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恋人同士
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百合は今日がとても楽しみだった。
ここのところ、プロモーションなどで忙しく、全くあのマンションへ行けなかった。
もちろん、黎にも会えなかった。
メールで連絡はしていた。
ただ、最初に話していたとおり、時間がなくて返事が返せなくなることもあった。
知らない人に会い続け、インタビューに答えるのも緊張して疲れてしまった。
夜は気付くと座ったまま寝ていることがあったりとメールを確認することもできなくて返信が遅れていた。
ようやく、休みが出来て、黎の休みと重なったので久しぶりに会えるのだ。
もちろん、あのマンションで会う予定だ。
外で会うことは以前なら黎の迷惑にならないようにという考えで控えていたはずが、二ヶ月後の今となっては、百合のスキャンダルを恐れてのこととなってきた。
自分のチラシやポスターを外で見かけることがあり、百合は怖くなってきた。
変な話、最初は好きな曲を弾かせてもらいレコーディングも出来たのだから感謝していたのに、この状況は予定外でレコーディングしない方が良かったのかとまたネガティブに考えはじめてしまった。
忙しくなって、今までの生活が送れない状況もストレスとなっていた。
それがようやく黎と会えると決まってから、自分でもおかしくなるくらいだが、イライラしなくなってきた。
今日は念入りにおしゃれして、自意識過剰かもしれないが念のためサングラスをした。
最近はこのサングラスをしないと危ない。
何度か、素顔で声をかけられて、神楽に相談の上サングラスをとりあえず使うことにした。その後、今のところ、声をかけられていない。
マンションへ入ると、花の香りにびっくりした。
テーブルに彼の好きだという黄色と白色の花がたくさん、大きな花瓶に入っている。全て百合だ。その季節になったのだ。
百合は香りが強いが、さすがに彼女の名前の花なので嫌いではない。
母は百合が好きでこの名をつけたと聞いている。季節になると母のために仏壇の前にも今でも飾っている。嗅ぎ慣れた花の香りなのだ。
百合は急いで靴を脱ぐと、部屋へ入った。彼が座って真剣にパソコンをみている。
彼女は嬉しくて彼の首回りに抱きついた。
黎はびっくりした。仕事に集中していて、彼女が入ってくることに気付かなかったのだ。
「百合。どうした?」
「黎さん、嬉しい。百合ありがとう」
黎は彼女を隣に座らせて、久しぶりの彼女をじっと見る。
相変わらず美しいが、少し面痩せしている。忙しいと言っていたが本当だったようだ。
彼女の名が売れて、会社では黎の手腕だと評価が上がった。
百合のお陰で広告も多くなり、会社のほうへの利益もうなぎ登り。
今後の活躍も期待されて、間違いなく契約は延長になるだろう。
「……痩せたな。忙しかったんだろう。身体は大丈夫か?」
百合は黎を見ながら、うなずいた。
「ええ。身体は何とか大丈夫よ。ただ、ちょっと精神的にも疲れてしまって……今日はとても楽しみにしていたの!」
嬉しそうに黎を見る彼女を抱き寄せた。
「ああ。俺も楽しみだったよ。ずうっと会えなくて我慢していた。俺にご褒美をくれよ」
こてんと頭をかしげ、こちらを見ている。にっこり笑って返事する。
「もちろん、いいわよ。何が欲しいの?好きな曲弾いてあげるわよ。黎さんだけのために……」
ああ、そうか。そういう考えだったのかと相変わらずの彼女に黎は苦笑い。
「俺は今日休みなんだが、明日も休むべく今仕事を片づけてたんだ。百合は明日どういう予定?」
「明日は午後からよ」
「何時にどこ?何の仕事?」
「……え?えっと、明日は久しぶりに大学なの。教えるわけじゃないけど、今後の相談。スケジュール変更が多くて、迷惑かけてるから……」
「何時?」
「二時よ」
「わかった。その後は用事ある?」
