武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue

文字の大きさ
26 / 45

第26章 接待は戦場 ― 酒場大改装の夜

しおりを挟む
 資金戦争は終わった。

 だが、勝利の余韻に浸る者は一人としていない。
 カストリア別邸の作戦室に立つ漣司の横顔には、戦場で見せたあの鋭さがまだ抜けていなかった。

「……勝ったとはいえ、敵はまだ残っている」

 低く、沈んだ声。
 机上に置かれた都市地図の上を、漣司の指が静かに滑っていく。

「倒すだけじゃ足りない。友に変えねば、根は断てない」

 その一言に、全員が硬直した。ロイは口を開けたまま、ガロウは腕を組み、ミナはコーヒーを飲みかけて止まる。

「まさか……また、やる気ですか、社長」
 
 リュシアだけが冷ややかな声で問う。漣司は、真っ直ぐに言った。

「そうだ。日本社会ではな――接待で敵を友に変えるのは常識だ」

 ざわつく面々の中心で、漣司は平然と続けた。

「都市最大の大酒場を――貸し切る」
「は?」
「さらに即席で豪奢にリノベーションする」
「はあ!?」
「敵対派閥も全部まとめて招待する」
「やっぱり戦争では……?」

 漣司の声は真剣そのもの。こうして決まった。

 ――都市最大の大酒場、貸し切り。
 ――即席の豪奢リノベーション。
 ――敵対派閥すら強制招待。

 そして――夜。

 都市の中心。普段は喧騒と酒臭さが渦巻く、巨大酒場〈赤獅子亭〉は、もはや誰も知らぬ姿に変貌していた。入口の上、煌々と輝く看板には――

『武装法人二階堂商会 大接待の夜』

 こうして――都市を揺るがす一夜の外交戦が幕を開けようとしていた。

 ◇

 夜。酒場の扉が開かれると、そこは異世界キャバクラと化していた。
 そこはもう、昼間の素朴な酒場ではない。

 紅い絨毯が波打つように入口から奥へと続き、天井には即席とは思えぬ豪奢なシャンデリアが光を散らしている。
 壁には魔導投影によるきらびやかな演出、テーブルには高級ワインと豪華料理が惜しげもなく並べられていた。
 給仕たちは皆、気合の入った衣装に着替え、笑みを浮かべたまま客を迎えている。
 敵対派閥の幹部たちは、完全に圧倒されていた。

「な、なんだこの空間は……接待ってレベルじゃない……」

 そのざわめきが頂点に達した瞬間――

 ぱん、とスポットライトが弾けるように点灯した。
 視線が一斉に舞台へ吸い寄せられる。

 そこに立つのは、黒のバニー衣装に身を包んだ――氷の参謀、リュシア。

 深い黒に包まれた脚線美。
 淡く輝く銀髪は背中に流れ、長いウサ耳だけがピンと立っていた。

 ただ、その表情だけはいつもの絶対零度のまま。

「……社長のご命令ですから」

 真顔でウサ耳をピンと立てながら、ぎこちなく客に近づく。
 震えるでもなく、開き直るでもなく、ただ淡々と。
 だが、だからこそ破壊力があった。
 敵対派閥の幹部テーブルへ歩み寄る。

