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ドラゴンスレイヤー(幼馴染が)
第四話 パワーレベリング
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俺は今、無力感に苛まれながら町を彷徨い歩いていた。
ウォームの乱獲で何故か無駄に自信を付けていた俺は、最低限の仕事位は出来るつもりでいた。いたのだが、現実は甘くなかった。
「あいつほんと化け物だよなぁ」
呟きながら彩音の顔を思い浮かべる。
この街、コーカスに着いたのは4日前。
俺達は着いて早々教会から魔物退治の依頼を受け、ダンジョンへと向かうことになる。街から西に半日程進んだ場所にある、山の麓の洞窟へと。
基本的にダンジョンの魔物は外に出てくることがなく、放置されることが多い。
だが最近ダンジョン内の魔物が増えすぎた為か、居場所を失った魔物達がダンジョンを飛び出し、街道などをうろつく様になったのだ。
ダンジョンの魔物は強力かつ凶暴なものが多く、これらが街道周辺に出現するのは旅の安全や物流に大きく影響してしまう。
それらが憂慮され、今回の依頼が発生する。
これは後で知った事だが、通常ならばダンジョンの魔物掃討等はそこそこ大人数で行われるらしく。にもかかわらずたった3人の俺達に依頼が周ってきたのは、彩音とティーエさんのコンビがかなり名の通った冒険者だったためらしい。
そんな事とは露知らず。
少人数で行けるならそれほど難しいものでは無いとたかを括って居た俺は、向かった先で厳しい現実を付きつけられる。
ダンジョン内に入り、程なく遭遇した二足歩行の蜥蜴の魔物。
そいつを倒してティーエさんに良い所を見て貰う。
そういきり立ってゴブリンを嗾けた所、その尻尾の一振りでゴブリン達は三匹纏めて消し飛ばされ、俺は唖然とする。ダンジョン内の魔物の強さに。
そしてその直後。それを遥かに超える更なる衝撃が俺を襲う。
彩音がお返しとばかりに、そんな凶悪な蜥蜴を一撃で粉砕してみせたのだ。
拳を受けた蜥蜴の肉体はバラバラに弾け飛ぶ。文字通り、まさに粉砕だ。
彩音はそれを表情一つ変えず涼しい顔でやってのけた。
まるで足元の虫けらを踏みつぶす如く容易く。
正に圧倒的強者。
もうこうなるとティーエさんにアピールする処ではない。
俺は彩音がモンスターを蹂躙する様を、ドン引きしつつ眺める事しか出来なかった。
ミケ曰く、その時の俺の目はまるで死んだ魚の様だったらしい。
この日、俺はある一つの誓いを立てる。
彩音を怒らすような真似は決してしないと。
だって長生きしたいんだもん。
「はぁ…」
溜め息をつきながらあてどなく歩く。
今の俺はレベル25だ。
この街に来た時レベルは12だったにもかかわらず、たった4日、否、2日で25まで上がっている。
どうもパーティーを組んで側に居るだけで経験値が入ってくる構造の様で、俺は何もすることなくレベルが25まで上がってしまった。
これじゃあ完全に寄生虫だ。
ネットゲームにパワーレベリングなるものがある。
ネトゲでは俺もよく人のレベル上げを手伝ったものだが、まさか自分ががされる側になるとは思いもしなかった。しかも現実で。
冷静に考えればレベルが上がり強くなった事を素直に喜ぶべきなのだろうが、少々複雑な気分である。
まあ割り切るしかないか。
彩音には子供のころ酷い目に遭わされている。
これぐらいの寄生は大目に見て貰うとしよう。
レベルが13個上がった結果、召喚魔法3種類に召喚モンスター限定の回復魔法を習得したのだが。多少強化された所で、彩音相手だと全く役に立てる気がしないから困る。
覚えた召喚はレベル15でフローティングアイ
20センチ程度の空飛ぶ目玉で、見た目はかなり気持ち悪い。
レベル20でゴーレム
体長2メートルはある、がっしりとした体つきの石で出来た人型のモンスターだ。
レベル25でスライム
青いぶよぶよした液状のモンスターで、サイズはゴーレムと同じ程度。
モンスターの特徴としては
ゴーレムは動きが極めて遅いが、耐久力が高く壁としては優秀。
