救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ

流石ユユシタ

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1章 山神編

第2話 ここはRPGの世界

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 転生をした黎明。彼は祖父と一緒に物心ついた頃から山奥に住んでいた。


 木々に囲まれた深い森の中にある、小さな平屋一軒家でずっと二人暮らしである。



「じーちゃん、薪を割ったよー」
「……相変わらず、早いな。そこ置いておけ。次は下までご飯の買い出しに行け。ただし、必ず十五時までには帰れ……必ずだぞ」



 黎明は薪を割り、祖父にそれを見せつける。軽快に木々を割る黎明を見て、祖父は目を見張っていた。


 黎明はまだ、十歳の少年。そんな小さい子供が斧を持ち、次々と作業をして行く姿は普通ではない。


 さらに黎明は汗を一つもかいておらず、息も一切乱れていない。



 どう考えても普通ではない。しかし、黎明は生まれた時から特別な才能を持っていたのだ。




「うん、ちょっと待っててー」




 黎明はお使いを頼まれ、すぐさま走り出そうとした。しかし、そこで祖父が足を止めるように声を上げる。




「待て。護身用の刀を持ってけ」
「はーい。じいちゃん、この刀いつも持たせるよね。装備品ってやつかな? 攻撃力、二十くらい上がる?」
「意味わからねぇ事言うな。それは【霊具】だ。怪異を祓うものだ」
「怪異……モンスターのことだよね?」
「まぁ、それでいい。化け物ってことが分かればな」





 黎明は未だに怪異という存在が全くわかっていない。ただ、祖父は黎明に対し、幽霊みたいなもんだ、と説明をしたことがある。

 その説明を覚えていた彼はRPGの中に、幽霊と言われるモンスターが居たのだけは覚えていた。


 しかし、別に幽霊がなんなのかは理解しておらず、モンスターの一種くらいだと思っており、ただの「幽霊」という名前の経験値としてRPGでは倒していた。



 そもそも前世の両親は


 ──幽霊などは、国が勝手に考えたプロパガンダであると、考えていた。


 何がどうして、そういう考えになったのかは両親がハマっていた宗教が原因であった。
 そこでは、日本には国民を洗脳する邪悪な考えがたくさんある!! という教えが広められていた。




 ──よく、親は子供に伝える教えの一つに、こんなのがある。




【良い子にしていないと幽霊が出るぞ】



 これは、子供に悪いことをさせないための、ほうべん。と普通なら考えるだろう。しかし、その宗教では子供を都合の良い傀儡にするための邪悪なる教えの一つであると解釈していた。



 それゆえに洗脳され奴隷にさせてはならない! という危機感から、黎明は情報を統制され、一切、幽霊という概念を知らずに育った。


 それゆえに怪異もモンスターの名前の一種みたいなものだと思っている。





「そんじゃ、行ってくる」
「必ず十五時までには帰れ。それと昼間でも影には入るな。暗い場所には行くな。知らない声がしたら反応をするな」
「じーちゃん、注文多いな」
「深淵を覗く時、また深淵もこちらを覗く。怪異に反応すれば、怪異もこちらに反応をする」
「……モンスターとエンカウントしたら、戦えば相手も攻撃してくる、逃げれば戦いにならないってこと?」
「……よく知らんがそういうことだ。とにかく、化け物からは逃げろ」




 ほぇと、黎明は納得をした。祖父はモンスターとか全く知らないが、黎明がなんとなく納得をしているような気がしたので、話を切り上げた。




(黎明は少し、変わった子であるが聡明な子だ。儂の言葉を自らの中に落とし込んでいるだろう)
(モンスターとエンカウントしたいなぁ。やっぱりこの世界はRPGなのかな)





 護身用の刀を持って、黎明は今度こそ走り出した。朝日に照らされている山道を通って山下へと降りる。




 山下には野菜や米の無人供給所がある。黎明はいつもそれを取り、家へと戻るのだ。




「うーん、今更だけどこの世界って前世とは違うよな。モンスターとかも居るし、モンスター倒すと強くなってる感じもするし。強くなってるということは、経験値が入ってると考えられるし」




 怪異と呼ばれる化け物は霊力の塊である。



 霊力とは人間や全ての生物に宿る力であり、大量に集めれば超常的な現象すら起こせる。しかし、人間にはその現象を起こすほどの量はない。


 だから、人間にその霊力の塊である化け物を倒すことなど本来は不可能なのだ。




──しかし、何事にも例外あり





 黎明は生まれ持った脅威的な身体能力と霊力、才能によって怪異を何度も祓っている。




 怪異を祓える者などほぼ居ない。しかし、仮に祓う場合、怪異の霊力が辺りに飛び散り霧散する。


 その際に、その近くにいる生物に霊力が吸収される場合がある。


 黎明はそれを経験値、であると考え、レベルアップしている感覚なのでは!?


