異世界転移しても所詮引きこもりじゃ無双なんて無理!しょうがないので幼馴染にパワーレベリングして貰います

榊与一

文字の大きさ
130 / 165
第二章 希望を求めて

第四十二話 ナース

しおりを挟む
女の子が泣いていた。
その子は声を押し殺し、服の袖で零れ落ちる涙を乱雑に拭き取りながら此方へと近づいてくる。

彼女が涙を見せる時。
それは自分ではどうにも出来ない理不尽に襲われた時だ。そして人前では決して見せる事のない辛さを、彼女は僕の前でだけは隠さない。

彼女は棚の上に座っていた僕を両手でそっと持ちあげ、そしてその手を離す。
彼女の両手から解放された僕は、重力に従って真っ逆さまに床へと落下していった。

このまま何もなく床へと着地できたなら、僕はどれだけ幸せだろうか。
しかし現実は無情だ。
残念ながら願いは天に届く事なく、僕の体は地面に落下しきる直前に跳ね飛ばされる。少女が放つ、無慈悲かつ強力なローキックによって。

勢い良く蹴り飛ばされた僕は体をくるくると旋回させ、壁に二、三度ぶつかり跳ねてから顔面から地面へと着地する。だがこれで終わりではない。視線を上げると、彼女の足が再び僕の眼前へと迫っていた。

ボコ!ボン!ボン!ガシャ!グシャ!

軽妙な音を立てながら僕の体は何度も跳ね返り、着地する。再び彼女の足元へと。

これは偶然などでは無い。
壁からの反射角度や減衰率を完全に把握した上での、狙い澄まされた完璧なる蹴り。それを目の前の10にも満たぬ少女は、泣きながらも寸分たがわず決めてくるのだ。
そして再び僕の体は間髪入れず跳ね上がる。

儀式やつあたりは続く。
彼女の心の中のブラストレーションが収まるその時まで。

何度目かのループを終え、遂に最後の一撃が僕へと叩き込まれる。文字通りラストアタックだ。
その威力はそれまでの比ではなく、圧倒的な破壊力の込められた一撃。

僕はこの一撃を全てを貫く一撃グングニルと名付けた。


「ほげぇ!!」

ほげぇ?

自分のあげた間抜けな声に驚き、目を覚まし体を起こす。辺りを見回すと、白衣の女性が驚いた様な表情で此方を見つめていた。その顔に見覚えはない。

「……」

初対面の女性に変な奇声を聞かれた為、死ぬほど気まずい。この危機的状況を打破すべく、俺はベッドに横になり目を瞑る。
必殺寝ぼけてました作戦だ!

「ゆ、勇者様!お目覚めになられたんですね!」

勇者様?誰のことだ?
俺はしがない召喚士だ。
ひょっとしたら目の前にいた女性も寝惚けているのかも知れない。

見覚えのない女性は俺に近寄り、肩口を掴んで揺すってくる。寝たふりでやり過ごそうにも、勇者様を連呼しながら揺すられ続けると流石に難しい。仕方ないので観念して目を開けるーーと、そこは天国だった。

ボインボイン!
ボインボイン!

目の前で跳ね躍る。
何がとは言わない。

ボインボインボイン!
ボインボインボインボイン!

マーベラス!
ここはどこで彼女が誰かなど、最早どうでも良くなってきた所で揺れが突然収まってしまう。

「良かった!お目覚めになられたのですね!」

どうやら起きたのがバレてしまった様だ。
こんな事なら薄目にしておけば良かったぜ。
ガッデム!

「あー、えっと。勇者って誰?」

とりあえず勇者って何の事だか分からないので尋ねてみた。
その際、恥ずかしがり屋の俺は相手の目を真っ直ぐ見れずに、視線を落としてしまう。
自然と豊かな双丘が視界を占領するが、恥ずかしがり屋さんだからしょうがないね。

「何を仰ってらっしゃるのですか?勇者様は勇者様ではありませんか」

ありませんかと言われても、残念ながら俺はしがない召喚士。パーティーの中核を担ってガンガン闘うとか、俺には絶対無理だ。

そういうのは彩音がーーそうだ!彩音達はどうなった!?

「えっと看護婦さん」

「ユーリとお呼びください。勇者様」

顔近!
ナースキャップを被ったユーリが顔をずずいと寄せてくる。

「えーとですね…」

「何なりと仰って下さい。ユーリは勇者様の為なら何でもいたしますわ」

そういうと、何を思ってかユーリは俺に覆い被さってくる。

「ちょちょちょちょちょ!ユーリさん!?」

彼女の体は柔らかく良い匂いがする。
餡たッぷりの二つのお萩の感触もたまらん!
が、流石に初対面の相手にこんな事をやられたらドン引きだ。
俺は彼女の肩を掴んで体から引き離す。

「あん、勇者様。照れなくても良いんですのよ」

「いや!照れてないから!?」

ユーリは体をくねらせ、再び押し付けてくる。俺はそんな彼女を両手で押しのける。

そして揺れる胸。

正直本気で跳ね除けようと思えばできた。
だが揺れるユーリの胸を見せつけられては、いかんせん力が入らない。
くっついては離れ、離れてはくっつくを繰り返していると、急に体の上から重みが消える。

「何してるんですか?たかしさん?」

「きゃああ、勇者様助けてぇ」

見るとユーリの体にリンのアホ毛が絡みつき、彼女を高々と持ち上げていた。

「リン無事だったか!良かった!他の皆んなは!?」

「皆さん全員無事ですよ」

「良かった。皆んな無事か」

本当に良かった。
彩音と融合した後の記憶が全くないが、どうやら上手くいってくれた様だ。

「で?」

「で?」

目出度い再会のはずなのに、リンの顔が能面の様で超怖い。
リンに何か有ったのかと思い、恐る恐る聞いてみる。

「な、なあリン。何か有ったのか?」

「私は何もありませんよ。そんな事よりたかしさんは、さっきこの人と何をやっていたんですか?」

「下ろして下さ~い」

視線を上げるとユーリが空中でブラブラと揺れている。

「あー、えっと。それはあれだ……お医者さん…ごっこ?……ほげぇ!!」

頭に衝撃が走り。
俺はしたくもない二度寝をする羽目になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...