「ううん。話し合った結果を事務所へ説明に行くかも知れないけど、その後は特にないわ」
「……よし。なら、明日も夕方からは俺と一緒にいよう」
「……え?うん、いいわよ」
百合は不思議そうに彼を見た。
「百合。お腹すいた?」
「そうね。もうすぐお昼だもの……今日はどうするの?私ね、最近顔が知れてしまって、素顔だと声かけられたりするから、外で食事はちょっと……」
「ああ、わかってるよ。デリバリーにしよう。今日は少しいいところを頼んである。もうすぐ来るからね」
そう言うと、すぐにチャイムが鳴って、デリバリーが届いた。
イタリアンのデリバリー。こんなものがあるのかと百合は驚いた。見たことのある名前の店。びっくりして黎に尋ねると、こともなげに返事された。
「この店はうちがよく使っているんだ。母が好きでね。だから、特別に家に来てもらったりしているから、今日は百合の頑張りとCD売上のお礼にもと思ってね」
百合は複雑な気持ちになった。そうか、自分の売上は黎の会社にとってもありがたいことで、黎はそのプロジェクトの責任者。
自分は黎にとって仕事上の重要商品でもあることを再認識した。彼の熱意もそのせいかと少し寂しくなる。
「……百合?」
顔が曇った彼女に黎は何か余計なことを言ったかと反省した。
「……いえ、美味しそうね」
そう言って、とってつけたように笑顔を見せた彼女を抱き寄せた。
「百合。俺の前で気持ちを隠すな。嫌なことがあれば言ってくれ」
「ううん、何もない。さあ、温かいうちに頂きましょ」
そう言って、ふたりは美味しいそのイタリアンにお腹もいっぱいにするだけでなく、心を癒やされた。美味しい料理に気持ちも上がる。
黎は食事を終えると、ピアノを聴く?という彼女を自分の横に座らせて、両手で顔を自分の方へ向けた。
「百合。これからは恋人としてきちんと付き合いたい……君が欲しい」
そう言うと、引き寄せて口づける。そして、彼女の顔をじっと見つめている。
百合は黎が強引にせず、答えを待っているのだとわかった。
今までも付き合ってきたけど、恋人とはそういうことじゃないと百合だってもちろんわかっていた。
今日は黎に求められるかもしれないと覚悟していたし、そうなってもいいと思ってここへ来た。
「ええ。黎さんの本当の恋人になりたい……会えなかったからよく分かったの。私、あなたが好き……」
「百合、おいで……」
黎は手を広げて彼女を迎えた。
離して彼女の顔を見て、抱き上げると寝室へ運んで行った。
薄暗い寝室はすでにカーテンを閉めてあった。
彼女はベッドへ横たわると小さく呟いた。
「ここは?黎さんの寝室?」
「そう。君が寝たのは母の寝室。ここはダブルベッドだからふたりでも大丈夫だよ」
キョロキョロと周りを見ている彼女にキスを落として、目線を自分へ向けさせた。
「百合……好きだ」
そう言って、身体をまさぐり、キスを落としていく。
ゆっくり服を脱がせていく。白い肌が見え始め、黎は覆い被さって丁寧に愛撫していく。
「ああ、綺麗だよ、百合」
百合は抵抗しなかった。
「ああ、あ……黎……あん、あっ」
全て初めての百合は黎のなすがままだった。黎の背中に手を回し、声を上げている。
ベッドへ真っ昼間から百合を連れてきて、黎は夢中になって彼女を可愛がった。
その日彼女の悩ましげな声がようやく聞こえなくなったのは真夜中だった。
翌日。
日が高くなってからようやく目覚めた百合は、用事があることを思いだして、身じろぎしたが自分が裸で彼に後ろから抱きしめられていることに気付いてびっくりした。
そして、身体を起こそうとしたが、動けない。
すると黎のクスクス笑う声がする。
「姫、お目覚めかな?」
百合が後ろを向いて黎を見ると、王子さながらの色気を漂わせた男が自分を見ている。
それだけで百合は恥ずかしくなり真っ赤になった。
「……もう。ねえ、何時?私ったら寝過ごしちゃって」
黎は彼女に覆い被さると答えた。
「まだ九時だよ。ちょっとだけ仲良くしよう。そうしたらお風呂に入って食事したら出かける時間になるよ」
