転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です  終章

第三話 理由

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 ラウデシア王国の北方の、岩場の穴の中の、いわゆる竜の巣の中で、ルドガーは復活したばかりのジャクセンに、お茶を淹れて勧めた。
 ジャクセンは目の前の若者を警戒して、なかなかお茶を口にしようとはしない。そんな警戒心いっぱいのジャクセンに、ルドガーは過去、自分とジャクセンしか知らぬであろう出来事をぽつりぽつりと話し始めた。
 小さな竜の姿で、ジャクセンのデスクの上で、ジャクセンの仕事の様子をいつも眺めていたこと。お土産に、背中に袋をくくりつけられ、果物をたくさん持たされたこと。初めて王子としての仕事を果たした時、お祝いに黄色い陶器製の竜の人形をもらったことなど。どこか懐かしそうな表情で、ルドガーはそんな話をする。
 ルドガーの青い瞳や、シルヴェスター王子そっくりの容姿。それは成長したルドガーの姿だと、ジャクセンもようやく納得し、今度はルドガーにジャクセンの方から質問をした。

「何故、お前はそんなに突然、大きく成長しているのだ。私は変わっていないのに、おかしいだろう」

「おじいさまは、ずっと長い間、死んでいらっしゃったんです」

 先ほどルドガーは、口にしたことをもう一度口にする。
 
 記憶力の良いジャクセンは、当然そのことも聞いて記憶しているはずだ。
 しかし、彼はそれが信じられないから、尋ねてくるのだ。

 そう。
 自分が長い間、死んでいたことが信じられない。それを理解出来ない。

「私がいつ死んだというのだ」

 ジャクセンの問いかけに、ルドガーは指を折って数え始める。

「おじいさまが亡くなってから、かれこれ三十年ほど経っています」

「どうして亡くなったのだ。私にはその記憶がない」

「コレットの子の誕生を祝う会で、おじいさまは階段から落ちかけた子供を庇って、壁に頭をぶつけたと聞いています」

 ルドガーは肩をすくめる。

「打ちどころが悪かったのでしょう。それでおじいさまは亡くなられました」

「…………冗談だろう」

 自分のあまりにも呆気ない死に様に、ジャクセンは驚いている。ルドガーは首を振った。

「冗談ではありません。その後のことを説明します。おじいさまが亡くなった後、おじいさまの商会はコレットの夫が継ぎました。ルイーズおばあさまは、おじいさまが亡くなった後、とても悲しまれていました。それで、バンクールの屋敷にコレット達家族が引っ越してきて、その後、おばあさまはお孫さん達のお相手をしながら暮らしていました。コレットやお孫さん達に随分と慰められたそうでしたよ」

「………………………………」

 ジャクセンは考え込むように目を伏せる。
 そんな様子でさえ、本当に美しい男だとルドガーは、自分の祖父にあたる男を見つめる。
 今までは、柩の中で横たわる、冷たくなった屍だけを見つめてきた。人形のようにピクとも動かなかった身体が、今や息を吹き返し、肌は色を取り戻し、生気に満ち溢れている。その青い瞳は理性の輝きを浮かべ、唇からは確かな言葉が零れる。

 三十年もの間、望んできた復活だった。
 ルドガーの目が、彼の姿から片時も離せないのは当然だった。

「それから、おばあさまは三年ほど前に亡くなりました」

「お前の話が真実だとしよう。何故、私は生き返ったのだ? 三十年も経ってからどうしてだ?」

「おじいさまを生き返らせるためには“代償”が必要でした。その代償を支払うためには時間が必要だったのです」

 ルドガーの瞼の裏に、白銀竜コンラートの姿が思い浮かぶ。
 
『僕は君の大好きなジャクセンを生き返らせてあげる。僕が、代わりに対価を払ってあげる』

 二頭の白銀竜が、黄金竜シルヴェスターに仕える好機を待ち続けたその期間が三十年だったのだ。
 シルヴェスターが“融合”するために眠りにつく、その時のために、彼らは辛抱強く待ち続けた。そのチャンスがいつ到来するのかも分からなかったのに。結局、それには三十年もかかった。

「おじいさまを生き返らせるのに、三十年もかかりました。本当なら、もっと前に生き返らせたかった。ですが、それが出来なかったのです」

「ルドガー、お前は何故、私を生き返らせたのだ」

 今までの話から、ジャクセンは、目の前の、今や成長した孫のルドガーが、自分を生き返らせたことを知った。だから問いかけた。

 そのジャクセンの問いかけに、ルドガーは笑顔を見せた。
 それはまったく邪気の無い明るい笑顔だった。
 常日頃、無口であまり感情を見せないルドガーとは別人のような姿だった。

「おじいさま、そんなこと、聞くまでもないことです。僕はおじいさまが大好きなのです。僕にとっておじいさまは“特別”だから、生き返らせたのです」

「…………」

 ジャクセンは、ルドガーの顔をじっと見つめる。

「私だけを生き返らせて、ルイーズは生き返らせないのか」

「おばあさまも生き返らせたかったのですか? 困りましたね。もう代償は払えないです。でも、どうしてもおじいさまが、おばあさまも生き返らせたいと望むなら」

 その言葉に、すかさずジャクセンは首を振った。

「よい。ルイーズは静かに眠らせておいてくれ」

 ルドガーは首を傾げる。

「いいのですか?」

「いいのだ」

 ルドガーは、ジャクセンのそばまで行くと、ジャクセンの手を取って両手で握った。

「おじいさま、寂しかったら言ってください。ルイーズがいないとおじいさまは寂しいでしょう。でも、僕がおじいさまが寂しくないように、いつもおそばにいます。これから先、ずっとおそばにいますから」

 そのルドガーの言葉に、ジャクセンは黙り込み、何も答えなかった。
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