武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue

文字の大きさ
15 / 45

第15章 崩壊の兆し ― 市場に潜む影

しおりを挟む
 倉庫での狂乱の夜が明けた。

まだ酒の香りが残る早朝の空気の中、二階堂商会の本部には、いつも以上に緊張感が漂っていた。それも当然だ。昨夜得た成果は、ただの一勝ではない。二階堂商会は確かな成果を手にした。内部文書、金の流れ、会合の日時、弱点、恨み――ギルドという巨大組織の裏側へ、直接手を伸ばせる窓口を得たのだ。
――ギルド幹部グラフトの寝返り。それは単なる一人の協力者ではない。ギルドの内部情報を直接手にできる窓口を意味していた。
朝の会議室。漣司は硬質な光を宿した視線で、メンバーを順に見渡す。

「昨夜は上出来だった。だが浮かれるな。接待で敵を揺さぶるのは一つの戦術にすぎない。本番はこれからだ」

その声には、倉庫の狂騒を完全に断ち切った、経営者としての鋭さが宿っていた。ミナもガロウも、自然と背筋を伸ばす。リュシアは既に業務モードに切り替わっており、無駄のない動きで書類の束を机へ置いた。

「社長。グラフトから受け取った資料と、私が夜明けまでに解析したデータです」

机に置かれた文書には、ギルドの内部会計が記されていた。紙束は分厚い。紙質は良いのに、表紙は震えるように歪んでいる――グラフトがどれだけ怯えながらこれを渡したかが分かる。漣司はページを開き、眉をわずかにひそめた。

「……粉飾が酷いな」

内部会計は、まるで泥水で数字を書いたかのように汚れていた。

「資産は半分以上が空虚。投資も不正と水増しだらけで……実体は半分もない」

ガロウが思わず呟く。

「半分……? ってことハ、あのギルド、思ってたほド……強くないってことカ?」

リュシアがうなずく。

「ええ。数字は嘘をつきません。ギルドは、大きく見せているだけの状態です」

漣司のページをめくる指先が止まり、目が刃物のように細くなった。

「……ここだ」

一枚の文書を抜き出す。そこには、ギルドの印章付きで、明確に書かれていた。

【市場封鎖計画】

ミナが眉をひそめる。

「市場封鎖……? なにそれ、怖いやつ?」

リュシアが淡々と説明する。

「カストリアに対して、交易路の一部を閉鎖し、物資の流れを遮断する計画です。二階堂商会を経済的に孤立させる狙いでしょう」

ガロウの巨体から、低い唸り声が漏れた。

「ケンカ売ってきたワケだナ?」

しかし漣司は静かに首を振る。その表情は怒りではなく、むしろ冷静で、獲物を見つけた獣のようだった。

「市場封鎖――いい判断だ。もし僕がギルド側なら、同じことをする」



その言葉に、グラフトは悔しげに眉を寄せ、机に置いた両手を震わせた。

「そうだ……。ギルドは、市場そのものを閉ざす準備を整えている。都市の流通を一気に止め、民に飢えと不安を与える……その怒りを、お前たちにぶつけさせるつもりだ」

ミナが息を呑む。ガロウは立ち上がり机を拳で叩いた。木板が悲鳴を上げる。

「「フザけた連中ダ……!民を人質にするつもりカ!」

ミナは悔しさを隠せず、ぎゅっと拳を握った。

「うちは街の人たちの暮らしを守るために動いてるんだ……!それを逆手にとって、罪を押しつけようだなんて……!」

しかし漣司は二人の激情に乗らない。言葉ひとつ発さず、静かに都市の地図を広げる。
静謐。けれどその空気は、嵐の前の張りつめた静けさに似ていた。地図中央には、巨大な市場。
そこから四方へと街路が走り、都市全体がまるで生き物の神経網のように繋がっている。漣司は一本一本の街道を指でなぞり、淡く物憂い声で語り始めた。

