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1章 山神編
第18話 VSスザク【闇】
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邪悪なオーラを纏ったスザクと二人が出会った時から、時間は少し遡る。
志乃との仲間イベントの次の日の朝。
志乃の自宅にて、黎明は志麻の体に触れて、霊力を流し込んでいた。
「あれ、わ、私、どうなってたのぉー?」
志乃の姉である、志麻が正気を取り戻した。彼女も志乃と同じで山神の霊力を多大に吸収してしまっていた。
寧ろ、彼女の方が黎明にお姫様抱っこをされていたので吸収率が大きかったとすら言える。
だからこそ、その霊力に彼女は飲み込まれて体の自由が利かなくなっていた。
彼女は眠り姫のようになってしまい、ずっと眠り続けていた。
再び、闇に囚われたような感覚になった志麻であったが……
──再び、黎明の力によって救われた。
「ふむ、姉妹揃って修行が足りないね」
「あ、えと、私とお姉ちゃんは一般人なので……」
「あのぉ、わたしぃ、黎明さんみたいなオーラが出てるんだけどぉ……」
志麻は自らにどんな変化が起こったのか、イマイチ分かっていなかった。彼女の中にある霊力は山神の霊力によって、侵食をされていた。
それを黎明が無理やり、押しつぶし、元の状態に戻した。正確に言えば、山神の部分は黎明に置き換わっており、本来の霊力とは違うのだが。
少なくとも、山神よりは黎明の方が害はない。
「またぁ、助けてくれて、ありがとございますぅ」
「いいよー。ただ、修行きっちりしとかないと次も同じようになるよ」
「は、はいぃ。気をつけますぅ。でもこれ、黎明さんに包まれてるようでぇ、安心するなぁ」
霊力の感触が変わったのだけは、志麻も分かってはいた。そして、自身がまた救われたことも感じていた。
「あ、あの、黎明さん。す、スザクさんも、霊力じゃなくて、MP吸収があったので、私達みたいに、なってるんじゃ……」
「ふむ、スザクも修行が足りてないね」
志乃の言葉に、黎明もスザクを少しだけ心配した。ある程度、知り合った仲でもあったので、助けてあげるかと黎明は思った。
──そのまま、黎明達はスザクの元に向かう。
山神を倒して、まだそれほど時間が経っているわけではない。しかし、黎明は一切疲労がなかった。
「さぁてと、行きますかー」
「あ、あの、私も行きます!」
「ふむ、志乃はついてくるか。志麻はどうする?」
「行きたいですぅ。でも、なんか体が動かなくてぇ……」
「それ、山神のMPが入ったり、俺のMPが大量に入ったり、体が疲労したんだろうさ。まぁ、家でゆっくりしてた方がいいね」
「うぅん、行きたかったんだけどなぁ」
疲労をしている志麻は置いて、黎明と志乃は再び夜に繰り出した。歩きながら、二人は廃病院の隣にある、火の鳥様の神社へと向かっていく。
その神社へと行こうと言うのは、志乃のアイデアだった。なぜなら、彼女はスザクが火の鳥様であると知っている。そのため、彼女はスザクがそこに戻ったと判断した。
「スザクさんは、火の鳥様神社にいます」
「へぇー、よく分かったね」
「え、えと、そこに行くって言ってたので」
(黎明さんは火の鳥様を狩りたい、って言ってた。スザクさんの正体がバレたら、倒しちゃうかも)
(黎明さんなら、絶対に倒せるだろうし……)
