きらきらときどきゆらゆら

こえ

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十. 笙子、結婚するの?

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 例年は我が家でひっそりとするクリスマスパーティーですが、今夜はいつもより数段豪勢なお食事になりました。なんといっても、紫以菜というお客さまが来るのですから。
 今夜の料理のために、専属の料理人の富田の他に、二人の料理人が来てくださっていて、厨房はおおわらわで動いていました。紫以菜の他にも、叔父さま夫妻もいらっしゃるので、量も倍増です。わたくしもお手伝いに回されて、ひと段落ついたのは、午後六時ごろでした。
 わたくしは息つく暇もなく、すぐに走って紫以菜のお宅へお迎えに上がりました。
「こんばんは。失礼いたします!」
 玄関先で挨拶すると、すぐに紫以菜とお父さまが出てきました。
「笙子お待たせ!」
「笙子ちゃん、今日はありがとう。お世話になるよ」
 紫以菜は、ドレスというほどでもないですが、綺麗に着飾った姿をしていました。
「まあ、素敵ですわ!」
 紺色のワンピースの首回りには、雪のように真っ白なファーがあしらわれています。胸元にはイルカの形の銀のブローチ。フォーマルな装いは、あまり見ないものでしたので、わたくしは、しばらく見つめたままでした。
「どう? こないだ、お父さんに買ってもらったんだ!」
 紫以菜はそう言って、くるりとひと回り。
「安物だけどね」とお父さま。
「いえ、可愛らしいわ。今日のためだなんて、わたくしも嬉しいですわ」
「まあ、でも、いつも申しわけないね。僕らみたいな庶民が月崎家のパーティーに、だなんて。畏れ多いよ」
「とんでもございませんわ。わたくしも家族も、ずっと楽しみにしていたのです。ほんとうですわ」
「うん、ありがとう。お言葉に甘えて、今日はよろしく頼んだよ。紫以菜、くれぐれも失礼のないようにな」
 紫以菜は面倒くさそうに、はーい、と言って、ダウンジャケットを羽織りました。
「それでは行きましょうか」
「じゃあ、いってきまーす。行こ行こ、笙子」
 紫以菜はそう言って、わたくしの手を取りました。
「いってらっしゃい」とお父さま。
 ここのところ、一気に冷え込みが厳しくなってきていて、珍しくホワイトクリスマスになるのではと、先日あかりと話していたものです。しかし、今はすっきりと晴れているようで、濃紺の夜空に、銀に光る星々が散りばめられています。吐く息は綿飴のように白く、紫以菜のそれを見ていると、なんだかファンシーに見えるようです。
「楽しみ、楽しみ~」
 紫以菜がわたくしと繋いだ手を大きく振ります。
「ほんとうですわね。今夜はご馳走をご用意いたしましたわよ。お楽しみ~」
「ほんとう? お楽しみ~」
「そういえば、紫以菜。サンタさんにはなにをお願いしたのです?」
 聞きましたが、紫以菜は、へへっと笑っただけで、答えてくれません。
「なにかしら? ゲーム? ぬいぐるみ?」
 黙ったままです。
「わかったわ。このあいだ欲しいと言っていたお人形ハウスですわ」
「違うよ」
「勿体ぶってないで、教えてくださってもよろしいではありませんか」
「秘密だよ」
「もう」
 わたくしは膨れっ面です。
 わたくしがサンタクロースの存在を信じていたのは幾つのときまででしたでしょうか。お母さまが亡くなったのは、わたくしが小学校六年生の冬でした。その年のクリスマス・イブには、確かこども文学全集のような、十数冊ほどのセットをいただいた覚えがあります。それは今もわたくしの本棚に、大事に収められています。
 お母さまは、その一ヶ月ほどあとに亡くなったのでした。次の年のわたくしは中学一年でしたので、それを機になのか、お母さまの死がきっかけなのかはわかりませんが、サンタクロースは来なくなってしまいました。