「……ここを封鎖されたら、商会の金融網は死ぬ。手形は流れず、保険も回らない。食糧供給、物流、職人街の素材の循環……全部、止まる」

その語り口は不思議なほど穏やかで、逆にメンバーたちの背筋に冷たい汗を走らせた。

「ギルドは都市経済そのものを兵器化した。都市を人質にするということは……僕たちに対する、最も残酷な総攻撃だ」

リュシアが静かに口を開く。だがその声には、いつもの冷徹さに加えて、珍しく焦りが混じっていた。

「社長。封鎖が実施されれば、一般市民の生活は半日で混乱します。三日もすれば暴動が起きる可能性が高いです」

ガロウが吐き捨てる。

「そんなモン、ギルドに責任が向くハズだろウが!」

グラフトが首を横に振った。

「いや……市民は事実を知らされん。『二階堂商会の独占が原因』と触れ回る準備も進んでいる。民は……敵に回るぞ」

室内の空気が重く沈む。その中で、漣司だけがゆっくりと口角を上げた。

「――いいね。最高だ」

一同が息を呑んだ。

「し、社長……?」

「ギルドがここまで追い詰められている証拠だよ。市場封鎖という最終手段を取った時点で……向こうはもう勝てない勝負に入っている。だから、ここで仕掛ける」

漣司の指先が、地図の一点――市場の中心を示した。瞳の奥で、何か狂気じみた光が揺れる。



空気が重く沈んだ会議室で、漣司だけが落ち着いていた。むしろかすかな笑みさえ浮かべている。

「恐れる必要はない。俺たちには武装法人としての三本柱がある」

ホワイトボード代わりの羊皮紙に、漣司は三つの円を描いた。

「一つ――金融。手形と保険。信用そのものを握る」
「二つ――物流。倉庫街と護衛隊。物資を絶やさない血流」
「三つ――政治。市議会との合意。秩序を動かす鍵だ」

リュシアが補足する。

「つまり、ギルドが市場を止めても、我々が並行市場を作ればよいのです」
「そうだ」

漣司がうなずく。

「俺たちは公式市場に依存せず、倉庫街を中心に独自市場を開く。ギルドの許可はいらない。契約と信用で動く、もう一つの都市経済だ」

ミナが目を輝かせる。

「裏路地を使えば、庶民はすぐに買い物できる! あたし、仲介してくる!」

「ただし――」

漣司の声が鋼の色を帯びる。

「いいか、これは遊びじゃない。価格の統制、供給量の管理。すべて契約で縛るんだ」

ガロウが笑いながら吠えた。

「市場を丸ごと乗っ取るってわけカ! おもしレェ!」

だがグラフトの顔は曇っていた。

「一つ……忠告しておく。ギルドは必ず暴動を仕掛けてくる。市場が閉ざされれば、市民は飢えと不安で動く。そこに扇動者を送り込み、二階堂商会が原因だと叫ばせるつもりだ」

リュシアの瞳が氷のように光る。

「信用を守るには、民の腹を満たさねばなりませんね」

漣司は拳を握った。

「そうだ。政治も戦争も結局は“飯の問題”だ。人は腹が満たされれば信用する。飢えれば裏切る」



夕刻。都市広場では既に不穏な空気が漂い始めていた。

「市場が閉じられるらしいぞ」
「二階堂商会のせいだって噂だ」

囁きが伝染し、群衆のざわめきは次第に怒号へと変わっていく。誰かが声を上げれば、すぐに火が走るだろう。その気配が街を震わせていた。漣司は倉庫の屋上に立ち、燃えさかる夕陽を見据えた。

「……ここからが正念場だ。市場を掌握し、暴動を食い止めなければ、二階堂商会は瓦解する」

背後でガロウが斧を担ぎ上げる。

「俺たちの出番だナ! 社長、民を守れって契約だロ!」

リュシアが冷徹に告げる。

「社長。都市経済そのものを買収する覚悟を決める時です」

ミナが拳を握り、無邪気に笑う。

「大暴動でも大歓迎! 情報部隊、全力で動くよ!」

漣司は深く息を吸い込み、静かに呟いた。

「経営は戦争だ。そして市場は――戦場だ」

遠くで怒号が爆発した。都市全体を巻き込む経済戦争の幕が、いよいよ切って落とされようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~

仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。 祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。 試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。 拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。 さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが…… 暫くするとこの世界には異変が起きていた。 謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。 謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。 そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。 その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。 その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。 様々な登場人物が織りなす群像劇です。 主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。 その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。 ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。 タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。 その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

処理中です...