真実を話せば、黎明がスザクを倒してしまうのではないかと志乃は悩んだ。しかし、同時に黎明は優しく、話が通じる人物であるとも知っている。
「言うべき、なのかな……」
ただ、スザクは自身の正体については言わないようにお願いをしていた。なので、彼女もその約束は守っている。
しかし、嘘をついている状況は彼女にとっては、好ましくなかった。
「お、なんかMPが溢れてるなこの神社。前に見たときと違う」
「……確かにそう、ですね」
志乃は以前よりも、霊力の感知能力が上がっていた。理由は山神という最高位の霊格を持つ存在、そしてそれすら凌駕する存在の霊力が体の中に入った。
荒れ狂うほどの霊力が、身の内で大暴れする過程を得て、彼女は多大な成長を無理やりにしてしまっていた。
──いや、それだけではなく、多大なる才能が目覚めたとも言える。
篝火志乃、彼女は生まれ持っての特異な体質を持っていた。怪異が寄ってくる体質。
それは単純にそう言った呪いとも言えるが、同時にその体質は彼女の才を伸ばしていた。
常に怪異が寄ってくる状況下で、彼女は無意識のうちに霊力への感覚が鋭くなっていたのだ。
怪異が寄ってくる体質にも関わらず、彼女が生きてこれたのは家族の尽力もあるが彼女の危機感知、霊力感知能力にも起因している。
そして、彼女の才はそれだけではない。
気づきもしないが霊力の操作や、耐性についても大きく才がある。彼女が山神の霊力に侵食されながらも姉とは違い、歩くことが出来たのは、志乃が霊力をコントロールしていたからだ。
僅かに精神が不安定になったが、それだけで済んでいたのは彼女が霊力を操作していたからだ。
無論、黎明のように無理やり自分の霊力で押しつぶすなんて芸当は出来ない。
だが、山神の霊力を多少自身の中で抑え込むことは出来ていた。それにより、黎明の会話についていくことが出来ていた。
そのような経験をした彼女は着実に成長をしていた。身の中にある自身と黎明の霊力も上手いこと調和をさせてすらいた。
「志乃、MP操作が上手だねー。俺ほどではないけど」
「あ、ど、どうも、黎明さんのを手本にさせて、もらってます」
「ほぉ、やるね」
黎明も志乃の霊力の流れが、流暢であると気づいた。素直に感心したが、今は神社内の霊力の方が先だと思い、鳥居をくぐった。
すると、そこには……
黒い炎、それが神社内に蔓延している。安心するような炎などなく、禍々しく、憎悪に満ちている炎だった。
「──ククク、愚かな人間どもよ。ワタシが滅ぼしてあげるわ!!! ワタシこそが、【火の鳥様】!! 全ての人間よ、ワタシにひれ伏しなさい!!」
赤かった髪が黒に染まり、背中からも翼のように黒い炎が飛び出している。ギラギラと攻撃的な霊力を向けて、二人を見据えていた。
「おお、火の鳥様の正体はスザクだったのか」
「あ、あの」
「そろそろ、狩るか」
「黎明さん! スザクさんは凄く良い人だったので!!」
志乃は思わず、黎明に対して、狩るのをやめるように説得をした。そう言うと、黎明は聞き入れる。
「ふーん、まぁ、倒したらちょっとかわいそうかなー。それにしてもモンスターだったのか。まぁ、悪いモンスターではなさそうだしね」
「あ、ありがとうございます! それと、私も何かお手伝いとかはないですか! い、一応、仲間ですし!」
(な、仲間って言っちゃった。ずっとぼっちの私なんかが、仲間とかいっちゃった。否定されたらどうしよう、絶対に恥ずかしくて死んじゃうんだけど!?)
