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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第十章 蝶の夢(下)
第十七話 追いかけられる
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その日、ユーリスは王都の宿に宿泊した。
ユーリスは、シルヴェスターの姿を見て、彼がとりあえず怪我もなく過ごしている様子に安堵していた。
自分の姿を見つけて、騎士達が追いかけてきたことには驚いた。そしてシルヴェスターが、自分を見て、かつての恋人であり、伴侶であると認識していないことには、予想していたとはいえ、少しばかり気落ちしてしまう。
でもそんな気落ちした様子を見せれば、一緒にいる小さな黄金竜は、ユーリスを心配してしまうだろう。あえてそんな姿を見せないように、ユーリスは気丈に振る舞っていた。
(今日は、王城近くまでいって、王城の様子を見てみるか)
どうにか王城に忍び込み、シルヴェスターに近づく方法を考えないといけない。
小さな黄金竜ウェイズリーは、シルヴェスターがユーリスのことを番認定しているから、会えば、ユーリスのことを求めてくれる、そうして近づくことも可能だというようなことを言っていたが、ユーリスは今のシルヴェスターのそばにいる、白銀竜達の存在を警戒していた。そして残念なことに、白銀竜の精神支配魔法にかかっているシルヴェスターのことも、彼の身を心配しながらも、警戒しなければならなかった。
正面切ってシルヴェスターの元を訪ねるには、やはりリスクがあるのだ。
ユーリスは朝、宿から出て、マントの胸元に小さな黄金竜を潜ませながら王都の街の中を歩いていく。
そう時間が経たない中で、小さな黄金竜は驚いたように金色の瞳を瞬かせて声を上げた。
「キュル!! キュルキュルキュー!!(まさか!! まさかそこまでするのか!!)」
「……どうしたんだ、ウェイズリー」
胸元の小さな黄金竜にユーリスは尋ねる。小さな黄金竜は王都の空を見上げた後、ユーリスに言った。
「キュルキュルゥゥゥ(まずいことになっている)」
「何が」
ユーリスは、朝の王都の街のそこかしこで、ゴルティニア王国の軍属の徴をつけた騎士達の姿を目にする。なんとなく慌ただしい様子がある。それを見て、ユーリスは大通りから外れた路に足を進める。
「キュルキュルキュイキュイキュルルルルゥ(シルヴェスターの奴が、この王都全体に“結界”を張った。もう“転移”出来ない)」
「…………え」
それでユーリスは足を止めて、建物の間から見える青い空を見上げる。
魔法の使えぬユーリスは、結界などをその目で見ることは出来ない。しかし、魔法の使える小さな黄金竜は違って、王都全体の空を覆う精密で、考えられないほどの巨大な規模の結界を見ることができた。
「王都全体って、そんなこと出来ないだろう」
「キュルキュルルゥ(シルヴェスターは黄金竜だ。出来る)」
「君だってウェイズリーの力を分け与えられた黄金竜だ。結界があるならそれを破って出ていくことも」
ユーリスの言葉に、小さな黄金竜は眉間に皺を寄せ、ぽつりぽつりと言った。
「キュルキュイキュルルルルゥキュイルルルゥゥゥ(今の私の力は、あくまで分け与えられたもので、シルヴェスターには敵わない。この結界は破れない)」
「…………とりあえず、王都から出よう。王都を離れれば結界から抜けることができる」
“転移”魔法が使えなくなっただけである。馬車など利用して、魔法の力を借りずに王都を抜けることも出来る。最悪、徒歩で王都から出ていってもいい。王城に近づいて様子を見ることは、今回は諦めた方がいいだろう。
ユーリスはそう考え、王都にある乗合馬車の停留所に足を向けようとしたところで、その停留所にも軍属の騎士達が集まっている様子が見えた。騎士達の手には人相書きの紙が握られている。それを見たユーリスは、嫌な予感がしていた。
「キュルキュルキュイキュイキュイルルルゥ(たぶん、ユーリスを探している。たぶんじゃない。絶対に探している)」
何故か胸元の小さな竜はそう断言している。
「昨日、少し見られただけじゃないか」
「キュルゥキュルキュル(竜は番を絶対に逃がさない)」
「……………………シルヴェスターは、私のことなんて忘れているのに?」
ユーリスが少しだけ苦しそうな表情でそう言うと、胸元の小さな竜はユーリスを見上げて言った。
「キュルキュルキュイキュイキュルキュルゥ(記憶を無くしても、ユーリスが“特別な存在”なのは変わらない。お前を愛しているんだよ、ユーリス)」
その言葉に、ユーリスはきつく目を瞑る。
「私も愛しているよ。でも今の彼は」
ユーリスが乗合馬車の停留所から離れていく様子を見て、騎士の何人かが、ユーリスを指さして近づいて来ようとする。そのことに気が付いたユーリスは、また大通りから枝分かれした細い路に走りこんでいく。
「今の彼は分からない」
そして騎士達もまた走ってユーリスの逃げた方向に向かってきている。
ユーリスの身は、黄金竜ウェイズリーによって、人から別の存在に変えられている。