 やはり、紫以菜は今は信じているのでしょうか。この笑顔を見ると、答えは歴然としているようにも思えますが。

 わたくしたちがお屋敷に戻ると、食堂には既に料理が並べられていました。定番の七面鳥の丸焼きに、デコレーションされたチキンライス、サラダ、色とりどりのフルーツ……数え切れないほどの料理が並べられています。
 叔父さま夫妻も、わたくしが出ていたあいだに到着していたようです。
 飾り付けも、山岡が頑張ってくれたようで、例年にない煌びやかなものになっています。クリスマスツリーだけでなく、ランタンや電飾も凝っていました。
「うわー、すげー」
 紫以菜の目は、爛々と輝いています。
「いつもはこんな豪華じゃないのに。どうしたの?」
 ついわたくしが本音を言ってしまうと、お父さまは苦笑い。
「まあまあ。毎年お父さんと母さんと山岡だけだろ。今年は料理人として二人増しで来てくれたし、こうして列席してくれた。今年くらいは、料理も飾り付けも豪勢にしたいじゃないか」
「ほんとうに豪華ですわね」
「豪華ですわねー」
 紫以菜が真似しました。
「紫以菜ちゃんは家族みたいなものだ。ゆっくりしていってね」
 紫以菜は「はい!」と元気に返しました。
 食卓では、ばあやが端にちょこんと座り、そのしもに叔父夫妻、料理人三人、山岡が並んで座っていました。
「紫以菜ちゃん、ほら、おいで」
 ばあやの声に、
「ばあやじゃん! 久しぶり! 元気だった?」
 紫以菜は駆け寄っていきました。
「うん。ここのところ会えてなかったねえ。寒くて部屋から出る気にもなれなかったから」
「元気そうでよかった! また遊ぼうね」
 そう話す二人を、叔父さまは不思議な顔をして見ていました。
「この子はね、紫以菜ちゃんといって、笙子のお友達なんだ」
 お父さまが言うと、叔父さまは、ぽかんとしています。
「そうなのか。ようこそようこそ」
 叔母さまも戸惑いつつも、紫以菜に笑顔を投げかけています。
「まあまあ、みんな揃ったことだし、食べようじゃないか」
 お父さまの声で、皆が席に着き、料理人の富田がワインやジュースを注いで回って、食事が始まりました。
 そこでお父さまが、こほん、と咳払いをひとつ。
「毎年恒例のクリスマス会だけど、今年は特別に、紫以菜ちゃんという、ほんとうに可愛いお客さまを迎えられて、わたしとしても、とても嬉しく思います。料理だって、富田の他に助っ人二人も来てくれて手伝ってくれました。ありがとう。その他には、大したおもてなしはできないけど、ゆっくりとしていってください」
「あんた、ちょっと硬いよ。紫以菜ちゃんもお腹空いただろうに」
 ばあやが横槍を入れたので、食卓にくすくすと笑いが起こりました。
「そうだな。それじゃあ、乾杯といきますか」
 かんぱーい
 皆で合唱し、パーティーが始まりました。
「笙子、チキン食べていい?」
 紫以菜がいきなり言うので、わたくしは笑い出しそうになりましたが、考えてみれば別に可笑しいことでもないでしょう。でも、なぜかわたくしには、それがひどく微笑ましいことのように思えてなりませんでした。
 紫以菜は手を伸ばしていますが、全く届きそうにありません。
「取ってさしあげますわ」
「シーナ、こんな料理初めて食べるわ! チキンでいいんだよね?」
「そうです。七面鳥という鳥ですわ」
「わー、テレビとか本で見たことある!」
 そう言って、ひと口食べると、しばしの沈黙がありました。料理人の富田の視線が気になります。沈黙が続いたあと、
「んふ~。しあわせ~」
 紫以菜は、文字どおり、ほっぺが落ちんばかりの幸福感に包まれています。それを見て、皆は大笑い。可笑しさと可愛さで、こちらの頬も緩んでしまいます。紫以菜は皆が笑っているのも気にせず、次々と料理を口に入れていきます。
「急がなくても、紫以菜ちゃんのためにたっぷり用意してあるんだから、ゆっくり食べてくれよ」
 お父さまが言うのを聞いて、紫以菜は初めて恥ずかしそうな表情をしました。