「ダメよ。私、身体に力が入らないの。黎さんのせいでしょ?もう、だめです。またにして、ね。お願い」
そう言って、彼の頬を綺麗な指で撫でる。
黎は横に倒れてしまった。そして、身体を起こして彼女を見た。
シーツを首の下まで引っ張っている。
「しょうがないな。出かけられなくなったらまずいから、今は我慢してやる。身体大丈夫?」
「だから、大丈夫じゃないの。シャワー借りたい」
「立てないんだろ。一緒に入ろう。今お湯を張ってくるから待ってろ」
そう言って、いなくなった。
結局嫌だといったのに、百合が入っているお風呂に黎も後から入ってきてしまった。
お風呂で少し良くなったのに、身体を触る黎のせいで、のぼせてまただるくなった。
「黎さんがこんなに勝手だったとは知らなかったわ」
着替えてプリプリ怒っている百合を黎が後ろから抱きしめている。
「これからどんな百合も全部俺のものだ。その口をとがらせて文句を言う君も、昨日のように俺にすがりついて甘い言葉を言う君も、ピアノを弾く君もね」
百合は後ろを振り向いて、彼を見た。
「じゃあ、黎さんも私のものなの?もう、他の女性と親しくしないでね。私、浮気する人は大嫌い」
百合が不安げに目を瞬かせながら言う。
「そんな心配はしないでいい。言っただろ?俺は好みがうるさくて今まで好きな女性がいなかったって。百合がやっと見つかったのに、浮気なんて絶対しないし、出来ないな。百合こそ、他の男に言い寄られてふらふらするなよ。そっちの方が心配だ」
百合はそう言われて初めて神楽のことを思い出した。
告白されたのに、そのままになっている。そして。そうだ、あのとき確か神楽はこう言った。堂本には渡したくないって。
百合の顔色が変わったのを見て、黎は驚いた。まさか、他の男の話で顔色を変えるとは思わなかった。
「……百合!何か心当たりがあるのか?おい?」
「黎さん。誰にも言わないでね。実は……神楽さんに二ヶ月以上前一度告白されたの」
黎は彼女をつかむ肩の力が強くなってしまった。
「……痛い」
「あ、すまない。それで、なんて答えたんだ?」
「その時はそういう風に見られないとお断りした。そしたら、僕の気持ちを知っていて欲しい、もし気持ちが変わったら教えて欲しいと言われたの」
「なら、俺と付き合ったことを言えばいいだろ。俺から話すよ」
「そうじゃないの。その時、言われたの。黎さんに私を渡したくないって言ってた」
黎は驚いて手を離した。
やはり、最初からばれていたんだと思った。神楽のあの目。そうか、ずいぶん前から牽制していたんだなと再認識した。
「……百合。神楽のことは俺に任せろ。男同士で話し合う必要がありそうだ」
百合が彼を見上げてハッキリ聞いた。
「ねえ、神楽さんはどうして黎さんのことをそういう風に言うの?ふたりは実は仲が良くなかったの?」
黎はじっと考えた。百合も黙って返事を待っている。
「いや、仲は悪くなかったと思う。俺がそう思っているだけだと寂しいけどな。少なくとも俺は神楽に対して敵対心のようなものはない」
「じゃあ、神楽さん本人が何か思うことがあるのかしら?」
百合は神楽が黎を褒めるところしか目にしていない。それなのに、どうしてそういうことを自分に言ったのか、わからなかった。
「百合。神楽のことは俺に任せろ。ほら、大学行くんだろ?食事して行かないと時間がないよ」
そう言って、下から買ってきた軽食を机に並べてやる。百合が身支度し、化粧する間に買ってきたのだ。
「ありがとう。何からなにまでごめんなさい」
「いや。夕方からはもう一度俺だけの百合にするからな。恩返し期待してる」
百合は赤くなって、下を向いた。頭の上にキスをひとつ落とし、食事しようと座らせた。
彼女をタクシーに乗せて、マンションへ戻った。早速、神楽にメールをして一度会いたいと連絡する。
実は百合のことだけではなく、仕事でも一度会わねばならなかった。ついでというには何だが、時間を取ってもらった方がいいだろうと思い、連絡したのだ。しばらくして返事が来た。