何せ彩音の一撃に耐える程だ。
もっとも、2発目を受けた時点で粉々になってしまったが。
それでも十分な耐久力といえるだろう。
スライムの方も打撃耐性が有るため彩音の一撃には耐えたが、ゴーレムのように踏ん張ることが出来ず吹っ飛んでしまった為、壁約としては微妙なところ。さらに動きも遅く、パワーも微妙であるため判断に困る性能だ。
一応酸に耐性が有り、消費MPも低めである為何らかの使い道はあると思いたい。
フローティングアイに関しては、千里眼という便利なスキルを使える。ただし戦闘力は皆無。
「はぁ……ウロチョロしててもしょうがないし帰るか」
本日何度目かのため息をつき、宿へと足を向ける。
因みにこの街で宿に泊まってるのは俺だけであり、彩音とティーエさんは教会で寝泊まりしている。
ティーエさんは教会内ではかなりの階位に位置するらしく、ビップ待遇で部屋が用意されており、彩音もその連れということで教会の一室を借り受けている。
宿に関しては、俺にも一応教会にどうぞと誘いはあったのだが、遠慮しておいた。
堅苦しそうな教会で、寝泊まりすると肩がこりそうだったからだ。
因みに、ミケは彩音が教会に用意して貰っている部屋に一緒に寝泊まりしている。
俺のサポートの為にこの世界に来ているのに彩音にべったりとか。
あいつは一体何しにこの世界に来たんだ? と、思わなくもないが。
傍にいたらいたで宿から割増料金を取られるだけなので、まあ良しとしよう。
ふと、一人の人物が目に留まる。
黒のフルプレートメイルを身に纏い、腰にはこれまた黒い剣を携え、背中には大きな盾を背負っていた。髪と瞳は金色で顔立ちは整っており、遠目からでも美形だとはっきりわかる。
全身黒ずくめという異様な出で立ちの、長身の男。
そんな男が宿の前で仁王立ちしているのだから、嫌でも目につく。
心なしかこちらを睨んでいるようにも見えたが、俺には心当たりがない。
気のせいだろうと、男を避けて宿の扉をくぐろうとしたその時。
「おい。お前がたかしか?」
「いえ、違います」
右手を軽く挙げて否定する。
どういう経緯で名前を知ったのか知らないが、男が放つ剣呑な雰囲気からとっさに嘘をついてしまった。
「本当か?嘘なら承知せんぞ」
男が訝しげにこちらを睨むが、素知らぬ顔で宿屋に入る。
中に入ると同時に宿屋の親父が大声で話しかけてきた。
「あ、お客さん!さっき黒ずくめのにーさんがあんたの事探してたぜ!」
どう考えても外にまで丸聞こえである。個人情報保垂れ流しもいいところだ。
恐る恐る振り返ると、男が鋭い眼光でこちらを睨みつけていた。
「いったいどういうつもりだ?」
それを聞きたいのはむしろこっちの方なんだが。
「悪いね。いきなり斬りつけられでもしたら堪らないんで、自分から名乗らない奴は相手にしない事にしてるのさ」
すいませ~ん、何か咄嗟に嘘ついちゃいました。
と言うのは流石にかっこ悪いので、何となくかっこよさげな言い訳をしてみた。
「ふん、まあいい。俺の名はティータ・アルバート。貴様に決闘を申し込む!」
は?え!?決闘!?
いきなり何言ってんだこいつ?
ってあれ?アルバート?
「アルバートってひょっとして」
「そうだ、私は聖女と称えられしティーエ・アルバートの弟!ティータ・アルバートだ!尋常に勝負しろ!」
弟?弟って言ったのか?
こいつ幾つだ?
どう見ても、目の前の男はティーエさんよりも年下に見えないのだが。
「あーと。年齢を聞いてもいいかな?」
「そんなことを聞いてどうする?まあいい、姉上より1つ下の15だ」
嘘だろ?どう見ても成人男性にしか見えない。
いくらなんでも発育良すぎだろ。
背だって190はあるぞ。
「さあ、決闘を受けて貰おうか」
何が何でも決闘がしたいようだが、こちらとしては受ける気ゼロなので迷惑極まりない。
「一つ聞いていいか?何故俺と決闘がしたいんだ?」
「ふ、貴様は姉上のパーティーに相応しくないからだ。だから私が貴様を叩きのめし、姉上に貴様がどれだけ役立たずかを知ってもらう」
あれ?ひょっとしてこいつシスコンか?
