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ep.14
しおりを挟むアーサーの顔を見るとグレイスはぐっと下唇を噛み締めて、それから扉を開け放ちアーサーに縋りつく。
「アーサー……! やだ、行かないで!」
涙声で訴えかけるグレイスの願いに、アーサーは表情を変えず諭すように静かに答える。
「姫様、それはなりません」
「だって、だって……アーサーはわたくしの護衛騎士でしょう? わたくしを守るのが仕事でしょう?」
「皇帝陛下と約束を交わしたのです。姫様の護衛騎士を続ける代わりに、有事の際は陛下の命に従い国のために戦うと。これまでもそうして戦争に出たりしたではありませんか」
「ドラゴンと戦うだなんて、死んだらどうするの!? 一人で行くんでしょう? いやよ、いや……行かないで……」
もう帝国にはドラゴン討伐に割くだけの人員がない。既に死傷者多数のなかこれ以上軍をそちらにあててしまうと国を守る戦力がいなくなってしまうため、アーサーは一人で向かうことになった。ソードマスターであるアーサーにとっては、ほかの騎士などいないほうが戦いやすい。ソードマスターと一般の騎士にはそれほどの実力の差があった。
しかしグレイスにしてみれば、アーサーが皇帝の命令によって死地に赴かされるようにしか見えないのだろう。
胸にしがみついて泣きじゃくるグレイスを、アーサーはそっと抱き締める。
「姫様、必ずあなたのもとに帰ってきます」
「……いやよ」
「姫様を残して私が死ぬはずがないではありませんか」
「……やだ」
「姫様」
グレイスの涙を親指で拭うアーサーは、駄々をこねる彼女を愛おしげに見下ろしていた。
「……やだぁ、アーサー……!」
離れ難いが、いつまでもこうしてはいられない。ドラゴンは今も帝国民を襲い続けている。戦っている騎士たちがいる。もし帝都にまでドラゴンが攻めてくることになったら、グレイスの身も危なくなるのだ。
名残惜しい気持ちを振り切ってグレイスを離れさせると、アーサーは彼女の前に跪いた。
「姫様、行ってまいります」
「…………」
覚悟を決めたアーサーに見上げられ、グレイスはすんと鼻を啜る。「行かないで」というわがままを聞き入れてもらえるとは思っていなかったが、縋らずにはいられなかった。少しだけでも、この弾けてしまいそうな気持ちを吐露する時間が必要だったのだ。
グレイスは髪を結っていたリボンをおもむろに解く。
「アーサー、剣を」
「はい」
アーサーは腰に差していた剣を抜き、グレイスとの間に立てる。
グレイスは解いたピンク色のリボンを、震える手でその柄に結んだ。騎士の無事を祈って、普通はハンカチを贈るものだが、今は持ち合わせがこれしかない。
少し不格好になってしまったリボンを見つめグレイスは不満げな顔をするが、アーサーは結び直そうとする彼女の手を取りその甲へ口づけた。
「ありがとうございます、姫様」
「……あなたの無事を祈ってるわ」
先ほどまで駄々をこねていた姿とは真逆の、気丈に振る舞おうとするグレイスに、アーサーは彼女を抱き締めたい気持ちを抑え込んだ。
その日の夜。アーサーは一人、ドラゴン討伐に向けて出発した。
アーサーがドラゴンのもとに辿り着くと、それまで食い止めていた騎士たちは、領民の避難を誘導しながら帝都に帰還する。皇帝は戻った騎士たちから状況を聞くと、祈るような思いで討伐成功の報せを待った。
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