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第三章
突然のお誘い
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イベントは結果的に成功した。
私がいたブースも用意していた花材は使い切り、最後足りなくなって、名取さんの用意していたものを回してもらったほどだった。
名取さんの担当したお客様も、皆さん喜んでおられた。帰り際、私の方をじろりと見ながら帰った人は、最初私に別な花材を聞いてきたお客様だった。特別変わった方だったのだろう。
名取さんと話し合い、ブースに来た人にはチラシを配っていた。うちの店の場所、連絡先、そして月2回アレンジ教室を始めますという案内だ。
イベント日から数えて2週間後からにした。作ったアレンジの花も色が変わり、新しい花が欲しくなる頃だ。
新しい住宅街のママさんたちはお子さんが幼稚園や小学校くらいが多いので、お子さんのいない時間帯を設定したら、結構申し込みがあった。
神崎さんのおかげでビジネス街の会社も何社かリピーターになり、受付の花を定期的に入れる仕事も始めた。
忙しすぎて、今週から叔母さんが手伝いに来ている。叔父さんは新しい店の写真を見て、元気になったそうだ。良かった。
「良かったわね、さくら」
「え?」
「神崎さんのおかげね。きちんとお礼を言って、投資してくださった分をお返ししないといけないわね」
「確かに。そうよね。社長と相談しないと……」
叔母さんは苦笑いしている。
「さくらはそういうのやってなかったから、経営やお金のことはからきし駄目ね。きちんと気をつけないとだめよ」
「……ほんとよね。でも、勉強してもダメかも。私、先々を見通すとかお金を回すとかほんと苦手。叔母さん色々教えてね」
「何言ってんのよ。名取グループのやり方を聞いてやればいいわ。売り上げや仕入れはきちんと把握しなさいね」
「はーい……でも、自信ない」
本当に私だけならすでにこの店は傾いてる。すべて段取りしてくださった神崎さんのお陰なんだ。拗ねてる場合じゃない。感謝して、お返ししないと……。
そう思うたび、社長に連絡して相談しなくてはと思いながら、忙しい日常を言い訳にして自分からお礼を言うこともしていなかった。
そんな神崎さんは夜になると最近は二日にいっぺんくらいは直接電話をくださる。メールはほとんどない。声を直接聞いたほうがいいからとおっしゃるのだ。
お忙しいと椎名さんからも聞いている。私から電話をしてもいいのだが、忙しいと繋げないこともあると聞いていて、つい甘えている。
本当にいろいろ相談出来てありがたいことだ。店の方針、経理のことまで甘えきりだ。もはや名取さんよりも店を大事にしてくれているのが実感としてある。まあ、名取さんは神崎さんもいるし大丈夫だろうと言うのだ。何もしてくれない。
「どう、その後?」
今日も彼から電話が来た。それにしても時間が早すぎる。まだ、昼過ぎだ。何かあったのかとびっくりして電話に出た。
「ありがとうございます、アレンジ教室も盛況で、ビジネス街の数社があれからリピーターになりました。全部神崎さんのおかげです。あの、どうしたんですか。まだ昼過ぎですよ」
「ああ、少し話したいことがあってね。僕のお陰だというなら、ちょっと僕の頼みを聞いてもらいたい」
「頼みですか?私にできることなら何でもしますよ。あ、もちろん儲けから投資してくださった分をお金でもお返しするつもりです。でも、そちらは社長と相談してまたご連絡を……」
「うーん。そういうのはいらない」
「お金はもちろん利益分を上乗せして……」
「お金以外で返してもらうってのはどうかな」
わけがわからない。
「あの……」
「僕はね、お金なら結構たまってるんだ。今回、こういう有意義なことにお金を使えて満足してる。それに、まだまだこれからも僕の金が必要だ」
「なぜですか」
「独立したいんだろ?それならもっと思い切って金を使って花を増やさないとな。ぼくらで名取をぎゃふんと言わせるような、立派な花屋にするんだ」
「……」
びっくりして声が出ない。ぎゃふんと言わせる花屋って……。
「だから、まだまだ投資してさらに新しいことをしないとだめだ。ブラッサムフラワーならではの、名取グループとは一線を画す道を探るんだよ」
饒舌な神崎さんを前に私は黙った。
「おーい、聞いてる?」
「……神崎さん。少しプランが壮大すぎます」
「そう?言っておくけど、実際はまだまだだよ。でもプランは早めに練らないとだめなものなんだ。今回のことでわかっただろ?」
確かにわかった。彼に導いてもらって、先回りの大切さはよーくわかったつもりだ。
「話がそれた。明日、定休日だろ」
「あ、はい」
「僕も午後から休みにした」
は?ええ?!僕もって何?
