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1章 山神編
第6話 影森町
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「よく来てくれたね。白妙詩さん」
「いえ、これが私の仕事でもありますので」
朝霧黎明の祖母である、朝霧恵美子。彼女の家に一人の女性が訪れていた。名前を白妙詩と言う。
身長は百七十センチほど、平均的に見れば高い背丈。後ろ姿も美しく、豊かな胸元を含めたシルエットが整っている。
顔は整った容姿をしており、二重の綺麗な瞳と鼻筋が通り、美少女という言葉がよく似合っていた。
ただ、目つきが鋭く、大多数の人間は怖いと最初に思うかもしれない。
「今回来て貰った理由なのだけど……私の孫についてさ」
「はい。手紙にて確認をしております。事情は把握しているのですが、少々疑問が残る内容といいますか……」
「えぇ、そうなるのはもっとも。まさか、人間が怪異を祓えるなんて。荒唐無稽で信じる気にもなれないだろうね」
白妙詩は朝霧恵美子に呼ばれて、この地を訪れていた。来た理由は、
──怪異を祓える、歴史上、最も稀有な人間。朝霧黎明について、知るため。
「……疑うのはもっともだ。だからこそ、見てもらえるかい。私の孫を」
「はい。勿論、私もそれを確かめるために来ましたから」
「それと、手紙でも書いたけど、黎明ちゃんは独特の感性を持っているけど。天性の才であるから。あまり修正しないように」
「……はい。分かりました」
「いや、もう、本当に天才だから。黎明ちゃんの感性を大事にしてあげてね」
「……あ、はい」
──白妙詩はこの人、大分盛ってるな。
親バカ……いや、ババアバカ、祖母バカくらいにしておくか。
と思ったが、実際は盛り下げて話しているくらいだった。
◾️◾️
「私の名前は白妙詩。宜しく。勇者殿」
「あ、どうも。朝霧黎明です」
「さて、挨拶はこれくらいにして、さっさと車に乗れ。荷物なら荷台を使うといい」
「うわー、良い車乗ってますね」
「四百万くらいだ」
すごい、良い車だ! と黎明は思った。SUVの黒い車、ピカピカな外装と格好が良い車体。
黎明はその車に荷物を入れ込んで、助手席に乗った。
「お願いします」
「あぁ、祖父と祖母に挨拶は済ませたのか?」
「はい、済ませました」
「そうか。それと私は、こういう可愛くない話し方だから、怖かったら言ってくれ」
「全然怖くないですよ」
「……そうか、偶に怖いと言われることもあるからな」
黎明にそう告げると、白妙詩は運転席に乗り車を運転し始めた。山奥で生活していた黎明にとって、車に乗るなど転生ぶりである。
「うわぁ、車乗るの転生ぶりだな」
「どういう言葉だ。転生ぶりとか」
「いや、そのままです。白妙詩さんは、ばーちゃんの知り合いですか?」
「詩でいい。それに敬語もいらん。そして、その答えだがその通りだ」
「へぇ、それならフランクに。ばーちゃんとはどこで知り合ったの?」
「そもそも私は、国家公認の陰陽師で、全国の異変を調べて調査書をまとめている仕事をしている。その一環で、あの山に封印されている山人喰いの状況を調査、また食料を運んだりしている。その時だな」
国家公認の陰陽師。怪異について封印、調査、封印場所への援助などを行う仕事である。
国家公認となるには試験を受ける必要があり、公認となると国から援助を受けて、怪異について対処ができる。給料はかなり高いのだが、その分危険な仕事でもあり、毎年死者が絶えない。
そもそも、国家公認の陰陽師と言っても、実際は名家と言われる陰陽師集団に怪異対処を任せているのが現状である。朝霧家も封印に対してずっと対処をしており、それに対して、国が大量の金銭を支払っている状態が続いている。
「国家公認の陰陽師? よくわからないけど、カッコいい感じ?」
「国家公認と言っても名ばかりだ。結局、国は怪異の対処のスペシャリストでもなんでもない、ただ金を払うだけだ。特に意味も何もない肩書きだ」