「お、お客様……こちら……当店自慢の……ワインで……ございます……」

 普段なら数字の羅列しか並ばない口から、接客用の丁寧語がぎこちなくこぼれ落ちていく。
 その一つ一つに、幹部たちはゴクリと息を呑んだ。

 ――敵対するはずの氷の参謀が、バニー姿で酒を注いでいる。
 誰が想像しただろう。

 しかし、真の地獄はここからだった。

 一杯。
 二杯。

 冷徹なはずの参謀の頬に、じわりと薄紅が広がっていく。

「しゃ、社長……わ、わたし……少しだけなら……まだ飲めましゅ……」

 真顔が次第に崩れ、酔いが回るにつれて言葉が乱れていく。

「わ、わたしはっ……数字しか信じないんれす……でも……しゃちょーのことは……す、すこし……だけは……」

 語尾が溶けていくような酔い声。
 まるで氷が酒のぬくもりに負けて溶けゆくように。

 次の瞬間――

 かたり。

 リュシアはグラスを抱きしめたまま、机に突っ伏した。

「……むにゃ……しゃちょー……予算……の、のこり……」

 敵対派閥の幹部たちは完全に固まった。
 もはや恐怖でも警戒でもなく、ただの敗北の表情だった。

 ――氷の女、撃沈。

 そして二階堂商会の接待戦線は、完全勝利の香りを放ち始めていた。

 ◇

 一方、ミナはというと――。バニー姿こそ拒んだが、真紅のスリットドレスでテンションMAX。

「いらっしゃいませ~! 二杯目はサービスしちゃうよっ☆」

 敵幹部の肩に腕を回し、強引に飲ませ、いつの間にか即興ライブが始まる。

「♪ のめや~! うたえや~! 商会ばんざ~いッ!」

 店内の空気を完全に掌握し、酔った男たちを次々と転がしていった。

「おいミナ! 調子に乗りすぎだ!」

 ロイが必死に止めようとする。だが次の瞬間、女性客数人に囲まれたのはロイ自身だった。

「ねぇロイくん~、今日の演説すっごく素敵だったわぁ♡」
「庶民代表って、控えめに言って推せる~」

 頬を赤くしながら女性に迫られ、ロイは真っ青。

「ちょ、ちょっと待って! 俺はそんなつもりじゃ……あの……!」

 狼狽ぶりは完全に酒場の笑いの種となった。

 ◇

 そして――その夜の混沌の核にいたのは、やはりこの男であった。

 ガロウ。

「オウオウオウ! 飲めヤァァァァ、コラァァァァッ!!」

 開幕一番、彼は人が二人は入れそうな巨大樽を片腕で抱え上げ、喉へ滝のように酒を流し込む。
 鼓膜が震える怒号、床板が悲鳴を上げる重量。次の瞬間、ガロウは空いた片手でテーブルをドン、と叩き割り、周囲のコップが跳ね上がった。

「俺様の杯を断るヤツはヨォ――この場でッ! 即ッ! 引退ダァアア!!」

 敵対派閥の幹部も、味方の兵も、飲んでいた給仕までも思わず背筋を伸ばす。
 だが次にはガロウ自身が机を踏み台にして跳び上がり、着地の衝撃で床がギシ、と深く沈む。壁に掛けられていた絵皿が一斉にカタカタと震えた。

「退職金まで出る戦士なんざ聞いたことねェ! 飲んで死ねるなら本望だロォォ!!」

 豪快すぎる雄叫びに、周囲は一拍――そして爆笑の渦に呑まれる。

「ひっ……ひぃ……腹よじれる……!」
「なにあの化け物……いや、好き……!」
「もう敵とか味方とかどうでもよくなるわ……!」

 気がつけば、派閥の違いなど完全に消え失せ、肩を組み、大合唱が始まっていた。
 酒場は揺れ、歌は天井の梁まで震わせ、笑い声と足踏みが街路にまで溢れ出す。

 ――その中心に、常にガロウがいた。

 豪快で、破天荒で、しかし不思議と憎めない。
 彼の笑い声だけで、場の温度が一段跳ね上がる。

 この夜、最強の酒乱――いや、宴会戦闘兵器が、確かに酒場を掌握していた。

 ◇

 混沌とした酒場の真ん中、漣司は一歩下がって全体を見ていた。

 ――敵と味方が笑い合っている。かつて日本の企業戦士として見た「飲みニケーション」の光景が、異世界で再現されていた。やがて、都市のリーダー格が漣司の前に歩み寄った。老練な顔に苦笑いを浮かべながら、低く言った。

「二階堂蓮司……お前には不思議な魅力がある。人を戦わせ、人を笑わせ、そして……豪快に飲み潰す。あれほど敵対していた者たちが、今はお前の隣で酒を酌み交わしている。――まるで魔法だ」

 漣司は静かにグラスを置いた。

「魔法なんかじゃありません」

 目を細め、ほんの少しだけ微笑む。

「日本のビジネスの戦場では、これくらい当たり前ですよ」

 その言葉に、リーダーはしばし沈黙し――やがて深く笑った。

「……なるほど。ならば私も、その戦場の流儀に学ばせてもらおう」

 こうして、剣でも金でもなく、酒と笑いによる和解の夜が幕を閉じた。翌朝の都市の噂は、こうである。

 ――「二階堂商会の接待にかかったら、敵でも友になる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~

仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。 祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。 試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。 拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。 さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが…… 暫くするとこの世界には異変が起きていた。 謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。 謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。 そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。 その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。 その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。 様々な登場人物が織りなす群像劇です。 主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。 その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。 ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。 タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。 その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

処理中です...