走る足の速さも、どんなに鍛えられた人のものよりも上だった。騎士達が追い付くことはない。
そしてユーリスは王都の街の奥へ奥へと逃げ込み、さらには人混みの中に紛れて姿を消したのだった。
ユーリスは、シルヴェスターの姿を見て、彼がとりあえず怪我もなく過ごしている様子に安堵していた。
自分の姿を見つけて、騎士達が追いかけてきたことには驚いた。そしてシルヴェスターが、自分を見て、かつての恋人であり、伴侶であると認識していないことには、予想していたとはいえ、少しばかり気落ちしてしまう。
でもそんな気落ちした様子を見せれば、一緒にいる小さな黄金竜は、ユーリスを心配してしまうだろう。あえてそんな姿を見せないように、ユーリスは気丈に振る舞っていた。
(今日は、王城近くまでいって、王城の様子を見てみるか)
どうにか王城に忍び込み、シルヴェスターに近づく方法を考えないといけない。
小さな黄金竜ウェイズリーは、シルヴェスターがユーリスのことを番認定しているから、会えば、ユーリスのことを求めてくれる、そうして近づくことも可能だというようなことを言っていたが、ユーリスは今のシルヴェスターのそばにいる、白銀竜達の存在を警戒していた。そして残念なことに、白銀竜の精神支配魔法にかかっているシルヴェスターのことも、彼の身を心配しながらも、警戒しなければならなかった。
正面切ってシルヴェスターの元を訪ねるには、やはりリスクがあるのだ。
ユーリスは朝、宿から出て、マントの胸元に小さな黄金竜を潜ませながら王都の街の中を歩いていく。
そう時間が経たない中で、小さな黄金竜は驚いたように金色の瞳を瞬かせて声を上げた。
「キュル!! キュルキュルキュー!!(まさか!! まさかそこまでするのか!!)」
「……どうしたんだ、ウェイズリー」
胸元の小さな黄金竜にユーリスは尋ねる。小さな黄金竜は王都の空を見上げた後、ユーリスに言った。
「キュルキュルゥゥゥ(まずいことになっている)」
「何が」
ユーリスは、朝の王都の街のそこかしこで、ゴルティニア王国の軍属の徴をつけた騎士達の姿を目にする。なんとなく慌ただしい様子がある。それを見て、ユーリスは大通りから外れた路に足を進める。
「キュルキュルキュイキュイキュルルルルゥ(シルヴェスターの奴が、この王都全体に“結界”を張った。もう“転移”出来ない)」
「…………え」
それでユーリスは足を止めて、建物の間から見える青い空を見上げる。
魔法の使えぬユーリスは、結界などをその目で見ることは出来ない。しかし、魔法の使える小さな黄金竜は違って、王都全体の空を覆う精密で、考えられないほどの巨大な規模の結界を見ることができた。
「王都全体って、そんなこと出来ないだろう」
「キュルキュルルゥ(シルヴェスターは黄金竜だ。出来る)」
「君だってウェイズリーの力を分け与えられた黄金竜だ。結界があるならそれを破って出ていくことも」
ユーリスの言葉に、小さな黄金竜は眉間に皺を寄せ、ぽつりぽつりと言った。
「キュルキュイキュルルルルゥキュイルルルゥゥゥ(今の私の力は、あくまで分け与えられたもので、シルヴェスターには敵わない。この結界は破れない)」
「…………とりあえず、王都から出よう。王都を離れれば結界から抜けることができる」
“転移”魔法が使えなくなっただけである。馬車など利用して、魔法の力を借りずに王都を抜けることも出来る。最悪、徒歩で王都から出ていってもいい。王城に近づいて様子を見ることは、今回は諦めた方がいいだろう。
ユーリスはそう考え、王都にある乗合馬車の停留所に足を向けようとしたところで、その停留所にも軍属の騎士達が集まっている様子が見えた。騎士達の手には人相書きの紙が握られている。それを見たユーリスは、嫌な予感がしていた。
「キュルキュルキュイキュイキュイルルルゥ(たぶん、ユーリスを探している。たぶんじゃない。絶対に探している)」
何故か胸元の小さな竜はそう断言している。
「昨日、少し見られただけじゃないか」
「キュルゥキュルキュル(竜は番を絶対に逃がさない)」
「……………………シルヴェスターは、私のことなんて忘れているのに?」
ユーリスが少しだけ苦しそうな表情でそう言うと、胸元の小さな竜はユーリスを見上げて言った。
「キュルキュルキュイキュイキュルキュルゥ(記憶を無くしても、ユーリスが“特別な存在”なのは変わらない。お前を愛しているんだよ、ユーリス)」
その言葉に、ユーリスはきつく目を瞑る。
「私も愛しているよ。でも今の彼は」
ユーリスが乗合馬車の停留所から離れていく様子を見て、騎士の何人かが、ユーリスを指さして近づいて来ようとする。そのことに気が付いたユーリスは、また大通りから枝分かれした細い路に走りこんでいく。
「今の彼は分からない」
そして騎士達もまた走ってユーリスの逃げた方向に向かってきている。
ユーリスの身は、黄金竜ウェイズリーによって、人から別の存在に変えられている。
走る足の速さも、どんなに鍛えられた人のものよりも上だった。騎士達が追い付くことはない。
そしてユーリスは王都の街の奥へ奥へと逃げ込み、さらには人混みの中に紛れて姿を消したのだった。
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