内弟子物語 ー捨てきれない夢、武術の究極「活殺自在」を求める5名の青春群像ー

藤堂慎人

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内弟子物語 第Ⅰ話 入門13

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 永井のところを訪れた後、数日間、高山は考えた。
 社会人になって2年間、それは本当の自分だったのか。
 仕事が面白くないわけではない。しかし、もう一つ、燃えるものがない。
 俺はこのまま一生を送るのか。
 永井の大変だけど、充実感を感じる表情や話と、今の自分のモヤモヤした気持ちとの対比。
 同じ一生なら、自分の目指すべき道を歩むのが、本当の人生なのではないか。
 他の人と同じような人生が、自分にとっても幸せなのか。
 見える将来と、自分の手で自ら切り開く人生のどちらに意味があるのか。
 人が言う大変だ、とはどういうことか。単に生活のことだけなのか。
 自分には可能性はないのか。
 高山はあらゆることを自分の心に尋ねた。
 そして出した結論は、やはり自分を信じ、思った通りのことをやろう。藤堂のもとに弟子入りし、自分が求める活殺自在を追及しよう、ということだった。
 自分の考えがまとまったので、頃合いを見て、まず両親に話した。
「お父さん、お母さん。大切な話があるんだけど…」
 いつもとは違う高山がそこにいた。表情は真剣で、戦いで言うならば、一部の隙もない、といった雰囲気だ。
 居間に場を移し、3人は自然に正座をした。そういう状況でなければならないほどの真剣さだったのだ。
「何だ、誠。改まって」
 父親が切り出した。
「以前、ある先生に会いに東京に行ったことを覚えている?」
「覚えているよ」
「この2年間、社会人として仕事をやってきたけど、自分のやりたいこととは違うんだ。数ヶ月前、会社の先輩で、自分の夢をかなえるために会社を辞めた人がいる」
「永井さんだろう」
「そう。先日、永井さんのところに行っていろいろ話を聞いた。自分のやりたい道に入って、すごく充実しているように見えた」
「誠。転職して、それほど時間が経っていない時期に、独立は失敗だったなんて言う人はいないよ。大抵は頑張っていますとか、明るい話しかしない。そういう話を鵜呑みにしてはいけない」
 父親として、社会人の先輩として、当然のことを話した。高山も、そういうことはきちんと理解しているつもりだ。
「お前はまた若い。夢があるのも、それに向かって進みたいという気持ちも分らないではない。だけどな…」
「そう言われるのは分っていたよ。でも、自分でいろいろ考えたんだ」
 高山は父親の言葉をさえぎり、自分の考えが中途半端なものではないことを告げようとした。 
 以前の高山であれば、ちょっと諭されればそこで諦めていただろうが、今の高山は昔の高山ではない。心の中の葛藤を繰り返し、社会の中で自分のポジションと行く末を考え抜いた結論からの行動だ。そこには微塵の揺らぎもなかった。
「でもね、誠。お父さんはあなたの将来のことを心配しておっしゃっているのよ」
 母親も高山の考えを変えさせようと口を出した。
「分っているよ。そういうことも考えた」
 そう言うと高山は、一気に自分が考えていたことを全て両親の前で吐露した。そこにはたとえ親でもさえぎることができないほどのパワーが満ちていた。
「…」
 その気迫に押され、両親はしばらく黙ってしまった。
「…誠」
 父親が口を開いた。
「お前の考えはよく分った」
 今度は父親の表情が変わっていた。父親というより、「男」の顔になっていたのだ。大人の男としての立場で話してくる高山に、昔の自分を見たのかもしれない。
 実は高山の父親もなかなかの気骨者で、しっかり自分の信念を貫いて生きてきた。だから甘い考えや、中途半端な甘えは許さない。だからそれが残る学生の頃は、いくら高山が話しても聞いてはくれなかったが、大人として、男としての話を通せば分からないわけではない。今回の話は高山の男としての真意が伝わったのだ。
 そうなると今度は話が一転した。
 母親は入れない世界になってしまい、口をつぐんでしまった。母親としての心配は当然あるが、2対1では反対しても仕方ない。後は男同士の話として、母親としてできることは何かを心の中で考え始めていた。
 父親は話を続けた。
「誠。お前が進もうとしている道は厳しい。お父さんには分らない世界ではあるけれど、心意気だけは分かるつもりだ。だから、その厳しさに負けるな。男が自分の意志で一旦決めたからには、後はないと思え。もし、その厳しさに耐えられなくても、帰ってくる家はない。覚悟を決めて行ってこい。それから、会社にはちゃんと筋を通し、きちんと説明しなさい。理解して送り出してもらって、初めてやりたいことができると思え」
 高山は父からの言葉に声が詰まった。初めて父と男の話をした思いを感じた。父も自分には分からない苦労を重ねてきたのだろう。それを言葉の端々からうかがい知ることができ、この一瞬はこれまでの年月以上よりも長く、充実した時間だった。
 高山は本気の意志を持って、再び藤堂のもとを訪れる決心をした。
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