こっそりと本人からしたら、恥ずかしいセリフを言っていたのだが、黎明は特に気づかなかった。
「あぁ、今はいいかな。ほら、レベル上がるまでは寄生プレイさせるもんじゃん?」
「き、寄生……プレイ……あ、よくわからないですけど、おとなしく、し、してます」
仲間ってなんだっけ? 友達もいない自分なんかに分かるはずがないと、志乃は大人しくすることにした。
黎明は一歩踏みだす。それと同時に黒炎が、夜の空を裂いた。
鳥居の奥で、スザク――いや、火の鳥様が笑っている。翼のように広がる黒い焔が、神社の天井を焦がし、空気をねじ曲げていた。
彼女の周囲の温度は異常だった。空気が焼け、石が溶け、祠の柱が赤く染まっていく。
「ワタシに挑むとは、愚かな人間……! 焼き尽くしてあげるわ!!」
叫ぶたび、炎が獣のように形を変え、唸り声を上げる。それを前にしても、黎明はただのんびりと首を傾げていた。
「ふーん、なるほど。山神のMP、まだ残ってたか。他のモンスターに伝染するの、ちょっとカッコいいかもー」
軽く息を吐き、手を軽く握る。その仕草だけで、神社に吹く風が変わった。静かに、だが確実に霊力が膨れ上がる。
志乃にはわかった。黎明の体の内側で、霊力が練られているのだ。
――全身の流れが、完全に制御されている。
足先から頭頂まで、霊力の流れが一切ぶれない。指先に少し力を入れただけで、空気が振動する。まるで彼の一挙手一投足がひとつの陰陽術のようだった。
「──火の鳥様が現れた、戦闘開始だ」
「舐めるなぁッ!!」
スザクが叫び、黒炎を放つ。焔の尾が地面を薙ぎ、社を呑み込む。熱風が頬を刺した瞬間、黎明の姿が――消えた。
次の瞬間、スザクの黒炎が裂かれていた。炎の中に、白く輝く刀身が閃く。黎明の刀が、黒炎を二つに割り、空間ごとねじ切ったようだった。
「な、なにをッ!? 人間の霊力で、この炎をっ……!」
「ふむ、そんなに強いモンスターではないね」
彼の全てが霊力に包まれている。それは体だけではなく、刀も包まれている。
刀の柄を握る手、肩の角度、呼吸のリズム――そのすべてが霊力の流れに一致している。
志乃は素人であるが、それがとんでもない技術であると分かった。
(……霊力が集中してる、体を包んでるのが刀で切る直前に【刀に多く霊力が注がれている】。攻撃と防御、常にその時に霊力が素早く移動してる……)
(あ、あんなふうに、自由自在に霊力って操れるの……?)
スザクの黒炎が再び渦を巻く。
だが、その軌跡を黎明は一歩で抜けた。霊力の防御が薄くなる瞬間を正確に見切り、スザクの腕を掴む。
「痛っ!? な、なにをっ……離しなさい!!」
「全く、MPをちゃんと制御しておくように。修行たりてないぜー」
そう言って、黎明の掌が淡く光る。霊力が霧のように滲み、スザクの腕を包み込んだ。
そしてそのまま、じわじわと押しつぶすように流れが反転する。
「や、やめ――ッ、ぐぅ……!?」
黎明の霊力が、まるで圧力の塊のようにスザクの体内へと入り込む。光と黒炎がぶつかり合い、空気が悲鳴を上げた。
志乃には見えた。二人の間に走る霊力が、絡まり、もみ合い、押し合っている。
それを黎明は、まるで全てが自分の掌にあるように
――自在に、滑らかに操っていた。
暴発しそうな霊力の流れ、それを強引に押さえ込んでいる。相手の霊力をまるで自分のものであるかのように、制御していた。
黎明の霊力操作は繊細な作業に見える。しかし、凶暴さも兼ね備えていた。
「ちょっと、MP潰すね」
「ぐあああッ!? や、やめ、やめてぇぇっ!!」
スザクが叫ぶ。黒炎が空を焦がし、社の屋根が爆ぜた。しかし、黎明は一歩も退かない。
彼はスザクの頭に手を伸ばし、額を軽く押さえる。
その瞬間――音が消えた。
焔も、風も、夜の虫の声も。すべてが止まる。黎明の掌から、淡い白光が流れ込む。