「休みにしたって何です?」
「だから、君に合わせて休む」
「……」
何を言ってるの?合わせて休む?
「明日、クルーザーを出して少し沖に出るんだ。君も来い。デートしよう。仕事が絡んだデートで悪いが、今年の花火大会を船から見てもらうつもりでね。その偵察に出るんだ」
デートって言った?
「デート?花火大会……ってまだだいぶ先ですよ」
確かに、このベリが丘では花火大会がある。七月と八月の週末にあるのだが、まだ少し早い。
「もちろん花火はあがらないよ。どの辺にクルーザーを出すと港や空が綺麗かなと思ってね。少し自分でクルーザーを運転して偵察してみようとおもうんだ。君も一緒に来いよ」
「あの……どうして私と?」
「どうしてって、君がいいんだよ。なんか、予定ある?」
「あ、いいえ、ありませんけど……ちなみに何時ごろですか?」
「そうだな、夕方から夜にかけて。花火大会と同じ時間だよ」
「わかりました」
「よし、三時ごろ迎えに行く。少しお茶をして海に出よう」
「はい。って、私……あの、デートってあの……」
「決まり。時間ないからじゃあ明日」
そういってプチリと電話が切れた。あっけにとられて携帯を眺めたが、お客様から話しかけられてそのままになってしまった。
私がいたブースも用意していた花材は使い切り、最後足りなくなって、名取さんの用意していたものを回してもらったほどだった。
名取さんの担当したお客様も、皆さん喜んでおられた。帰り際、私の方をじろりと見ながら帰った人は、最初私に別な花材を聞いてきたお客様だった。特別変わった方だったのだろう。
名取さんと話し合い、ブースに来た人にはチラシを配っていた。うちの店の場所、連絡先、そして月2回アレンジ教室を始めますという案内だ。
イベント日から数えて2週間後からにした。作ったアレンジの花も色が変わり、新しい花が欲しくなる頃だ。
新しい住宅街のママさんたちはお子さんが幼稚園や小学校くらいが多いので、お子さんのいない時間帯を設定したら、結構申し込みがあった。
神崎さんのおかげでビジネス街の会社も何社かリピーターになり、受付の花を定期的に入れる仕事も始めた。
忙しすぎて、今週から叔母さんが手伝いに来ている。叔父さんは新しい店の写真を見て、元気になったそうだ。良かった。
「良かったわね、さくら」
「え?」
「神崎さんのおかげね。きちんとお礼を言って、投資してくださった分をお返ししないといけないわね」
「確かに。そうよね。社長と相談しないと……」
叔母さんは苦笑いしている。
「さくらはそういうのやってなかったから、経営やお金のことはからきし駄目ね。きちんと気をつけないとだめよ」
「……ほんとよね。でも、勉強してもダメかも。私、先々を見通すとかお金を回すとかほんと苦手。叔母さん色々教えてね」
「何言ってんのよ。名取グループのやり方を聞いてやればいいわ。売り上げや仕入れはきちんと把握しなさいね」
「はーい……でも、自信ない」
本当に私だけならすでにこの店は傾いてる。すべて段取りしてくださった神崎さんのお陰なんだ。拗ねてる場合じゃない。感謝して、お返ししないと……。
そう思うたび、社長に連絡して相談しなくてはと思いながら、忙しい日常を言い訳にして自分からお礼を言うこともしていなかった。
そんな神崎さんは夜になると最近は二日にいっぺんくらいは直接電話をくださる。メールはほとんどない。声を直接聞いたほうがいいからとおっしゃるのだ。
お忙しいと椎名さんからも聞いている。私から電話をしてもいいのだが、忙しいと繋げないこともあると聞いていて、つい甘えている。