「笙子もね、紫以菜ちゃんと遊ぶようになってから、ずいぶんと楽しそうなんだよ」お父さまが紫以菜に言いました。「いつもありがとう。じゃんじゃん食べてね」
「とんでもございません! ね、笙子?」
 紫以菜がわたくしの真似をして言うので、また笑いが起こりました。
 それからしばらくは、一同から紫以菜に質問攻めがあったり、叔父さまを交えて、月崎家の歴史について話したり、終始和やかに食事が進みました。
 お父さまも酔いが回ったようで、叔父さまや富田と一緒になって盛り上がっています。ばあやはいい加減に席を立って部屋に戻り、叔母さまは山岡と話し込んだりで、食堂はばらばらな様相を呈してます。クリスマスツリーや点滅する電飾が、観客を失ってしまい、どことなく寂しげに見えるようです。
「ねえ、笙子。笙子のおうちの食事は楽しげでいいね。シーナはいつもお屋敷にお邪魔しても、夕方には帰っちゃうから、こうして夕食の風景を見るのは今日が初めてだよ。いいなあ。シーナはいつもパパと二人だけだから」
「いえ、いつもはふつうですわ。素っ気ないものです。そもそも、お父さまもいつも帰りが遅いですし、わたくし一人という日も珍しくありません」
「でも羨ましいよ。普段からたくさん人がいるだけでもいいじゃん」
 と言いますが、表情はごく平然としています。
「それにしても、紫以菜のお父さまは、ほんとうにいらっしゃらなくてよろしかったのかしら? そもそも、毎年紫以菜のお宅では、クリスマスはどうしてるのです?」
 わたくしは、あのときなにも考えずに、思いついたように誘ってしまったことを、あとになって後悔していたのでした。
「だから、特になにもしないよ。お父さんがいつもよりは少し豪華なおかずを作るけどね」
「でも、なんだかわたくし、お父さまを一人にしてしまったことを今更のように申しわけなく思っているのです」
「気にしなくていいよ。ああいうひとでしょ? 一人が気楽でいいんだよ」
 言われてみれば、そうかもしれませんが。
「それにしても、美味しいなー。食べ過ぎちゃって、もうだめだ」
 紫以菜は膨れたお腹を、ポンポン、と叩いています。
「そうそう、紫以菜。少々お待ち」
 わたくしは、今夜のために用意していた物を取りに、洋館の部屋に戻りました。
 紫以菜へのクリスマスプレゼント。それは手帳です。
 それを手に、紫以菜の元に戻ると、紫以菜も、なにやら小さなプレゼントらしき物を手にしていました。ダウンジャケットの中にでも入れていたのでしょう。
「紫以菜、それは?」
「ふふん。シーナも笙子にプレゼント」
「ふふん。では、交換といきますか」
 わたくしたちは、プレゼントを交換しました。
「開けていい?」
「もちろんですわ。わたくしも開けますわよ」
 包み紙を開けると、手のひらサイズの黒の小箱が現れました。開けると耳飾りが入っていました。
「まあ、可愛らしい!」
 ベージュのような金のような色をした、金属製の羽が一対飾られたシンプルな物でした。吹けば飛ぶような儚げなデザインが、実にわたくしの好みです。
「ありがとう、紫以菜! とてもいいわ」
「でしょう? 笙子、こういうのが好きだと思ってさ。シーナのはなに? 本?」
「さあ。開けてごらんなさい」
 包み紙を開けた紫以菜は、「お~」と言ってから、顔をほころばせました。
 それは、キャラクターもののいかにも小学生向けではない、けれども少女趣味のある、レースで飾られたピンクの手帳です。
「手帳じゃ~ん。手帳なんて持ったことなかったけど、来年から使うよ! なんだか大人になったみたいだ!」
「よかったわ。紫以菜も来年から中学生でしょう? そろそろ、こういう物が欲しいお年ごろかと思いましてね」
「ありがとう! これも笙子との予定でいっぱいになるんだろうな~。楽しみだな~」
 そう言われて、わたくしの胸はときめくばかりです。わたくしとの予定が書き込まれたこの手帳の頁を想像して、胸が高鳴るようです。
「笙子って、ずっと前に貝殻の耳飾りをしてたでしょう? 他に持ってないみたいだし、新しいのどうかなと思ってね」
