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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第十章 蝶の夢(下)
第二十八話 話し相手
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小さな黄金竜が王城から消えて、ユーリスは寂しそうだった。
別れ際の、あの離れがたいように小さな竜をぎゅっと抱きしめるユーリスの姿をみれば、小さな黄金竜を引き離したことでユーリスには可哀想なことをしてしまったと、シルヴェスターは思う。
しかし、黄金竜であるシルヴェスターは、雛のように小さいとはいえ、黄金竜であるウェイズリーが、ユーリスのそばにいることが気に入らなかった。だから、ウェイズリーがいなくなって少しだけホッとしているのだが、ユーリスの沈み込む様子を見ていると、罪悪感もあった。
シルヴェスターは、ユーリスと共に朝食をとった後は国王の政務室に移って仕事をする。その間、ユーリスは居室で、本を読んだり、居室の前にある中庭に出たりして時間を潰しているようだ。背中の傷は塞がれているとはいえ、まだ身体を大きく動かすと組織が裂ける恐れがあるらしい。そのため、医師には急な動作はとらないように注意されている。
だからせいぜい、ユーリスが今できるのはゆっくりとした動作で中庭を歩く程度だった。
昼になると、シルヴェスターは政務室から出てきて、ユーリスと共に昼食をとる。
そしてまたシルヴェスターは政務室に戻って行く。
午後にはルドガー王子がやってきて、ユーリスのお喋りの相手をしてくれるが、ユーリスは暇をもてあましていた。
対面に座るルドガーに言う。
「何か私に出来る仕事はないか」
「………………」
ルドガーは呆れたような眼差しをユーリスに向けた。
「せっかくの休みなのに、ユーリスは仕事なんてやりたいのですか。ダメです。理由は分かるでしょう」
用心深くルドガーはそれ以上口にしなかったが、彼はこう言いたかったのだ。
ユーリスが王城で仕事をすることをきっかけに、以前のユーリスの記憶を取り戻す官僚達が出てきてしまうかも知れない。そうなると、王城内で“白銀の芽”が発動して、官僚達がバタバタと倒れ、屍が積み上がる恐ろしい事態が起きるかも知れない。ユーリスもすぐにそのことに気が付いた。
「暇なのだ。シルヴェスターも碌に相手をしてくれないし」
「彼は国王の仕事で忙しいのです。ユーリスはシルヴェスターに相手をしてもらいたかったのですか」
そうルドガーが意地悪く言うと、ユーリスは少しだけ耳を赤く染めて言った。
「いいだろう。そう私が思っても」
一年ぶりの再会なのである。
会いたいとずっと願っていた相手なのである。白銀竜達に記憶を塗り替えられているとはいえ、シルヴェスターはシルヴェスターなのだ。それも、ユーリスが少年の頃から彼だけだと望んで、一途に想いを寄せていた相手なのだ。
「あなたの方から積極的に動いても、今のシルヴェスターなら簡単に落ちるでしょう。やってみたらどうですか」
実の息子からそうけしかけられる。ユーリスは眉を寄せた。
「そんな気分にはなれない。分かるだろう」
ユーリスはため息混じり、椅子に肘をついて呟くように言った。
記憶がないが、ユーリスを番の相手と認識したシルヴェスター。
そのシルヴェスターのそばには白銀竜達がいる。シルヴェスターと城の者達に精神を支配する魔法をかけている竜なのである。
そんな白銀竜のいる城の中で、幾ら相愛のシルヴェスターがいるからといって、彼に愛を囁く気持ちにはなれない。
「貴方の連れていたあの小さな竜ウェイズリーを、突っ込ませれば良かったのに。籠から出す時が最大のチャンスだったのでは?」
ルドガーからそう言われるが、そのことについてはユーリスも考えていた。
しかし、あの場には、ウェイズリーを“狂暴な竜”と認識するシルヴェスターと、白銀竜エリザヴェータとコンラートがいた。少しでも変な動きを取れば、すぐさま阻止されたはずだ。