うわぁ、気持ちわる。
「あのさ、言っておくけど。俺が役立たずなのティーエさんはもう知ってるぞ」
「なに?」
西の洞窟での事を思い出す。
あの時俺がしたのは殲滅後のテレポートだけだ。
正直今の俺の価値は、自分で歩いてついて来るワープアイテム程度でしかない。
だから決闘でぶちのめされても自分の評価はこれ以上下がりようがないだろう。
とはいえ無意味に痛い思いをするのは勘弁願いたいところ。
「だから俺と決闘しても意味はないぞ」
「嘘をつくな!ならば何故姉上は貴様とパーティーを組んでいるのだ!」
それは彩音がいるからだ。
そう答えようとしたとき、横から驚いたような声が飛んできた。
「ティータ!どうしてあなたがこの街に!?家はどうしたの?」
「あ、姉上」
入口の方に目をやると、ティーエさんと彩音が立っていた。
どうやら二人は俺を訪ねてきたようだ。
「姉上、お久しぶりです。相も変わらず御美しい」
うん、やっぱりシスコンだ。
俺は確信する。
「もう、ティータったら」
ティーエさんが困ったような反応を返す。
照れたティーエさんもびっくりする程かわいいなぁ。
余りの可愛さについつい見惚れてしまう。
「実はドラゴンの件で来たのです。許可も父上からちゃんと頂いております」
「まあ、そうだったの?でも何故教会ではなくたかしさんの所に?」
「いや、それは……」
ティータが返事を言い淀む。
どうやら、ティーエさんには内緒で決闘を申し込みに来ていたようだ。
まあ、そらそうだわな。
普通に考えればティーエさんが決闘なんて許可するわけないんだから。
本人は返事がしにくそうなので、そこで俺が代わりに答えてあげることにした。
俺ってやっさしぃ。
「俺と決闘したいらしいですよ」
「ティータ!貴方なんてことを!たかしさん申し訳ありません。弟が大変失礼をしたようで」
ティーエさんが深々と俺に頭を下げる。
そんな姿さえも優美で美しい……
などと浸っている場合ではない!
こんな美しい女性に頭を下げさせるなど、男のする事ではない。
俺は慌てて頭を上げるよう声をかける。
「い、いや、あのどうか気にしないで頭を上げてください」
「そうです、姉上が頭を下げる様な事ではありません!」
「ティータ!もう、全くあなたって子は……。お話があります、こっちに来なさい」
そう言うと、ティーエさんはティータの手を掴み店の外に連れて行ってしまった。
「はぁ、あんなのがティーエさんの弟だとか信じられねぇ」
「そうでもないぞ」
俺のつぶやきに対して、彩音が楽し気に答える。
「丁度いい、お前も知っておいた方が良いだろう」
そう言って彩音は俺の襟首を掴み店の外へと引きずり出す。
「ちょ、何しやがる!」
「いいからいいから、黙ってついてきなって」
彩音に引き摺られ、宿屋の裏路地に入ったところで豆粒大の白い綿の様な物を渡された。
「なんだこれ?」
彩音が同じ物を耳の穴に詰め込み、両手の人差し指でトントンと耳の穴を叩くジェスチャーをする。
どうやら俺にも着けろと言いたいらしい。しぶしぶと両耳に綿を詰める。
すると男女の声が聞こえてきた。
「何故です?何故あのような者をそばに置くのですか?男を周りに置くなど、良からぬ噂の元になるだけではありませんか」
「私も好き好んで組んでいるんじゃないの。それ位理解しなさい」
ティーエさん達の声だ。
「おい、これって盗み聞きじゃ!?」
小声で言う。
すると彩音は黙ってろと言わんばかりに口の前に人差し指を当てて、しーっと言ってきた。
こいつ盗み聞きの趣味があったのか?それともこの行動に何か意味が?