スザクの黒い瞳に、わずかに赤が戻っていく。抵抗していた黒炎が、静かに鎮まっていった。
「……ふむ、山神のMPは消えたかな」
黎明は小さく息を吐く。その手の中で、スザクの体から黒い霧が立ち上り、夜空へと溶けていった。
「修行が足りてないね」
呟くように言って、黎明はそっと手を離す。スザクはその場に崩れ落ちた。黒炎は完全に消え、髪は再び赤く戻っていた。
残ったのは、焦げた匂いと、澄んだ夜風だけ。志乃は息を飲んだ。
目の前の光景が信じられなかった。火の鳥様、神とも言われる存在、それを力でねじ伏せた人間。なまじ力を手に入れたからこそ、改めてその技術を感じる。
(……すごい。本当に、すごい……この人の仲間って、格落ち感がすごいような気もするけど)
静かな風が吹いた。焦げた祠の屋根がぱらぱらと崩れ、黎明の髪を揺らした。
「お、なんか気持ちいい感じの場所になったね」
「そ、そうですね」
「スザク倒れてるから、運ぶかー」
影森町の闇はこれで完全に祓われた。そんな彼らを祝福するように、爽やかな風が吹き続けているのだった。
志乃との仲間イベントの次の日の朝。
志乃の自宅にて、黎明は志麻の体に触れて、霊力を流し込んでいた。
「あれ、わ、私、どうなってたのぉー?」
志乃の姉である、志麻が正気を取り戻した。彼女も志乃と同じで山神の霊力を多大に吸収してしまっていた。
寧ろ、彼女の方が黎明にお姫様抱っこをされていたので吸収率が大きかったとすら言える。
だからこそ、その霊力に彼女は飲み込まれて体の自由が利かなくなっていた。
彼女は眠り姫のようになってしまい、ずっと眠り続けていた。
再び、闇に囚われたような感覚になった志麻であったが……
──再び、黎明の力によって救われた。
「ふむ、姉妹揃って修行が足りないね」
「あ、えと、私とお姉ちゃんは一般人なので……」
「あのぉ、わたしぃ、黎明さんみたいなオーラが出てるんだけどぉ……」
志麻は自らにどんな変化が起こったのか、イマイチ分かっていなかった。彼女の中にある霊力は山神の霊力によって、侵食をされていた。
それを黎明が無理やり、押しつぶし、元の状態に戻した。正確に言えば、山神の部分は黎明に置き換わっており、本来の霊力とは違うのだが。
少なくとも、山神よりは黎明の方が害はない。
「またぁ、助けてくれて、ありがとございますぅ」
「いいよー。ただ、修行きっちりしとかないと次も同じようになるよ」
「は、はいぃ。気をつけますぅ。でもこれ、黎明さんに包まれてるようでぇ、安心するなぁ」
霊力の感触が変わったのだけは、志麻も分かってはいた。そして、自身がまた救われたことも感じていた。
「あ、あの、黎明さん。す、スザクさんも、霊力じゃなくて、MP吸収があったので、私達みたいに、なってるんじゃ……」
「ふむ、スザクも修行が足りてないね」
志乃の言葉に、黎明もスザクを少しだけ心配した。ある程度、知り合った仲でもあったので、助けてあげるかと黎明は思った。
──そのまま、黎明達はスザクの元に向かう。
山神を倒して、まだそれほど時間が経っているわけではない。しかし、黎明は一切疲労がなかった。
「さぁてと、行きますかー」
「あ、あの、私も行きます!」
「ふむ、志乃はついてくるか。志麻はどうする?」
「行きたいですぅ。でも、なんか体が動かなくてぇ……」
「それ、山神のMPが入ったり、俺のMPが大量に入ったり、体が疲労したんだろうさ。まぁ、家でゆっくりしてた方がいいね」
「うぅん、行きたかったんだけどなぁ」
疲労をしている志麻は置いて、黎明と志乃は再び夜に繰り出した。歩きながら、二人は廃病院の隣にある、火の鳥様の神社へと向かっていく。
その神社へと行こうと言うのは、志乃のアイデアだった。なぜなら、彼女はスザクが火の鳥様であると知っている。そのため、彼女はスザクがそこに戻ったと判断した。