「へぇー。肩書きって大事な気がするけど」
「そう言えば、坊やは肩書きが勇者なんだとな」
「あぁ、肩書きっていうか……職業が勇者みたいな感じ」
「イかれた坊やで安心したよ。それで、毎日、何体くらい怪異を倒してるんだ?」
「詩さん、モンスターを怪異って言うの、間違いだって。じーちゃんが言ってた」
無論、本当は怪異という呼び名の方が通説のようなものだ。しかし、そんなことなど黎明が知る由もない。運転をしながら、なんとも言えない顔をしている詩であった。
「あ、あぁ、すまん。モンスターだったな」
「モンスターは、毎日三十体くらいかな?」
何気なく告げた黎明だが、それを聞いた詩は、特に反応もせずに目を鋭くするだけだった。
(……かの安倍晴明も生涯で百がやっと、と言われていたがな。本当なのか、あの老人がボケているのか……後者とは思いたくないが前者とも思えんな)
運転を開始して二時間ほどして、景色が変わり始めた。ずっと山や、森しかない場所から徐々に人気が出始めた。
田んぼや、スーパーなどが出始め、歩く人も現れ始めた。その時、黎明は思い出したように、ある事を聞いた。
「そう言えばじーちゃんが、モンスターは一般人は知らないから、言っても分からないぞ。って言ってたんだけど、知らない人は多いの?」
「あぁ、怪異……ではなく、モンスターは人間の恐怖を得る事で大きく力を得る場合が多い。だから、一般には秘匿されている」
「ほーん」
「今はSNS社会で、ネットが普及しているからな。恐怖が知れ渡るスピードと、拡大率が昔の比ではない。どれほどの影響が出るか、分からないんだ。だから、一般人には決してモンスターの話はしてはいけない、タブー中のタブーであると覚えておけ」
怪異は、人間の恐怖から出る霊力を吸って大きくなる。他にも信仰から生まれるパターンもあるが。
良くも悪くも怪異は人間の感情から、生まれてしまう。だからこそ、現代において怪異の話を絶対に世間に出してはいけないと考えられている。
もし、それが加速度的に拡散され、全国民が恐怖を持つなどという事案になれば、その被害は想像を絶するのではないか?
日本に留まらず、世界中へと広がってしまうのでは?
そのように日本の中枢部は考えている。それ故に、決して怪異は表に出してはならない話なのだ。
「ふーん、分かった。運転中なのに、説明してくれてありがとね。分かりやすかった。皆、秘密にしなきゃいけないって考えてるんだね」
「……まぁ、完全に皆がそのように考えてるわけではない。だが、お前には関係ない。しかし、素直に礼を言えるのは偉いな」
その後、彼女はしばらく車を走らせた。ふと、黎明は彼女がずっと運転をしてくれていたので、疲れてないか気になった。
「結構運転したよね。詩は運転大丈夫? 疲れない?」
「なんだ、紳士だな。無論、大丈夫だ、この程度はな」
「そう? でも一応、回復魔法かけておくね。【ヒール】」
黎明は詩に手のひらを向けた。次の瞬間、彼女の体から光が溢れ出した。
心なしか、彼女の目元にあった隈が消えた。ますます美人になり、目つきも少し優しくなった。
ただ、次の瞬間には驚きと驚愕という表情に変わる。
「……お前、今何した…………?」
「【ヒール】だけど……? 回復魔法」
「……は?」
「あと、前、車間距離気をつけて」
「あ、あぁ、そ、そうだな」
(……なんだ今のは……? 陰陽術の中の、陽遁術か? わからん。体の疲れが吹き飛び、精神状態も心なしか良くなっているような……)
──全身から、彼女は活力が溢れる感覚があった。
しかし、それが陰陽術の効果であると分かると即座に、全身から冷や汗が溢れる感覚があった。
(そんな、あっさりと……神の御技を模倣出来るはずがないッ。こいつ……何者だッ)
運転をしながら、彼女は一度コンビニによることにした。車を駐車し、コンビニに黎明と入った。
「ほら、やっぱり疲れたんじゃない? 汗すごいけど」
「あ、あぁ」