今週末にどうだと提案してきた。早めに報告した方が百合のためだろうと思ったが、お互い忙しくて時間が取れなかった。
夕方、マンションへ戻ってきた百合は、翌日着る服を自宅から持ってきていた。早速泊まるつもりで彼女が来たのを黎は喜んだ。
そして、すぐに抱き寄せてまたベッドへ運んで、思う存分愛した。
百合も初めてだった昨日とは違う女の顔を見せた。愛するたび、自分にしがみついて名前を呼ぶ彼女に、溺れていく自分を止められなかった。
その日以降。百合は自宅へ帰ることがほとんどなくなった。服や楽譜など必要なものを黎が車で運んでしまったのだ。
ほぼマンションで暮らすようになり、黎は一旦自宅へ戻っても、夜にはここで眠ることが多くなった。
毎晩、一緒にベッドを共にし、愛し合う。
「ああ、もうダメ。お願い、黎、お願い……」
百合はベッドでは黎を呼び捨てで呼ぶ。その声を聞くと、かえってスイッチが入ることに彼女は気付いてない。
「百合……ダメじゃないだろ、ほらまた……こんなにしておれをどうする気だ……」
黎は白い身体を蹂躙していく。
すっかり黎に身体を作り替えられてしまった百合は、ベッドでは理性が飛んで黎の前でしか見せない夜の姿を見せてくれる。黎も彼女なしでは眠れなくなりつつあった。
ひとしきり愛し合った後、黎が言った。
「百合。地方へ行けるときはなるべく行くよ。夜だけ。泊まるところきちんと連絡しておいて……」
「無理しないで。お仕事きちんとしてね」
「ああ、もちろん。きちんと仕事しないと周りがうるさいからね。最近家にいないし、百合のことを隠しているのもばれそうだ。そろそろ難しい時期にきてる。地方へ行くのは仕事だと言うから大丈夫だ。丁度いい」
「だから、あんまりここに来てはダメって言ったでしょ。お願い……」
黎は、神楽との話し合いの内容について百合に詳しく話していなかった。
また、百合も神楽と話したことを何も彼に言っていなかった。お互い言えない理由があった。
ここのところ、プロモーションなどで忙しく、全くあのマンションへ行けなかった。
もちろん、黎にも会えなかった。
メールで連絡はしていた。
ただ、最初に話していたとおり、時間がなくて返事が返せなくなることもあった。
知らない人に会い続け、インタビューに答えるのも緊張して疲れてしまった。
夜は気付くと座ったまま寝ていることがあったりとメールを確認することもできなくて返信が遅れていた。
ようやく、休みが出来て、黎の休みと重なったので久しぶりに会えるのだ。
もちろん、あのマンションで会う予定だ。
外で会うことは以前なら黎の迷惑にならないようにという考えで控えていたはずが、二ヶ月後の今となっては、百合のスキャンダルを恐れてのこととなってきた。
自分のチラシやポスターを外で見かけることがあり、百合は怖くなってきた。
変な話、最初は好きな曲を弾かせてもらいレコーディングも出来たのだから感謝していたのに、この状況は予定外でレコーディングしない方が良かったのかとまたネガティブに考えはじめてしまった。
忙しくなって、今までの生活が送れない状況もストレスとなっていた。
それがようやく黎と会えると決まってから、自分でもおかしくなるくらいだが、イライラしなくなってきた。
今日は念入りにおしゃれして、自意識過剰かもしれないが念のためサングラスをした。
最近はこのサングラスをしないと危ない。
何度か、素顔で声をかけられて、神楽に相談の上サングラスをとりあえず使うことにした。その後、今のところ、声をかけられていない。
マンションへ入ると、花の香りにびっくりした。
テーブルに彼の好きだという黄色と白色の花がたくさん、大きな花瓶に入っている。全て百合だ。その季節になったのだ。
百合は香りが強いが、さすがに彼女の名前の花なので嫌いではない。
母は百合が好きでこの名をつけたと聞いている。季節になると母のために仏壇の前にも今でも飾っている。嗅ぎ慣れた花の香りなのだ。
百合は急いで靴を脱ぐと、部屋へ入った。彼が座って真剣にパソコンをみている。