「スザクさんは、火の鳥様神社にいます」
「へぇー、よく分かったね」
「え、えと、そこに行くって言ってたので」
(黎明さんは火の鳥様を狩りたい、って言ってた。スザクさんの正体がバレたら、倒しちゃうかも)
(黎明さんなら、絶対に倒せるだろうし……)
真実を話せば、黎明がスザクを倒してしまうのではないかと志乃は悩んだ。しかし、同時に黎明は優しく、話が通じる人物であるとも知っている。
「言うべき、なのかな……」
ただ、スザクは自身の正体については言わないようにお願いをしていた。なので、彼女もその約束は守っている。
しかし、嘘をついている状況は彼女にとっては、好ましくなかった。
「お、なんかMPが溢れてるなこの神社。前に見たときと違う」
「……確かにそう、ですね」
志乃は以前よりも、霊力の感知能力が上がっていた。理由は山神という最高位の霊格を持つ存在、そしてそれすら凌駕する存在の霊力が体の中に入った。
荒れ狂うほどの霊力が、身の内で大暴れする過程を得て、彼女は多大な成長を無理やりにしてしまっていた。
──いや、それだけではなく、多大なる才能が目覚めたとも言える。
篝火志乃、彼女は生まれ持っての特異な体質を持っていた。怪異が寄ってくる体質。
それは単純にそう言った呪いとも言えるが、同時にその体質は彼女の才を伸ばしていた。
常に怪異が寄ってくる状況下で、彼女は無意識のうちに霊力への感覚が鋭くなっていたのだ。
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そして、彼女の才はそれだけではない。
気づきもしないが霊力の操作や、耐性についても大きく才がある。彼女が山神の霊力に侵食されながらも姉とは違い、歩くことが出来たのは、志乃が霊力をコントロールしていたからだ。
僅かに精神が不安定になったが、それだけで済んでいたのは彼女が霊力を操作していたからだ。
無論、黎明のように無理やり自分の霊力で押しつぶすなんて芸当は出来ない。
だが、山神の霊力を多少自身の中で抑え込むことは出来ていた。それにより、黎明の会話についていくことが出来ていた。
そのような経験をした彼女は着実に成長をしていた。身の中にある自身と黎明の霊力も上手いこと調和をさせてすらいた。
「志乃、MP操作が上手だねー。俺ほどではないけど」
「あ、ど、どうも、黎明さんのを手本にさせて、もらってます」
「ほぉ、やるね」
黎明も志乃の霊力の流れが、流暢であると気づいた。素直に感心したが、今は神社内の霊力の方が先だと思い、鳥居をくぐった。
すると、そこには……
黒い炎、それが神社内に蔓延している。安心するような炎などなく、禍々しく、憎悪に満ちている炎だった。
「──ククク、愚かな人間どもよ。ワタシが滅ぼしてあげるわ!!! ワタシこそが、【火の鳥様】!! 全ての人間よ、ワタシにひれ伏しなさい!!」
赤かった髪が黒に染まり、背中からも翼のように黒い炎が飛び出している。ギラギラと攻撃的な霊力を向けて、二人を見据えていた。
「おお、火の鳥様の正体はスザクだったのか」
「あ、あの」
「そろそろ、狩るか」
「黎明さん! スザクさんは凄く良い人だったので!!」
志乃は思わず、黎明に対して、狩るのをやめるように説得をした。そう言うと、黎明は聞き入れる。
「ふーん、まぁ、倒したらちょっとかわいそうかなー。それにしてもモンスターだったのか。まぁ、悪いモンスターではなさそうだしね」
「あ、ありがとうございます! それと、私も何かお手伝いとかはないですか! い、一応、仲間ですし!」
(な、仲間って言っちゃった。ずっとぼっちの私なんかが、仲間とかいっちゃった。否定されたらどうしよう、絶対に恥ずかしくて死んじゃうんだけど!?)
