【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

【side真】弱さ

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「そんな訳でですね、生徒会役員選挙に出ることになりまして」

 華がなんでもないことみたいに言う。
 9月半ばにある、青百合の生徒会選挙。

「結構大変だよ? 勉強と両立できる?」
「親みたいなこと言いますね……」

 華はお湯の中から僕を見上げながら言った。お湯っていうか、要はお風呂。
 ハワイから帰国して、普通通りっぽい生活に戻ったけれど、ひとつ違うのはなんだか華が僕にくっついて回るようになったこと。
 いやいいんだけど。
 嬉しいんだけど。
 可愛いんだけど。

「どうしたのかな?」
「なにがですか?」
「いやぁ?」

 無自覚かな?

「明日僕用事あるから構ってあげられなくてごめんね」

 華の濡れ髪を撫でる。華は心地よさそうに微笑んだ。

「ご飯作り置きしておくから大丈夫です」
「そう?」

 華がなんだか幸せそうだから、僕はとっても満足する。

(いつからかな)

 華が幸せそうだと、僕も満足するようになったのは。
 僕はこんな人間じゃなかったのに。
 いつだか、(便宜上)父親的リスが言ってたことがある。

「大事なものを作るなよ、真。弱くなるぞ」

 弱点を作るな、と。

(なるほどね)

 僕は納得する。
 弱くなる。
 だからこそ、それを守るために僕はなんだってする。
 翌朝、ベッドですうすう眠る華を残して、僕は病院へ向かった。
 磯ヶ村アリサが眠る病院。
 消毒液の匂いが漂う、異様に明るい廊下を歩き、彼女の病室に入る。
 小野くんが静かに僕を待っていた。
 その手は相変わらず、アリサちゃんの手を優しく撫でている。

「アリサ、鍋島さん来たよ」
「こんにちは」

 僕はアリサちゃんに声をかける。反応なんか何もなかった。

「昨日はごめんね。嫌な人と再会させたね」
「……呆然としてましたよ」

 小野くんは絞り出すように、言った。
 僕が尿路結石(桜澤青花)に対してしかけた「色んなこと」、結石が「犯人は磯ヶ村アリサだ」と思うように仕向けた。
 結石が恐怖で我慢の限界をむかえて、こえて、アリサちゃんに会いに来るように。
 結石はここにくるまで、ここに至るまで、アリサちゃんがクリスマスに飛び降りたことを知らなかった。
 僕はやっぱり想像する。
 救いはあったのだろうか。安堵は。
 寒い夜に、雪がちらつく暗い夜に、遠くに見えたイルミネーションに、彼女は安らぎを覚えただろうか?

「アリサを見て、混乱して逃げて行きました」
「時間も経ってるのに、今更当て付けで飛び降りなんか、って思っただろうね」

 そう思ってここに来るように仕向けたんだけれど。
 こんなふうになってるなんて、結石は知らなかった。
 痩せこけた、生かされてるだけの女の子。

「これで結石は別の人間を疑いだすしかない。やがて周り全員が敵に見えて来る」

 僕は首を傾げた。

「ねえそのあとどうしたい?」

 僕は小野くんを覗き込む。

「どんな処分を望んでる?」

 小野くんは黙ってアリサちゃんを見つめていた。どろっとしてるようで、透明な視線。
 その時、僕は気がついた。
 優しく撫でる小野くんの掌の中で、アリサちゃんの指が、その骨と皮だけの指が、ぴくりと動いた。

 予想外だったのは結石女がなぜだか活動を活発化させたことだ。

「シナリオを進めるしかない?」

 僕は聞き返す。なんだそりゃ。
 電話の向こうで、協力者たる彼女は言った。

『そうなんです。それしかない、守ってもらうためにって。そんな感じのこと言って設楽さんに詰め寄ってました』
「ふーん」

 華だって選挙で忙しいのに、まったく余計なことをして。すぐに処分してやろうかなぁもう。

(でもダメだ)

 それじゃ、ダメだ。
 同じことを繰り返してーーいつか小野くんあたりに殺される。
 結石はどうなろうと構わないけれど、僕はいつのまにかあの少年に何かしらのシンパシーを覚えているらしかった。
 彼をヒトゴロシにさせたくはない、と思う。

(もちろん、華には指一本触れさせないけれど)

 僕は一呼吸おいて、彼女にお礼を言って通話を切った。
 どうやら、彼女によれば結石は華以外の4人に謎に接近しようとしてるらしい。
 鹿王院樹。華の「元」許婚。
 山ノ内瑛。山ノ内検事の息子さんで、華のことが好き、らしい。
 常盤圭。華のオトート。オセロが得意(僕の方が強い)
 野宮藤司。結石の担任。華の生物担当。

(……華と千晶がブツブツ言ってたなぁ)

 この「トージ先生」とやらに関しては。僕がいると話すのやめるんだけど、ちょー怪しいよね。なんだろね?

「ヒロインがどうのって関係あるのかな」

 僕は呟く。結石、自分のこと「この世界のヒロイン」って言ってたからなぁ。痛々しいよなぁ。

「しかしほんとに生命力強いよなぁ」

 僕は呟く。本人なりに打開策を講じてる、と考えていいんだろう。
 まぁ残念ながら、彼らが結石ちゃんになびくとは到底思えないんだけれどね。
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