怪談夜話

四条 京太郎

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永遠の四日目

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スマートフォンからアラームが鳴り、テントの中で目を覚ました。
今日が霧隠の森での野鳥調査の最終日、4日目のはずだ。

しかし、頭の中に昨日の記憶がない。

一昨日も、その前の日も、何も思い出せない。

3泊4日の予定だったのに、まるですべての時間が消えたようだ。

激しい動悸を抑え、僕は周囲を見渡した。
テントの設営は完璧で、使った痕跡がない。まるで、到着した初日の朝に戻ったかのようだった。

「どういうことだ?」

野鳥調査の為に持ってきていた、デジタルカメラの写真を確認する。
写真に、何か手がかりがあるはず。

調査の記録が残っていた。

最初の数枚は、確かに初日の記録だった。
野鳥の写真、森の入口の写真、テント設営の写真。
最後に時刻が記録されたのは、1日目の午後9時34分の満月の写真。

次の写真へとスクロールすると、画像番号が大きく飛んでいた。
そして、次の写真のデータは、4日目の午前4時51分。
テントの中で眠っている俺自身が、誰かに撮られたクローズアップ写真だった。

意図的に削除されたであろうSDカードのデータを、復元ソフトを使い、見てみることにした。

復元された写真は、2日目と3日目の深夜に集中的に撮られていた。
もちろん野鳥の写真もあったが、明らかに深夜に撮られている写真が多かった。

2日目 午前2時03分:森の奥、朽ちた鳥居の前に、俺が跪き何かを祈っている姿。
写真の隅に、赤い光がぼんやりと写り込んでいた。
2日目 午前2時36分:跪き何かを祈っている姿は変わらず、写真の隅にあった赤い光は、心做しか、俺に少し近づいているようにも見える。
他にも似たような写真が、数十枚撮られていた。

3日目 午前3時44分:野営地のすぐそばで、俺は調査用の三脚の脚を、地面に結界のように円を描いて突き刺している。
その表情は、極度の疲労と恐怖で歪んでいた。

写真から読み取れたのは、俺自身がこの森のと遭遇し、その恐れから逃れるために、自ら儀式を行い、記憶を封印したということだった。



三脚の円の中心に残されたフィールドノートを掴んだ。
そこには俺の筆跡で、狂気じみた文字が書き殴られていた。

「ワタシハココニイル。デテハイケナイ」

ノートを投げ捨て、テントから飛び出した。

周囲の木々には、初日にルートをマークするために使ったはずの調査用のテープが、すでに雨風に晒され、ボロボロに劣化していた。足元には、季節外れの枯れ葉が厚く積もっている。

スマホの日付を確認した。
今日の日付は、間違いなく4日目を示している。
だが、俺の体がこの森に囚われ、意識のないまま数ヶ月、あるいは数年が経過していたとしたら?

自分がこの森に、ことに気づいた。
記憶を消し去ることで、一時的に現実へ帰ろうとした。
しかし、森はそれを許さなかった。
俺の体は、この森の時空間に永遠に縛り付けられてしまったのだ。

今日また、この空白の3日間を写真から解き明かそうとするだろう。
そして、夜になると、森のに対処するために再び儀式を行い、目を覚ますとまた記憶を失う。

永遠にを繰り返す。

俺の人生は、この霧隠の森の中で、永遠に3日間の空白を抱え続けることになった。
この森から、決して解放されない。

遠く、霧隠鳥ではない、ひどく耳障りな鳥の鳴き声が、俺の絶望を嘲笑うように響き渡った。
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