲んだのだった。
コレットの夫となる男は、バンクール家の商売をゆくゆくは引き継ぐとされ、すでに本店で勤務している、背の高いハンサムな男だった。そしてベアトリスの夫は、バンクール家と取引のある東部の生糸取り扱い商人だった。生糸の生産から販売まで取り行っているというその若い男もまた柔和で整った顔立ちをしている。二人とも優秀で仕事の出来る、悪い噂の一つもない男達だった。そして何よりもコレットとベアトリスに優しく、彼女らを愛している様子だった。母親に似ている亜麻色の髪をした美しい姉妹には求婚者が絶えなかったが、ジャクセンの目に適ったのがこの二人の若者だった。
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そしてユーリスのすぐそばには、シルヴェスター王子によく似た青い瞳の子供がいた。ルドガー王子である。彼は白を基調とした小さなブーケの花束を三つ手に持っていた。
「ユーリス、この花束を渡してきていい?」
披露の宴で、主賓席に着く二組のカップルの元には、ひっきりなしにお祝いを渡す出席者達が訪れていた。
「いいよ、いっておいで」
ユーリスが言うと、ルドガーは花束を持って走り出す。彼と一緒に、今日付けられている護衛の騎士も移動していた。ルドガーは幼くても黄金竜であるから、彼を傷つける存在などいないのだが、このような場所では、ルドガーは煩わしいと言うが、護衛をつけている。
ユーリスは、ルドガーが、純白の衣装を身に付けた美しい妹達に花束を渡す様子を眺めていた。
お返しに、小さな陶器の箱に入った砂糖菓子を受け取っている。
それから、ルドガーは何故か花嫁の父であるジャクセンの元へ走り寄り、何故か小さな花束を、妹達に渡した時と同じように渡していた。ジャクセンの戸惑っている様子を見て、ユーリスは吹き出しそうになる。
「どうしたんだ」
そばにいるシルヴェスター王子から尋ねられると、ユーリスは笑いながら答えた。
「ルドガーが、結婚式に花束を三つも持っていくと話していたのですが、それがどうしてなのか分からなかったのです。ですが、今、分かりました。ルドガーは花束の一つを父上にも渡したかったようです」
それでシルヴェスター王子も視線をルドガーのいる方へ向けて、笑った。
「花嫁の父にも渡すのか」
「ルドガー本人はまったくおかしいと思っていないのでしょうね」
むしろ、ルドガーはジャクセンが戸惑いながらも小さな花束を受け取ってくれたことに、嬉しそうだった。だが、ジャクセンがその花束を妻のルイーズに渡した時には、少し眉を曇らせている。しかし、ジャクセンが膝の上にルドガーを乗せたことで、単純にも機嫌よくしている。
思い返してみれば、かつて黄金竜ウェイズリーも、ユーリスの部屋に毎日のように小さな花束を届けていた。赤や黄色、青や白の小さくて可愛らしい花束。野に咲く花を束にしていた時もあれば、遠い異国の見たこともない花の束の時もあった。いったい誰が、窓辺に届けてくれたのだろうとユーリスは思っていた。そして黄金竜ウェイズリーがそれを届けていたと知った時、彼のいじらしさをユーリスは知った。脇目もふらず、ただ番だけを追い求める黄金竜。
ルドガーも、ウェイズリーの息子だ。
彼らはよく似ている。
でも、それでは駄目なのだ。
ユーリスは、ジャクセンの膝の上であどけなく笑っているルドガーを見て思う。
ジャクセンはルドガーの祖父で、ユーリスの父親だ。それに彼には妻のルイーズもいる。
どんなに恋い焦がれようとも、ルドガーの手には届かない。
「シルヴェスター、ハルヴェラ王国から王女方が親善に参りたいという話が来ています」
「受け入れる方向で進めるのだろう?」
ユーリスの言葉にシルヴェスターは、ワインの入ったグラスを揺らす。そしてそのワインを口にしていた。
「内々に、王女の一人をルドガーの婚約者に、という話も来ています」
シルヴェスターは、そう言ったユーリスの目をじっと見つめて言った。
「それは無理だろう。私は、ルドガーが道ならぬ恋をしているからといって、他の者をあてがうことはしたくない。ルドガーもその者も不幸になる。それはユーリス、お前もよく分かっているはずだ」
その指摘に、ユーリスはやがてうなずいた。
「…………そう、ですね」
ユーリスもまた、シルヴェスター王子と恋に落ちた後、自身の婚約者であった少女と婚約を解消した。
「別れたくない」と、目に涙を浮かべてすがった婚約者の少女の姿を思い出す。それはひどく苦い記憶だった。
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