「ヒール効かなかったのかな? ごめん、まだまだ発展途上でさー」
「い、いや、あれは確かに効いてた。それより、ひ、ヒールを使えることに驚いたというか」
「あれくらいはね。ほら、一応最強職だしね。最強職って万能だしさ。回復魔法くらいは出来るよ。まぁ、まだまだって感じだけどね。もっとレベル上がったら、もっと上位の回復魔法できそうだし」
「……そ、そうか。さっきのお礼にお菓子でも買ってやるが……」
「え、本当? チョコ食べようかなぁ……?」
黎明はお菓子を買ってもらえるとのことで、コンビニの中を歩き出した。その様子を見ながら、詩は一度外に出て、喫煙所でタバコをふかし始めた。
なんだか、余計にどっと疲れた気がしていた。
「……他者の疲労を回復。陽遁術にあったかもしれんが……あいつ……言霊を省りやがった……」
陰陽術は正装をし、言霊をすることにより、初めて使うことができる。朝霧玄蔵や朝霧恵美子が、狩衣の姿をしていたのは正装に該当する。
「それに、正装でもなかった。神からの補助なしに効果を出していただと……無茶苦茶だ……回復された気がするが余計に驚いて疲れた……」
紙巻きタバコをふかしながら、黎明について考える。そして、しばらく状況について理解をし、落ち着いたタイミングでタバコの火種を消す。
「……どうやら、ただの坊やではないようだな」
「詩、チョコ欲しいんだけど、あとグミとポテチと、緑茶と」
「……わかった。欲張りな坊やだ。遠慮されても困るがな」
コンビニの扉から、タバコを吸っていた詩に向けて黎明はお菓子を買ってと催促をした。
そして、お菓子などを買い込み黎明は再び、助手席に乗った。詩もそれを見て、運転席に乗り込み、車を走らせた。
「さっきのヒールだが、あれはいつからできた?」
「えー、モンスターと戦い始めてすぐに覚えたかな。だから、七歳かな?」
「……そ、そうか。他にはできるのか?」
「後は、フレアボムと、クリムゾン・フィールドとか、イグニス・セイバー、フレイム・テンペスト、ハイドロ・バースト、それくらいかな」
「……お、おう、色々あるんだな。全部名前聞いたことないが……後で見せてくれ。私は大した陰陽術が使えんからな」
「いいよ。あと、陰陽術ではなく、魔法ね」
「あ、あぁ……」
黎明について、その魔法について、詳しく問いながら車を走らせる。その後、徐々に学校なども見え始める。
「俺って、どこに住むことになるの?」
「影森町だ。そんなに都会ではないが、自然に囲まれ、空気が美味しい場所だ」
「モンスターは出るの?」
「……あぁ、それなりにな」
「おお、それは楽しみ」
「……楽しみ、か……。今日の夜、私と共に外に出るぞ。そこで、坊やの力を見せてくれ」
「はーい」
──黎明を乗せた車は、二時間と二十分ほどで新たな一軒家へと到着した。
二階建ての一軒家。駐車場は二つほどあり、多少の庭も完備されている。外観は綺麗な黄色。
建てられてからそれほどの時間が経っているわけではなさそうだった。
「綺麗な家だ」
「ここが坊やの家だ。私も暫く住むがな」
「そっか、分かった。そう言えば詩って、学生? 見た感じ若いけど」
「私は二十一歳だ。坊やとは少し歳が離れているが気にするな」
「あいよ」
引っ越しが終わり、荷物などを下ろした後、黎明は近所の住人に挨拶をして回った。
そして、時間が経ち、夜となった。
◾️◾️
「詩、夜になったから外に出よう」
「そうだな……」
「詩、着替えまだ?」
「覗くなよ」
「興味ないよ。さっさと外に出ようよ」
「分かったから」
詩は狩衣の姿で部屋から出てきた。懐には霊具などを忍ばせており、準備万端といった感じである。
対して、黎明は普通に刀を持って山にいた時と同じ、和服、小袖と袴である。
「ふむ、正装ではないが……いや、それでいいのか? 狩衣は予備があるが」
「それって、ピンとくる装備じゃなくてさ。じーちゃんとばーちゃんもその格好してたけど、それそんなに流行ってるの?」
「流行というか、これが普通なんだよ」
