平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬

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41.夏祭り

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 コンサートの翌日、東雲先輩との夏祭りの約束の日がやってきた。

「浴衣、似合うかな……」

 この前、東雲先輩にぼくが試着した写真とともに、浴衣のことを相談するとあっさりと承諾してくれた。
 ぜひその浴衣で来て欲しいと言ってくれた。

 鏡の前で、母が用意した薄い青色に白い花柄の浴衣を着てみる。帯も母が丁寧に結んでくれた。

「とても似合ってるわ」

「本当?」

「ええ。とても上品で美しいわよ」

 母の言葉に、少し安心した。

 けれど、蒼真兄は心配そうに見ている。

「東雲と二人きりか……」

「また心配してる」

「当たり前だ。浴衣姿のお前なんて、危険すぎる」

「大丈夫だよ」

「何かあったら、すぐに連絡しろ」

「分かった」


 待ち合わせの駅に向かうと、東雲先輩が既に浴衣姿で待っていた。紺色の浴衣がとても似合っている。

「よう、凛音。おお、その浴衣!」

 東雲先輩が嬉しそうに見つめる。

「お母さんが選んでくれたって言ってたやつだね」

「はい」

「写真越しでもわかってたけど、とっても似合ってる!」

「ありがとうございます」

「凛音にぴったりの浴衣だよ」

 東雲先輩の率直な言葉に、頬が熱くなった。

 祭りの会場に向かう途中、多くの人に見つめられた。

「注目されてるね」

「恥ずかしい……」

「でも、それだけ美しいってことだよ」

 東雲先輩が誇らしそうに言う。

 祭りの会場は、提灯が飾られて、とても賑やかだった。

「すごい人ですね」

「毎年人気の祭りだからね。屋台もたくさんあるよ」

「何から見ましょうか?」

「まずは、腹ごしらえしない?」

 東雲先輩に案内されて、屋台を回った。

「たこ焼きはどう?あと、焼きそばもあるね」

「うーん…どっちも美味しそう。どうしよう…」

「じゃあ、半分こしようか。すみません、たこ焼きと焼きそばを一つずつお願いします」

 たこ焼きと焼きそばを二人で分け合いながら、祭りの雰囲気を楽しんだ。

「凛音、あーん」

「……っ!」

 東雲先輩がたこ焼きを口に運んでくる。反射で食べてしまったが、なんだか申し訳ない。

「ありがとうございます。美味しいです」

「よかった。ならもう一つ……」

「東雲先輩!今度はぼくにやらせてください」

 東雲先輩の耳がほんのり赤くなる。

「はい、あーん」

「…ん。あ、ありがと。」

 東雲先輩が照れたような顔で言う。


 次に、かき氷の屋台に向かった。

「何味がいい?」

「いちごにします」

「俺はメロンにしようかな」

 二人でかき氷を食べながら、祭りを歩き回った。

「あ、金魚すくいがある」

「やってみる?」

「でも、上手くできるかな……」

「大丈夫。俺が教えてあげる」

 金魚すくいの店で、東雲先輩が実演してくれた。

「こうやって、そっと下からすくうんだ」

「なるほど……」

 ぼくも挑戦してみたけれど、なかなか難しい。

「あ、破れちゃった」

「惜しい」

 何度か挑戦していると、一匹の金魚をすくうことができた。

「やった!」

「よくできました」

 東雲先輩が優しく微笑み、ぼくの頭にぽんと手を置く。

「記念だね」

 小さな袋に入った金魚を大切に持った。

「名前、つけようかな」

「いいね。何がいい?」

「金ちゃん……かな?」

「はは、可愛い名前だね」

 東雲先輩が笑う。

 日が暮れてくると、祭りはより一層賑やかになった。

「そろそろ花火の時間だね」

「花火?」

「ああ。このお祭りの名物なんだ」

 東雲先輩が特等席の場所を知っていて、案内してくれた。

「ここなら、よく見える」

 河原の土手に座って、花火を待った。

「始まるよ」

 空に大きな花火が上がると、会場から歓声が上がった。

「綺麗……」

 色とりどりの花火が夜空に咲いて、とても美しかった。

「君の浴衣と同じ色の花火だね」

 空に緑色の花火が上がった時、東雲先輩が言った。

「本当だ」

「似合ってる」

 東雲先輩がこちらを見つめる。その視線に、胸がどきどきした。

 花火が終わって、帰り道を歩いていると、東雲先輩が話しかけてきた。

「今日は楽しかった?」

「はい、とても」

「凛音の浴衣姿を見られて、俺も嬉しかった」

「ありがとうございます」

「……凛音」

 東雲先輩が立ち止まる。

「どうかしましたか?」

「俺、君のことが本当に好きなんだ」

 突然の告白に、心臓が跳ね上がった。

「昨日の如月会長のコンサートの話を聞いて、焦ったのかもしれない」

「え?」

「でも、それは本心じゃない。俺は前から、君のことが好きだった」

 東雲先輩の瞳が、真剣だった。

「君といると、すごく楽しいし、幸せなんだ」

「東雲先輩……」

「今すぐ返事をもらおうとは思わない。でも、俺の気持ちは本物だ」

 東雲先輩が一歩近づく。

「君を幸せにしたいんだ」

 その言葉に、胸が苦しくなった。

「…考えさせてください」

「ああ、もちろん」

 東雲先輩が優しく微笑む。

「でも、俺は諦めないからな」

 駅で東雲先輩と別れて、実家に戻る電車の中で今日のことを振り返った。

 美しい祭りの雰囲気。東雲先輩の優しさ。そして、告白。

 東雲先輩といると、確かに楽しい。自然体でいられるし、笑顔になれる。

 でも、これも恋愛感情なのかどうか、よく分からない。

 昨日の圭人先輩との時間とは、また違った楽しさがあった。

 どちらも大切で、どちらも特別だった。


 実家に戻ると、母が心配そうに待っていた。

「おかえりなさい。お祭りどうだった?」

「ただいま。とても楽しかったよ」

「そう。良かったわね」

 蒼真兄も現れた。

「お疲れさま。東雲はどうだった?」

「いつも通り優しかったよ」

「そうか……」

 蒼真兄が少し安心したような顔をした。


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