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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第十章 蝶の夢(下)
第二十九話 空中城の卵(上)
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シルヴェスター国王の番、ユーリスが命を落とすほどの大怪我を負って、王城に運び込まれたという話を聞いた時、白銀竜エリザヴェータが心の底から思ったことは、(ああ、このままユーリスが命を落としてくれれば、万事全てがうまくいくのに)ということだった。
シルヴェスターは、番を失い悲しむだろう。
でも、そばには白銀竜エリザヴェータとコンラートがいるのだ。
親身になって慰め続ければ、きっと立ち直ってくれる。
そうしたら、エリザヴェータとコンラートは、シルヴェスターと共に、ずっとこのままゴルティニア王国で暮らしていける。
白銀竜エリザヴェータとコンラートが、力を尽くせばこの王国は益々富み栄え、陛下は否定なさったが、大陸全土に覇を唱えることだって容易だろう。
けれど、王城の治癒魔法を使う魔術師達の尽力もあって、ユーリスはその命を取り留めた。
その時の、エリザヴェータのガッカリ感といったらなかった。
それから王城の王の居室に寝台が運び込まれ、ユーリスを国王自らが看病し、寵愛している話が耳に入るようになると、エリザヴェータの顔は大きく引きつった。
(ああ、死んでくれればよかったのに)
(ユーリスが死んでくれれば)
(すべてがうまく行くのに)
沸々と、彼女の胸の中に、憎悪の感情が滾るのだった。
そして弟のコンラートは、姉のその様子に(どうしたものか)と思い始める。
当初は一月という約束で、王城に留まった白銀竜の姉弟達であったが、約束の一月を過ぎ、伴侶のユーリスが戻ってこないことをいいことに、居座った。
黄金竜ルドガーからは責められたが、ユーリスが戻ってこないのなら、自分達が居座っても問題はないだろうと白銀竜コンラートも内心思っていた。戻ってこない者が悪いのだ。
ところがここにきて、とうとう、ユーリスが戻って来た。
姉エリザヴェータとは別に、コンラートは引き際をそろそろ考えた方がいいのではないかと思っていた。しかし、姉の様子を見るになかなかそれを口に出せない。
ユーリスは、王城に傷が良くなるまで養生のために留まると述べた。
国王シルヴェスターは喜んでいた一方で、コンラートは疑問を覚えることがあった。
ユーリスの可愛がっていたあの小さな黄金竜。アレが、黄金竜ウェイズリーが力を分け与えた、ユーリスの身を守るためだけに作られた存在だと、ルドガーからコンラートは聞いて覚えていた。
別れ際に、小さな黄金竜は離れがたくユーリスの胸にしがみついて、大粒の涙を流して鳴いていた。その様子を見て、コンラートは口にしなかったが、疑問は大きくなっていた。
(ユーリスの身を守るために、わざわざウェイズリーが作った小さな黄金竜だ。それが、ユーリスのそばを離れる?)
普通なら、絶対に離れないだろう。
たとえ籠の中に閉じ込められるとしても、番のそばから絶対に離れない。
それが、竜というものだ。
なのに、ユーリスに説得されて離れる。
ユーリスは、小さな声で他の者に聞こえぬように言っていたが、コンラートはその言葉を耳にしていた。
「“巣”には、君が大切にしているものがあるはずだ」
その言葉の意味が分からない。
番であるユーリスよりも大切なもの。
それは一体何なのだろうと、コンラートは思う。
王城の居室で、白銀の髪の美しい女は嫉妬と怒りで、今日も花瓶を床に叩きつけている。女官達はその剣幕が恐ろしくて、エリザヴェータとコンラートのいる部屋には近寄りたがらない。
コンラートも、少しばかりその姉の剣幕に辟易していたものだから、小さな黄金竜の“巣”、ゴルティニア王国の空を漂う空中城に、様子を見に行こうと思っていた。
その空中城は、黄金竜ウェイズリーが番のユーリスのために作った“巣”だった。
そのことを白銀竜の姉弟達はかねてから知っていた。空中城はゴルティニア王国の空に浮かぶ巨大な建造物なのである。空を飛ぶ竜が知らぬわけがなかった。
ルドガー王子が、眠りから覚めぬユーリスとその部下達の身を案じ、彼らを連れて避難した先でもある。
居所が分かっている方が良いだろうと、エリザヴェータとコンラートは、ユーリス達が空中城に身を寄せていることを見逃してやっていた。
そこから別の場所に移動されるよりはいいだろうと、それ以上警戒されぬよう、コンラート達も空中城に手出しをすることはなかった。
しかし、ユーリスは今王城にいる。あの空中城にいるのは、小さな黄金竜とユーリスの部下達だけのはず。
そこにある大切なものとは何だろうと、コンラートは思う。
空中城には、侵入者を弾く魔道具が置かれているが、コンラートは古えから生きる白銀竜である。そんな魔道具など、コンラートは易々と解除出来た。彼らはその魔道具で、これまでの間、白銀竜達が空中城に近寄れなかったと信じているだろう。しかしそうではない。コンラート達が、空中城に近寄らないよう配慮していたのだ。
