15 / 29
ep.15
しおりを挟む「グレイス皇女でーんかー! 朗報ですよ! アーサーさんがドラゴン討伐に成功したそうです!」
そう言ってグレイスにヘラヘラと笑いかけたのは、アーサーがいない間代わりを務める護衛騎士、ナズナだ。
アーサーと仲がいいらしく、彼直々の推薦だった。これまでもアーサーが皇帝から言いつけられた用事で不在にするときは、ナズナが護衛をした。少々軟派な部分はあるが、アーサーのお墨付きだからとグレイスは一応信頼して護衛を任せている。
明るい茶髪をぴょこぴょこと跳ねさせスキップせんばかりのナズナの報告に、グレイスは言葉を失い、じわじわと目に涙を浮かばせていった。しまいには顔を覆って泣き出してしまったグレイスの背中をさすり、ナズナはハンカチを差し出す。
実に一ヶ月の間、アーサーとドラゴンの死闘が繰り広げられた。
その間ずっと生きた心地のしなかったグレイスは、討伐成功の報告を聞いてやっと息ができたような気分だった。
「帰還にはあと3日ほどかかると思います。それまでにちゃんと寝て、食べて、元気いっぱいにならないと。僕がアーサーさんに怒られちゃいますから」
「うん……うん、そうね」
「そうだ、帰還パレードをやるらしいですよ! そのあとはきっと盛大なパーティーですね! ドレスの準備とかあるんじゃないですか? ほらほら、忙しくなりますよ」
「ええ。……涙がひっこんでからやるわ……」
その後すぐにドラゴンの討伐成功の話が広がり、城中がお祝いムードに包まれた。皇帝の指示によりパーティーの準備が進められ、久しぶりに活気を取り戻した城には商人たちがたくさん出入りしている。徐々に賑やかさを増していく様子に、グレイスの気持ちもだんだん上向いていった。
(もうすぐアーサーが帰ってくるわ!)
弾む足取りで廊下を進む。ドレスは準備できたけれど、気に入る宝石がなかなか見つからず、城を出入りする商人から買い付けようと思っていた。
グレイス以外の皇族たちも久しぶりのパーティーの準備に忙しくしている。スカーレットの部屋の前を通りかかると、それはもうたくさんの商人が列をなしていた。きっと今回もまた、まるでスカーレットが主役かのように美しく着飾るのだろう。
しかし今はそんなことはどうでも良かった。グレイスは早くアーサーに会いたいという気持ちでいっぱいだったからだ。
そんななかふと聞こえた商人たちの言葉に、無視などとてもではないができずグレイスは足を止める。
「ドラゴン討伐の褒美に、皇帝陛下がソードマスター様になんでも願いを叶えてやると仰せだとか」
「ほう……もしや、皇女殿下を嫁がせる可能性もあるということですな」
「それなら相応しいのはやはりスカーレット皇女殿下では? ソードマスター様には、皇后陛下の娘であるスカーレット皇女殿下ほどのお方でないとつり合いませんぞ」
「皇后陛下の出身である公爵家はまだ男児が生まれていないらしいな? もしかしたら、スカーレット皇女殿下と結婚して公爵家を継ぐのではとも言われているとか」
「ホホ、ですからこれほどパーティーへ向けての準備が入念なのではありませんかな?」
「ですがソードマスター様は第8皇女殿下の専属護衛騎士らしいですよ」
「ああ、あの皇女様か……。美しいが……後ろ盾がちと弱いなぁ」
「ははは! 第8皇女殿下では褒美にはなりますまい!」
商人たちの話を耳にしたグレイスは思わず踵を返した。
43
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる