叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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就職斡旋1

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 あの紹介から数日後。

 祖母は清家の大奥様から謝られたと言っていた。まあそうだろうなとは思っていたので、笑っていたらそうじゃないという。

 「どうしたの?」

 「玖生さんがお前のこと気に入ったんですって。どういった風の吹き回し?あんなだったのに、庭で何があったの?」

 「……気に入ったって言った?」

 「そうよ。どうなの、あなたは友人にもなれそうにないってひどい評価だったじゃないの」

 「……だって事実だもの。まず、何というかとっつきにくい。違う世界の雰囲気がありあり。玖生さんってよほど人嫌いなのね。何考えてんのかわからない」

 要するに私が言い返したからそれが面白かっただけよね。
 
 「気に入ったというのは違うと思う。私をやり込めたいのかもしれない。仕返ししたいとか」

 「……由花。お前、何か言ったの?そうなんでしょ」

 おばあちゃんは怖い顔をして私を見た。私の気の強いところをおばあちゃんは心配している。

 「あちら様に興味がないのに会う必要ないから、それとなくね」

 「……やっぱり。あなたを気に入った理由を聞いたら、物怖じせず、はっきりしているところっておっしゃってたわよ。褒め言葉じゃないように聞こえたのは私だけ?」

 「おばあちゃん。わかったわよ。どっちにしたって、もう一度お会いしてきちんとしてくるわ。今度こそ、私とお付き合いしたいとか適当なこと言わせないようにする」

 祖母は大きくため息をついた。

 「……由花。わかってるでしょうけど、あちらは財閥の御曹司なのよ。あまり敵に回さないでちょうだい。今後の織原流の問題にも直結します」

 「はいはい。わかりました。穏便にね」

 祖母はまたため息をついた。

 「それにしても、玖生さんも困った人ね。お前に頭をかち割られて丁度いいと思ってたけど、まさか執着してくるとはね」

 「おばあちゃんこそ、すごい言い方だよ」

 「まあね。あの席での彼は褒められたものじゃなかった。私も彼に社交辞令言う気にもならなかったくらいよ」

 すると、おばあちゃんの携帯電話が鳴っている。お稽古のことならとおばあちゃんが手帳を取り出して電話を見て、私に言う。

 「清家の大奥様だわ。どうしたのかしら」

 そう言って、電話に出た。

 「え?あ、ああ。いえ、あの……」

 私がいぶかしんで見ていると、おばあちゃんが電話を差し出して小声で私に言う。

 「玖生さんよ。代わって欲しいって……」

 「え?」

 おばあちゃんの困惑した顔を見て、とりあえず代わった方がいいと判断して、電話を受け取って出た。

 「はい。お電話代わりました」

 「ああ、昨日はどうも。由花さん。連絡したかったんで、おばあさまに頼んでこちらへかけてしまった。悪かったね」

 「……名前わかったんですね。こちらから私の携帯でかけ直します。この番号でいいですか?」

 「ああいいよ。俺がかけ直すから由花さんの携帯の番号を教えてくれ」

 信用してないなと思った。

 「すぐにかけ直します。いいですね?」

 そう言って、こちらから切ってしまった。

 おばあちゃんは心配そうにこちらを見ている。

 「大丈夫。私の携帯でかけ直すわ」

 そう言って、自分の携帯に彼の番号を入力していく。

 「……由花。嫌なら断りなさい。気にしないでいいわ」

 おばあちゃんがハッキリ言った。

 「ありがとう、おばあちゃん」

 そう言うと、自分の部屋へ向かった。

 部屋で彼に電話をかけ直した。

 「はい、清家です」

 低い声がする。

 「織原です。お待たせしました」

 「ああ。かけてくれてありがとう。この番号が君のプライベート?」

 「はい、そうです」

 「単刀直入に言う。君は周りにいないタイプで面白い。たまに俺の話し相手として食事でも付き合って欲しい。友達ってことで……」

 「嫌です」

 「即答か。ますます面白い。そうだ、女性と上手くいけるように俺の悪いところを矯正して欲しいんだ。それならいいだろ?祖母に聞いたらそれでもいいと話してあったそうじゃないか。この間みたいに、教えてくれたら色々問題のある性格を直していけると思うんだが、どうだ?人助けだと思って」