一度引いて、形勢を立て直すしかない。
そして王城に、白銀竜達の籠に閉じ込められるという形でウェイズリーを留めておくことは、ウェイズリーの身が心配で出来なかった。自分が王城に残ることと引き換えに、ウェイズリーを王城から出させたことは間違いではない。
ユーリスが椅子に肘をついたまま考え込む様子を、ルドガーは見て言った。
「僕がウェイズリーの様子を時々見てきます」
「そうしてくれると助かる」
ルドガーは空中城に“転移”して、小さな黄金竜とユーリスの産んだ卵、そしてユーリスの部下達の様子を見て来てくれるというのだ。それは正直、有難かった。
だが一方で、ユーリスはチラリとルドガーを見て思っていた。
(ルドガーは、まだ私に何も話してくれない。まぁ、この王城にいては、話し辛いものがあるが)
王城にいる者達の身には、白銀竜の“白銀の芽”がつけられているのである。おそらく、王城に入ったユーリスの身にもそれが付けられている。そして今、シルヴェスターの嫉妬めいた感情から、ユーリスの身にかけられていた“黄金竜の加護”も、消されてしまっている。シルヴェスターはユーリスのことを守ると宣言していたが、シルヴェスターは自分の友として信頼している白銀竜達のことを、ひとかけらも疑っていない。そうした呪いをシルヴェスターはかけられているからだ。
ユーリスも、自分の心が白銀竜達に影響され、操られることを警戒していたが、幸いなことに今のところ、操られているような様子はなかった。……勿論、自分が気が付いていないうちに、操られているということも、考えられるが。
ルドガーもユーリスも、白銀竜の“白銀の芽”を付けられているから迂闊なことは口に出せない。
だからユーリスも、「何故ルドガーは私を眠らせたのか。私を眠らせた時、ジャクセンのことを口にしたのは何故だ」と問い詰めることは出来ない。そしてルドガーもそのことでユーリスから問い詰められることはないだろうと分かっていたからこそ、ユーリスの部屋を訪れてお喋りの相手をしてくれるのだ。
ユーリスはジロリとルドガーを見つめた後、ため息をついた。
そんなユーリスの様子を見て、ルドガーは口元に笑みをたたえていた。
別れ際の、あの離れがたいように小さな竜をぎゅっと抱きしめるユーリスの姿をみれば、小さな黄金竜を引き離したことでユーリスには可哀想なことをしてしまったと、シルヴェスターは思う。
しかし、黄金竜であるシルヴェスターは、雛のように小さいとはいえ、黄金竜であるウェイズリーが、ユーリスのそばにいることが気に入らなかった。だから、ウェイズリーがいなくなって少しだけホッとしているのだが、ユーリスの沈み込む様子を見ていると、罪悪感もあった。
シルヴェスターは、ユーリスと共に朝食をとった後は国王の政務室に移って仕事をする。その間、ユーリスは居室で、本を読んだり、居室の前にある中庭に出たりして時間を潰しているようだ。背中の傷は塞がれているとはいえ、まだ身体を大きく動かすと組織が裂ける恐れがあるらしい。そのため、医師には急な動作はとらないように注意されている。
だからせいぜい、ユーリスが今できるのはゆっくりとした動作で中庭を歩く程度だった。
昼になると、シルヴェスターは政務室から出てきて、ユーリスと共に昼食をとる。
そしてまたシルヴェスターは政務室に戻って行く。
午後にはルドガー王子がやってきて、ユーリスのお喋りの相手をしてくれるが、ユーリスは暇をもてあましていた。
対面に座るルドガーに言う。
「何か私に出来る仕事はないか」
「………………」
ルドガーは呆れたような眼差しをユーリスに向けた。
「せっかくの休みなのに、ユーリスは仕事なんてやりたいのですか。ダメです。理由は分かるでしょう」
用心深くルドガーはそれ以上口にしなかったが、彼はこう言いたかったのだ。
ユーリスが王城で仕事をすることをきっかけに、以前のユーリスの記憶を取り戻す官僚達が出てきてしまうかも知れない。そうなると、王城内で“白銀の芽”が発動して、官僚達がバタバタと倒れ、屍が積み上がる恐ろしい事態が起きるかも知れない。ユーリスもすぐにそのことに気が付いた。
