転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  第十章 蝶の夢(下)

第一話 目覚め

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 ユーリスが目を覚ましたのは、その年の秋の終わり頃だった。ユーリスが眠りについてから半年もの月日が経っていた。
 その日、寝台の上で横たわっていたユーリスの瞼がピクリと震え、青い目が薄く開く。
 ユーリスの胸の上で丸くなっていた小さな黄金竜も頭を上げて、「キュルキュルキュー」と鳴いて、番の目覚めに尻尾を振り、頭をユーリスの頬に擦りつける。

 目覚めたばかりのユーリスはどこかぼんやりとしていた。甘えてくる小さな黄金竜を腕に抱いて、身をゆっくりと起こす。
 
「キュルキュルキュイキュイ」

 黄金竜ウェイズリーは、番の目覚めが嬉しくて、ずっと甘えて鳴いている。
 ユーリスの副官セリムが部屋に入って来た。

 彼は両手に持っていた綺麗な花の活けられた花瓶をそのまま床に落としてしまう。
 当然、引力の法則に従って花瓶は床の上でガッシャンと大きな音を立てて粉々に割れ、水が飛び散り、花も床に散らばり落ちていく。
 セリムは目を大きく見開き、叫ぶように言った。

「ユーリス殿下!! 目を覚まされたのですか!!」

 ユーリスは視線をセリムに向けた。

「……セリム」

「あああ、良かった!! 良かった!!」

 セリムはすぐさまユーリスの横になっている寝台に近寄ると、ユーリスの腰にしがみつくようにして、抱きつき、声を上げて泣き始めた。

「本当に良かったです!! もう、ずっとユーリス殿下は目を覚まさなかったので、どうしようと思っていたんです!! このまま眠り続けて死んでしまうんじゃないかとも思っていたので」

「……そんなに私は眠っていたのか?」

 不思議そうな声で、ユーリスはセリムに尋ねる。
 ユーリスが最後に記憶していた光景は、息子のルドガーがユーリスに魔法をかけた姿だった。あの時、一瞬で意識を消失してしまった。おそらくルドガーによって魔法で眠らせられたのだろう。
 何故、ルドガーが自分を眠らせたのか分からない。
 あの時ルドガーは「ごめん、ユーリス。どうしてもこうしないとダメみたいなんだ。ジャクセンのためにも、こうするしかないんだ」と言い訳するかのように言っていた。
 ルドガーが、亡くなった父ジャクセンの名を口に出した理由も分からない。

「はい。ユーリス殿下はものすごく長い間、眠っていらっしゃったんですよ」

「どれくらい眠っていたのだ」

 その問いかけに、セリムは指を折って数えた後、「半年もの間、寝ていました!!」と大きな声で答えたのだった。
 ユーリスの目は驚きで開かれた。

「………………半年? 半年だって?」

「そうです。半年もの間、ずーとユーリス殿下は寝ていらしたんですよ。揺すっても起きないし、大きな声で話しかけても、起きませんでした。仕方ないので、空中城に連れてきて、様子を見ていたんです」

「待ってくれ。本当に私は半年もの間、眠っていたのか」

「そうです」

 ユーリスは信じられないような顔をしていた。
 それから自分の額を押さえるようにして考え込む。

「半年だって。その間、シルヴェスターは……陛下はどうしていらっしゃった」

 自分がいない間、当然、伴侶であるシルヴェスターは不安と心配に苛まれていただろう。すぐさま彼に会って、話がしたかった。自分が目覚めたことをすぐに知らせたい。

 しかしユーリスの言葉を聞いて、副官のセリムは眉を寄せ、困ったような顔をしていた。

「……シルヴェスター国王陛下は、今ちょっと、マズイ状態になっていまして」

 時折ユーリスの様子を見にやって来る、ルドガー王子からセリムは、ゴルティニア王国の王城の様子を聞いていた。王城では、シルヴェスター国王も、その周囲の貴族達も、官僚達も、ユーリスに関する記憶を失い、彼がいない状態を受け入れていた。それもこれも、白銀竜達のせいだろうとセリムは考えていた。

「マズイ状態とは一体何なんだ」

 自分が眠っている間、シルヴェスターの身に何か起きたのではないかと今度はユーリスが懸念の表情を浮かべる。それでセリムはユーリスのそばに椅子を運んで来て、それからユーリスが眠りについている間に起こった出来事を、時間をかけて話したのだった。

 すべての話を聞き終わった時、ユーリスは少しばかり青ざめていた。

「白銀竜が、ゴルティニア王国の王城にいて、陛下のみならず王城の人々すべてに魔法をかけているというのか」

「はい」

「シルヴェスターまで、術にかかっているとは」

 黄金竜ウェイズリーと“融合”している間、その身体が無防備になってしまったのだろう。そこに白銀竜達がつけこんで、シルヴェスターは精神支配を受けている。
 シルヴェスターのことを思うと、彼のことが心配でいても立ってもいられず、ユーリスはすぐにでもゴルティニア王国の王城に行きたいと思った。直接シルヴェスターと顔を合わせて会えば、もしかしたら自分のことを思い出してくれるのではないかとも思う。
 
 しかし、それをユーリスの腕の中にいる小さな黄金竜ウェイズリーが止めた。

「キュルキュルキュイキュイキューキュー」

 小さな黄金竜は懸命に鳴いて、番の青年がゴルティニア王国の王城へ向かうのを止めようとしていた。

「何故、ダメだというのだ、ウェイズリー」

 ついには小さな黄金竜はユーリスの腰にしがみついて、プルプルと頭を振る。

「なんだか絶対に行っちゃダメだって言っているみたいですね」

 その様子を見て、セリムはそう言う。
 ユーリスはウェイズリーを見つめる。

 この小さな黄金竜は、黄金竜ウェイズリーの鱗から作られた、ウェイズリーの力の三分の一を持つ生き物で、ユーリスの身を守ることを第一にしている。小さく作られた故か、話す竜の言葉もどこか幼い子供のようにたどたどしい(なお、竜語はユーリスには分かるが、セリムには理解できなかった)。

 小さな黄金竜ウェイズリーは、ユーリスの腰にしがみついて「キュルキュルキュイキュイキューキュー(行っちゃダメ、行っちゃダメだよ、ユーリス)」と話していたのだ。

「どうしてそんなに止めるんだ。シルヴェスターに会って、私の事を思い出してもらわないといけない。そうしなければみんな困ってしまう」

 小さな黄金竜はプルプルと小さな頭を振り、懸命に言った。

「キュルキュルキュイキュイキュルルルキュイキュルルゥ(卵。卵があるから、ユーリスはダメ。シルヴェスターに会ったらダメ。シルヴェスターは白銀竜にだまされてる。ユーリスが危ない)」

 小さな黄金竜ウェイズリーは、身をユーリスに押し付けてそう言う。
 ユーリスは、驚いて動きを止めた。

「…………卵?」

 それで、小さな黄金竜ウェイズリーは、金色の瞳をキラキラと輝かせて頷いた。

「キュルキュルゥキュイキュルキュルキュイキュルルルゥキュル(うん。卵だよ。ユーリスは卵を持っている。だからユーリスはずっと眠っていた。卵が、ユーリスが戻ることを望まなかったから)」

 その言葉に、文字通りユーリスは呆然としたのだった。
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