意図はよく分からないが、とりあえず彩音の指示に従う事にする。
更にティーエさん達の声は続く。
「彩音さんの幼馴染だから一緒に組んでいるだけよ。出なきゃあんな貧相なの連れてかないわよ」
「で、ですが姉上……」
「あなたも彩音さんの桁違いの強さは知ってるでしょ?私が聖女に昇り詰めるには、彼女の強さが必要不可欠なの。彩音さんを敵に回すような事が出来ないから、リスクを承知で組んでるのよ」
「それは分かりますが」
「分かっているならこの話はここまでよ。それともあなたは私の邪魔をしたいの?もし私の目的を邪魔しようというなら、たとえ弟であろうと容赦しないわよ」
「わ、分かりました。すいません、姉上」
「分かればいいわ。もう彼に絡んではダメよ」
話し声が消え、足音が遠ざかっていく。
幻聴か……今の、幻聴だよな?
声に出して彩音にも確認する。
「今のってその、幻聴……だよな?」
「はははは、そんなわけないだろう。今のは正真正銘ティーエ達の話し声さ」
彩音は楽しそうに笑って話しながら、耳の詰め物を外す。
こっちはショック受けてるってのに楽しそうに笑いやがって。
さっき渡した白い綿をこっちの目の前に突き付けながら、彩音は言う。
「静音魔法対策のアイテムさ」
静音魔法はプリーストの使う魔法で、一定の範囲内の音を外部に漏れないようにする魔法だ。
人に聞かれたくない話をする時や、振動を遮断するために使われる。
「彩音。お前ティーエさんが猫かぶってたの知ってたのかよ」
「無論だ。自分の命を預ける相棒だぞ。相手の性格も分からずに組むわけがないだろう」
もっともな意見である。
純粋無垢な天使だと思っていたのにショックだ。
さらば俺の初恋。
どれほど可愛かろうが、裏表のある人間は余り好きにはなれない。
「まあそう落ち込むな。人間良い所もあれば悪い所もあるものさ。確かに彼女はお前の思っていたような人間じゃあない。けど、良い所だっていっぱいあるぞ」
どれだけ良い所がいっぱいあろうと、猫をかぶってる事に変わりがない以上、俺には何の慰めにもならない。
「はぁ…なんでわざわざ俺にそれを教えるかなぁ」
「一緒に行動していれば、いずれ嫌でも気づく時が来る。それなら早い方がショックも少ないだろ?」
そういいながらウィンクする彩音の顔に、思わず見とれてしまう。
顔だけは可愛いんだよなぁ。こいつも。
ウォームの乱獲で何故か無駄に自信を付けていた俺は、最低限の仕事位は出来るつもりでいた。いたのだが、現実は甘くなかった。
「あいつほんと化け物だよなぁ」
呟きながら彩音の顔を思い浮かべる。
この街、コーカスに着いたのは4日前。
俺達は着いて早々教会から魔物退治の依頼を受け、ダンジョンへと向かうことになる。街から西に半日程進んだ場所にある、山の麓の洞窟へと。
基本的にダンジョンの魔物は外に出てくることがなく、放置されることが多い。
だが最近ダンジョン内の魔物が増えすぎた為か、居場所を失った魔物達がダンジョンを飛び出し、街道などをうろつく様になったのだ。
ダンジョンの魔物は強力かつ凶暴なものが多く、これらが街道周辺に出現するのは旅の安全や物流に大きく影響してしまう。
それらが憂慮され、今回の依頼が発生する。
これは後で知った事だが、通常ならばダンジョンの魔物掃討等はそこそこ大人数で行われるらしく。にもかかわらずたった3人の俺達に依頼が周ってきたのは、彩音とティーエさんのコンビがかなり名の通った冒険者だったためらしい。
そんな事とは露知らず。
少人数で行けるならそれほど難しいものでは無いとたかを括って居た俺は、向かった先で厳しい現実を付きつけられる。
ダンジョン内に入り、程なく遭遇した二足歩行の蜥蜴の魔物。
そいつを倒してティーエさんに良い所を見て貰う。
そういきり立ってゴブリンを嗾けた所、その尻尾の一振りでゴブリン達は三匹纏めて消し飛ばされ、俺は唖然とする。ダンジョン内の魔物の強さに。
そしてその直後。それを遥かに超える更なる衝撃が俺を襲う。
彩音がお返しとばかりに、そんな凶悪な蜥蜴を一撃で粉砕してみせたのだ。
拳を受けた蜥蜴の肉体はバラバラに弾け飛ぶ。文字通り、まさに粉砕だ。
彩音はそれを表情一つ変えず涼しい顔でやってのけた。
まるで足元の虫けらを踏みつぶす如く容易く。
正に圧倒的強者。
もうこうなるとティーエさんにアピールする処ではない。
俺は彩音がモンスターを蹂躙する様を、ドン引きしつつ眺める事しか出来なかった。
ミケ曰く、その時の俺の目はまるで死んだ魚の様だったらしい。
この日、俺はある一つの誓いを立てる。
彩音を怒らすような真似は決してしないと。