本当にいろいろ相談出来てありがたいことだ。店の方針、経理のことまで甘えきりだ。もはや名取さんよりも店を大事にしてくれているのが実感としてある。まあ、名取さんは神崎さんもいるし大丈夫だろうと言うのだ。何もしてくれない。
「どう、その後?」
今日も彼から電話が来た。それにしても時間が早すぎる。まだ、昼過ぎだ。何かあったのかとびっくりして電話に出た。
「ありがとうございます、アレンジ教室も盛況で、ビジネス街の数社があれからリピーターになりました。全部神崎さんのおかげです。あの、どうしたんですか。まだ昼過ぎですよ」
「ああ、少し話したいことがあってね。僕のお陰だというなら、ちょっと僕の頼みを聞いてもらいたい」
「頼みですか?私にできることなら何でもしますよ。あ、もちろん儲けから投資してくださった分をお金でもお返しするつもりです。でも、そちらは社長と相談してまたご連絡を……」
「うーん。そういうのはいらない」
「お金はもちろん利益分を上乗せして……」
「お金以外で返してもらうってのはどうかな」
わけがわからない。
「あの……」
「僕はね、お金なら結構たまってるんだ。今回、こういう有意義なことにお金を使えて満足してる。それに、まだまだこれからも僕の金が必要だ」
「なぜですか」
「独立したいんだろ?それならもっと思い切って金を使って花を増やさないとな。ぼくらで名取をぎゃふんと言わせるような、立派な花屋にするんだ」
「……」
びっくりして声が出ない。ぎゃふんと言わせる花屋って……。
「だから、まだまだ投資してさらに新しいことをしないとだめだ。ブラッサムフラワーならではの、名取グループとは一線を画す道を探るんだよ」
饒舌な神崎さんを前に私は黙った。
「おーい、聞いてる?」
「……神崎さん。少しプランが壮大すぎます」
「そう?言っておくけど、実際はまだまだだよ。でもプランは早めに練らないとだめなものなんだ。今回のことでわかっただろ?」
確かにわかった。彼に導いてもらって、先回りの大切さはよーくわかったつもりだ。
「話がそれた。明日、定休日だろ」
「あ、はい」
「僕も午後から休みにした」
は?ええ?!僕もって何?
「休みにしたって何です?」
「だから、君に合わせて休む」
「……」
何を言ってるの?合わせて休む?
「明日、クルーザーを出して少し沖に出るんだ。君も来い。デートしよう。仕事が絡んだデートで悪いが、今年の花火大会を船から見てもらうつもりでね。その偵察に出るんだ」
デートって言った?
「デート?花火大会……ってまだだいぶ先ですよ」
確かに、このベリが丘では花火大会がある。七月と八月の週末にあるのだが、まだ少し早い。
「もちろん花火はあがらないよ。どの辺にクルーザーを出すと港や空が綺麗かなと思ってね。少し自分でクルーザーを運転して偵察してみようとおもうんだ。君も一緒に来いよ」
「あの……どうして私と?」
「どうしてって、君がいいんだよ。なんか、予定ある?」
「あ、いいえ、ありませんけど……ちなみに何時ごろですか?」
「そうだな、夕方から夜にかけて。花火大会と同じ時間だよ」
「わかりました」
「よし、三時ごろ迎えに行く。少しお茶をして海に出よう」
「はい。って、私……あの、デートってあの……」
「決まり。時間ないからじゃあ明日」
そういってプチリと電話が切れた。あっけにとられて携帯を眺めたが、お客様から話しかけられてそのままになってしまった。
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