「へぇー、沢山買える装備なのかな」
あんまり珍しい装備とかではないんだな。だとしたら、あんまり欲しくないな、と黎明は思ったが声に出すのはやめた。彼は意外と気が使える。
そして、ついに二人は外に出ることになる。
「楽しみだな。変わったモンスターとかいるかな。メタル系とか」
「……坊やが住んでた早池峰山とは、また違うモンスターが居るとは思うが……楽しいか。私は怖くて震えてるんだがな」
「手繋ぐ?」
「……いや、大丈夫だ。私には必要ない。そこまで怖くもない……やっぱり左手だけ貸してくれ」
──また、二人の隣の家から中学二年生の女の子も、外に出ていた。
「お姉ちゃん、お父さん……必ず、見つけるからね……」
「いえ、これが私の仕事でもありますので」
朝霧黎明の祖母である、朝霧恵美子。彼女の家に一人の女性が訪れていた。名前を白妙詩と言う。
身長は百七十センチほど、平均的に見れば高い背丈。後ろ姿も美しく、豊かな胸元を含めたシルエットが整っている。
顔は整った容姿をしており、二重の綺麗な瞳と鼻筋が通り、美少女という言葉がよく似合っていた。
ただ、目つきが鋭く、大多数の人間は怖いと最初に思うかもしれない。
「今回来て貰った理由なのだけど……私の孫についてさ」
「はい。手紙にて確認をしております。事情は把握しているのですが、少々疑問が残る内容といいますか……」
「えぇ、そうなるのはもっとも。まさか、人間が怪異を祓えるなんて。荒唐無稽で信じる気にもなれないだろうね」
白妙詩は朝霧恵美子に呼ばれて、この地を訪れていた。来た理由は、
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「……疑うのはもっともだ。だからこそ、見てもらえるかい。私の孫を」
「はい。勿論、私もそれを確かめるために来ましたから」
「それと、手紙でも書いたけど、黎明ちゃんは独特の感性を持っているけど。天性の才であるから。あまり修正しないように」
「……はい。分かりました」
「いや、もう、本当に天才だから。黎明ちゃんの感性を大事にしてあげてね」
「……あ、はい」
──白妙詩はこの人、大分盛ってるな。
親バカ……いや、ババアバカ、祖母バカくらいにしておくか。
と思ったが、実際は盛り下げて話しているくらいだった。
◾️◾️
「私の名前は白妙詩。宜しく。勇者殿」
「あ、どうも。朝霧黎明です」
「さて、挨拶はこれくらいにして、さっさと車に乗れ。荷物なら荷台を使うといい」
「うわー、良い車乗ってますね」
「四百万くらいだ」
すごい、良い車だ! と黎明は思った。SUVの黒い車、ピカピカな外装と格好が良い車体。
黎明はその車に荷物を入れ込んで、助手席に乗った。
「お願いします」
「あぁ、祖父と祖母に挨拶は済ませたのか?」
「はい、済ませました」
「そうか。それと私は、こういう可愛くない話し方だから、怖かったら言ってくれ」
「全然怖くないですよ」
「……そうか、偶に怖いと言われることもあるからな」
黎明にそう告げると、白妙詩は運転席に乗り車を運転し始めた。山奥で生活していた黎明にとって、車に乗るなど転生ぶりである。
「うわぁ、車乗るの転生ぶりだな」
「どういう言葉だ。転生ぶりとか」
「いや、そのままです。白妙詩さんは、ばーちゃんの知り合いですか?」
「詩でいい。それに敬語もいらん。そして、その答えだがその通りだ」
「へぇ、それならフランクに。ばーちゃんとはどこで知り合ったの?」
「そもそも私は、国家公認の陰陽師で、全国の異変を調べて調査書をまとめている仕事をしている。その一環で、あの山に封印されている山人喰いの状況を調査、また食料を運んだりしている。その時だな」
国家公認の陰陽師。怪異について封印、調査、封印場所への援助などを行う仕事である。
国家公認となるには試験を受ける必要があり、公認となると国から援助を受けて、怪異について対処ができる。給料はかなり高いのだが、その分危険な仕事でもあり、毎年死者が絶えない。