そして、コンラートが空中城に足を踏み入れると同時に、空中城の四方に置かれていた魔道具は粉々に砕け散った。
コンラートは空中城の最上階を目指して、歩いていったのだった。
シルヴェスターは、番を失い悲しむだろう。
でも、そばには白銀竜エリザヴェータとコンラートがいるのだ。
親身になって慰め続ければ、きっと立ち直ってくれる。
そうしたら、エリザヴェータとコンラートは、シルヴェスターと共に、ずっとこのままゴルティニア王国で暮らしていける。
白銀竜エリザヴェータとコンラートが、力を尽くせばこの王国は益々富み栄え、陛下は否定なさったが、大陸全土に覇を唱えることだって容易だろう。
けれど、王城の治癒魔法を使う魔術師達の尽力もあって、ユーリスはその命を取り留めた。
その時の、エリザヴェータのガッカリ感といったらなかった。
それから王城の王の居室に寝台が運び込まれ、ユーリスを国王自らが看病し、寵愛している話が耳に入るようになると、エリザヴェータの顔は大きく引きつった。
(ああ、死んでくれればよかったのに)
(ユーリスが死んでくれれば)
(すべてがうまく行くのに)
沸々と、彼女の胸の中に、憎悪の感情が滾るのだった。
そして弟のコンラートは、姉のその様子に(どうしたものか)と思い始める。
当初は一月という約束で、王城に留まった白銀竜の姉弟達であったが、約束の一月を過ぎ、伴侶のユーリスが戻ってこないことをいいことに、居座った。
黄金竜ルドガーからは責められたが、ユーリスが戻ってこないのなら、自分達が居座っても問題はないだろうと白銀竜コンラートも内心思っていた。戻ってこない者が悪いのだ。
ところがここにきて、とうとう、ユーリスが戻って来た。
姉エリザヴェータとは別に、コンラートは引き際をそろそろ考えた方がいいのではないかと思っていた。しかし、姉の様子を見るになかなかそれを口に出せない。
ユーリスは、王城に傷が良くなるまで養生のために留まると述べた。
国王シルヴェスターは喜んでいた一方で、コンラートは疑問を覚えることがあった。
ユーリスの可愛がっていたあの小さな黄金竜。アレが、黄金竜ウェイズリーが力を分け与えた、ユーリスの身を守るためだけに作られた存在だと、ルドガーからコンラートは聞いて覚えていた。
別れ際に、小さな黄金竜は離れがたくユーリスの胸にしがみついて、大粒の涙を流して鳴いていた。その様子を見て、コンラートは口にしなかったが、疑問は大きくなっていた。
(ユーリスの身を守るために、わざわざウェイズリーが作った小さな黄金竜だ。それが、ユーリスのそばを離れる?)
普通なら、絶対に離れないだろう。
たとえ籠の中に閉じ込められるとしても、番のそばから絶対に離れない。
それが、竜というものだ。
なのに、ユーリスに説得されて離れる。
ユーリスは、小さな声で他の者に聞こえぬように言っていたが、コンラートはその言葉を耳にしていた。
「“巣”には、君が大切にしているものがあるはずだ」
その言葉の意味が分からない。
番であるユーリスよりも大切なもの。
それは一体何なのだろうと、コンラートは思う。
王城の居室で、白銀の髪の美しい女は嫉妬と怒りで、今日も花瓶を床に叩きつけている。女官達はその剣幕が恐ろしくて、エリザヴェータとコンラートのいる部屋には近寄りたがらない。
コンラートも、少しばかりその姉の剣幕に辟易していたものだから、小さな黄金竜の“巣”、ゴルティニア王国の空を漂う空中城に、様子を見に行こうと思っていた。
その空中城は、黄金竜ウェイズリーが番のユーリスのために作った“巣”だった。
そのことを白銀竜の姉弟達はかねてから知っていた。空中城はゴルティニア王国の空に浮かぶ巨大な建造物なのである。空を飛ぶ竜が知らぬわけがなかった。
ルドガー王子が、眠りから覚めぬユーリスとその部下達の身を案じ、彼らを連れて避難した先でもある。
居所が分かっている方が良いだろうと、エリザヴェータとコンラートは、ユーリス達が空中城に身を寄せていることを見逃してやっていた。
そこから別の場所に移動されるよりはいいだろうと、それ以上警戒されぬよう、コンラート達も空中城に手出しをすることはなかった。
しかし、ユーリスは今王城にいる。あの空中城にいるのは、小さな黄金竜とユーリスの部下達だけのはず。
そこにある大切なものとは何だろうと、コンラートは思う。
空中城には、侵入者を弾く魔道具が置かれているが、コンラートは古えから生きる白銀竜である。そんな魔道具など、コンラートは易々と解除出来た。彼らはその魔道具で、これまでの間、白銀竜達が空中城に近寄れなかったと信じているだろう。しかしそうではない。コンラート達が、空中城に近寄らないよう配慮していたのだ。
そして、コンラートが空中城に足を踏み入れると同時に、空中城の四方に置かれていた魔道具は粉々に砕け散った。
コンラートは空中城の最上階を目指して、歩いていったのだった。
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