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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第十章 蝶の夢(下)
第二十話 暗がりを抜けて
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ユーリスは川の水の中に潜ると、小さな黄金竜が牙で切ってくれた鉄の棒を強く押して、自分が出ることが出来るスペースを作った。そして鉄の柵から抜け出た。
それからまた小さな黄金竜を首の後ろに張り付かせて泳いでいく。
鉄柵を抜けたところは、トンネルになっている。
この王都は、周囲をぐるりと高い壁に囲まれた構造であったから、川の水を通すために、壁の下方が一部トンネル状になっているのだ。明かりも無い暗いトンネルの中の川を、ユーリスは泳いでいく。
すでに半刻近く、春の冷たい水の中にいたため、体は凍えるように冷たくなっていた。
たとえ黄金竜によってその身を人ならざるものに変えられたとしても、冷たさは感じるのだ。
(早く水から上がりたい)
そう思いながら、ユーリスは出口を目指して泳いでいく。
そして真っ暗闇だったトンネルを抜けたところで、ユーリスは眩しさに目をすがめた。
「いたぞ」
「本当に泳いできたぞ」
男達の声に、身を強張らせる。
トンネルを抜けた川の両岸に赤々とした松明を手にした騎士や兵士達がいた。
彼らはトンネルを泳いで抜けてきたユーリスを待ち構えるように、そこにいた。
その事実に、ユーリスは呆然とした。
しかし、一方でユーリスの頭の中で囁く声があった。
(当たり前だ。彼は、優秀な人だった。私と共にずっといて、私の考え方をよく知っていた)
過去の記憶が無くても?
(そう。それでも、彼は、私がどう動くのか分かっているかも知れない。今だって、門から出られないなら、川を使えば良いと考える私の行動を推察した)
「キュルキュルキュルルゥ!!(ユーリス、どうするのか!!)」
小さな黄金竜はユーリスの首にしがみついたまま、問いかける。
「今、私達は王都の門を抜けている。ウェイズリー、“転移”は出来ないか」
ユーリスは小さな黄金竜に尋ねるが、空を見上げた小さな竜は首を振る。この辺りもまだ結界の範囲内にあるようだ。
それで、ユーリスはため息をついた。
「なら、どうするもない」
ユーリスは川から岸へ上がろうとする。
それに気が付いた騎士や兵士達が近寄ってくる。
「キュルキュルキュイキュイキュルルル!!(なら、こいつらを私が蹴散らしてやればいい!!)」
ウェイズリーは、ユーリスの身から離れて飛び立つと、騎士や兵士達に向かって飛び、真っ暗な夜空に翼を広げ、口から炎を噴き出した。
「うわぁぁ」
「なんだ、竜がいるぞ」
「小さな竜だ」
悲鳴と怒号、中にはそれで反射的に剣を鞘から抜く騎士や兵士達が現れる。
「ウェイズリー、ダメだ!!」
ユーリスは必死にそう叫ぶ。
しかし、小さな黄金竜は思っていた。
(ここにいる人間達は、ユーリスに危害を与える。こいつを始末しなければ!!)
(始末すれば、逃げられる!!)