そもそも、国家公認の陰陽師と言っても、実際は名家と言われる陰陽師集団に怪異対処を任せているのが現状である。朝霧家も封印に対してずっと対処をしており、それに対して、国が大量の金銭を支払っている状態が続いている。
「国家公認の陰陽師? よくわからないけど、カッコいい感じ?」
「国家公認と言っても名ばかりだ。結局、国は怪異の対処のスペシャリストでもなんでもない、ただ金を払うだけだ。特に意味も何もない肩書きだ」
「へぇー。肩書きって大事な気がするけど」
「そう言えば、坊やは肩書きが勇者なんだとな」
「あぁ、肩書きっていうか……職業が勇者みたいな感じ」
「イかれた坊やで安心したよ。それで、毎日、何体くらい怪異を倒してるんだ?」
「詩さん、モンスターを怪異って言うの、間違いだって。じーちゃんが言ってた」
無論、本当は怪異という呼び名の方が通説のようなものだ。しかし、そんなことなど黎明が知る由もない。運転をしながら、なんとも言えない顔をしている詩であった。
「あ、あぁ、すまん。モンスターだったな」
「モンスターは、毎日三十体くらいかな?」
何気なく告げた黎明だが、それを聞いた詩は、特に反応もせずに目を鋭くするだけだった。
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田んぼや、スーパーなどが出始め、歩く人も現れ始めた。その時、黎明は思い出したように、ある事を聞いた。
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「ほーん」
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良くも悪くも怪異は人間の感情から、生まれてしまう。だからこそ、現代において怪異の話を絶対に世間に出してはいけないと考えられている。
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「……まぁ、完全に皆がそのように考えてるわけではない。だが、お前には関係ない。しかし、素直に礼を言えるのは偉いな」
その後、彼女はしばらく車を走らせた。ふと、黎明は彼女がずっと運転をしてくれていたので、疲れてないか気になった。
「結構運転したよね。詩は運転大丈夫? 疲れない?」
「なんだ、紳士だな。無論、大丈夫だ、この程度はな」
「そう? でも一応、回復魔法かけておくね。【ヒール】」
黎明は詩に手のひらを向けた。次の瞬間、彼女の体から光が溢れ出した。
心なしか、彼女の目元にあった隈が消えた。ますます美人になり、目つきも少し優しくなった。
ただ、次の瞬間には驚きと驚愕という表情に変わる。
「……お前、今何した…………?」
「【ヒール】だけど……? 回復魔法」
「……は?」
「あと、前、車間距離気をつけて」
「あ、あぁ、そ、そうだな」
(……なんだ今のは……? 陰陽術の中の、陽遁術か? わからん。体の疲れが吹き飛び、精神状態も心なしか良くなっているような……)
──全身から、彼女は活力が溢れる感覚があった。
しかし、それが陰陽術の効果であると分かると即座に、全身から冷や汗が溢れる感覚があった。
(そんな、あっさりと……神の御技を模倣出来るはずがないッ。こいつ……何者だッ)
運転をしながら、彼女は一度コンビニによることにした。車を駐車し、コンビニに黎明と入った。
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「あ、あぁ」
「ヒール効かなかったのかな? ごめん、まだまだ発展途上でさー」
「い、いや、あれは確かに効いてた。それより、ひ、ヒールを使えることに驚いたというか」
「あれくらいはね。ほら、一応最強職だしね。最強職って万能だしさ。回復魔法くらいは出来るよ。まぁ、まだまだって感じだけどね。もっとレベル上がったら、もっと上位の回復魔法できそうだし」
「……そ、そうか。さっきのお礼にお菓子でも買ってやるが……」
