【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

(side仁)

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「バッカじゃないの」

 低い声と平手打ち。ばしん、と思い切り頬が打たれた音が辺りに響く。……結構痛い。

「ほんと、……バカじゃないの」

 ぎゅう、と抱きしめられた。

「仁の気持ちは分からないよ。ごめんね、そんなに重い経験したことないから」
「いや、ごめん、華」
「なんで謝るの」

 華は眉を寄せて俺を睨む。

「でも側にいたい。ていうか、いて。汚いとも怖いとも思わない。でも、」

 華は俺を抱きしめてた腕を少し緩める。それから俺の頬に触れた。

「半分背負わせてくれないかな」
「なにを?」
「仁のいろんな気持ちとか、そういうの」

 華は少し目を伏せた。

「頼りない? 私。一緒にいて、半分こにできたりしない?」
「……お釣りがくるよ」

 言いながら、抱きしめた。頭がごちゃごちゃしてる。……言えば、嫌われると思った。華は優しいから、ひとごろしなんか好きでいてくれないと思ったんだ。

(でも、)

 背負ってもらおうとは思わない。

(これは俺が背負うべきものだから)

 銃口の先にいたのは、いつだって生きてる人間だった。奪ったのは俺だ。
 けれど、背負ってくれると言ってくれるひとがいるだけで、こんなに力が湧くなんて。

「ごめんね、痛かった?」
「痛かった」
「ごめん」

 華は微笑む。

「あのさ、華」
「なに? まだなんかあるの」
「俺、これ黙ってたよ。言うつもりなかった。華に黙ったまま、一生やり過ごそうとしてた」

 俺の声は少しだけ震える。

「ずるい人間だよ。それでもいいの」
「ひとりで抱えていく気だったの」

 華の声はひどく優しい。

「仁は優しいね」
「優しくない」

 華の肩口に顔を埋める。

「ずるいだけ」
「優しいよ」

 後頭部をよしよし、と撫でられた。

「私は知ってる」
「華」
「顔上げて」

 言われた通りにすると、ふっと吹き出された。

「情けないカオ!」
「……しょーがねーだろ」

 ふい、と俺は顔を逸らす。

「お前にもう触れられないかと」
「そんなんで不安になるの?」
「なるよ」

 当たり前じゃん、と言うと華は笑った。なんていうか、透明な、月の光みたいな微笑み方だった。
 唇が重なったのは覚えてるんだけど、それが俺からだったのか、華からだったのかは、後から考えると、正直なところ、イマイチ判然としない。


 華を送り届けた頃には、時計の針はとっくに明日に変わっていた。
 助手席の華はバスタオルを身体にかけて、少し眠そうにしていた。

「今から課題して寝ると寝不足なんじゃねーの」
「まぁね~」

 華は少しげっそりとした表情で言った。

「けどまぁ、なんとかなるでしょ」
「無理すんなよ」
「ん」
「つうか風邪引くなよ」

 着替えなんかないし、バスタオルだけ頭から被せてここまで来た。

「仁こそ」
「俺って丈夫なの」

 玄関に入るまできっちり送り届ける。と、廊下の奥からパタパタとスリッパを履いた足音がする。

(あ、常盤朱里)

 華のツンデレな親戚だ。父親が去年逮捕されて裁判中ってことで、この家に引き取られたのだ。しかしまぁ、ツンデレ美少女って存在するんだなぁ……。

「ちょっと華、あんたこんな夜になにしてーーってびしょ濡れじゃない!? なにしてたの!?」
「学校にテキスト取りに行ってたらプールに落ちちゃって~、相良さんに助けてもらったの」

 あはは、と笑う華を少し呆れてみやる。なにが落ちちゃってだ。自分でダイブしたくせに。

「ばっかじゃないの!?」

 ふ、と俺に向けられた視線に軽く目礼する。朱里は一瞬、ほんの一瞬だけ俺に酷く憎憎しげな表情をみせた。すぐに元のツンデレ顔に戻って「風呂! 風呂!」と華を急かせる。

「え、あ、うん。じーー相良さん、また」
「はい」

 にこり、と笑って玄関から出る。車に戻ってエンジンをかけようとすると、がん、と窓ガラスを叩く音。窓を開ける。

「……朱里様、どうなさいました?」
「そのピアス」

 朱里は今度は憎憎しげな視線を隠すことなく、俺を見つめる。

「誰にもらったの?」
「自分で買いましたよ」

 淡々と答えた。

(……バレてんじゃん)

 華のあんぽんたん、買い物履歴くらい消せよ!

(や、)

 すぐに思い返す。俺が油断してたんだ。

「ふーん。そ」

 朱里はすっと車から離れる。

「あたし」

 見下すように腕を組み、少し離れた距離から朱里は俺を見る。

「あの子が幸せになれる相手じゃないと、認めないわ」
「……どんな権利がおありで?」

 思わず聞き返す。

「ないわよ。あの子に関して、あたしが持ってる権利なんか、なに1つない。ないけれど」

 朱里はいっそ堂々と言った。

「ないけれど、それでも許せない。バンドマンじゃなくて安心したけど、もっと厄介だったわ」
「バンドマン……?」

 なんだ、なにそれなんの話なんだ。

「というか、僕、なんの関係もないですよ?」

 にっこりと微笑む。

「ただのボディーガードと対象者で、教師と生徒で、ただそれだけです」
「……あ、そー」

 朱里はくるりと踵を返す。

「覚えておきなさいロリ野郎」
「ろ、ろり」
「あたしはアンタを認めない」

 カオは見えない。けれど、とても硬い声。

「樹さまや圭と恋をしたほうが、華は幸せになれるの」
「なぁ常盤の元お嬢さん」
「元ってなによ元、って」

 くるりと振り向いたその顔に向かって俺は言う。

「そんなに華のことが好きなんですか」
「な、なに言って、そんな、好きなんかじゃっ」
「顔に書いてありますけど?」

 窓から手を伸ばし、朱里を指差す。

「恋してますって」
「う、うるさい、事故れ、命に別状がないくらいのアレで事故れっ」

 そのまま家の中に飛び込んで行かれてしまった。……しかしなんなんだ、その微妙な優しさは。これがツンデレか。ツンデレなのか。
 無事故無違反で帰宅しつつ、俺はそう思った。
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