(ユーリスの身は絶対に私が守る)
黄金竜ウェイズリーが力を分け与えて作った小さな竜。
その存在価値は、ユーリスの身を守るためだけにあった。
ここで、彼の身を守らないで、なんになろう。
騎士の一人が、空を飛ぶ竜に剣を振りかざす。
その前に、目にも止まらぬ速さで、小さな竜を守るようユーリスが身をさらしたのを、ウェイズリーは金色の目の端で見たのだった。
それは一瞬の出来事だった。
「キュ……キュ……キュゥ(あ、……あ……ああぁ、ユーリス)」
すぐさま小さな黄金竜は、ユーリスの胸に飛び込む。
そして愛しい番の青年の顔を見上げた。
彼は言った。
「…………言っただろう、ウェイズリー。皆を傷つけてはならないと」
真っ青な顔で、ユーリスはそう言う。
形の良い唇も血の気を失っている。冷たい水の中から出たばかりだからだ。
すぐに、ユーリスの体を暖めないといけない。
ウェイズリーを抱きしめる手も、ひどく冷たい。
早く
早く暖めないとユーリスが凍えてしまう。
そう思ったウェイズリーの前で、ユーリスは目を伏せ、グラリとその身を倒した。
その背中には大きく斜めに傷が走り、赤い血が止めどなく流れ続けていた。
それを認めた小さな黄金竜は鳴き叫んだ。
それからまた小さな黄金竜を首の後ろに張り付かせて泳いでいく。
鉄柵を抜けたところは、トンネルになっている。
この王都は、周囲をぐるりと高い壁に囲まれた構造であったから、川の水を通すために、壁の下方が一部トンネル状になっているのだ。明かりも無い暗いトンネルの中の川を、ユーリスは泳いでいく。
すでに半刻近く、春の冷たい水の中にいたため、体は凍えるように冷たくなっていた。
たとえ黄金竜によってその身を人ならざるものに変えられたとしても、冷たさは感じるのだ。
(早く水から上がりたい)
そう思いながら、ユーリスは出口を目指して泳いでいく。
そして真っ暗闇だったトンネルを抜けたところで、ユーリスは眩しさに目をすがめた。
「いたぞ」
「本当に泳いできたぞ」
男達の声に、身を強張らせる。
トンネルを抜けた川の両岸に赤々とした松明を手にした騎士や兵士達がいた。
彼らはトンネルを泳いで抜けてきたユーリスを待ち構えるように、そこにいた。
その事実に、ユーリスは呆然とした。
しかし、一方でユーリスの頭の中で囁く声があった。
(当たり前だ。彼は、優秀な人だった。私と共にずっといて、私の考え方をよく知っていた)
過去の記憶が無くても?
(そう。それでも、彼は、私がどう動くのか分かっているかも知れない。今だって、門から出られないなら、川を使えば良いと考える私の行動を推察した)
「キュルキュルキュルルゥ!!(ユーリス、どうするのか!!)」
小さな黄金竜はユーリスの首にしがみついたまま、問いかける。
「今、私達は王都の門を抜けている。ウェイズリー、“転移”は出来ないか」
ユーリスは小さな黄金竜に尋ねるが、空を見上げた小さな竜は首を振る。この辺りもまだ結界の範囲内にあるようだ。
それで、ユーリスはため息をついた。
「なら、どうするもない」
ユーリスは川から岸へ上がろうとする。
それに気が付いた騎士や兵士達が近寄ってくる。
「キュルキュルキュイキュイキュルルル!!(なら、こいつらを私が蹴散らしてやればいい!!)」
ウェイズリーは、ユーリスの身から離れて飛び立つと、騎士や兵士達に向かって飛び、真っ暗な夜空に翼を広げ、口から炎を噴き出した。
「うわぁぁ」
「なんだ、竜がいるぞ」
「小さな竜だ」
悲鳴と怒号、中にはそれで反射的に剣を鞘から抜く騎士や兵士達が現れる。
「ウェイズリー、ダメだ!!」
ユーリスは必死にそう叫ぶ。
しかし、小さな黄金竜は思っていた。
(ここにいる人間達は、ユーリスに危害を与える。こいつを始末しなければ!!)
(始末すれば、逃げられる!!)
(ユーリスの身は絶対に私が守る)
黄金竜ウェイズリーが力を分け与えて作った小さな竜。
その存在価値は、ユーリスの身を守るためだけにあった。
ここで、彼の身を守らないで、なんになろう。
騎士の一人が、空を飛ぶ竜に剣を振りかざす。
その前に、目にも止まらぬ速さで、小さな竜を守るようユーリスが身をさらしたのを、ウェイズリーは金色の目の端で見たのだった。
それは一瞬の出来事だった。
「キュ……キュ……キュゥ(あ、……あ……ああぁ、ユーリス)」
すぐさま小さな黄金竜は、ユーリスの胸に飛び込む。
そして愛しい番の青年の顔を見上げた。
彼は言った。
「…………言っただろう、ウェイズリー。皆を傷つけてはならないと」
真っ青な顔で、ユーリスはそう言う。
形の良い唇も血の気を失っている。冷たい水の中から出たばかりだからだ。
すぐに、ユーリスの体を暖めないといけない。
ウェイズリーを抱きしめる手も、ひどく冷たい。
早く
早く暖めないとユーリスが凍えてしまう。
そう思ったウェイズリーの前で、ユーリスは目を伏せ、グラリとその身を倒した。
その背中には大きく斜めに傷が走り、赤い血が止めどなく流れ続けていた。
それを認めた小さな黄金竜は鳴き叫んだ。
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