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21.メイド
しおりを挟む昼休みに食堂に向かうと、蒼真兄が待っていた。
「凛音、お疲れさま」
「蒼真兄……」
「学園祭の出し物、決まったか?」
「それが……」
事情を説明すると、蒼真兄の表情が険しくなった。
「メイド喫茶?」
「メイド執事喫茶です……」
「それで、お前がメイドをやると?」
「まだ決めてないよ。でも、クラスのみんなが……」
蒼真兄は深いため息をついた。
「あのクラスメイトども、調子に乗りすぎだ」
「でも、みんな真剣に考えてくれてて……」
「真剣?自分たちの欲望のためだろう」
蒼真兄の言葉は厳しかった。
「お前のメイド姿なんて、俺以外に見せる必要はない」
「蒼真兄……」
「絶対に反対だ」
兄の強い口調に、少し驚いた。
食事をしていると、圭人先輩が近づいてきた。
「失礼します。少しお聞きしたいことが」
「圭人先輩」
「学園祭で、1年A組がメイド執事喫茶をされると聞きましたが」
情報の伝わる速さに驚いた。
「まだ決定じゃないんですけど……」
「そうですか。もし本当でしたら」
圭人先輩が少し身を屈めた。
「ぜひ見学させていただきたいと思いまして」
「圭人先輩……」
「凛音くんのメイド姿、とても興味深いです」
圭人先輩の瞳に、いつもとは違う熱が宿っているのを感じた。
「生徒会としても、応援させていただきます」
「え?」
「予算の配分や、場所の確保など、できる限りのサポートを」
圭人先輩の積極的な支援表明に、蒼真兄の表情がさらに曇った。
「如月会長、それは生徒会の公正性に……」
「もちろん、他のクラスにも平等にサポートします。ただし、特に優秀な企画には重点的に」
圭人先輩の笑顔が、どこか意味深だった。
放課後、図書室で真白くんと勉強していると、東雲先輩が現れた。
「よう、凛音」
「東雲先輩、お疲れさまです」
「学園祭の件、聞いたよ」
「もう先輩方にも……」
「メイド執事喫茶、いいじゃない」
東雲先輩が目を輝かせる。
「特に、凛音のメイド姿は絶対に可愛いと思う」
「東雲先輩……」
「でも、心配もあるんだよね」
「心配?」
「だって、凛音のメイド姿なんて見たら、他の生徒が暴走しそうだもん」
東雲先輩が苦笑いを浮かべる。
「風紀委員長として、秩序を保つのが大変そうだ」
「そんなに大げさな……」
「大げさじゃないよ。現に俺も、想像しただけでドキドキしてるし」
東雲先輩が胸に手を当てる。
「風紀委員長がそんなこと言わないでください」
真白くんが呆れたような顔をする。
「でも本当だもん。真白だってそうでしょ?」
「それは……」
真白くんが頬を染めて俯いた。
その夜、寮の部屋で夏目くんと話をした。
「夏目くん、学園祭のこと、どう思う?」
「……どうって?」
「メイド執事喫茶のこと」
夏目くんが本から顔を上げた。
「お前がやりたいならやればいい」
「やりたいかどうか、よく分からないんだ」
「なら、やらなければいい」
「でも、クラスのみんなが期待してくれてて……」
夏目くんは少し考えるような表情をした。
「お前は、人に見られることをどう思っている?」
「見られること?」
「メイド姿を、大勢の人に見られることだ」
「うーん……恥ずかしいけど、みんなが喜んでくれるなら」
夏目くんの表情が複雑になった。
「そうか」
「夏目くんは、見たい?」
突然の質問に、夏目くんの顔が赤くなった。
「そ、それは……」
「見たくない?」
「見たくないわけじゃ……」
夏目くんが慌てて口を塞いだ。
「じゃあ、見たいんだ」
「……別に」
でも、明らかに見たがっているのが分かった。
翌日のホームルームで、クラス全体でもう一度話し合いが行われた。
「それでは、メイド執事喫茶で決定ということで」
「異議なし!」
「凛音、頼むよ」
「みんなの期待に応えてくれ」
圧倒的な支持に、もう断れる雰囲気ではなかった。
「分かりました……」
「やった!」
教室が歓声に包まれた。
「でも、条件があります」
「条件?」
「あまり恥ずかしい格好はしたくないです」
「もちろん、品位を保った可愛い衣装にする」
「それから、写真撮影は禁止で」
「え~」
「それは絶対です」
「分かった、分かった」
こうして、1年A組の学園祭の出し物が決定した。
昼休み、陽翔と中庭を歩いていると、彼が話しかけてきた。
「凛音、本当にメイドをやるんだ」
「うん……断り切れなくて」
「そっか」
陽翔の表情が少し複雑だった。
「嫌?」
「嫌じゃない。でも……」
「でも?」
「昔の凛音しか知らない俺としては、ちょっと複雑かな」
陽翔が苦笑いを浮かべる。
「でも、きっと可愛いよ。楽しみにしてる」
「ありがとう」
学園祭まであと一ヶ月。
ぼくのメイド姿を見たいという男子たちの熱い想いが、どんな騒動を巻き起こすのか。
そして、学園祭当日には一体何が起こるのか。
まだ想像もつかなかった。
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