叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

文字の大きさ
2 / 36

紹介2

しおりを挟む


  花材屋さんから帰ってきたら、祖母が縁側に座っていた。

 「おばあちゃん、ただいま」

 「ああ、おかえり。由花、片付けたらちょっとここへお座り」

 自分の横をポンポンと叩いている。

 片付け終わると、祖母の横に座った。

 「……さっきのはなしでしょ?どうした?」

 「清家の大奥様はお見合いじゃなくて友達にでもなってやってほしいっておっしゃるのよ」

 私はおかしくて笑ってしまった。なんか、すごく変。

 「よくわかんないけど、そのお孫さんという人が了承しないとだめじゃないの?」

 「それは大丈夫っていうのよ。事前に聞いたわけじゃないけど、自分が頼んだらまず嫌とは言わないっていうの。うちと一緒ね。お前も私に恩があると思っていて何でも言うこと聞くじゃない」

 驚いた。そんなつもりじゃないけど、分かっていたのだと思った。
 
 「おばあちゃん、そんなことないよ。本当に嫌なことは嫌って言う」

 おばあちゃんは庭を見ながら笑った。

 「そうかしらね?そういうことってあんまりないからね」

 話を変えた方がいいと思い、聞いてみた。

 「それで、また連絡くるの?」

 「そうね。出来れば今週末がいいとおっしゃって……」

 「また、急なのね」

 「そうね。準備しておいてね。着物を出しておいてちょうだい」

 「……もう。別にお見合いじゃなくて、知り合いというか友達になるんだからいいのよ」

 「そうもいかないわよ。あちらは財閥だし、変な格好したら恥ずかしいのはこっちよ」

 それもそうかと考える。

 「わかったわ。そのつもりで準備しておく」

 「連絡きたらすぐに教えますから」

 そう言って、その時はそれで終わった。
 そして、あっけなくお孫さんは了承し、あれよあれよという間に週末となった。

 祖母と私も一応着物。大奥様のお着物には比ぶべくもないけれど。

 「お久しぶり、由花さんね。お綺麗になられて……。私のこと覚えておられるかしら?」

 「もちろんです。ご無沙汰しております」
 
 大奥様は祖母にも挨拶した。
 
 「家元もわざわざご足労ありがとうございます」

 「……いいえ。そちらが?」

 落ち着いたオーラを纏った背の高い目元がすっきりした美男子。一歩近づいた。

 「初めまして。祖母がいつもお世話になっております。清家玖生せいけくりゅうと申します」

 祖母と私に綺麗に頭を下げる。
 私は驚いて固まってしまった。想像以上に大人っぽいというか、年齢相応?落ち着いた感じの人だ。声も低いから余計かもしれない。

 「ほら、由花」

 祖母が背中を叩く。我に返って、挨拶した。

 「……は、初めまして。織原由花です」

 「……ああ。よろしく」

 そう言うと、目線を他へ向けてしまう。
 失礼とは言わないけど、なるほどね。興味ないってことか。

 「由花さん。家元にもお話ししましたが、孫の玖生はいい年になりますのに全く女性に興味がないようで、お見合いをさせても皆断ってしまって……」

 「おばあさま。心配は無用です。私には私の考えがあって女性と距離を置いているのです」

 「それにしたって、会社でも周りに女性を置かないようにしているわよね。変な噂が立ってるのよ。せめて知り合いの女性くらい作って友人としてお付き合いぐらいはしてちょうだい。そうでないと……いずれ玖生が継承するときには……」