 と考えている。





「ほっほっほ」




 元々の才もあり、黎明は脅威的な力を十歳にして手にしている。


 軽い掛け声をあげながら、黎明は走り続ける。ものの数十分で下まで降りた。


 山下には多少の公道があり、民家なども僅かに残っていた。



「えっと、供給所、着いた」
「おやおや、黎明ちゃん。また来たんだね」


 

 民家はいくつかあるが、住んでいるのはたった1人だった。


 老婆である女性たった1人。しわくちゃで笑顔の素敵な彼女をばーちゃんと黎明は呼んでいる。



「ばーちゃん。このお米持っていっていい?」
「勿論さ。持って帰りなさい」



 そう言われると黎明は米俵を背中に担いで持ち上げた。他にも野菜やら魚やらを持って背中に背負う。



「おっし、ありがとー」
「いいさ。それより、爺さんは元気かい?」
「会いに来ればいいのに。元気だよ」
「そうも行かないのさ」
「じーちゃんとばーちゃんって結婚してたんだよね? なんで今は別々で暮らしてるの?」




 黎明が一緒に過ごしている祖父と山の下で一人で暮らしている老婆は結婚していた。しかし、なぜか別々に暮らしている。

 


 それが黎明には疑問だったのだ。




「そうねぇ。色々と互いに役割があるからねぇ。出来れば一緒に暮らしたいわぁ。子供も孫も……」
「子供いたの?」
「男の子が三人、女の子が二人。でも全員取られちゃった……なんて冗談よー。黎明ちゃんは早く戻りなさい。夜にだけは出歩いては行けないからね」






──色々と腑に落ちない事があるが黎明はすぐさま、食料を持って山奥へと戻った。



 朝日があるうちに、一体くらいはモンスターと出会いたいと思いながら。しかし、それは叶わなくて、黎明はがっかりした。


 本来ならそれは、幸福であるはずなのに。




「よく戻った。あとは家に入れて、さっさと飯食って十七時には寝る。トイレで起きるのも出来ねぇからな」
「はーい」






 祖父はそういうが、黎明には謎だった。いつもいつも、十七時ごろには飯を食べて寝る準備に入る。冬になればもっと早い時間に寝ることもある。




 黎明の祖父は夜を恐れていた。夜が来る前の夕方すらも、恐れていた。


 山の下のばーちゃんも同じである。只管に化け物を恐れているのだ。








 しかし、






「じーちゃん、じーちゃん」
「……」
「寝てる? よーし、経験値稼ぎに出かけるか」






 黎明だけは夜を恐れてはいなかった。夜にお化けが出るから出ては行けないとか今まで言われたことがなく、RPGではモンスターは夜の方が出てくるから経験値の稼ぎ時くらいにしか思ってなかった。




「じーちゃんは夜はダメだというけど。まぁ、大丈夫だよね。じーちゃんって一回寝ると絶対起きないし、バレないかな」




 一応、護身用の刀だけは持ち、黎明は家の外に出た。懐中電灯などは黎明は必要ない。




「やっぱり今の俺って、夜でもこんなはっきり見えるわ。これってステータスがあるからかな?」





 生まれ持った才能が怪異を狩りまくって強化されていた。それ故に黎明は夜でもはっきり見える。


 懐中電灯などは必要ないのだ。





「さてと、山下まで降りるかな」




 とことこ、と黎明が歩いているとさっさと異変が起こった。




「ん?」
「寒いよ、助けて……助けて、助けて、たすけて、タスケて」






 黎明の目の前には血だらけの子供が倒れていた。大きさは身長百センチにも満たない。小さい、幼稚園に通っていそうな子供だった。






「……モンスターだよな?」
「寒い……」





 子供は目が真っ黒でそこから血を流して下にずっと雨のように落ちている。水溜りのように血の池が足元にあり、それが徐々に広がっていく。





「寒いってことは、炎とかが効きやすいのか? ……よし、あれ、使ってみるか」




 手をすぐさま前に出して、黎明はそこに力を込める。すると、マッチもライターもないのに炎が手のひらに出現した。


 火花が散り、手が輝きだす。





「おお、できた。前に経験値もらったときに、使えるようになった気がしたんだよな。あのときレベルアップしたんかな?」


 黎明は少し前、炎を扱うモンスターと戦い、打ち勝った時の記憶を思い出した。その時に新たな力に目覚めた気がしていたのだ。

 それが、炎を出現させれるのではないかということだ。そして、その直感の通り、彼は炎を手にしていた。



 彼は自らの炎を見つめて、それに名前をつける。



「うーん、名付けるなら【フレアボム】かなー」





「──発射」






 放たれたのは直径三十センチほどの火球だった。炎が幼い少年姿の怪異に激突すると、急に爆発し、ガソリンに引火した炎のように猛々しく燃える。




「……うわぁ、あた、たかい……お、おとう、さん」




 怪異は業火に焼かれて霧のように消えてしまった。




「お、なんか力が溢れてくる。ふーむ。このフレアボム、いい感じだなー。急に使えるようになったのは不思議だけど……」 



 