彼女は嬉しくて彼の首回りに抱きついた。
黎はびっくりした。仕事に集中していて、彼女が入ってくることに気付かなかったのだ。
「百合。どうした?」
「黎さん、嬉しい。百合ありがとう」
黎は彼女を隣に座らせて、久しぶりの彼女をじっと見る。
相変わらず美しいが、少し面痩せしている。忙しいと言っていたが本当だったようだ。
彼女の名が売れて、会社では黎の手腕だと評価が上がった。
百合のお陰で広告も多くなり、会社のほうへの利益もうなぎ登り。
今後の活躍も期待されて、間違いなく契約は延長になるだろう。
「……痩せたな。忙しかったんだろう。身体は大丈夫か?」
百合は黎を見ながら、うなずいた。
「ええ。身体は何とか大丈夫よ。ただ、ちょっと精神的にも疲れてしまって……今日はとても楽しみにしていたの!」
嬉しそうに黎を見る彼女を抱き寄せた。
「ああ。俺も楽しみだったよ。ずうっと会えなくて我慢していた。俺にご褒美をくれよ」
こてんと頭をかしげ、こちらを見ている。にっこり笑って返事する。
「もちろん、いいわよ。何が欲しいの?好きな曲弾いてあげるわよ。黎さんだけのために……」
ああ、そうか。そういう考えだったのかと相変わらずの彼女に黎は苦笑い。
「俺は今日休みなんだが、明日も休むべく今仕事を片づけてたんだ。百合は明日どういう予定?」
「明日は午後からよ」
「何時にどこ?何の仕事?」
「……え?えっと、明日は久しぶりに大学なの。教えるわけじゃないけど、今後の相談。スケジュール変更が多くて、迷惑かけてるから……」
「何時?」
「二時よ」
「わかった。その後は用事ある?」
「ううん。話し合った結果を事務所へ説明に行くかも知れないけど、その後は特にないわ」
「……よし。なら、明日も夕方からは俺と一緒にいよう」
「……え?うん、いいわよ」
百合は不思議そうに彼を見た。
「百合。お腹すいた?」
「そうね。もうすぐお昼だもの……今日はどうするの?私ね、最近顔が知れてしまって、素顔だと声かけられたりするから、外で食事はちょっと……」
「ああ、わかってるよ。デリバリーにしよう。今日は少しいいところを頼んである。もうすぐ来るからね」
そう言うと、すぐにチャイムが鳴って、デリバリーが届いた。
イタリアンのデリバリー。こんなものがあるのかと百合は驚いた。見たことのある名前の店。びっくりして黎に尋ねると、こともなげに返事された。
「この店はうちがよく使っているんだ。母が好きでね。だから、特別に家に来てもらったりしているから、今日は百合の頑張りとCD売上のお礼にもと思ってね」
百合は複雑な気持ちになった。そうか、自分の売上は黎の会社にとってもありがたいことで、黎はそのプロジェクトの責任者。
自分は黎にとって仕事上の重要商品でもあることを再認識した。彼の熱意もそのせいかと少し寂しくなる。
「……百合?」
顔が曇った彼女に黎は何か余計なことを言ったかと反省した。
「……いえ、美味しそうね」
そう言って、とってつけたように笑顔を見せた彼女を抱き寄せた。
「百合。俺の前で気持ちを隠すな。嫌なことがあれば言ってくれ」
「ううん、何もない。さあ、温かいうちに頂きましょ」
そう言って、ふたりは美味しいそのイタリアンにお腹もいっぱいにするだけでなく、心を癒やされた。美味しい料理に気持ちも上がる。
黎は食事を終えると、ピアノを聴く?という彼女を自分の横に座らせて、両手で顔を自分の方へ向けた。
「百合。これからは恋人としてきちんと付き合いたい……君が欲しい」
そう言うと、引き寄せて口づける。そして、彼女の顔をじっと見つめている。
百合は黎が強引にせず、答えを待っているのだとわかった。
今までも付き合ってきたけど、恋人とはそういうことじゃないと百合だってもちろんわかっていた。
今日は黎に求められるかもしれないと覚悟していたし、そうなってもいいと思ってここへ来た。
「ええ。黎さんの本当の恋人になりたい……会えなかったからよく分かったの。私、あなたが好き……」
「百合、おいで……」