だって長生きしたいんだもん。
「はぁ…」
溜め息をつきながらあてどなく歩く。
今の俺はレベル25だ。
この街に来た時レベルは12だったにもかかわらず、たった4日、否、2日で25まで上がっている。
どうもパーティーを組んで側に居るだけで経験値が入ってくる構造の様で、俺は何もすることなくレベルが25まで上がってしまった。
これじゃあ完全に寄生虫だ。
ネットゲームにパワーレベリングなるものがある。
ネトゲでは俺もよく人のレベル上げを手伝ったものだが、まさか自分ががされる側になるとは思いもしなかった。しかも現実で。
冷静に考えればレベルが上がり強くなった事を素直に喜ぶべきなのだろうが、少々複雑な気分である。
まあ割り切るしかないか。
彩音には子供のころ酷い目に遭わされている。
これぐらいの寄生は大目に見て貰うとしよう。
レベルが13個上がった結果、召喚魔法3種類に召喚モンスター限定の回復魔法を習得したのだが。多少強化された所で、彩音相手だと全く役に立てる気がしないから困る。
覚えた召喚はレベル15でフローティングアイ
20センチ程度の空飛ぶ目玉で、見た目はかなり気持ち悪い。
レベル20でゴーレム
体長2メートルはある、がっしりとした体つきの石で出来た人型のモンスターだ。
レベル25でスライム
青いぶよぶよした液状のモンスターで、サイズはゴーレムと同じ程度。
モンスターの特徴としては
ゴーレムは動きが極めて遅いが、耐久力が高く壁としては優秀。
何せ彩音の一撃に耐える程だ。
もっとも、2発目を受けた時点で粉々になってしまったが。
それでも十分な耐久力といえるだろう。
スライムの方も打撃耐性が有るため彩音の一撃には耐えたが、ゴーレムのように踏ん張ることが出来ず吹っ飛んでしまった為、壁約としては微妙なところ。さらに動きも遅く、パワーも微妙であるため判断に困る性能だ。
一応酸に耐性が有り、消費MPも低めである為何らかの使い道はあると思いたい。
フローティングアイに関しては、千里眼という便利なスキルを使える。ただし戦闘力は皆無。
「はぁ……ウロチョロしててもしょうがないし帰るか」
本日何度目かのため息をつき、宿へと足を向ける。
因みにこの街で宿に泊まってるのは俺だけであり、彩音とティーエさんは教会で寝泊まりしている。
ティーエさんは教会内ではかなりの階位に位置するらしく、ビップ待遇で部屋が用意されており、彩音もその連れということで教会の一室を借り受けている。
宿に関しては、俺にも一応教会にどうぞと誘いはあったのだが、遠慮しておいた。
堅苦しそうな教会で、寝泊まりすると肩がこりそうだったからだ。
因みに、ミケは彩音が教会に用意して貰っている部屋に一緒に寝泊まりしている。
俺のサポートの為にこの世界に来ているのに彩音にべったりとか。
あいつは一体何しにこの世界に来たんだ? と、思わなくもないが。
傍にいたらいたで宿から割増料金を取られるだけなので、まあ良しとしよう。
ふと、一人の人物が目に留まる。
黒のフルプレートメイルを身に纏い、腰にはこれまた黒い剣を携え、背中には大きな盾を背負っていた。髪と瞳は金色で顔立ちは整っており、遠目からでも美形だとはっきりわかる。
全身黒ずくめという異様な出で立ちの、長身の男。
そんな男が宿の前で仁王立ちしているのだから、嫌でも目につく。
心なしかこちらを睨んでいるようにも見えたが、俺には心当たりがない。
気のせいだろうと、男を避けて宿の扉をくぐろうとしたその時。
「おい。お前がたかしか?」
「いえ、違います」
右手を軽く挙げて否定する。
どういう経緯で名前を知ったのか知らないが、男が放つ剣呑な雰囲気からとっさに嘘をついてしまった。
「本当か?嘘なら承知せんぞ」
男が訝しげにこちらを睨むが、素知らぬ顔で宿屋に入る。
中に入ると同時に宿屋の親父が大声で話しかけてきた。
「あ、お客さん!さっき黒ずくめのにーさんがあんたの事探してたぜ!」
どう考えても外にまで丸聞こえである。個人情報保垂れ流しもいいところだ。
恐る恐る振り返ると、男が鋭い眼光でこちらを睨みつけていた。
「いったいどういうつもりだ?」
それを聞きたいのはむしろこっちの方なんだが。
「悪いね。いきなり斬りつけられでもしたら堪らないんで、自分から名乗らない奴は相手にしない事にしてるのさ」
すいませ~ん、何か咄嗟に嘘ついちゃいました。
と言うのは流石にかっこ悪いので、何となくかっこよさげな言い訳をしてみた。
「ふん、まあいい。俺の名はティータ・アルバート。貴様に決闘を申し込む!」
は?え!?決闘!?