 うまいこと言って、絶対変。

 「私にメリットがありません」

 「君のメリットをこれから話す。君はうちの本社ビルで受付として就職できる」

 「え?」

 「受付にひとり空きがある。すぐに埋まってしまう人気ポストだぞ。特別に君がよかったら推薦してやろう」

 また上から目線。受付なんて別に結構ですけど。
 
 「それで、俺としては受付だけでなく、エントランスの花も君に任せたい。今までの契約先と丁度満期になるのでな。それも別途給料に反映させる。花の入手先なども君に任せてもいい。どうだろう?」

 「花?本社のメインエントランスのいけばなを任せてくれるの?」

 「なんだ、受付よりやはり花の方がいいんだな」

 「場所がいいので、出来ることならやりたいわ」

 「君に言われたとおり、君のことを祖母から詳しく聞いた。失業しているそうだな。まあ、家元の手伝いで仕事になるのかもしれないが、前はホテル勤務だったそうじゃないか」

 「そうです」

 「ホテルを辞めた理由に男性のことも関係しているそうだな。よくわからんが今度の職場は俺が目を光らせているから君に不都合があったりすることはないはずだ」

 「どういう意味ですか?」

 「俺の紹介で入るんだ。君に何かしてみろ、大変だぞ」

 そういうんだから、ダメなんじゃないの。全くもう。

 「そういう風に権力をひけらかして頂かなくても結構です。私には何のメリットもありません。逆に周りの皆さんがひいてしまって、友人が出来ないデメリットのほうが大きくなります」

 彼がまた、クククと笑っている。

 「君はこうやって堂々と俺に向かって小言を言うんだな」

 嫌みな言い方。

 「受付は結構です。自分で働く場所くらい探しますから。花だけやらせて下さい」

 「残念。受付と花はセットでしかやらせない。うちで花をやりたいなら受付もやってもらおう」

 何それ?!今、急に変えたな。

 「信じられない……意地悪ですね」

 「何が意地悪?いい仕事を特別に紹介してもらってそれはどういう意味だ?言い忘れたが、受付の仕事はおばあさまが君のためにポストをおさえているそうだ」

 大奥様が受付を紹介してくださったの?そうだったのね。まさか、この人がそんなことしてくれるわけない。ようやくわかった。
 
 「わかりました。受付は大奥様からのお話しでしたらありがたくお受けします」

 「おい、どういう意味だ?俺が提案した花の件は?」

 「受付をやるなら花もやらせてくれるんでしょ?もちろんやるわ。あなたが受付をやれっていうなら受けなかったけれど、大奥様のお気持ちならやらせていただきます。お心遣いを無下にしたくないの」

 「……」

 どうしたんだろう。あんなに意地悪だったのに黙っちゃった。もしかして、傷つけた?

 「玖生さん?失礼な言い方をしてごめんなさい。言い過ぎたわ。私、口が悪いの。気にしないで」

 「……口が悪い、ね。じゃあ、お互い様だな」

 「……」

 確かにせっかくのお話しなのに、彼に対抗してプライドを傷つけたかもしれない。言い過ぎた。

 「じゃあ、いいな。来週月曜から来てくれ。服は制服にこっちで着替えてもらう。時間はそうだな、あとでまた連絡する」

 「ではよろしくお願いします」

 「っくく……急によろしくお願いしますって別人みたいだ」

 「雇い主に一応礼を尽くしているだけです」

 「ふーん。楽しみだな。これからは礼を尽くしてくれ」

 そう言って、電話が切れた。ため息しか出ない。どうしてこうなった?

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