黎は手を広げて彼女を迎えた。
離して彼女の顔を見て、抱き上げると寝室へ運んで行った。
薄暗い寝室はすでにカーテンを閉めてあった。
彼女はベッドへ横たわると小さく呟いた。
「ここは?黎さんの寝室?」
「そう。君が寝たのは母の寝室。ここはダブルベッドだからふたりでも大丈夫だよ」
キョロキョロと周りを見ている彼女にキスを落として、目線を自分へ向けさせた。
「百合……好きだ」
そう言って、身体をまさぐり、キスを落としていく。
ゆっくり服を脱がせていく。白い肌が見え始め、黎は覆い被さって丁寧に愛撫していく。
「ああ、綺麗だよ、百合」
百合は抵抗しなかった。
「ああ、あ……黎……あん、あっ」
全て初めての百合は黎のなすがままだった。黎の背中に手を回し、声を上げている。
ベッドへ真っ昼間から百合を連れてきて、黎は夢中になって彼女を可愛がった。
その日彼女の悩ましげな声がようやく聞こえなくなったのは真夜中だった。
翌日。
日が高くなってからようやく目覚めた百合は、用事があることを思いだして、身じろぎしたが自分が裸で彼に後ろから抱きしめられていることに気付いてびっくりした。
そして、身体を起こそうとしたが、動けない。
すると黎のクスクス笑う声がする。
「姫、お目覚めかな?」
百合が後ろを向いて黎を見ると、王子さながらの色気を漂わせた男が自分を見ている。
それだけで百合は恥ずかしくなり真っ赤になった。
「……もう。ねえ、何時?私ったら寝過ごしちゃって」
黎は彼女に覆い被さると答えた。
「まだ九時だよ。ちょっとだけ仲良くしよう。そうしたらお風呂に入って食事したら出かける時間になるよ」
「ダメよ。私、身体に力が入らないの。黎さんのせいでしょ?もう、だめです。またにして、ね。お願い」
そう言って、彼の頬を綺麗な指で撫でる。
黎は横に倒れてしまった。そして、身体を起こして彼女を見た。
シーツを首の下まで引っ張っている。
「しょうがないな。出かけられなくなったらまずいから、今は我慢してやる。身体大丈夫?」
「だから、大丈夫じゃないの。シャワー借りたい」
「立てないんだろ。一緒に入ろう。今お湯を張ってくるから待ってろ」
そう言って、いなくなった。
結局嫌だといったのに、百合が入っているお風呂に黎も後から入ってきてしまった。
お風呂で少し良くなったのに、身体を触る黎のせいで、のぼせてまただるくなった。
「黎さんがこんなに勝手だったとは知らなかったわ」
着替えてプリプリ怒っている百合を黎が後ろから抱きしめている。
「これからどんな百合も全部俺のものだ。その口をとがらせて文句を言う君も、昨日のように俺にすがりついて甘い言葉を言う君も、ピアノを弾く君もね」
百合は後ろを振り向いて、彼を見た。
「じゃあ、黎さんも私のものなの?もう、他の女性と親しくしないでね。私、浮気する人は大嫌い」
百合が不安げに目を瞬かせながら言う。
「そんな心配はしないでいい。言っただろ?俺は好みがうるさくて今まで好きな女性がいなかったって。百合がやっと見つかったのに、浮気なんて絶対しないし、出来ないな。百合こそ、他の男に言い寄られてふらふらするなよ。そっちの方が心配だ」
百合はそう言われて初めて神楽のことを思い出した。
告白されたのに、そのままになっている。そして。そうだ、あのとき確か神楽はこう言った。堂本には渡したくないって。
百合の顔色が変わったのを見て、黎は驚いた。まさか、他の男の話で顔色を変えるとは思わなかった。
「……百合!何か心当たりがあるのか?おい?」
「黎さん。誰にも言わないでね。実は……神楽さんに二ヶ月以上前一度告白されたの」
黎は彼女をつかむ肩の力が強くなってしまった。
「……痛い」
「あ、すまない。それで、なんて答えたんだ?」
「その時はそういう風に見られないとお断りした。そしたら、僕の気持ちを知っていて欲しい、もし気持ちが変わったら教えて欲しいと言われたの」
「なら、俺と付き合ったことを言えばいいだろ。俺から話すよ」