「ええ。そのとおりですわ。わたくしの二個めの大切な宝物ですわ」
「買うときは、ちょー緊張したけどね。子供がこんなの買うもんだから、店員さんにも変な目で見られるし。プレゼントだって言ったら、誤解は解けたみたいだけど」
「まあ。でも、ほんとうに嬉しいわ」
 紫以菜が少ないお小遣いの中から捻出し、勇気を出してお店に入って選んでくれたことを思うと、わたくしは胸がいっぱいになりました。
 しかし、紫以菜はわたくしの貝殻の耳飾りの謂れを知りません。ですから、紫以菜にとっては、それはただの耳飾りです。わたくしは、このプレゼントを心から喜ぶと同時に、罪悪感のようなものを抱いたことも否めません。
「わあ。君たち、プレゼント交換したの?」
 気づいたら、背後に、頬を赤らめた叔父さまが、ワイングラスを片手に立っていました。紫以菜はびくっとして、固まっています。
「紫以菜ちゃんというんだね。笙子の叔父です」
「はい。よろしく」
 紫以菜は緊張しているのでしょうか。
「叔父さま、あんまり酔っ払って子供に絡むのはいけませんわよ」
「酔っ払ってなんかいるもんか」
「酔っ払っているひとはみんな、酔っ払ってないと言いますわ」
「まあまあ、笙ちゃんも飲みなよ。あれ、ジュースか?」
 叔父さまが、わたくしの飲んでいたシャンメリーを指して言いました。
「そうですわ。紫以菜の前でお酒は飲めません」
「別にいいじゃないか。関係ないだろう。笙ちゃんも大人なんだから」
 叔父さまは、お父さまの会社とは別に、ご自分で新たに起業して、それを軌道に乗せたやり手なのですが、わたくしは、このひとのことを子供のころから少し苦手にしているのです。よくも悪くも楽天的で、無責任なところがあるひとです。ひととの距離感が近く、わたくしのそれとは少々のずれがあって、ひとことでいえば、感覚が合いません。叔父さまの娘さん(わたくしの従姉妹)とは年代も近く仲がいいのですが、持病があり、入退院を繰り返す日々で、今日も体調不良で来られないということでした。せめて彼女がいれば、わたくしの気分も、少しはいいのにと思いながら。
「結構ですわ。『ジュース』を美味しくいただいているのです」
 シャンメリーを手にして、見せつけるように言いました。
「そうかそうか。そういえば、雄一くんは来ないのか?」
 叔父さまが、志良山さんの名前を出しました。紫以菜がぴくりと反応しました。
「ええ。そのようですわね」
 志良山さんの名前が出て、わたくしは、なんとなくばつが悪くなってしまいます。
 紫以菜の、雄一くんって? というような視線を叔父さまが感じたようで、
「雄一くんてのはね、笙ちゃんの許嫁なんだ」
「いいなづけ?」
「うん。将来の結婚相手のことだ」
「結婚? 笙子……そのひとと結婚するの?」
 紫以菜が目を丸くして聞きました。
「そう。この家を継ぐ、偉いひとなんだよ」
 叔父さまの言っていることは紛れもない事実ですし、悪気はないのでしょう。
 でもやはり、紫以菜の前では、それを言ってほしくはありませんでした。わたくしと紫以菜についての重要事項ですし、いつか改めて、わたくしのほうから伝えたいと思っていたのです。
 紫以菜とわたくしのあいだにある、その「許嫁」という存在は、それを話さないでいる時間が過ぎるほどに、重い意味を持ってくるようにも思います。わたくしと紫以菜の仲が深まるにつれて、それはますます言い出しにくいものになっていくのです。
 最近は、紫以菜のことが大事だと思えば思うほど、失礼ながら、志良山さんの存在は疎ましく思うようになっていることも自覚しています。
 このことに関しては、わたくしの中で整理してから、紫以菜に話したかったのに。
「笙子、結婚するの?」
 紫以菜はまた目を丸くしています。
 わたくしは、ええ、とか、まあ、とか言ってはぐらかすしかありません。叔父さまはそれを恥じらいだと捉えたのか、いやらしく微笑んでいるだけです。こういうところが嫌なのですが。