いきなり何言ってんだこいつ?
ってあれ?アルバート?
「アルバートってひょっとして」
「そうだ、私は聖女と称えられしティーエ・アルバートの弟!ティータ・アルバートだ!尋常に勝負しろ!」
弟?弟って言ったのか?
こいつ幾つだ?
どう見ても、目の前の男はティーエさんよりも年下に見えないのだが。
「あーと。年齢を聞いてもいいかな?」
「そんなことを聞いてどうする?まあいい、姉上より1つ下の15だ」
嘘だろ?どう見ても成人男性にしか見えない。
いくらなんでも発育良すぎだろ。
背だって190はあるぞ。
「さあ、決闘を受けて貰おうか」
何が何でも決闘がしたいようだが、こちらとしては受ける気ゼロなので迷惑極まりない。
「一つ聞いていいか?何故俺と決闘がしたいんだ?」
「ふ、貴様は姉上のパーティーに相応しくないからだ。だから私が貴様を叩きのめし、姉上に貴様がどれだけ役立たずかを知ってもらう」
あれ?ひょっとしてこいつシスコンか?
うわぁ、気持ちわる。
「あのさ、言っておくけど。俺が役立たずなのティーエさんはもう知ってるぞ」
「なに?」
西の洞窟での事を思い出す。
あの時俺がしたのは殲滅後のテレポートだけだ。
正直今の俺の価値は、自分で歩いてついて来るワープアイテム程度でしかない。
だから決闘でぶちのめされても自分の評価はこれ以上下がりようがないだろう。
とはいえ無意味に痛い思いをするのは勘弁願いたいところ。
「だから俺と決闘しても意味はないぞ」
「嘘をつくな!ならば何故姉上は貴様とパーティーを組んでいるのだ!」
それは彩音がいるからだ。
そう答えようとしたとき、横から驚いたような声が飛んできた。
「ティータ!どうしてあなたがこの街に!?家はどうしたの?」
「あ、姉上」
入口の方に目をやると、ティーエさんと彩音が立っていた。
どうやら二人は俺を訪ねてきたようだ。
「姉上、お久しぶりです。相も変わらず御美しい」
うん、やっぱりシスコンだ。
俺は確信する。
「もう、ティータったら」
ティーエさんが困ったような反応を返す。
照れたティーエさんもびっくりする程かわいいなぁ。
余りの可愛さについつい見惚れてしまう。
「実はドラゴンの件で来たのです。許可も父上からちゃんと頂いております」
「まあ、そうだったの?でも何故教会ではなくたかしさんの所に?」
「いや、それは……」
ティータが返事を言い淀む。
どうやら、ティーエさんには内緒で決闘を申し込みに来ていたようだ。
まあ、そらそうだわな。
普通に考えればティーエさんが決闘なんて許可するわけないんだから。
本人は返事がしにくそうなので、そこで俺が代わりに答えてあげることにした。
俺ってやっさしぃ。
「俺と決闘したいらしいですよ」
「ティータ!貴方なんてことを!たかしさん申し訳ありません。弟が大変失礼をしたようで」
ティーエさんが深々と俺に頭を下げる。
そんな姿さえも優美で美しい……
などと浸っている場合ではない!