こっそりと本人からしたら、恥ずかしいセリフを言っていたのだが、黎明は特に気づかなかった。
「あぁ、今はいいかな。ほら、レベル上がるまでは寄生プレイさせるもんじゃん?」
「き、寄生……プレイ……あ、よくわからないですけど、おとなしく、し、してます」
仲間ってなんだっけ? 友達もいない自分なんかに分かるはずがないと、志乃は大人しくすることにした。
黎明は一歩踏みだす。それと同時に黒炎が、夜の空を裂いた。
鳥居の奥で、スザク――いや、火の鳥様が笑っている。翼のように広がる黒い焔が、神社の天井を焦がし、空気をねじ曲げていた。
彼女の周囲の温度は異常だった。空気が焼け、石が溶け、祠の柱が赤く染まっていく。
「ワタシに挑むとは、愚かな人間……! 焼き尽くしてあげるわ!!」
叫ぶたび、炎が獣のように形を変え、唸り声を上げる。それを前にしても、黎明はただのんびりと首を傾げていた。
「ふーん、なるほど。山神のMP、まだ残ってたか。他のモンスターに伝染するの、ちょっとカッコいいかもー」
軽く息を吐き、手を軽く握る。その仕草だけで、神社に吹く風が変わった。静かに、だが確実に霊力が膨れ上がる。
志乃にはわかった。黎明の体の内側で、霊力が練られているのだ。
――全身の流れが、完全に制御されている。
足先から頭頂まで、霊力の流れが一切ぶれない。指先に少し力を入れただけで、空気が振動する。まるで彼の一挙手一投足がひとつの陰陽術のようだった。
「──火の鳥様が現れた、戦闘開始だ」
「舐めるなぁッ!!」
スザクが叫び、黒炎を放つ。焔の尾が地面を薙ぎ、社を呑み込む。熱風が頬を刺した瞬間、黎明の姿が――消えた。
次の瞬間、スザクの黒炎が裂かれていた。炎の中に、白く輝く刀身が閃く。黎明の刀が、黒炎を二つに割り、空間ごとねじ切ったようだった。
「な、なにをッ!? 人間の霊力で、この炎をっ……!」
「ふむ、そんなに強いモンスターではないね」
彼の全てが霊力に包まれている。それは体だけではなく、刀も包まれている。
刀の柄を握る手、肩の角度、呼吸のリズム――そのすべてが霊力の流れに一致している。
志乃は素人であるが、それがとんでもない技術であると分かった。
(……霊力が集中してる、体を包んでるのが刀で切る直前に【刀に多く霊力が注がれている】。攻撃と防御、常にその時に霊力が素早く移動してる……)
(あ、あんなふうに、自由自在に霊力って操れるの……?)
スザクの黒炎が再び渦を巻く。
だが、その軌跡を黎明は一歩で抜けた。霊力の防御が薄くなる瞬間を正確に見切り、スザクの腕を掴む。
「痛っ!? な、なにをっ……離しなさい!!」
「全く、MPをちゃんと制御しておくように。修行たりてないぜー」
そう言って、黎明の掌が淡く光る。霊力が霧のように滲み、スザクの腕を包み込んだ。
そしてそのまま、じわじわと押しつぶすように流れが反転する。
「や、やめ――ッ、ぐぅ……!?」
黎明の霊力が、まるで圧力の塊のようにスザクの体内へと入り込む。光と黒炎がぶつかり合い、空気が悲鳴を上げた。
志乃には見えた。二人の間に走る霊力が、絡まり、もみ合い、押し合っている。
それを黎明は、まるで全てが自分の掌にあるように
――自在に、滑らかに操っていた。
暴発しそうな霊力の流れ、それを強引に押さえ込んでいる。相手の霊力をまるで自分のものであるかのように、制御していた。
黎明の霊力操作は繊細な作業に見える。しかし、凶暴さも兼ね備えていた。
「ちょっと、MP潰すね」
「ぐあああッ!? や、やめ、やめてぇぇっ!!」
スザクが叫ぶ。黒炎が空を焦がし、社の屋根が爆ぜた。しかし、黎明は一歩も退かない。
彼はスザクの頭に手を伸ばし、額を軽く押さえる。
その瞬間――音が消えた。
焔も、風も、夜の虫の声も。すべてが止まる。黎明の掌から、淡い白光が流れ込む。
スザクの黒い瞳に、わずかに赤が戻っていく。抵抗していた黒炎が、静かに鎮まっていった。
「……ふむ、山神のMPは消えたかな」
黎明は小さく息を吐く。その手の中で、スザクの体から黒い霧が立ち上り、夜空へと溶けていった。
「修行が足りてないね」
呟くように言って、黎明はそっと手を離す。スザクはその場に崩れ落ちた。黒炎は完全に消え、髪は再び赤く戻っていた。
残ったのは、焦げた匂いと、澄んだ夜風だけ。志乃は息を飲んだ。
目の前の光景が信じられなかった。火の鳥様、神とも言われる存在、それを力でねじ伏せた人間。なまじ力を手に入れたからこそ、改めてその技術を感じる。
(……すごい。本当に、すごい……この人の仲間って、格落ち感がすごいような気もするけど)
静かな風が吹いた。焦げた祠の屋根がぱらぱらと崩れ、黎明の髪を揺らした。
「お、なんか気持ちいい感じの場所になったね」
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