内弟子物語 ー捨てきれない夢、武術の究極「活殺自在」を求める5名の青春群像ー

藤堂慎人

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内弟子物語 第Ⅱ話 稽古5

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 稽古していた道場生が一斉に道場の隅に散らばり、試合コートより少し大きいスペースができた。
 主審を務める藤堂が対戦者を呼び出した。
「赤、龍田。白、立石」
 赤はさっき、休憩時間に高山に話しかけてきた内弟子の1人、龍田だ。一方の立石は、稽古を見ている限りでは一般の生徒の中では古株らしいことが分かっている。内弟子と一般稽古生との組手は、高山の興味を大いにそそった。
 体格では立石が少し上回っている。こういう直接打撃の場合、体格的な違いが勝敗に影響することは高山も知っているから、その点でも龍田がどう戦うかをしっかり観察しようと思った。
 藤堂は両者の防具の装着具合を確かめた。背面に回り、面、胴の結びがきちんとできているかを確認したのだ。
 それは、道衣、防具への意識も武にとって大切なことを教えるため、道場内ルールでは装着に不備があれば、それだけで負けを宣せられるのだ。
 高山はこのことを後で知らされるが、それを熟知している両者にそのような不備はない。藤堂は主審の所定の位置に移動した。
「始め!」
 直立不動の姿勢の藤堂が試合開始を宣した。
 藤堂の一声で両者が激しくぶつかりあう。
 共に上段突きで攻撃し、互いに頭部が後に反る。ほとんど相打ちにも見えるが、そういう判定は出さない。不十分というようなジェスチャーをしている。
 打突位置に問題があるかもしれないとは思えるのだが、高山たちがやってきたところでは当てる、当てないは別として、このタイミングであれば打突位置に大きな問題がない限り、1本になる。しかし、ここでは基本稽古で当てる箇所にまでこだわるため、そこから不十分と判断されたのであろうことは、高山にも理解できた。
 そういう考えがよぎったのは一瞬で、その間にも両者の攻防は継続している。
 上段突きの後、わずかに後退した立石は上段回し蹴りを放ち、龍田はそれを受け、中段突きを返す。高山の目には龍田の突きが入ったように見えたが、これも不十分とされる。
 高山には1本の基準が分らなくなった。これまでの感覚では十分入っているタイミングなのだが、まだ軽い、ということなのだろうか、と考えた。
 次の瞬間、中段突きを放った龍田が、その状態から上段突きを出したのだ。龍田の中段突きで一瞬動きが止まったのを見逃さず、やや下方から立石の顎付近を狙ったものだった。
 立石はたまらず後方によろけた。ここで藤堂は赤、龍田に1本を宣した。この時、高山にはここでの1本の基準が分ったような気がした。
 防具は安全確保のためにというのが高山のイメージだったが、実際に戦う姿を見ると「安全」という意味が違って感じられる。中途半端なダメージ防止ではなく、本当に当たっても大怪我をしないための防具といった感じだ。
 再び両者は開始線に戻り、組手が再開された。先ほどと異なり、今度は両者とも慎重に間を詰めた。先ほどが動の組手とすると、今度は静の組手だ。両者の息遣いが聞こえるような緊張感が伝わる。
 先に仕掛けたのは立石だ。先ほどのポイントを取り戻そうというのであろう。
 立石は相手の前足を払った。タイミングが良かったのか、龍田はたまらず転倒した。立石はすかさず間合いを詰め、下段突きを放ったが、転倒してから下段突きまでの間が空いたので1本にはならなかった。
 通常、ここで主審が止めを宣告し、再び開始線に戻って組手再開というのがパターンのはずだが、藤堂は止めない。だから、龍田が倒れたままで組手が継続していた。
 龍田は立石が再び突きを放とうと近づいてくるのを、必至で足で防いでいた。そのため、立石は突きを出せるだけの間合いに近づけない。そのような状態が少しの間続いたが、わずかの隙をついて龍田が立ち上がった。
 両者はまた最初と同じように対峙した。
 立石は再び積極的に攻撃を仕掛けた。先ほどと同じく、足払いだった。
 今度は転倒することはなかったが、龍田に一瞬、隙ができた。立石はその瞬間を逃さず、足払いをかけた側の反対の足で、上段回し蹴りを放った。
 倒れまいとするほうに気を取られていた龍田は、立石の回し蹴りを防ぐことができず、1本を取られることになった。
 スピードが速く、あまりにも鮮やかな蹴りだったため、高山の目には名刀のごとき切れ味に見えた。蹴りが龍田の上段に吸い込まれるような感じで入ったのだ。
 コントロールして当てる、というのはこういうことかと、高山はその実際に見て感心した。
 この時点で時間切れとなり、1-1のポイントで引き分け、という判定になった。
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