「え、本当? チョコ食べようかなぁ……?」
黎明はお菓子を買ってもらえるとのことで、コンビニの中を歩き出した。その様子を見ながら、詩は一度外に出て、喫煙所でタバコをふかし始めた。
なんだか、余計にどっと疲れた気がしていた。
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陰陽術は正装をし、言霊をすることにより、初めて使うことができる。朝霧玄蔵や朝霧恵美子が、狩衣の姿をしていたのは正装に該当する。
「それに、正装でもなかった。神からの補助なしに効果を出していただと……無茶苦茶だ……回復された気がするが余計に驚いて疲れた……」
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「……どうやら、ただの坊やではないようだな」
「詩、チョコ欲しいんだけど、あとグミとポテチと、緑茶と」
「……わかった。欲張りな坊やだ。遠慮されても困るがな」
コンビニの扉から、タバコを吸っていた詩に向けて黎明はお菓子を買ってと催促をした。
そして、お菓子などを買い込み黎明は再び、助手席に乗った。詩もそれを見て、運転席に乗り込み、車を走らせた。
「さっきのヒールだが、あれはいつからできた?」
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「あ、あぁ……」
黎明について、その魔法について、詳しく問いながら車を走らせる。その後、徐々に学校なども見え始める。
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「モンスターは出るの?」
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「おお、それは楽しみ」
「……楽しみ、か……。今日の夜、私と共に外に出るぞ。そこで、坊やの力を見せてくれ」
「はーい」
──黎明を乗せた車は、二時間と二十分ほどで新たな一軒家へと到着した。
二階建ての一軒家。駐車場は二つほどあり、多少の庭も完備されている。外観は綺麗な黄色。
建てられてからそれほどの時間が経っているわけではなさそうだった。
「綺麗な家だ」
「ここが坊やの家だ。私も暫く住むがな」
「そっか、分かった。そう言えば詩って、学生? 見た感じ若いけど」
「私は二十一歳だ。坊やとは少し歳が離れているが気にするな」
「あいよ」
引っ越しが終わり、荷物などを下ろした後、黎明は近所の住人に挨拶をして回った。
そして、時間が経ち、夜となった。
◾️◾️
「詩、夜になったから外に出よう」
「そうだな……」
「詩、着替えまだ?」
「覗くなよ」
「興味ないよ。さっさと外に出ようよ」
「分かったから」
詩は狩衣の姿で部屋から出てきた。懐には霊具などを忍ばせており、準備万端といった感じである。
対して、黎明は普通に刀を持って山にいた時と同じ、和服、小袖と袴である。
「ふむ、正装ではないが……いや、それでいいのか? 狩衣は予備があるが」
「それって、ピンとくる装備じゃなくてさ。じーちゃんとばーちゃんもその格好してたけど、それそんなに流行ってるの?」
「流行というか、これが普通なんだよ」
「へぇー、沢山買える装備なのかな」
あんまり珍しい装備とかではないんだな。だとしたら、あんまり欲しくないな、と黎明は思ったが声に出すのはやめた。彼は意外と気が使える。
そして、ついに二人は外に出ることになる。
「楽しみだな。変わったモンスターとかいるかな。メタル系とか」
「……坊やが住んでた早池峰山とは、また違うモンスターが居るとは思うが……楽しいか。私は怖くて震えてるんだがな」
「手繋ぐ?」
「……いや、大丈夫だ。私には必要ない。そこまで怖くもない……やっぱり左手だけ貸してくれ」
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