 「おばあさま。それも大丈夫です。まだ父上がいますし……」

 「由花さんさえよろしければ玖生の友人になってやっていただけませんか?それなら少しは女性とお話しぐらいできるようになるかと思って……」

 玖生さんはため息をついている。断れずに連れてこられたのが実情だとすぐにわかった。

 「私など、きっと大人の玖生さんからみたら小娘同然です。私とお話ししていて楽しいかどうかというと少し心配です」

 「いや、あなたこそ俺みたいなのと話しても何も面白くないだろうし、かえって迷惑だろう……」

 「……玖生いい加減になさい」

 大奥様が怒った!大奥様って怒るんだ。いつも穏やかなのに……。
 隣の祖母は何も言わず黙って見ている。
 私は空気が悪くなってきて、つい言ってしまった。

 「あ、あの。この後は、私達だけで少しお話ししますので、大奥様とおばあちゃんはこのままここにいらしてください。私達は庭にでも行きますから……」

 「……わかった。そうしよう」

 玖生さんはそう言うと、立ち上がって祖母に頭を下げた。

 「申し訳ございません。少しお話ししてこちらでお送りしますので、この後は私にお任せ頂けますか?」

 「……ええ。よろしくね」

 そう言って、私に目配せした。私もうなずいて、大奥様へ挨拶してふたりで席を立った。
 
 綺麗な庭だ。春の緑が眩しい。

 「……あの」
 
 「君はこの話どう思ってる?」
 
 相手へ聞く前に、まず自分で答えたらいいのに……。私は顔に出ていたかもしれない。

 「ああ、すまない。俺のことは少し話してあると祖母が言っていたから、甘えていたかもしれない。君に興味がないとかではないんだ。ただ……」

 「……お見合いではなく、知り合いになって、女性不審を少しでも治してあげてと言われて来ました」

 池の前で立ち止まり、話す。

 「……祖母が俺を心配してそちらに話を持っていったんだろう。迷惑かけてすまなかった。すぐに結婚を望んでいるなら、別な良い人をこちらで紹介しよう」

 私は彼を見上げ、目を合わせ話をした。

 「私は失恋したばかりです。それも、男性に裏切られたようなものです。私は今あまり男性を信じられないし、恋を出来るような状態ではありません」

 彼は驚いたんだろう。初めて私の顔をまともに見た。

 「そうだったのか。それなら、何故?」

 「あなたの話は聞いてました。大奥様は玖生さんを心配して私を友人にして、女性と少しでも打ち解けて欲しいんですよ」

 「それはわかっている。まあ、見合いは最近多くてね。すべて断っているが何度言ってもわかってもらえない」

 「何か理由があるんでしょ?私もそうですから……でも目を合わせないのは相手に失礼です」

 「目を合わせて笑顔を見せると皆何故か俺が相手を好きだと思うらしい。自信過剰なようだが、色々あったんだ。相手に気がないと思わせるには目を合わせないのが一番効果的だった。そうすると大抵相手が呆れるのか断ってくる」

 「それは、あなたからそれ以外に感じることがあるからだと思います」

 彼はまた驚いたんだろう。息を呑んだ。

 「……何を?」

 「あなたは、相手に社交辞令を言うほどへりくだる必要を感じていない。相手は真剣に聞いてもらえないと思えば、適当になります。何もそんな態度を取らなくても、お断りすることはできるはずです。それこそもったいない。お友達として話が合う人もいるかもしれないのに……」

 彼は右手で顔を覆い、笑い出した。

 「なかなか言うな。君、名前は……ごめん、生け花の宗家?」

 名前も覚えてないのか。というより、女の人を紹介されると真面目に相手のこと見ても聞いてもいないのね。どうしようもない。
 
 「教えません。知りたいなら自分から探してください。それに知らないでここへ来たこと自体、私的には友人としても失格です」

 彼は目を光らせこちらを見た。射抜くような瞳。先程までの様子とは別人のようだった。

 「確かに失礼だったな、すまない。君のおばあさまにこの結果をどう話すつもりだ?」

 「ありのままに話します。相手の名前も知らずに来たあなたとは到底友達になれそうになかったって……」

 「俺も君に叱られたとおばあさまには伝えよう」

 こちらを見て口角を上げて笑っている。悪い笑い方。嫌だ、この人。適当か、怖いかどっちかじゃないの。

 タクシーを呼んで帰ろうとしたら、彼の運転手が待っていて、一緒に乗せられた。
 結局うちへ先に回って、下ろされた。車の中では話さなかった。
 
 「ありがとうございました。お元気で」

 そう言った私に、ひと言。

 「ああ、またな」

 そう言って私のことを見る。自信満々の笑顔で車の窓からこちらを見ている。
 そして、私が驚いている間に車はいなくなった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

マンネリダーリンと もう一度熱愛します

鳴宮鶉子
恋愛
出会ってすぐにお互い一目惚れをし交際をスタートさせ順風満帆な関係を築いてきた。でも、最近、物足りない。マンネリ化してる

わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました

柚木ゆず
恋愛
「リュクレースを世界の誰よりも幸せにするって約束を果たすには、もっと箔をつけないといけない。そのために俺、留学することにしたんだ」  名門と呼ばれている学院に入学して優秀な成績を収め、生徒会長に就任する。わたしの婚約者であるナズアリエ伯爵家の嫡男ラウルは、その2つの目標を実現するため2年前に隣国に渡りました。  そんなラウルは長期休みになっても帰国しないほど熱心に勉学に励み、成績は常に学年1位をキープ。そういった部分が評価されてついに、一番の目標だった生徒会長への就任という快挙を成し遂げたのでした。 《リュクレース、ついにやったよ! 家への報告も兼ねて2週間後に一旦帰国するから、その時に会おうね!!》  ラウルから送られてきた手紙にはそういったことが記されていて、手紙を受け取った日からずっと再会を楽しみにしていました。  でも――。  およそ2年ぶりに帰ってきたラウルは終始上から目線で振る舞うようになっていて、しかも見ず知らずの女性と一緒だったのです。  そういった別人のような態度と、予想外の事態に困惑していると――。そんなわたしに対して彼は、平然とこんなことを言い放ったのでした。 「この間はああ言っていたけど、リュクレースと結んでいる婚約は解消する。こちらにいらっしゃるマリレーヌ様が、俺の新たな婚約者だ」  ※8月5日に追記させていただきました。  少なくとも今週末まではできるだけ安静にした方がいいとのことで、しばらくしっかりとしたお礼(お返事)ができないため感想欄を閉じさせていただいております。

前世が見えちゃうんですけど…だから、みんなを守ります(本編完結・番外編更新)

turarin
恋愛
伯爵令嬢のスーザンは、3歳のある日、突発的に発熱して、1週間ほど熱にうかされた。 気がつくと清水智美という名前と高校の教員だったことを思い出した。 やっと復調して来たある日、乳母の顔を観ると、幸せそうに微笑む結婚式の若い娘、その後、胸を押さえて倒れる初老の女性の姿、そして、浮かび上がる享年54歳、死因:心筋梗塞という文字が目の前に浮かんできた。 なぜか文字も読めてしまった。 そう、彼女は前世を思い出すとともに、初対面の人間の、前世の幸せの絶頂期の姿と、最期の姿と年齢、死因が見えるようになってしまったのだ。 そして、乳母が54歳のある日、胸を押さえて倒れてしまう。 え?!前世と同じ年に死んじゃうの? 大好きな乳母。絶対に死なせない!! 3歳の彼女の人生の目的が決まった日だった。 不定期ですが、番外編更新していきます。よろしくお願いします🙇

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...