「暇なのだ。シルヴェスターも碌に相手をしてくれないし」
「彼は国王の仕事で忙しいのです。ユーリスはシルヴェスターに相手をしてもらいたかったのですか」
そうルドガーが意地悪く言うと、ユーリスは少しだけ耳を赤く染めて言った。
「いいだろう。そう私が思っても」
一年ぶりの再会なのである。
会いたいとずっと願っていた相手なのである。白銀竜達に記憶を塗り替えられているとはいえ、シルヴェスターはシルヴェスターなのだ。それも、ユーリスが少年の頃から彼だけだと望んで、一途に想いを寄せていた相手なのだ。
「あなたの方から積極的に動いても、今のシルヴェスターなら簡単に落ちるでしょう。やってみたらどうですか」
実の息子からそうけしかけられる。ユーリスは眉を寄せた。
「そんな気分にはなれない。分かるだろう」
ユーリスはため息混じり、椅子に肘をついて呟くように言った。
記憶がないが、ユーリスを番の相手と認識したシルヴェスター。
そのシルヴェスターのそばには白銀竜達がいる。シルヴェスターと城の者達に精神を支配する魔法をかけている竜なのである。
そんな白銀竜のいる城の中で、幾ら相愛のシルヴェスターがいるからといって、彼に愛を囁く気持ちにはなれない。
「貴方の連れていたあの小さな竜ウェイズリーを、突っ込ませれば良かったのに。籠から出す時が最大のチャンスだったのでは?」
ルドガーからそう言われるが、そのことについてはユーリスも考えていた。
しかし、あの場には、ウェイズリーを“狂暴な竜”と認識するシルヴェスターと、白銀竜エリザヴェータとコンラートがいた。少しでも変な動きを取れば、すぐさま阻止されたはずだ。
一度引いて、形勢を立て直すしかない。
そして王城に、白銀竜達の籠に閉じ込められるという形でウェイズリーを留めておくことは、ウェイズリーの身が心配で出来なかった。自分が王城に残ることと引き換えに、ウェイズリーを王城から出させたことは間違いではない。
ユーリスが椅子に肘をついたまま考え込む様子を、ルドガーは見て言った。
「僕がウェイズリーの様子を時々見てきます」
「そうしてくれると助かる」
ルドガーは空中城に“転移”して、小さな黄金竜とユーリスの産んだ卵、そしてユーリスの部下達の様子を見て来てくれるというのだ。それは正直、有難かった。
だが一方で、ユーリスはチラリとルドガーを見て思っていた。
(ルドガーは、まだ私に何も話してくれない。まぁ、この王城にいては、話し辛いものがあるが)
王城にいる者達の身には、白銀竜の“白銀の芽”がつけられているのである。おそらく、王城に入ったユーリスの身にもそれが付けられている。そして今、シルヴェスターの嫉妬めいた感情から、ユーリスの身にかけられていた“黄金竜の加護”も、消されてしまっている。シルヴェスターはユーリスのことを守ると宣言していたが、シルヴェスターは自分の友として信頼している白銀竜達のことを、ひとかけらも疑っていない。そうした呪いをシルヴェスターはかけられているからだ。
ユーリスも、自分の心が白銀竜達に影響され、操られることを警戒していたが、幸いなことに今のところ、操られているような様子はなかった。……勿論、自分が気が付いていないうちに、操られているということも、考えられるが。
ルドガーもユーリスも、白銀竜の“白銀の芽”を付けられているから迂闊なことは口に出せない。
だからユーリスも、「何故ルドガーは私を眠らせたのか。私を眠らせた時、ジャクセンのことを口にしたのは何故だ」と問い詰めることは出来ない。そしてルドガーもそのことでユーリスから問い詰められることはないだろうと分かっていたからこそ、ユーリスの部屋を訪れてお喋りの相手をしてくれるのだ。
ユーリスはジロリとルドガーを見つめた後、ため息をついた。
そんなユーリスの様子を見て、ルドガーは口元に笑みをたたえていた。
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