「そうじゃないの。その時、言われたの。黎さんに私を渡したくないって言ってた」
黎は驚いて手を離した。
やはり、最初からばれていたんだと思った。神楽のあの目。そうか、ずいぶん前から牽制していたんだなと再認識した。
「……百合。神楽のことは俺に任せろ。男同士で話し合う必要がありそうだ」
百合が彼を見上げてハッキリ聞いた。
「ねえ、神楽さんはどうして黎さんのことをそういう風に言うの?ふたりは実は仲が良くなかったの?」
黎はじっと考えた。百合も黙って返事を待っている。
「いや、仲は悪くなかったと思う。俺がそう思っているだけだと寂しいけどな。少なくとも俺は神楽に対して敵対心のようなものはない」
「じゃあ、神楽さん本人が何か思うことがあるのかしら?」
百合は神楽が黎を褒めるところしか目にしていない。それなのに、どうしてそういうことを自分に言ったのか、わからなかった。
「百合。神楽のことは俺に任せろ。ほら、大学行くんだろ?食事して行かないと時間がないよ」
そう言って、下から買ってきた軽食を机に並べてやる。百合が身支度し、化粧する間に買ってきたのだ。
「ありがとう。何からなにまでごめんなさい」
「いや。夕方からはもう一度俺だけの百合にするからな。恩返し期待してる」
百合は赤くなって、下を向いた。頭の上にキスをひとつ落とし、食事しようと座らせた。
彼女をタクシーに乗せて、マンションへ戻った。早速、神楽にメールをして一度会いたいと連絡する。
実は百合のことだけではなく、仕事でも一度会わねばならなかった。ついでというには何だが、時間を取ってもらった方がいいだろうと思い、連絡したのだ。しばらくして返事が来た。
今週末にどうだと提案してきた。早めに報告した方が百合のためだろうと思ったが、お互い忙しくて時間が取れなかった。
夕方、マンションへ戻ってきた百合は、翌日着る服を自宅から持ってきていた。早速泊まるつもりで彼女が来たのを黎は喜んだ。
そして、すぐに抱き寄せてまたベッドへ運んで、思う存分愛した。
百合も初めてだった昨日とは違う女の顔を見せた。愛するたび、自分にしがみついて名前を呼ぶ彼女に、溺れていく自分を止められなかった。
その日以降。百合は自宅へ帰ることがほとんどなくなった。服や楽譜など必要なものを黎が車で運んでしまったのだ。
ほぼマンションで暮らすようになり、黎は一旦自宅へ戻っても、夜にはここで眠ることが多くなった。
毎晩、一緒にベッドを共にし、愛し合う。
「ああ、もうダメ。お願い、黎、お願い……」
百合はベッドでは黎を呼び捨てで呼ぶ。その声を聞くと、かえってスイッチが入ることに彼女は気付いてない。
「百合……ダメじゃないだろ、ほらまた……こんなにしておれをどうする気だ……」
黎は白い身体を蹂躙していく。
すっかり黎に身体を作り替えられてしまった百合は、ベッドでは理性が飛んで黎の前でしか見せない夜の姿を見せてくれる。黎も彼女なしでは眠れなくなりつつあった。
ひとしきり愛し合った後、黎が言った。
「百合。地方へ行けるときはなるべく行くよ。夜だけ。泊まるところきちんと連絡しておいて……」
「無理しないで。お仕事きちんとしてね」
「ああ、もちろん。きちんと仕事しないと周りがうるさいからね。最近家にいないし、百合のことを隠しているのもばれそうだ。そろそろ難しい時期にきてる。地方へ行くのは仕事だと言うから大丈夫だ。丁度いい」
「だから、あんまりここに来てはダメって言ったでしょ。お願い……」
黎は、神楽との話し合いの内容について百合に詳しく話していなかった。
また、百合も神楽と話したことを何も彼に言っていなかった。お互い言えない理由があった。
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25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
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