「あなた、小さな子供をいじめてないで、そろそろお暇しますよ。ごめんね? 紫以菜ちゃん」
 叔母さまが来て、言いました。
「いじめてなんかないさ。ねえ?」
 言われた紫以菜は、苦い顔をしています。
「ごめんね、紫以菜ちゃん。ほら、行きますよ」
 お二人は、お父さまのところに行き、挨拶を済ませてから、もう一度わたくしたちの所に来て、「じゃあ」と言って、お屋敷を出ていかれました。
 ふと時計を見ると、夜の九時になろうかというところでした。
「いけませんわ。紫以菜、帰りましょう」
 お父さまに断りを入れて、わたくしは紫以菜を送ることにしました。

 外は一層冷えていて、星々の輝きも冴え渡っています。
 わたくしたちはしばらく無言で、坂をのろのろと上っていました。
「寒いね。紫以菜、大丈夫?」
 気まずさに耐えかねて、わたくしが言いました。
「うん。え、大丈夫って、なにが?」
「寒さですわよ。ほら、スカートではないですか」
「大丈夫だよ。それに、笙子だってスカートじゃん」
「それはそうですが」
 また無言です。スクーターが一台、大袈裟な音を立てて、わたくしたちを追い抜きました。クリスマス・イヴの住宅街は、そっけないほどいつもと変わりません。
「ねえ、笙子」
「なにかしら?」
 ドクンと胸が鼓動を一つ。
「笙子、結婚するの?」
 先ほどと同じ質問です。責めるでもなく、悲しげでもなく、至ってニュートラルな言い方でした。
「ええ。ずっと前から決まっていたことなのです」
「ほんとにそうなるんだ……その、結婚……」
「そうですわ。決まっていたことなのです。紫以菜には黙っていて、ほんとうに申しわけなく思っていますの」
「いつ?」
「わたくしが卒業して、おそらく一年ほどで」
「そのひとはどんなひとなの?」
「お父さまの会社のグループ会社の社長さんのお子さんで、いずれ、お父さまの会社を継ぐことになっているのです」
「どんなひと、っていうのは、かっこいいとか優しいとか、そういう話だよ」
「失礼しました! ええ、優しくて誠実な方ですわ」
「幾つ?」
「わたくしの一つ上ですわ」
「その、いいなづけっていう仕組み、シーナはよくわかんないけど、笙子はどう思ってるの?」
「そうですわね……」わたくしは、しばし考えました。「わたくしの気持ちひとつでは、どうにもできません。これは月崎家の将来の話でもありますし、志良山さんの未来に関わることでもあるのです。ご存知のとおり、月崎家にはわたくし一人しか子がおりません。お父さまの会社は、先祖代々から受け継いできたものです。ここで絶やしてしまうわけにはいきませんから。わたくしに子供ができれば、それも」
 言いかけて、自分でもびっくりしてしまいました。あまりにも自然に「子供」という言葉が出てきてしまったので。わたくしは黙り込んでしまいました。
 紫以菜は、俯いたまま歩いています。
「紫以菜には、わざと黙っていたわけではないのですが、いつかきちんと話そうとしていたのですよ。これはほんとうです。申しわけございません」
「うん。なんで謝るの? 確かに大事な話を黙っていたとしたら、ショックだけど、なんとなく言い出しづらかったんだよね。それはわかるから」
「ええ」
 そのまま、紫以菜のお宅の門に着いてしまいました。
「これ大事にするね」
 紫以菜は、わたくしのプレゼントを手にして言いました。
「はい。わたくしも耳飾り、大事にいたしますわ」
「約束だよ。お互い、今日のプレゼントは大事にしようね」
 紫以菜は小指を立てた手を差し出しました。
「約束ですわ」
 わたくしたちは、指切りげんまんをします。
 別れ際、紫以菜が、
「あ、笙子!」
「はい?」
「メリークリスマス!!」
 手を振って言いました。
「メリークリスマス!」
 わたくしは言いながら、どこかに心残りを感じつつ、お屋敷に戻りました。これでよかったのでしょうか。
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