 黎明はニコニコ笑顔で手のひらを見つめていた。




「魔法ってのに憧れてたんだよなぁ。MP消費する感覚もあるな。やはりRPGか……だったら嬉しいけども」




 黎明は転生という概念についてはそこまで詳しいわけではない。しかし、人間が再度別の人生を送るという設定のゲームは少しやった事があった。

 また、学校の図書室には転生系の漫画やラノベがあり少しだけ読んだこともあったのだ。無論、それを親に伝えたら、当然のように「今後図書室に行ってはならない」とお達しがあり、深くは読んでいない。



 図書室の書物は洗脳をする書物があるとかで禁止されたので詳しく知らないのである。





「RPGかぁ。やっぱり前の親が、よく言ってた事が気にかかるな。経典の教えをちゃんと守れば来世も好きなように生きれる、来世は好きな世界で幸せになれるとか……言ってたか。確かに俺、ちゃんと経典通りに過ごしてたな」





 黎明の頭の中には前世の両親の記憶があった。特殊な宗教にハマっていた、両親はちゃんと教えを守れば来世で幸せになれると言っていたのだ。


 無論、そんな訳がなく適当に徳を積ませる為の宗教側の嘘である。宗教側は信者である、彼の両親に多額な金を払わせたいだけだった。

 つまり、黎明の転生と悪徳宗教は全くの関係もない。黎明は経典に従っていたからではないか? とわずかに考えているが、全く関係のない話であった。


 彼の親はひたすらに都合よく動かすため、盲信させていただけである。

 




 だがしかし、その教えを黎明は信じていた。それは周りに友達などが居なかったからであったり、両親だけが話す存在だったりと色んな要因が絡んでいるが。





「そっか。前の親の言ってたことは本当だったのか。ちゃんと俺もよく分からない経典に従って、スマホ使ったりしなかった。だから、俺が好きなRPG世界に転生したのかな」




 
 勝手に黎明は納得をした。







「おお、ってことはRPGかぁ。やっぱりか。そう考えると嬉しいな、モンスターとかも居るしな。冒険とか楽しそうだし、魔王とかも居るのかな?」






 足取り軽く山を走り回る。今日もどんどん怪異を倒していこうと決めたのだ。




「経験値稼ぐか」








◾️◾️







「──黎明、お前、夜に外出てるな……?」
「……あ、えと、うん……ごめん、なさい」
「………………いや、謝ることはねぇが」




 

 次の日、早朝一番に祖父に黎明はそう告げられた。黎明は決まりを破ったことで怒られると思い、渋い顔をしていた。



(前世の両親は経典の守りを少しでも破ったら、殴ったり熱湯かけたりしてきたから怒られるのかな)




 黎明は少し心配したが、逆に祖父の方が渋い顔をしていた。




「……なんで、生きてる? 夜に出歩いていたのなら、普通生きてられねぇはずなんだ」
「……あ、そ、そう?」
「怪異……お前がいうモンスターってのに会わなかったか?」
「あ、うん。毎晩会ってる。三十体くらい……」
「なんで生きてる……? それ会ってよく逃げられたな」
「いや、倒してる……」
「なんでだ。なんで生きてる? そもそも倒せるわけがねぇ」




 祖父は渋い顔をしたあと、信じられないような存在を見るような目を向けた。




「怪異ってのは祓えねぇんだよ……。まぁ、稀に居るには居るが、出来ても低級なんだよ。人間の最高戦力が低級を祓える程度のはず……あとは封印するしかねぇんだ」
「……あ、そうなんだ」
「だから、祓えるはずが……黎明、お前何かあるのか? 朝霧家は特別だが……封印に関してのはず。そもそも黎明は分家の子……いや、分からん」





 祖父は色々と考えたが何も分からないようで。考えるのをやめた。



「老人の脳みそじゃわからん事があるのかもしれん。黎明、お前が本当に怪異を」
「モンスターね」
「あ、うむ。モンスターを倒せたのか疑ってるわけではないがこの目で確かめたい。今日の夜、戦ってる場所を見せてみろ」
「うん。分かった。あと、夜に勝手に出てごめんなさい」
「別にいい。お前が無事ならな」






 最初は半信半疑であったが、祖父は黎明の言っていたことを全面的に信じることにした。



 






──そして、夜となった。祖父は黎明の化け物具合に引くことになる。




 

「じーちゃん、でもどうやって俺が夜中外出てるの知ったの?」
「刀が、摩耗してたからな。まさかと思い、夜に家を出たらわかるようにしてただけだ」
「なるほど」





 今はまだ呑気な会話をしているが、すぐさま凄まじさを知ることとなる。
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