こんな美しい女性に頭を下げさせるなど、男のする事ではない。
俺は慌てて頭を上げるよう声をかける。
「い、いや、あのどうか気にしないで頭を上げてください」
「そうです、姉上が頭を下げる様な事ではありません!」
「ティータ!もう、全くあなたって子は……。お話があります、こっちに来なさい」
そう言うと、ティーエさんはティータの手を掴み店の外に連れて行ってしまった。
「はぁ、あんなのがティーエさんの弟だとか信じられねぇ」
「そうでもないぞ」
俺のつぶやきに対して、彩音が楽し気に答える。
「丁度いい、お前も知っておいた方が良いだろう」
そう言って彩音は俺の襟首を掴み店の外へと引きずり出す。
「ちょ、何しやがる!」
「いいからいいから、黙ってついてきなって」
彩音に引き摺られ、宿屋の裏路地に入ったところで豆粒大の白い綿の様な物を渡された。
「なんだこれ?」
彩音が同じ物を耳の穴に詰め込み、両手の人差し指でトントンと耳の穴を叩くジェスチャーをする。
どうやら俺にも着けろと言いたいらしい。しぶしぶと両耳に綿を詰める。
すると男女の声が聞こえてきた。
「何故です?何故あのような者をそばに置くのですか?男を周りに置くなど、良からぬ噂の元になるだけではありませんか」
「私も好き好んで組んでいるんじゃないの。それ位理解しなさい」
ティーエさん達の声だ。
「おい、これって盗み聞きじゃ!?」
小声で言う。
すると彩音は黙ってろと言わんばかりに口の前に人差し指を当てて、しーっと言ってきた。
こいつ盗み聞きの趣味があったのか?それともこの行動に何か意味が?
意図はよく分からないが、とりあえず彩音の指示に従う事にする。
更にティーエさん達の声は続く。
「彩音さんの幼馴染だから一緒に組んでいるだけよ。出なきゃあんな貧相なの連れてかないわよ」
「で、ですが姉上……」
「あなたも彩音さんの桁違いの強さは知ってるでしょ?私が聖女に昇り詰めるには、彼女の強さが必要不可欠なの。彩音さんを敵に回すような事が出来ないから、リスクを承知で組んでるのよ」
「それは分かりますが」
「分かっているならこの話はここまでよ。それともあなたは私の邪魔をしたいの?もし私の目的を邪魔しようというなら、たとえ弟であろうと容赦しないわよ」
「わ、分かりました。すいません、姉上」
「分かればいいわ。もう彼に絡んではダメよ」
話し声が消え、足音が遠ざかっていく。
幻聴か……今の、幻聴だよな?
声に出して彩音にも確認する。
「今のってその、幻聴……だよな?」
「はははは、そんなわけないだろう。今のは正真正銘ティーエ達の話し声さ」
彩音は楽しそうに笑って話しながら、耳の詰め物を外す。
こっちはショック受けてるってのに楽しそうに笑いやがって。
さっき渡した白い綿をこっちの目の前に突き付けながら、彩音は言う。
「静音魔法対策のアイテムさ」
静音魔法はプリーストの使う魔法で、一定の範囲内の音を外部に漏れないようにする魔法だ。
人に聞かれたくない話をする時や、振動を遮断するために使われる。
「彩音。お前ティーエさんが猫かぶってたの知ってたのかよ」
「無論だ。自分の命を預ける相棒だぞ。相手の性格も分からずに組むわけがないだろう」
もっともな意見である。
純粋無垢な天使だと思っていたのにショックだ。
さらば俺の初恋。
どれほど可愛かろうが、裏表のある人間は余り好きにはなれない。
「まあそう落ち込むな。人間良い所もあれば悪い所もあるものさ。確かに彼女はお前の思っていたような人間じゃあない。けど、良い所だっていっぱいあるぞ」
どれだけ良い所がいっぱいあろうと、猫をかぶってる事に変わりがない以上、俺には何の慰めにもならない。
「はぁ…なんでわざわざ俺にそれを教えるかなぁ」
「一緒に行動していれば、いずれ嫌でも気づく時が来る。それなら早い方がショックも少ないだろ?」
そういいながらウィンクする彩音の顔に、思わず見とれてしまう。
顔だけは可愛いんだよなぁ。こいつも。
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「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
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秋月レンジ。高校2年生。
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科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
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勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
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異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
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【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
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許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
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